ご褒美が頼もしくて可愛い
褒美だって下賜先は選びたいhttps://ncode.syosetu.com/n8639gf/の続き……のような騎士目線で御座います。
前作への多大なご評価誠に有り難う御座います。気に入ってくださった方々に御礼になれば幸いです。
どうぞ、部屋と気分を明るくして、広い心でお読みくださいませ。
子供の時から俺の世界は優しかった。
4歳の時に第三王子アマタ殿下と第四王子イーツ殿下の御学友に選ばれ、大人……御婦人方には特に存分に可愛がられ、チヤホヤされていた。
どんな悪戯を働こうと、あらあらと皆が微笑んでくれる。
綺麗なお菓子、素敵な服。何も言わずにも誰もが与えてくれる。
正直、あの頃は貢ぎ物天国だった。楽勝過ぎた。だが、もう楽園は戻らないし、この年で貢がれると高く付くのも知っている。
「お前が可愛がられるなんて、今の内だけだ。顔だけが取り柄の空っぽ甘ちゃん三男のお前なんて、何の価値もないんだ。僕が跡を継いだら即、追い出してやる」
この美しい顔の俺と同父母の兄弟の癖に、長兄は全く似ていない。
俺はポカンと可愛らしく、口を極めて罵る兄を見ていた。
どうやら、兄は俺を僻んでいるらしい。王子殿下方と並べばキャーキャー黄色い声を浴びる俺を妬んでいる。
長じた今でも憎々しげに睨まれるから、僻み根性のヒステリーは救いがたい。
普通に怖いから普通に話したいし、止めて欲しい。
だが、この時の俺は顔も性格も天使のようだったので、悪意を向けられてもへっちゃらだった。
あの時の清らかな心は戻らない。
「どうしてお兄ちゃんはおれを追い出すの?おれ、かわいいのに」
「お前が調子に乗った愚か者だからだよ!いいか、侯爵家は僕が継ぐし、三男のお前に分け与える領地も爵位も無い。お前は近い内に着の身着のままで叩き出す!!」
鬼畜きわまりない科白だと思わないか。弱冠5歳の可愛い弟に掛ける言葉ではない。多感な時期とか知るもんか。だからイキッて春に毛皮の上着なんか着て、王太子サート殿下に原色のモップみたいな服だなと嫌がられたんだ。
「爵位と領地が無ければお母様はお前を構わないし、僕に頼るんだ!お前の好きなご飯もお菓子も食べられない!皆お前を嫌いになるぞ!苦労するんだざまあみろ!」
酷い。
爵位と領地が無ければ皆俺を嫌いになるなんて、酷すぎる。
ご飯もお菓子も食べられないなんて、酷い!!
俺は、チヤホヤ……はまあ最近ウザくなってきたから、程々でいいけど、好きなものは諦められない!!苦労したくない!楽な生活がしたい!!
意地悪で根性悪でコミュ力国内最下位な長兄に苛められた俺は泣いた。
わんわん泣いて、泣き倒して長兄は親に叱られていた。
俺の名前はパルトフェ
泣いて泣いて泣きまくった俺は、この時初めて、出世したいと願った。
幸せな生活を送りたい。その為なら学問も剣術も頑張る。
老後はお抱え名料理人の雇える領地をゲットして、楽しそうな女性と家庭を築くんだ。
お抱え名料理人は雇うのにお金が掛かるって、この前来た公爵夫人がボヤいてたから、是非とも出世しないと!
そして長兄をギャフンと叫ばせて、地に転がしてやる!
