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第30話 らぶらぶシティアドベンチャー


 情報収集といえば酒場である。

 酒場にはたくさんの人が集まるし、噂話が飛び交うものだからだ。

 そしてそういうものに耳を傾けるマスターというのは、たいていの場合けっこうな情報通なのである。


「なにその取って付けたような理屈。いままでそんなこと、一回も言ったことないよね」


 半眼を向けるミア。

 まあ、酒場ではいろんな話が飛び交うってのは事実なのだが、それは酒の上での与太話って成分の方が多い。

 勇者なんぞ酒場に行けばいくらでもいるが、歯医者の診療台にはひとりもいない。なーんて言葉もあるくらいである。


 酒場で集められるのはヨッパライの武勇伝くらいのもの。


 冒険に役立つように有益な情報を、不特定多数が聞いてるような場所でぺらっぺら歌うような冒険者は、かなり良くいっても三流というところだろう。

 あるいは、偽情報を蒔いて混乱させようとしているか。


「すまん……ミアの言うとおりなんだが……ここはこらえてくれ。進行的に……」


 フレイは苦しそうだ。

 仕方がないね。


「うん。ごめん。わたしが言い過ぎたわ。フレイもつらいんだよね」


 腰のあたりをさすってやるエルフ娘である。

 ともあれ、情報を集めるためにフレイとミアはモンペンの街の酒場を訪れていた。


 他は留守番だ。

 なんだかんだいって、街で行動するならフレイとミアのコンビが一番向いている。


 ガルは半裸だし。デイジーはちょっと目立ちすぎるし。

 魔族のカルパチョとかダークエルフのパンナコッタは、悪い方に目立ち過ぎちゃうしね。


 ヴェルシュとエクレアなら目立たないけど、そもそもあいつらにそういう仕事は無理だろう。

 普通に温泉紹介に出てくれる女の子とか探しちゃいそうだ。


「海図には、メバチの本拠地は乗ってなかった」

「ま、当然よね」


 地図でも海図でも良いが、すべての情報が載っているわけではないし、正確な情報が記されているわけでもない。

 正確な地図というのは、じつは戦略兵器並に大切なモノなのである。


 まして海賊が、ここが僕たちの本拠地の島でーす、なんて明記するわけがない。

 わけがないけど、島は必ずある。

 問題は、それがどこかという話だ。


 メバチ海賊団は十八隻もの海賊船を抱えている。乗組員の数でいえば最低でも千人くらいはいることになる。

 それだけの人数が生活できる規模の島、ということになってくると、ある程度は絞り込めるはずだ。

 そしてそれは、大きな港町からそれほど遠くは離れていない。


「食料だの生活物資だのを仕入れないといけないからな」

「海賊のかたわら、農業や畜産を営んでいないかぎりはね」


 くすくすと笑うミア。

 そんなのがいたら、ずいぶんと真面目で勤勉な海賊だと思ったのだろう。

 むしろ海賊行為なんかしなくても、普通に農民として生きた方が良い。


「奴隷に畑仕事をやらせるってのもあるだろうけどな」

「その場合、人数は倍になるわよ」

「もっともだ」


 奴隷だって飯を食うし寝るし病気にもなる。

 そういうのをきちんと管理しないとすぐに死んじゃうし、あっという間に疫病とか発生しちゃう。


 海賊千人奴隷千人って規模になったら、はっきりと街だ。

 それほどの経済規模の島が、周囲にまったく気付かれないなんてことはありえない。


「ちょっと情報がほしいんだけど」


 酒場に入ると、下卑た笑い声が迎えてくれた。

 じろじろと舐め回すような視線がミアに注がれる。


 エルフが珍しいのだろう。

 しかもこれほどの美少女だ。

 フレイが舌打ちし、一言いってやろうと踏み出す。


 が、ミアは軽く手を挙げて相棒を制した。

 相手にしても仕方がない、と、茶色い瞳が語っている。


 あらためてマスターに向き直り、もう一度おなじ言葉を告げる。

 しかし、マスターが口を開くよりはやく、たむろしていた男が歩み寄ってきた。

 エルフ娘の前に立つ。


「帰んな。ここは人間の店だ」


 にやけた笑いでの警告だ。店員でもないくせに。


