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第14話 友達を作る気はない

 GWが過ぎて学校に行くと、教室で陽菜が五十嵐と仲良さそうに話していた。陽菜は俺に気が付くと俺の席にやってきた。

「おはよう、ハル君」

「ああ」

 俺は陽菜の後ろで俺の方を遠目に見ている五十嵐の視線が気になり、

「五十嵐、陽菜に用があったんじゃないの?」

と小声で聞いてみた。


 陽菜も後ろを振り返り、なぜか五十嵐に手を振った。

「GW前に、ハル君と気まずくなった話をイガちゃんに相談したの。でも、GW中に仲直りしたってラインでも言ったから、大丈夫か様子を見ているんだと思う」

「は?そんなことまで、五十嵐に言ってるの?」


「ごめん。でも、元気なさそうなのに気づいて聞いてきたから…。イガちゃんって、頼りになるっていうか、とても親身になってくれるっていうか」

「へえ、良かったじゃん。そんな友達が出来て」

「うん!私、あまり丈夫なほうじゃないから、GWもみんなと遊べないって言ったんだ。そうしたら、イガちゃん、しょっちゅうラインとかくれて…。一度うちにも遊びに来るって言ってくれたんだ」


「そうなのか?でも、GWは見事に毎日、ノブと俺の家に来ていたよな?」

「う、うん。お父さんがずっと家で仕事をしていたから、呼べなくって。今度お父さんがいない時、遊びに来てくれるって」

 なるほど。陽菜の父親、家で仕事をしている間、うるさくされるのを嫌がるんだっけなあ。


「じゃあ、もう陽菜が無理することないんだよな?」

「え?う、うん」

 陽菜の顔が曇った。

「春休み、無理したんだろ?でも、五十嵐は陽菜の体のことわかってくれて、無理に付き合せたりしないんだろ?」


「うん。みんなと遊べないのは寂しいだろうけど、無理は禁物だからって言ってくれた…。イガちゃんの妹が、生まれつき足が弱くてあまり外で遊べないから、そういう気持ちもわかるって。イガちゃんも、妹と家で遊んだりする時間もあるから、友達とばかり遊んだりしないんだって」

「ああ、なるほど。それで五十嵐は姉御肌なんだ」

「姉御?」


「なんつうか、しっかりしてるっていうか」

「そうだね」

「じゃあ、陽菜が五十嵐の家に遊びに行けばいいんじゃないの?妹とも一緒に交えて遊べば?」

「いいのかな。悪くないかな」


「変なところで陽菜は遠慮するよな。五十嵐に言ってみたら?案外喜ぶかもよ」

「うん。じゃあ、早速言ってみる」

 陽菜はクルっと後ろを向くと、五十嵐の方に足早に向かって行き、早速話をしたみたいだ。

「嬉しい!ありがとう、陽菜ちゃん」

 でっかい五十嵐の声が聞こえた。相当歓迎されたらしいな。


 そりゃ、喜ぶだろ。もしかして、五十嵐は五十嵐で、妹がいるのに遊びに来てなんて言いづらかったのかもしれないしなあ。


 仲良さそうに話している二人を見て、俺はなんだかほっこりとしていた。なんでだろう。陽菜が嬉しそうにしているのを見ているのは、俺も嬉しい。前はそういうのあまり関係なかったんだけどな。


 いや、違うか…。小学生の頃は、陽菜が笑っていると嬉しかった。楽しそうに嬉しそうにしていると、なぜか俺も嬉しかった。陽菜の笑顔は俺にとって、ひだまりみたいなものだった。

 陽菜もなのか?俺の隣で幸せそうな顔をしていたのは、俺と一緒でひだまりにいるような、安心するような、そんな感覚だったのか?


