キャンペーンってどんどん話が大きくなるよね、とか、そういうやつ?
頭おかしいシリーズは、TRPGリプレイ風ということで、主要4キャラには中の人がいるかのような書き方をしています。
実際にはそういうのは存在しませんが、ちょっと楽屋トーク的な事をしてみました。
海のように広い心でお楽しみください。
「ここまで話をでかくしてどーすんの?」
じと目で見つめる俺に、マスターがだらっだら汗を流している。
みんな、お久しぶり。
フレイPLです。
このゲームでは、フレイってキャラを使ってます。
「いやあ。キャンペーンってさ、話がどんどんでかくなっていってしまうだろ?」
言い訳じみたことをいってやがるのは、ゲームを仕切るゲームマスターだ。
まあね。
だいたい判っていたさ。
こいつが紡ぎ出すシナリオなんて、たいてい頭おかしいってことは。
「ていうか、カムイの剣を持ち出すとはねえ」
やれやれとミアPLが肩をすくめる。
海賊の財宝のくだりね。
天よ聞け、地よ耳を傾けよ、ってやつ。
あれ、映画の『カムイの剣』からとってるんだよ。
判らない人のためにざっと説明すると、キャプテンキッドの財宝を探すアドベンチャーなんだ。
主人公はニンジャ。時代は幕末。
日本からアメリカ。踏破距離二万四千キロってゆー、ものすごい冒険活劇で、歴史上の人物が登場したり、ニンジャVSガンマンって対決があったり、全編に渡ってワクワクが止まらない痛快娯楽作品だ。
後のクリエイターにも、たぶん多大な影響を与えてるんじゃないかな。
アニメの『キルラキル』って作品でも、そっくり同じシーンがオマージュされてるしね。
んで、さっきのフレーズは、キャプテンキッドの財宝の在処を示す暗号の、冒頭部分だったりするんだ。
謎めいた言葉が続いて、最後に、
「しかもなお求むるを止むなかれ。真の光明は闇の中にあると知れ。それをもって空白なる世の闇を照らせ」
と結ばれるんだよ。
「格好良かったよね」
「ああ」
思わずミアPLと頷きあってしまう。
ホントに、未視聴の人はぜひ一度みてほしい。
キャッチフレーズの「目覚めよ、冒険心」は嘘でも誇張でもないから。
俺の中では、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』と並んで、一九八〇年代を代表するアニメ映画だね。
「だって、使いたくなるだろ?」
「気持ちはわかるけどねー」
マスターの言い訳にデイジーPLがくすくすと笑う。
なにしろ、マスターとデイジーPL、ガルPLに『カムイの剣』を見せたのは、先々週のことだ。
見事にはまっちゃったね。
つーか、ブルーレイ出てくれないかな。
さて、なんとA級冒険者にまで成長してしまった俺たちのチームだが、じつはこれってけっこうピンチだったりする。
「やることがなくなっちゃうからね」
とは、ミアPLのお言葉だ。
どんなゲームでも、あるいは小説やマンガでもそうなんだけど、強くなるにしたがってやることって減っていくんだ。
んっと、判りやすい例だと戦略モノのシミュレーションゲームが良いかな。
序盤は金もない、兵も少ないし弱い、収穫も少ない。
だもんだから、無茶苦茶いそがしいのさ。
なんとか金を作ろうと工夫したり、兵士を鍛えたり。
さらには、弱いもんだから攻め込んでくる隣国に対応に追われたり。
「なんだこのクソゲーはって思っちゃうけど、それこそが楽しみなのよね」
「んだ。統一直前、くらいになったら、やることなんて、なんもなくなるからな」
ミアPLがいうとおり、忙しさこそが楽しみなのである。
まあちょっと想像してみてほしい。いきなりレベルMAXでスタートし、どんな敵でも一撃で倒せちゃう主人公のロープレ、面白いかい?
謎もない。装備品も最初から最強。
そんなゲームやりたい?
