ミートチョッパーナカノ
何時からだろう、切る感触が好きになったのは。
親から調理を教わった時?
ボーイスカウトをやると決めて、親からナイフを貰った時に切った肉の塊にナイフの刃先を入れた時?
あんなに好きだった両親から貰ったナイフをその体に突き立てて引き裂いたあの日?
もうぼんやりとしか思い出せない過去の日々。
享年42歳。
私、中野 虎鉄は通勤中、心筋梗塞と脳溢血のダブルパンチをくらった上、異世界転生によくある無人のトラックに轢かれるとゆうトリプル役満を喰らって、トラックの下敷きになり、肉体がぐっちゃぐちゃになる笑えない死因で死んだ筈だった。
なのに、今現在自分の肉体だったモノの前で首を傾げている。
死んだのは一瞬、痛みは無し。
神様系統からの通達も無し。
こう言うときは、死神なり神様なりがお迎えにきそうなものなんだが、そんな気配が微塵も無い。
留まっていても何も解決しないと、事故現場から歩きだし、これから向かう予定だった勤務先へ向かう。
フレッシュミート中野。私の店だ。
ドアノブに手をかけて店に入ろうとし、そのまま手が店の中へ入っていく。
何度か繰り返し、ああ、本当に死んでしまったんだなと思いながら店の中へ入る。
表向きは業務用の冷凍肉を取り扱う店なのだが、裏口から地下へ下る大きめの業務用エレベーターで地下3階へ行くと、その様相がガラリと変わる。
酷く血生臭いのだ。地下で匂いが抜けない為に充満した匂いでむせる。
新人だった頃は匂いに慣れず、部屋の隅に専用のゲロ袋を用意してもらっていた位だった事を思いだして苦笑いしてしまう。