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みうとうみ

 あるところに、海の絵だけが飾られている美術館がありました。

 朝の海、夜の海、魚が泳いでる海、人が遊んでいる海。どの海もみんなきれいです。

 一枚ずつ眺めていたみうちゃんは、ピンク色の海の絵を見つけました。

 海なのに青くないその絵を見て、なんだか夢の中にいるみたいで、ふわふわした気分になりました。

 ピンク色の海の絵をずっと見ていると、隣にいた男の子が「なんでこの海、ピンク色なの?海って青でしょ?変なの。」と、言いました。

 みうちゃんはムッとしましたが、どうしてピンク色なのか答えられず、男の子はさっさといなくなってしまいました。

 仕方ありません。この絵を描いたのは、みうちゃんじゃないからです。

 みうちゃんは、この絵を描いた人に聞きたくなりました。

 絵の下に『みさき』と名前が書いてありました。

 でも、どこにいるのかは分かりませんでした。



 美術館から戻ってきた後、みうちゃんは、ピンク色の海がある場所を探すことにしました。

 お気に入りのリュックサックに、おやつとクレヨンと小さなスケッチブックを入れて、家を出ました。

 家の周りを探しました。でも、水たまりしか見つけられませんでした。

 もっと遠くに行ってみました。でも、池しか見つけられませんでした。

 もっともっと遠くに行ってみました。でも、川しか見つけられませんでした。


「川は海につながるってお母さんが言ってたっけ。」


 みうちゃんは川が流れる方に歩いていきました。てくてく、てくてくと歩いていきました。

 やっと広いところに出ました。でも、たどりついた海は、ピンク色でも青色でもない、なんだか黒っぽい色をしていました。

 みうちゃんはガッカリして、家に帰ろうと思いました。ですが、ずっと川だけを見て歩いてきたので、どこの道を曲がれば家に帰れるのか分かりません。

 迷子になったみうちゃんは、わあわあと泣いてしまいました。おかあさん、おとうさん、ここはどこ。おうちはどこ。ピンク色の海はどこ。



 そこへ、一人の女の子がやってきました。みうちゃんより少し背が高く、髪が長い女の子。その子は大きなスケッチブックを持っていました。


「泣かないで。あなた、迷子になっちゃったの?」


 みうちゃんは泣きべそのまま「うん」と言いました。女の子はハンカチを貸してくれました。あの絵の海のように、綺麗なピンク色のハンカチです。


「私がおうちまで送ってあげる。どんなおうち?」


 みうちゃんはハンカチで顔をふいて、女の子と話しながら歩き出しました。屋根の色は赤いのよ、壁の色は黄色いの。なんだかうすくてやわらかい黄色なの。広いお庭があるの、お花も咲いてるから緑色だけじゃないの。

 女の子はみうちゃんのお話を聞きながら、スケッチブックに絵を描いていました。


「じゃん!あなたの家って、こんなかんじ?」


 女の子は、みうちゃんの家の絵を描いていました。

 その絵を見て、みうちゃんはびっくりしました。


「すごい!そっくり!上手だね!」


 女の子はスケッチブックを閉じて、表紙にある自分の名前を見せました。


「わたしの名前は『みさき』。よろしくね。」


 みうちゃんはまたびっくりしました。

 そう、この子はあのピンク色の海の絵を書いた子だったのです!



 見たことのある道に出ました。ここからなら、もう一人で家に帰ることが出来ます。でも、みうちゃんはみさきちゃんに聞きたいことがありました。


「みさきちゃん、あの絵の海はどこにあるの?」

「実はわたしも、ピンク色の海は見たことないの。」

「そうなの?」

「でもね、本当にあったら素敵だなって思って、ピンク色に塗ったの。」

「本当にあるのかな?」

「きっといつか、見つけられると思うよ。」



 家の前で、お父さんとお母さんに会いました。二人とも慌てて走ってきて、みうちゃんをぎゅうっと抱きしめました。夕方になっても帰ってこなくて、近所を捜しても見つからなくて、とても心配したようです。みうちゃんも、一度引っ込んだ涙がまたあふれてきて、わあわあと泣き出しました。


 みさきちゃんは帰る前に、みうちゃんにあの絵をプレゼントしてくれました。みうちゃんの家の絵です。みうちゃんはその絵が宝物になりました。



 みうちゃんは、お父さんとお母さんに、ピンク色の海を探しに行った話をしました。

 すると、お父さんが世界の色々な写真を見せてくれました。お父さんはこう言いました。


 「世界にはこんなにも色んな景色があるんだよ。だから、ピンク色の海だって、世界のどこかにきっとあるよ。」


 みうちゃんはわくわくしてきました。

 大人になったら探しに行ってみたいなぁ。

 その時はみさきちゃんといっしょにスケッチブックを持っていくの。あの時の男の子をびっくりさせるんだから!



 その日の夜、みうちゃんはすてきな夢を見ました。みさきちゃんといっしょに、あの海を見つけた夢です。手に、ピンク色のクレヨンを持って。



おわり

ひらがなの方がいいかなと思ったので表記はひらがなですが、

みうちゃんは美海(みう)、みさきちゃんは海咲(みさき)のつもりで書いていました。海は広いな大きいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分が知らないからといって、世界中のどこにもソレが無いとは限りませんものね。 無さそうなものや不思議なものでも「素敵だね」と言えるゆとりが私も欲しいなと思いました。
[一言] 自分が今知っていることだけがすべてではないのですよね。 世界は広く、私たちのしらないことはまだまだたくさんあります。信じられないような不思議な生き物がたくさん発見されているように、いつかどこ…
[一言] 可愛らしいお話でした。ピンク色の海、あるかもしれませんね。見てみたいです。
2021/01/12 15:27 退会済み
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