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第22話 旅路


 モンペンまでは邪竜ヴェルシュの背に乗ってひとっ飛び! というわけにはいかない。

 こんなところをドラゴンが飛んでたら、何事が起きたのかと思われちゃうからね。


「買った馬車が、いきなり役に立ったなぁ」


 御者台のフレイが隣のカルパチョに笑いかける。


「投資が無駄にならなくて良かった、というところじゃな」


 穏やかに返してくれる魔将軍。

 厳正な抽選の結果として、今日はカルパチョが一緒らしい。


 昼まではフレイが御者をつとめ、午後はガルが手綱をとる。

 荷台には六名。

 一頭立ての馬車だが、積載量としてはまだ少し余裕があるくらいだ。


 徒歩ではないのは、もちろんエクレアに体力がないからである。

 こいつを歩かせたら、モンペンまで何日かかるか判ったものじゃないからね。


 予定としてはちゃんと宿場に泊まりながら、七日ほどの行程だ。

 けっこうな時間だし出費である。

 往路にそれだけ時間がかかるということは、復路だって同じだけの時間がかかるのだ。

 モンペンに何日か滞在するとしたら、さらに金もかかるだろう。


 旅をするのも、なかなか大変である。

 勤め人などでは踏み切るのにかなり勇気がいる。


「しかし、大きく稼いで大きく使うのが冒険者なのじゃろ」

「だな。ケチで締まり屋の冒険者なんか、誰が歓迎してくれるんだって話さ」


 カルパチョの言葉にフレイが笑みをみせた。

 最下級のE級ならともかく、C級ともなれば散財はむしろ義務である。


 それじゃなくても社会的な信用なんかない冒険者だ。けちけちしていたら、嫌われ放題なのだ。

 あいつらはうさんくせーけど、金払いは良いんだよな、くらいに思われなくてはいけない。


「ましてフレイは、儂やミアやデイジーのような美女を引き連れておるからの。恨まれ度合いもひとしおじゃろう」

「最後の一人が、とてつもなくおかしくねえか?」

「大丈夫じゃ。だれも気にしておらぬ」

「いやいや。気にしてくれよ」






「私は美女に数えられなかった。解せぬ」


 荷台で不満を漏らすのはエクレアである。

 思い思いの格好でくつろぐ六人。彼女は当然のようにミアの隣に座っていた。


「解しなさいよ。エクレアがへんたいだからでしょ」


 そのミアが、えらくストレートに論評してやった。

 どんだけ美人でも、男に興味を示さず女の尻ばかり追いかけていたら、そりゃ女性としては数えてもらえないだろう。

 枠としては普通に男性枠だ。


「むしろね。なんでボクを数えたのさ」


 ぷんぷんと憤慨するのは、もちろんデイジーである。

 左右をガルとパンナコッタに挟まれ、さっそくカード賭博に興じはじめていた。

 女遊びも飲酒も賭博もたしなむ生臭司祭だ。


「デイジーとフレイが親友同士なのは誰でも知ってる話だけどな、妬いているものもいるんだろうよ。ダブルアップだ」


 しゅっとカードを切りながらヴェルシュが笑う。


「ぐはっ」


 直撃を受けたガルがのけぞった。

 この邪竜、強すぎる。


「むー ボクとフレイはそういう関係じゃないよっ」


 頬を膨らますデイジー。

 可愛い。


「だね。きみは誰のものでもないよ」


 パンナコッタが微笑してみせた。

 ニュアンスが微妙におかしい。


「あんたら。あんまり熱いれすぎて、遊ぶお金なくなっても知らないわよ」


 けっこう高額をやりとりしている男どもに、ミアが注意を喚起した。

 彼女の場合、知らないといったら本気で知らないのである。


 ちゃんと言うことを聞かなかったら、普通に置き去りにされたりする。

 怖いのだ。

 肩をすくめてレートを下げたりして。


 旅はまだはじまったばかりだ。






 温泉の街ジョボン。

 フレイたちも泊まったことのある街である。


 そして今回も、ちょっと良い宿を取った。

 というのも、魔族のカルパチョやダークエルフのパンナコッタは目立ってしまうからだ。

 さすがに温泉に入るとき、フードで顔を隠すというわけにもいかない。


 なので、この前泊まった露天風呂つきのコテージである。

 経費ではないのでけっこう痛い出費だが、カルパチョとパンナコッタだけ温泉はお預けというのもない話だ。


