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第26話 真相見えちゃった


 地下には大ホールのようなものがあった。

 おそらくは屋内訓練場とか、集会所とか、そういうものだったのだろう。元々は。


 現在は、逃亡のために荷物をまとめている海賊どもがうようよしている。

 ざっと三十名ほど。

 そのうちの一人が、侵入してきたフレイたちに気付く。


「っ!? 敵!」


 そして、主語を叫んだだけで、彼の個人史は終焉を迎えた。

 風の精霊力をまとって飛来した邪悪な投げナイフ(クピンガ)が、きれいに首を刎ね飛ばしたからである。


 もう、すっぽーんと音がしそうな勢いで。


 噴水のように吹き上がる鮮血。

 あまりの事態に海賊たちが愕然とするが、べつにフレイチームは付き合ってやったりしなかった。


 ガルが、カルパチョが、ヴェルシュが、一斉に飛びかかり、草でも刈るように海賊どもを打ち倒してゆく。

 しかも、遠距離からはパンナコッタとミアの攻撃魔法が飛んでくるものだから性質(たち)が悪い。


 茫然自失から立ち直る時間さえ与えられず、みるみるうちに数を減じてゆくようなありさまだ。


「なんだおまえら! なんなんだ!!」


 混乱のままに叫んでいる男は頭目だろうか。

 なかなかに立派な体格で声もでかく、顔もいかつい。


「なにって。襲撃者だよ。ほかになんだっていうんだ?」


 死角から突き込まれたジャマダハル。

 かろうじてカトラスでそらすことができたのは、彼の戦闘力の高さを示しているだろう。


 完全に気配を消して隠形したフレイの不意打ちである。

 そう簡単に防げるものではない。


「てめえ!!」


 猛り狂って反撃に転じる。

 が、


「こわいこわい」


 小馬鹿にするような笑いを浮かべ、するするとフレイが後退してゆく。


「ぶっ殺す!」


 ますますいきり立って追いかける頭目。

 一歩、二歩。

 三歩目で、怪鳥のような悲鳴を上げ、もんどり打って倒れ込んだ。

 靴の裏から足を金属片に貫かれて。


カルトロップ(まきびし)だよ。足元注意ってな」


 親切にフレイが解説してやるが、頭目は聞いていなかった。

 口から泡を吹いて気を失ってしまったからである。

 なにしろ麻痺毒がたっぷりと塗ってあったので。


 ふうと息を吐いて振り返ると、仲間たちの戦闘もあらかた片がついたようだ。

 結局、海賊どもは最後まで数の差を活かすことができなかった。


 混乱して逃げようとしているところに不意打ちされ、わけのわからないうちに斬り捨てられる。

 これが、たとえば揺れる船上とかなら、海賊たちにも多少の勝ち目があったのだろうが、地面に足をつけている以上、そういうアドバンテージも存在しない。


「フレイ! こっちは皆殺しで良いんだよねー!」


 ぶんぶんと手を振りながらミアが確認する。

 嬉々として。


 なかなかの異常性だが、フレイは苦笑して頷いた。

 頭目らしき人物は生け捕りにしたから、あとは殺してしまってかまわない。


 ぶっちゃけた話、情けをかけて生かしておいたとしても、街に連行したら縛り首になるだけ。

 海賊でも山賊でも良いが、こういう連中を助命しましょうねって法律は、どこの街にも存在しないのだ。

 命日を横にすこしずらすだけなので、ほとんど意味はない。


 それでも頭目っぽいのだけは生かしておいたのは、もちろん人道とかそういうのに基づいてのことではない。

 情報源としての価値があるからである。


 捕らわれている人がどこにいるか、とか。

 もし奴隷として売っちゃったのなら、その販売先とか。

 財宝を隠しているなら、その隠し場所とか。

 知りたいことは、けっこうあるのだ。





 結論からいうなら、頭目っぽい男は頭目じゃなかった。

 十八隻もの海賊船を率いるメバチ海賊団の幹部のひとりに過ぎなかったのである。

 序列としては四番目とか五番目とか、そのへんらしい。


「ゆーて、幹部なことは間違いないし、情報も持ってるから全然いいんだけどね」


 にやにやとミアが笑う。

 目の前には縛られた状態で転がっている男。名前はアゴとかいうらしいが、そのあたりはべつにどうでもいい。