強敵にどうやったら勝てるか知恵を絞り、解けない謎に時には攻略サイトとかを参考にしながら挑み、こつこつと素材を集めて強い武器を作る。
そういうのこそが醍醐味なのである。
最高レベルに最強装備までいっちゃったら、あとはクリアして終わりだ。
「で、フレイチームは、もうそういう状態なんだよねー」
「某たちの強さはそこまででもないが、NPCがな」
苦笑しているデイジーPLとガルPL。
NPCというのは、ノンプレイヤーキャラクターの略で、ようするにプレイヤーではなくマスターが操ってるキャラのこと。
フレイのチームだと、カルパチョ、パンナコッタ、ヴェルシュってことになる。
まあそりゃそーだ。
魔王軍の幹部とか伝説級の邪竜とか、そういうキャラ設定をするプレイヤーがいたら、かなりのマンチキンだといわざるを得ない。
あ、マンチキンってのは自分のキャラを有利にするために、あまりにも無茶な要求をする悪質プレイヤーへの蔑称ね。
まあ洋マンチと和マンチで、ちょっと意味合いが変わってくるんだけど、そこはこの際どうでも良い。
問題は、そんな強いキャラクターをほいほい出しちゃったマスターですよ。
「ホイホイチャーハン」
「OK。ミアPL。ちょっと黙ろうか」
隙あらば下ネタをぶっこもうとするそのスタイルは、ある意味で尊敬に値するけどね。
「すまんデイジーPL。あいつらはなにを言っておるのだ?」
「んー ニ○ニ○動画にある、ガチムチパンツレスリングってやつに登場する空耳のひとつだねー 名空耳として有名だよー」
「有名なのか……某は寡聞にして知らないのだが……」
「まあー ふつうに生きる人々にはねー」
馬鹿な会話を繰り広げるガルPLとデイジーPL。
どうでも良いがその言い方だと、自分は普通の人生行路は歩んでいないって感じになっちゃうぞ。
ああ、歩んでないか。
愚問だったわ。
「なにさー フレイPL。ボクのことをじっと見つめたりして。きししし。惚れちゃった?」
「それだけはない。絶対にない」
ジト目で返してやる。
「むしろ、そっちを想像したあんたたちの方が下品なのよ。わたしがいったのは燴々炒飯のことなのに」
にまーっとミアPLが笑う。
くっそくっそっ!
はかったな!
「ぼうやだからさ」
ちなみに、燴々炒飯ってのは、あんかけチャーハンのことね。
そしてチャーハンのことなんか、どうでもいいんですよ。
「こんな強力なNPCをだして、どうするつもりなのかって話だよ」
魔将軍と大魔法使いだけでもやばいのに、邪竜とか。
ここまで強いのを味方キャラとして出しちゃったら、もうどういう話にしたってつまんなくなっちゃうじゃん。
全部あいつらに任せればええんちゃうかな、で、解決しちゃうじゃん。
どーすんのよ。
NPCが強すぎるってのは、ぶっちゃけクソシナリオ認定されても仕方ないのよ?
「ふむ? 強すぎるか?」
マスターが首をかしげた。
こいつ。
最初は目が泳いでいたクセに、素にもどってやがる。
なんか思いついたな。
俺たちが馬鹿話をしている間に、なんか思いつきやがったぞ。
しかもぜってー頭おかしいことを。
「このわしが、その程度のことを計算していないとでも?」
しれっと言ってるし。
俺を含めて、四人のプレイヤーは大きく頷いた。
だっておめーまったくなんも考えてないだろ。その場のノリと勢いだけで話を進めてるだろ。
「そそそそんなことはないぞ。わしは常に二手先三手先を考えて話を作っている」
だったらどもるな。目を泳がせながら言うな。
あきらかに嘘じゃねーか。
「嘘ではない。これを見よ」
マスタースクリーンの影から、ひょいっと紙束を放ってよこす。
なんだこれ?
エピローグ?
今回の?
「では読み上げるぞ。はるか遠く、遠く、西方の地。天高くそびえる巨大な城アーイ・スバイン。アクアパツァーの居城である。仮面をかぶり玉座に深くすわった魔王が、ある報告を受けていた」
重々しく紡がれていくマスターの声。
まさか本気で魔王を登場させる気なのか。
そんな壮大な物語にしちゃうんだ。
「……いいんじゃない?」
ぽつりとミアPLが呟く。
目が輝きだしていた。
だよな。
冒険者生活ってことでちいさくまとまってる話も悪くないけど、こういう壮大なストーリーも悪くない。
「なるほど。魔王と戦うならこの戦力は過大ではないか」
「むしろ足りなくない? 四天王の三人は向こう側なんだし」
さっそく戦力分析なんかはじめちゃってるよ。ガルPLとデイジーPLは。
まだなんにも判ってないのにね。
けど、俺だってワクワクしてる。
いいじゃないか。
冒険者だもの。
たまには世界を救ったって。
「みんな。次のキャンペーンも思い切り楽しもうな」
『とーぜん!』
俺の言葉に、仲間たちが唱和してくれた。
これにて閉幕です。
お付き合いありがとうございました。
またいつか、文の間でお会いしましょう。