 手嶋とはGWにまったく会わなかったし、ライン交換をしたわけでもないから、連絡もしなかった。そんな手嶋は、

「ライン交換しようぜ。GWに図書委員の活動があっても、お前に連絡取れなかったし」

と昼休み俺に言ってきた。


「俺は図書委員じゃないんだから、関係ないだろ?」

「アホか。何度も瀬野先輩と一緒に当番になったんだよ」

「GWになんで当番とかあるわけ?」

「GWでも図書室は開いていたんだ。本借りに来る生徒もいたし、GW中に図書室で勉強する生徒もいたし。部活もあるんだから、学校だってGWも生徒がたくさんいたよ」


「……そうだったんだ」

 先輩に会えたのか…。そりゃ、失敗したな。まさか、GWに学校で先輩に会えるとは思ってもみなかった。

 

 ライン交換をしてから、

「あ、頻繁にどうでもいいことで、ライン送ってくるなよ」

と、手嶋に釘を刺した。手嶋は、

「辻村って、友達作る気ない?他の連中ともつるむことしないけどさ」

と、冷めた顔で聞いてきた。


「うん」

 即答すると、

「は~~、そんなで人生嫌にならないかねえ?」

と分けの分からないことをため息交じりに言った。


「俺は俺の世界を生きているんだから、別に誰かと無理して仲良くなろうとも思わない」

「まあ、俺も何人かでつるむとか、そういうのは面倒だと前々から思ってはいたけどさ。だから、辻村みたいなクールなやつの方が一緒にいて楽だけどね」

「クールってわけでもないけど」


「え?違うの?何かに熱くなることあるわけ?」

「……ないかな」

「なんかさ、一人で浮くのが嫌で、みんなに合わせている連中とか、何人かで集まっては、バカやっている連中とか、実は中身のないつまらない関りなんじゃないかって思うんだよね」


 手嶋はそう言うと、目線を窓際に向けた。そこには5人ぐらいで集まって、ゲラゲラ笑ったり、誰かをからかって遊んでいる男子がいた。

「ああやって、集まっていないと何もできないとかさ…。誰か一人標的見つけてからかって、そんなことして何が楽しいのかって思うけどね」

 手嶋はそいつらをバカにした目で見ると、俺の方に視線を向けて、

「ああいうの、辻村も嫌いだろ?」

と同意を求めた。


「嫌いでもないし、どうでもいい。関心がない」

「はは…。やっぱ、お前ってクールだ」

 手嶋は力なく笑うと、また弁当の残りを食べだした。


 正直、俺には友達とかどうでもよかった。だいたい、友達の意味すら分からない。手嶋の言うようにただ集まってバカをしているなら、そこにどんな意味があるのかもわからないし、ああやって誰かをからかって遊んでいるのも、どんな意味があるのかもわからなかった。


 手嶋の言うように何が楽しいのか。何も楽しくなんかないだろう。空っぽなだけだ。空っぽな何かを埋めたくてしているのか。だが、逆に空っぽになっていくだけじゃないのか。


 だけど、俺もまた空っぽなんだ。世界には色もなく、中身もなく、空っぽなだけだ。この虚無感とやらは、いったいいつ満たされていくものなのか。満たしてくれる何かを追い求めることすら、虚しい気がする。


 もし、モノクロの世界を色づけてくれるなら、なんでもいいと他の連中も思っているのか。それとも、俺みたいに世界がモノクロなやつは、そうそういないのか…。


 陽菜は、寂しい顔をそうそう見せはしなかった。特に俺が見ている限り、いつも笑顔だ。俺が傷つけるようなことを言わない限り、陽菜はいつでも明るく笑顔でいた。


 悩みなどないのかと思ったいた。だけど、陽菜は陽菜で、自分の体が丈夫じゃないことが悩みのはずだ。でも、そういうのをあまり人に見せなかった。だからこそ、俺はずっと陽菜の体が弱いっていう事すら知らなかった。休んだとしても、風邪を引いたくらいにしか思っていなかった。


 陽菜がいつも元気に、明るくしていたのは、俺に心配をかけたくないとか、特別扱いされたくないとか、そういうことでだったのかな…。


「今日図書室寄ってけば?俺は当番じゃないけど、確か瀬野先輩いるはずだよ」

 帰りのHRが終わると手嶋がそう声をかけてきた。

「……うん。GW前に借りてた本、返しに行かないとならないし、行ってくる」

 手嶋に言われなくても、本を今日返す予定で持ってきていた。


「そんじゃあな」

 手嶋は帰って行った。俺は本を手にして図書室に向かった。GW前に何度か本を借りに図書室に行ってはいたが、瀬野先輩が忙しくしていると話しかけることもできず、結局そのまま図書室を後にしていただけだった。


 今日も、話せるかどうかわからない。でも、まあ、顔を見れるだけでもいい...とか思っていたりする。

 手嶋もそんなに俺に対して、ひやかすようなことを言ってこなくなったし、陽菜も先輩の話をすることはなくなった。


 

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