「もっとも、俺らに酌をしてくれるっていうならすぴー」


 なにか言おうとしていたが、台詞の途中でくずれ落ちて眠ってしまった。

 眠りの精霊魔法である。

 チンピラごときが抵抗(レジスト)できるわけもない。


「うっわミア……」


 目を丸くするフレイ。

 握っていたジャマダハルから手を離して。


 フレイが助けるより前に、自分で自分を助けちゃった。


「段取りは無視でいくわよ」

「え? なにが?」

「フレイとチンピラの決闘なんてやらせないし、そのあとで追いかけてきた新聞記者から情報をもらうなんて展開もやらせない。さあ、きりきり吐きなさい」


 ククリを抜き、マスターの眼前に突き付ける。


「ちょっとなにを言ってるか判らないけど、その判断を俺も支持するぜ。そこまで似せちゃうのはちょっとまずいと思うしな」


 フレイもまた不敵な笑みを浮かべる。

 なんかマスターが、かっくんかっくん頷いていた。





 白波を蹴立てて帆船が進む。

 カラスミ商会のものだ。


 万事滞りなく情報を得たフレイチームは、メバチ海賊団の本拠地と思われる島へと向かっている。


「ホント。抜かりなかったねー」

「いうなデイジー。むちゃくちゃ疲れたんだから」


 言葉の通り、ぐったりとしたフレイだ。

 どういうものか、情報が一度に集まらず、非常に断片的なかたちで手にはいるのである。

 おかげで、情報を集めていたフレイとミアはモンペンの街をあちこち走り回ることになった。


 ○○については××って爺さんが知っている、という情報で××の家を訪れれば、すんなり情報を売ってもらえず、なにやら用事を申しつけられる。

 それを済ませて、やっと情報が入手できる。

 しかも断片的な。


 わざとやってんのか、と、訊きたくなる遠回りをして、やっとメバチ海賊団の本拠地だとおぼしき島を特定することができた。


「まあまあ。わたしはけっこう楽しかったよ」


 慰撫するように、ミアが腰を叩いてくれる。

 聞き込みをする衛兵みたいで、なかなか新鮮な経験ではあった。

 フレイとふたり、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら推理を構築して、結論を導いていくのも面白かった。


「まあ、俺も充実してた、かな?」


 エルフ娘に笑顔を返す。

 なんとなく指を繋いだりして。

 ちょっといい雰囲気である。


「ごほんっ!」


 もっのすごくわざとらしく、カルパチョが咳払いをした。


「ミアといちゃいちゃするなとはいわんがの。儂ともしなくては不公平ではないか? フレイや」

「はいはい。代わってあげるわよ。カルパチョ」


 くすりと笑い、エルフ娘が魔将軍に場所を譲る。

 なにしろフレイの身体はたったのひとつしかないので、互いに譲り合わなくてはいけないのだ。


「そちが増えれば問題ないのじゃがな」

「俺はスライムかなにかか?」


 真ん中から二つに割ったら、ふたりになりました。

 そういう人間は、たぶん滅多にいない。


「儂らは、どちらかを選べなどとは要求せぬよ。そのあたり人間とはちと価値観が違うからの」


 フレイの苦笑に、カルパチョも笑みを返す。

 エルフも魔族も非常に長い時を生きる。

 ゆえに、たいていの物事は時間が解決するのだ。


 たとえばミアとカルパチョがフレイを取り合ったとして、どちらかが勝ってどちらかが負けたとしても、五百年後には笑い話である。

 フレイとの間に子供が生まれたとしても、半魔族やハーフエルフの寿命では、やはり五百年後にはいなくなっている。


 そんなものなのだ。

 いずれ消えると判っているものを、ケンカしてまで奪い合う必要はない。


「人間も、そんな風に考えられたら戦争なんて起きないだろうな」

「それは無理じゃろ。達観するには、そちらの寿命は短かすぎるじゃろうからの」


 カルパチョがさしだした右手をフレイが握る。

 美しい顔にはあまりそぐわない、無骨な武人の手だ。


 海鳥がみゃあみゃあと騒ぐ。

 船は、海賊どもの本拠地を目指して。



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