 あ、名前だけじゃなく、情報もぺらぺら喋ったよ。

 拷問するまでもなく、高位魔族のカルパチョとかダークエルフのパンナコッタとか手だけ竜化したヴェルシュとか見たら、一発だった。

 へなへなーって腰が抜けちゃった感じで。


 せっかくのミアの拷問技術も、まったく使いどころがないのである。


「しかし、組合(ギルド)が海賊とグルだったとはなあ」


 少し困った顔で頭を掻くフレイ。

 アゴから得た情報だ。


 海賊討伐に向かった五十名の冒険者があっさり返り討ちにあった理由である。

 冒険者ギルドは海賊と繋がっており、襲撃の情報はまるっと渡ってしまっていた。

 これで作戦が成功したら奇跡であるが、選抜メンバーがD級E級で揃えられているんだから、さらに勝てるわけがない。


「というより、海賊に捕まえさせるための人選だろうしね」

「だよな」


 ミアの言葉に頷いてみせる。

 ようするに出来(デキ)レースだ。


 若くて体力があって、しかも後顧の憂いがあんまりない連中だもの。下級の冒険者なんて。

 奴隷として適性はばっちりですよ。

 ついでに、D級ていどならたいして強くもないしね。生け捕りにしやすいさ。


「フレイー! 解放したよー!!」


 ぶんぶんと手を振りながらデイジーが戻ってくる。

 アゴが吐いた情報をもとに、捕まってる人々を解放しにいっていたのだ。

 ガルとパンナコッタを連れて。


 なんというか、戦士、司祭、魔法使いって、パーティーとしてものすごくバランスが取れている。

 たぶん、レンジャー、精霊使い、魔将軍、邪竜って取り合わせよりも、ずっとね。


「お疲れさま。デイジー」


 イロモノチームに属しちゃってるリーダーが労をねぎらった。


「三十五人。一応まとめて回復の奇跡は使っておいたよ」


 こくんと頷く肩書きだけ正統派チームの一員。

 捕まっていた冒険者は三十五名。

 五十人で襲撃して、三人が逃げ延びたわけだから、残りは十二人だ。

 おそらくは戦闘で死んだのだろう。

 誰も死なない戦いなんてものはありえないから。


「ぼろい商売よね」


 肩をすくめてみせるミアである。

 男女三十五人の奴隷だ。


 ひとり頭金貨百枚くらいの捨て値でさばいたって、三千五百枚の収入である。

 わざわざ村とか襲わなくても、獲物(カモ)の方からやってきてくれるのだ。

 ネギを背負って。


「けっこうひどい目にあわされちゃってる女の子もいたよ。可哀想に」


 デイジーが首を振る。

 冒険者の中には女性もいる。数こそは多くないが。

 海賊どもが捕らえた女性たちを紳士的に扱うはずがない。売りに出すその日まで、なぶりものにするに決まっているのである。


「同情されるほど弱くもないけどね。女冒険者は」

「そうなの? ミア」

「好きこのんでこんな仕事をするような女よ? したたかさがなかったら生きていけるわけないじゃない」


 苦笑するミアだ。

 男ってのは、どうしてもか弱いものと考えたがるが、あんがい女ってのは強いものだ。


 町娘ならともかく、冒険者なんてやってる女ならなおさらである。

 犯されたくらいでぴーぴー泣いてるような、うぶなネンネに生きられるほど甘い世界ではない。


 じっさい、捕らわれていた女冒険者のうち何人かは、海賊を籠絡しかかっていた。

 自らの肉体を使って。


 私だけでも助けてくれない? あんたの女になるから。みたいなノリである。


 フレイチームの作戦が何日か遅れたら、海賊側として登場した女冒険者もいたことだろう。


「こわいねー こわいこわい」


 おどけてみせるデイジーだった。

 ミアやカルパチョばかりが強いわけではないのである。


 なぜか大きく頷くガルとパンナコッタ(バカたち)だが、どうせこいつらは生身の女はめんどくさいとか考えてるだけなので、たいして問題はない。


「して、今後どうするつもりじゃ? フレイや」

「海賊と繋がってる組合(ギルド)をやっつけるべや」

「そちならそういうと思うたわ」


 地面をハンマーでぶっ叩くような回答に、カルパチョが艶やかな笑みを浮かべた。

 よその街だからって、こんな不正を我らがリーダーが見逃すわけがない。



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