「と言う訳で、これが私の出世に対する目覚めの話です」
「パルトフェと喋る度に私の輝かしい夢が壊れるわ!!黙らっしゃい!」
今日も日課の姫様への挨拶に伺っている。
最近睨みがキツくなってきて麗しい。うーん、上目遣い可愛い。
「競歩のスピードもちょっと上がりましたね!」
「何処が競歩なのよ!爆走よ!スピードダッシュよ!!ぜえはあ!!」
成程、遅すぎて競歩だと思っていたらダッシュ……全力疾走だったとは。
流石深窓の姫君、体力がなくて良かった。
「大体、最近つきまといが酷いのよ!ストーカーなの!?お陰で体重が落ちたけど、感謝はしないわ!!私の控えめな美しさアップに尽力できた事を喜びなさい!」
姫様が疲れのせいか、意味の分からないツンデレを叩きつけてきた。
可愛い。
今まではボヤーッと顔を眺められてる認識だけだったけど、こんな苛烈さを内に秘めているとは。
実にギャップが激しくて可愛いなあ。
大体控えめだとご本人は仰るが、あの5人の美形な兄君に押されて目立たないだけであって、美しくお育ちなのに。
フルーテ王妃様にはあまり似ておられないが。
必死に歩いて(本人曰くダッシュだそうだが)揺れるビターチョコレートのような髪に、完熟前の苺のような瞳。
苦そうな色合いだなと思っていた。
「チョコレートと苺は食べてみないと分かりませんよねえ。新種が沢山出てますし、見た目よりずっと甘くて……アッと驚く種類がありますし」
「何ですって!?美味しそうな話題を出すじゃないの教えなさい!でなきゃ牢屋に放り込むわよ!!」
勿論お教えしますとも。
この姫君は、この頃本気で牢屋にボンボン放り込むから困る。
あの時シュガール姫の興を削いで怒りを買ったメイドも、まだ出てないらしい。
………俺を極刑にする話はお忘れのようで良かった。そこは昔通りちょっと抜けてるのが可愛くて有り難いなあ。
ちょっと緑色で熟してなさそうだけど、甘い苺の情報をフンフン聞いている姫様はボーッとしているように見えて、伏し目がちの……ほんの少し赤みがかった緑の目が輝いている。
「姫様、お役に立てましたか?是非ともこのパルトフェ・クレームスに御降嫁を」
「はあ!?まだ確認もしてないのに甘いのよ!ま、まあ、物が届いたら手下位にはしてやるわ!勘違いしないでよ、お前なんて最下層の手下よ!」
手下か……。まあ、良いだろう。後ろの不審者を見る目の護衛、ジャンと近いライン位には立てたかもしれない。……多分。
甘いものと結婚すると豪語されるシュガール姫様は、甘いものに弱いからなあ。甘いもの情報は有効らしい。この前町に出て、八百屋、果物屋、甘味系統をリサーチしてとても良かった。
それにしても……地味に柄が悪いが、王族らしい迫力だなあ。そんな所も可愛い。
何処で下々の言葉を学ばれたのか……。
………侍女辺りが怪しいかもしれない。慣れない下々の言葉を使いこなせていない姫様も可愛らしいな。
「では、婿に取り立てて頂けるよう、本日もお付き添い頑張りますね」
「だから、伴走は要らんつってんのよ!!」
伴走と仰るが、俺もジャンも歩き。伴走と言うより伴歩きだ。俺は横で、ジャンは後ろだが。
コンパスが違うのもあるが、可憐な姫のダッシュは疲労困憊で、スローモーションに変わりつつある。
だが、迂闊に手は出せない。以前抱き上げようとすると兄王子殿下方からサラウンドで怒号が飛び、四方八方から横槍が入ったんだった……。
「そこまでせんでいい!!」
キヴィ殿下の、地響きのようなバスボイスは大変怖かった。
何であの方は俺より若いのに……いいお声だけどシャキシャキしないなと思っていた。だが、使いようによっては恐ろしい事がよく分かった。
上は21で下は18の立派な美形王子方は恐ろしい。
特にアマタ殿下には出世の夢も話せる程、仲良くしていた筈なんだがなあ。
この頃姫様にぞんざいに扱われ気味で俺を戦犯扱いされる。
酷いが、出世の為。理不尽な上司にも耐えねばならない。ご機嫌伺いも大事だが、シュガール姫様の後だ。
「疲れた……」
「お疲れですか、シュガール姫様。お茶をお持ちしましょうか」
「全く、私のような地味王女でも疲れたと言ったら軽やかに運ぶものでしょ。
本当に乙女心が分かっちゃいない底辺イケメンだわ。子供みたいな縦抱っこだなんて喜べたけど、此処は鉄板の横抱きじゃないの。地味でも生まれながらの高貴、リアル姫を何だと思っているのかしら」
………心のお声が駄々漏れのようだ。
可愛いなあ。是非とも出世して甘やかしたい。
「お抱き申し上げて宜しいんですか?」
「止めろ、甘ちゃん騎士。シュガール姫様が汚れる」
俺の蟀谷が血を吹きそうな声が行く手を遮った。
うーん、本当にコイツは邪魔だなあ!!
大体既婚者の癖にシュガール姫様とふたりっきりで揚げ菓子を食べていたと目撃証言が有るしな!
