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第10話 あさしんのひげき


 風の精霊力をまとって飛ぶ邪悪な投げナイフ(クピンガ)

 ミアの持ち物で、四方に刃を伸ばしたちょっと信じられないくらい見た目が邪悪な武器だ。


 闇の中から飛来したそれが音高く弾かれる。

 ほとんど視界がきかない中で、なかなか見事な腕前である。


 庭の芝に落ちる邪悪な投げナイフと、半分に折れたショートソード。

 投げた方と防いだ方、どちらがより失望したか判らない。


 が、次の一手はミアの方が速かった。

 ぶんと風を切る音とともに、侵入者の眉間にククリナイフが突き刺さる。

 そのままゆっくり後ろへと倒れた。


「デイジー。光を。こいつら闇慣れしてるわ」

「りょーかい! 聖なる光よ!!」


 くるくると踊った少年が錫杖を空へとかざす。

 次の瞬間、爆発的な閃光が内院(なかにわ)を満たした。


 おそらく暗視の魔法を使っていたであろう侵入者どもが、一時的に視力を失って蹈鞴を踏む。


 もちろん、それを見逃すようなフレイでもガルでもない。

 飛燕の動きで飛び出すふたり。

 戦斧とジャマダハルが閃くたびに、敵が数を減じてゆく。


「すご……圧倒的じゃない……」


 室内から、こそこそと戦況を見ていたエクレアちゃんが呟いた。


「そりゃそうだよー フレイチームはムッテキだからねー」


 さりげなく守る位置に立っているデイジーが、にふふふーと笑う。


 まあ、あながち誇張ではない。

 たとえばガルは、戦闘力だけをみたらA級冒険者と比べても遜色ない。

 たとえばミアは、全体的に稀少なスペルユーザーでしかも魔法だけでなく武器の扱いにも精通している。

 そして、それを束ねるフレイはバランスの良い能力と、なにより統率力に優れたリーダーだ。


 まだC級の彼らだが、じつは冒険者登録から半年も経たないのにC級ってことのほうが異常なのである。


 そしてA級チームと幾度か一緒に仕事をしている。これは実力が伯仲してるって証拠だ。

 ランクが二つも違う連中と、普通は並んでなんか戦えない。

 足を引っ張っちゃうだけである。


「しかもー ボクたちはこれで全員じゃないからねー」


 本拠地ザブールには、留守番をしているカルパチョとパンナコッタがいる。

 ぶっちゃけこいつらは、ちょっと桁が違いすぎるのだ。

 魔王アクアパツァーの四天王の一人と、禁呪すらあやつるダークエルフだもの!