 誰になにを言われなくても、フレイはそういう心遣いができる男なのである。


「温泉名は」


 プレートを持ったミアがにこやかに言う。


「ジョボン温泉です」


 エクレアはやや引きつった笑顔だ。


「種別は」

「露天風呂じゃな」


 カルパチョも、二回目だから慣れたものである。


 今回のウサギちゃんは三名だ。

 中心にミア、右側がエクレア、左はカルパチョ。


 全裸に見えるが、お湯の中に隠れている部分はしっかりと水着をまとっている。

 もう騙されない。


「それではみなさん」

『おやすみなさーい』


 声を揃えた三人が手を振る。


「はいカット! OK!」


 撮影用の魔導具をもったヴェルシュが宣言した。


 なにをやっているのかといえば、ナザリームでもやった温泉紹介である。

 べつに誰かにみせるわけではないが、美女が温泉を紹介している映像をコレクションするのを、カオスドラゴンは生涯の野望としたらしい。


「まあ、無趣味に生きるのというには、儂らの生は長すぎるからのう」


 理解を示すのは魔将軍だ。


 そのうち、ヴェルシュ監修の温泉紹介本とか売り出されるかもしれない。

 美女が紹介している動画とか付いて。

 需要があるかどうかは未知数だが。


「デイジーが紹介しているなら買っても良いけどね」

「然り」


 バカたちが論評しているが、こいつらのバカはいつものことなので、だれも気にしなかった。


「さてさて。男は撤収だぜ。ごゆっくりな」


 ヴェルシュが宣言し、助手たちを引き連れて去ってゆく。

 カード賭博の借金を棒引きするかわりに、謎の趣味を手伝わされていたのである。

 バカたちは。


 フレイとデイジーは、仲良く夕食の支度中だ。

 ガルもパンナコッタもハンカチを噛みしめちゃうような場面だが、負け犬に文句を言う資格はないのである。

 まあ、ギャンブルは身を滅ぼすということだろう。


「あ。戻ってきた。どうだった? みんな色っぽかった?」


 リビングテーブルに料理を並べていたデイジーが、にふふふと変な笑い方をした。

 裸に見えるけど、じつは詐欺だって知っているのである。


「デイジー」


 ややむっとした顔のフレイだ。

 ミアやカルパチョのあられもない姿のことで盛り上がられるのは、なんかおもしろくない。

 エクレアはどうでも良いけど。


「あれれ? 妬いてんの? めずらし」

「うっせ」


 ぽこっと親友の頭にチョップするフレイだった。

 ガルとパンナコッタが羨ましそうにする。

 どうでも良い。


 仕事じゃないからこそ、なんかミアとカルパチョのことを意識してしまう。


 まったく。

 らしくない。

 軽く頭を振る。


「女どもの風呂は長いからな。先にはじめようぜ」


 その様子ににやりと笑ったヴェルシュが、リーダーを促してテーブルにつく。


「……そうだな」


 苦笑するフレイ。

 酒は大量に運び込んでもらっている。

 宴会だ。


「たまには男だけってのも、わるくないよねー」


 全員のカップにワインを注いでまわりながら、デイジーが言った。

 露天風呂では女子会が開かれているだろうだろうから、こっちは男子会だと。


「結局さー フレイはミアもカルパチョも娶らないといけないんだよねー」

「はっきりいうね。デイジーさんや」


 政略として、カルパチョがザブールを去ってしまうのはまずい。

 繋ぎ止めるにはフレイの存在が必要で、方法としては結婚するしかないのだ。

 子供でもできたらしめたものだが、異種族婚の場合はなかなか難しいだろう。


 ともあれ、じゃあ、カルパチョと政略結婚するためにミアと別れるのかって話である。それは絶対にない。


 もしアンキモ伯爵がそれを強要してきたら、フレイがザブールから去っちゃうだけだ。

 ミアを連れて。

 もちろんそうなったら、デイジーも一緒に行くつもりである。


 ザブールにとって大いなる損失だ。

 結局、全員いなくなってしまうということだから。


「エルフと魔族を娶る人間か。本当に面白いな。フレイは」


 ボトルを取り上げ、ヴェルシュがフレイの杯を満たした。


「他人事だと思いやがって」


 笑いながら、リーダーがぐいっとそれを飲み干した。



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