「既婚者こそ、清らかな姫君とふたりきり……なんて外聞が宜しくありませんよ?ジャン殿」
まさかコイツは牢屋の嫁と別れて、姫様をゲットする気じゃあるまいな。
今は、勝ち目が無さそうだからやめて欲しい。
既婚者じゃなきゃなあってこの前姫様がボヤいていらしたし、今もボーッとしながらも満更では無さそうだし!
「マトリナは何の関係もない。護衛の職務は遂行する」
堂々と嫁を見捨てる宣言をしている、この冷血な職務バカの何がいいのだろう。
ああ、この前少々職務外のお願いを通してしまった時、姫様の視線は冷たかった。一筋縄ではいかないところがまた可愛らしい。
「既婚者じゃなきゃなあ……」
「姫様、重婚は犯罪ですし俺は独身で求婚者です」
「煩ーいー!!夢見る瞳でこっち見んなあっ!!」
俺の顔はお気に召したようで何よりだ。
結局冷血護衛のせいで、横抱きは叶わなかった。
「シュガール姫様、我が浅ましき愚弟を木っ端微塵にフッてくださり、誠に恐悦至極で御座います」
世界広しといえども、俺に対して此処まで陰険な口を叩ける兄はひとりしかいない。
と言うか、やっと護衛の交代でふたりきりになれたのに、この横槍!!
「…………えっと、貴方……ケキー候子、だったかしら?」
「はい、ケキー侯爵が第一子、フォンジと申します。そこのがめついメッキ男の兄で御座います」
「…………」
似てないな、と言う目線を頂きました。
と言うか久々に会ったが、本当に目付きも根性も悪いなこの長兄は!!
「それで、えっと、どういうことかしら?」
「いえ、姫様の回りを彷徨かせるのもそろそろご迷惑かと参りまして、引き取り処分に参りました」
「ひっ、引き取り処分!?」
「何か驚かれる事が御座いますか?」
「い、いやいやいや!だって、パルトフェは王家の覚えもめでたい騎士なのよ!?」
「その王家の姫様の不興を買ったのですから、処分が妥当かと。そもそも、騎士爵位ごときで領地はありませんし、吹けば飛ぶような身の上です」
「ちょっ、えっ!?」
………あーあまた始まった。
この嫌味、本当に陰険だなあ。
そもそも長兄に俺を処分する権限なんて無い筈だ。
父上や殿下がたが許すわけないだろう。
大体、外国の冒険者が持ち込んで逃がしたワニも駆除したし。あれは本当に迷惑だった。外来種のワニがあんなに強いとは思わなかった。冒険者が退治しながら泣いてたけど、ペットを猫可愛がりして宿屋で鎖を外して逃がすから、ああなるんだ。
頑張って強くなった騎士なのに、何でも屋扱いされてる気がする。
まあ、確かにフラれたけど、姫様に付きまとってるけど。
俺を処分なんて……出来ない、筈だ。
………が、あの目。
長兄の目に殺意しか見えないんだが、嘘だろう?
「だ、だから出世出世言ってるの!?」
「高望みのことですか?そうですね、家から追い出しても、妻も娶れないような給金にしがみつき、犬小屋のような住まいに住むしか無い男です。姫様の行く手を見苦しくも汚しておりますことお詫び申し上げます」
「パルトフェ!!お前、此処まで言われて悔しくないの!?」
口を挟んだら長引くんですよ姫様。
あー、テレパシー使えないかな。苦笑いで察して頂けないでしょうか?無理か?
「何時ものことなので」
「何時も!?お前、愛されて当然の末っ子の癖に、お兄様にこんな暴言を許しているの!?」
姫様もなかなかの性格をしておいでだ……。そうか、そういうお考えでは兄王子殿下がたを振り回してもしょうがない……のか?
因みに俺は末っ子でなく、下に妹がいるのだがそれは突っ込むところじゃないな。
何故姫様が俺の前に立ち塞がっておいでなのだろう。
小柄な肩が大変可愛らしい。襟で項が見えないのが残念かな。
「末子であろうが中間子であろうが、その腕っぷしだけ発達した甘ったれた顔だけ野郎は我が家の恥です」
「お前、それでもお兄様なの!?うちのお兄様達はウッカリで女心が分からない顔だけ野郎だけど、お前程じゃないわ!!」
姫様ーー!!うちの陰険長兄は兎も角、お兄様がたへの過激トークはご遠慮ください!!