「そ、そうなんですか……」


 思わず、ちょっと引いちゃうエクレアちゃんであった。






 そうこうするうちに、内院の戦闘は終結する。


 侵入者は文字通り全滅だ。

 対してフレイたちは大きな怪我もない。

 機先を制した上に、一度もペースを譲らなかった。


「あ、こいつ生きてる」


 クピンガとククリを回収していたミアが、庭に倒れた侵入者のなかから、まだ息のあるものを見つけた。


「なんか吐くかなぁ?」


 よいしょと覆面を剥ぎ取る。


「ぅ……」


 小さなうめき。

 夜風に晒される銀の髪と美しい顔。


「おおっと。女だよ女」


 あちゃーって顔で、ミアがリーダーを呼んだ。

 なんと生存者は女性だった。


「うあー 扱いがめんどくさいなぁ」


 寄ってきたフレイが頭を掻く。

 戦闘中ならいざ知らず、勝敗が決した後で女性をいたぶる趣味を、彼は持っていない。


「むしろいたぶられたい」

「横から適当なことを言うな。ミア」


 てい、と、茶色い頭をはじいてやる。

 冗談はともかくとして、女性を拷問するってのはどうにも気が引けてしまう。かといって解放するというのもよろしくない。


「気を失ってるうちに殺しちゃう?」

「だなあ。苦しまないように一撃で」


 ジャマダハルを構えるフレイ。

 どのみち情報を吐くとも思えないし、無用の苦しみを与えるよりさくっと楽にしてあげよう。


「待って待って! そんなもったいな……いやいや、可哀想なことしなくても!」


 謎の言葉を吐きながら、エクレアが庭に降りてきた。


「ここは、私に任せてほしいの。拷問的なこと」

「わたしには、あんたが何を言っているのかさっぱりよ」


 ミアがこめかみに手を当てた。

 この変態王子だか変態王女だか判らないイキモノ、なにを言い出すのか。


「フレイ。ガル。この女を縛ってくれる? 右手首と右足首。左手首と左足首。うんうん。そんな感じ」


 えらく屈辱的なポーズで縛り上げられる暗殺者。


「でもって、内風呂に運んでくれる?」

「心得た」

「おもしろそうー」


 なんか悪のりをはじめたガルとデイジーが、暗殺者の身体をえっほえっほと運んでゆく。

 楽しそうである。


 ここまでしても目を醒まさないのは、もしかしたらけっこう傷が深くて死にかかっているのかもしれない。

 まあ、デイジーが回復させちゃうだろうけど。


「殺してやったほうがええのんちゃうんか?」


 やれやれとフレイが首を振る。


「わたしに訊かれても知らないわよ。あんたがリーダーじゃん」


 呆れたようにミアが応えた。

 あの縛り方から察するに、たぶんえろい拷問とかするんだろうなーとか思いながら。

 好きにさせちゃうフレイは困ったもんだが、見学するぞーとか言い出さないのは、まあ良しとしたものだろう。


「もし殺したら、ちゃんとお風呂掃除するのよ。アンタたち」

「わかってるよー」


 デイジーの声が遠ざかってゆく。

 拷問に興味津々な聖職者である。


「ま、俺らは飯の続きでもするかね。ミアさんや」

「そうだねぇ。フレイさんや」


 枯れかけた老夫婦みたいに笑い合って、リビングに戻るふたりであった。

 暗殺者どもの死体は、朝になったら業者を呼んで片付けさせれば良いだろう。



 食事を再開してしばらくすると、デイジーとガルが戻ってきた。

 なんか顔を火照らせて。


「どうしたんだ? ふたりとも。エクレアは?」


 フレイが首をかしげる。

 いくら縛られているといっても、暗殺者と王女をふたりきりにするのはまずいだろうに。


「いやあ。たぶんもう抵抗はできないんじゃないかなー」


 秀麗な顔を真っ赤っかにしたデイジーである。

 何を言っているのか判らない。


 ガルに目を向けると、なんか恥ずかしそうに目を背ける半裸武芸者であった。


 うん。その動きはだいぶ気持ち悪いからやめろな? とか思うミアだったが、べつに口にしたりはしなかった。

 友人なので。


「女同士というのは、烈しいモノなのであるな」

「よーねらし」


 しかし、ツッコミはエルフ語になってしまった。


 あの変態王女はなにをしているのだろう。

 気色悪いから、覗きになんていかないけど。


「ボクちょっと興奮しちゃった。この街って娼館あるかなー?」

「デイジー。けつちお」


 ホントにね。

 何を見てきたんだ。このふたりは。


「いいから、飯をくっちまえよ」

「アンタはアンタでマイペースよねぇ」


 野郎どもの様子にかまうことなくスープをよそうリーダーの姿に、感心したんだか呆れたんだか判らない顔をするエルフであった。


 ちなみに、内風呂から聞こえる嬌声は、ほぼ一昼夜にわたって続いた。

 エクレアはたまに食事や飲み物をとりにくる程度であった。





 で、予定通りに時間が過ぎ、出発の日である。


「ミア。あの服ちょうだいっ!」


 朝一番にエクレアが申し出た。

 あの服とは、いろいろな場面で活躍した露出過剰なあの服のことである。


「どうしたのよ? 藪から棒に」

「いや。犬一号に着せようかと思って。全裸で連れ回しても良いんだけどさ、どんな服でも良いから着せてくれって泣いて頼むから」


「OK。エクレア。ちょっとそこに座りなさいな」

「ん? なになに?」


 言葉に従い小首をかしげたエクレアの、まさにその細首にぴたりとククリナイフの刃が押し当てられた。


「ひぃっ!?」

「まずね。わたしたちの旅をなんだと思ってるのか、そこから訊こうかしら?」


 性に奉仕する奴隷とか連れて歩けるような、そんな余裕のある旅行だとでも思っているのか。


 逃避行なのである。

 このあと、何回の襲撃があるか判らないのである。

 奴隷に露出プレイをさせて、ぐへへへーなんてやってる余裕が、どのへんにあるというのか。


「そこから訊こうかしらね」

「ひぃぃぃぃっ! すみませんすみませんっ!!」


「あと、わたしのとっておきの服を、どんな服でも(・・・・・・)扱いした理由も、併せて訊いておこうかしら?」

「ひぃぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさいっ!!」


 冷たい目のエルフとぺこぺこ王女。


 とりあえず、犬一号とやらいう元暗殺者は、コテージに放置していくことになった。

 ミアの精霊魔法で眠らせた後、拘束を解いて。

 目が醒めたら、適当に逃げるだろうという予測のもとに。


 あと、当たり前だけど有益な情報はなーんにも聞き出せなかった。

 ただえろいことをして遊んでいただけのエクレアだから。

 なにやってんだって話である。


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