今王子殿下が誰か通りかからないかヒヤヒヤしたんだが!!出世の話どころではなく、俺が物理的に処断されます!!
シュガール姫様、……恐ろしい方だ。この方の回りを省みない率直な言動を甘くみていた。あー、誰もいないな、ホッ。
「……勿論私は殿下がたとは比べるべくもない俗物で御座います。が、微力ながらも恥を忍んで、姫様に不快感を与える媚野郎な愚弟を処分に参ったのです」
うーん、毎度毎度長兄は俺を下げる言動しかしないな!
騎士爵を得ようとワニを倒そうとも、一番乗りで嫌味を吹っ掛けてくるこの長兄とは、根本的に合わない。
「パルトフェ!!お前、パーフェクト騎士なんじゃないの!?兄に苛められている不憫な男なのね」
「は?いえ、まあ……」
パーフェクト騎士……!?
………後ろの護衛や侍女達ギャラリーの視線がグサグサ刺さる。恥ずかしいな。最近新聞で目撃した、ビラビラした花屋か甘味処みたいな渾名もかなり恥ずかしいが。
それに、長兄とは騎士宿舎に居るから偶にしか顔を合わせないし、それこそボケッと聞いてるんですよ。
だが、口を挟もうとしても姫様がやけに憤慨してくださっている。
兄は弟妹を守るべきだと思ってらっしゃるんですね……。ちょっと都合よく使いすぎでは?とも思わなくもないですが、良かったですね!報われましたね!兄王子殿下がた!
「仕方無いわね!お前のような家庭内で不憫な騎士を守ってやるのも、高貴なる王女の仕事かもしれないわ」
「はい?」
何故使命感に燃えておられるのだろう。まるで姫様のバックに炎がメラメラと燃えているようだ。
何がスイッチになったんだろう。身売りしない範囲でご婦人の機嫌を取るのはかなりやってきたが、この前、玉座の間で覚醒された姫様は分からないな。
「シュガール姫様、寧ろソイツは幼少からアホのように甘やかされた顔だけ戯け者です」
「兄なら弟を分からないように正道へ導きなさい!」
「苦言は幼少から呈しております」
姫様、結構無茶を仰る。長兄の話なんかで導かれたくありません。俺は俺の信念で何とか出世を得るんです。
が、口を挟めない……。敢えて空気を読まないこともある俺としたことが、口を挟めない迫力だ!!
「パルトフェ」
「ハイ!?」
「汚名返上の機会をくれてやるわ!付いてきなさい!新聞社の局長が来ているの。私達の仲の良さを見せ付けてやってもいいわよ!」
何なんだこの展開は。姫様の繊手で袖を引っ張られて……いや、力一杯袖を千切るレベルでブンブン振られている。
お、思っていたのと違う。
俺の未来予想図では、ちょっと強引になった俺に姫様がツンデレながらもデレていき、兄王子殿下がたもお認めになり、代替わり出来る爵位と領地を頂き、姫様と暮らすと言う……。
そう、ちょっとずつお互いを知り、頼れる俺を……。
「いえ姫様お考え直しを。この愚弟には立場にそぐわしい令嬢を娶らせ、領地の片隅に追いやりますので!!」
「は?な、何ですって!?お前、お兄様達と同じ気配を感じると思ったら、やはりブラコンなのね!?それも、構いすぎて嫌がられるタイプの!!」
「は?」
不敬待ったなしの声が思わず漏れてしまった。
「ブ、ブラコン?」
「わざと構わなくて怒った途端構ってくるお兄様達とやりくちがそっくりなのよ!!行くわよパルトフェ!!ブラコンは敵だわ!こんなブラコンに付き合ってられないわ!御褒美になってやるから新聞のトップを飾ってやるの!!」
「姫様!!お考え直しを!!愚弟をお離しください!!」
姫様は俺が好きだと言うことでいいのだろうか。
………えっと、どういう事に陥ったんだ?
………………。
早まっただろうか。
取り敢えず、長兄がブラコン説は頭から消し去りたい。早急に。
可愛がるなら俺よりゴツいが、次兄にしろ。
手を繋がれているというのに、この頭を占める疑問符は何なんだろう。
多分、この場で姫様と長兄しか解り合っていない。
えっと………まあ、細かいことはいいか!
俺のご褒美様は頼もしくて可愛い!
素敵な作品の中から、前作と今作を読んでくださった貴方に感謝を申し上げます。