雪山の兄妹
兄妹での恋愛表現があります。ご注意下さい。
僕は山に来ていた。
その季節は冬。
後で、思い起こせばこの時の僕は無謀だった。
スノースポーツを毎年の様にしていた僕は雪山の登山に興味を持ち、誰かに相談する事もなく“一人”で準備をしてしまった。
インターネットで調べ、自分なりに装備を整えた。
でもやはり無謀だった。
「……お兄ちゃん。気を付けてね。」
昨日の朝に妹から掛けられた声が思い出される。
……
「明日の天気は……ちっ、充電が切れてる。まぁ、大丈夫だよな。」
この山小屋に来るまでは風は穏やかで晴れ間も出ていた。
……このまま、縦走するか。
囲炉裏の火に当たりながら、ぼんやりと考えていると小屋の扉が、
ぎぃー
と開く。
目を向けると白髪が所々見えているおじさんだった。
「あまたたらせて、もっらても?」
「……構いませんよ。」
目を退かすとまた火を見る。
「きみは、そのそうび、なのか?」
ゆっくりと頷く。
「……ならば、ひえきかし、なさい。そでれは、わしたの、いうもと、ように、しぬぞ。」
おじさんは、よっこらせと隣に座る。
ゆっくりと隣に目を遣る。
赤い火に灯されたおじさんの皺くちゃな顔が目に映る。
「……妹さん?」
「うむ、……そだうな、きなみら、はしてなも、いだいろう。」
彼は囲炉裏に目を向けると、ゆっくりと語り始める。
「わしたの、いうもとは、ゆれるざさる、こいに、おちた。…………わしたの、こもどを、にしんん、しのただよ。そして、ちうょど、さゅんじう、ねまんえ、こやのまの、おねで、とししうた。……もれうつな、ふだぶきった。」
そして、彼は目を合わせる。
「あすは、おはおばに、てこうんが、くれずる。あすの、そょちうにうは、こをでこて、げんざん、しさない。」
……天候が崩れる。
ゆっくりと頷く。
「……分かりました。明日の五時には下山します。」
「それが、よだろいう。」
彼が頷いたのを確認する。
囲炉裏を離れ、寝袋に包まった。
彼の話は些か衝撃的だった。
このおじさんは妹さんの供養に来たのか? ……まぁ、部外者の俺が深く聞く事では無い。
目を閉じるとすぐに眠りについた。
翌朝、寝袋を出た僕は直ぐに準備をして下山した。
そして予想通り山は荒れた。
……
「……お兄ちゃん?」
「…………何でも無い。例の小屋はあと少しだな。」
今は夏。
去年の体験を妹に教えると律義に、そのおじさんにお礼をしたいと一緒にこの山にやって来る事になった。
……兄妹が亡くなったのは130年前だ。
資料を調べたりお年寄りに話を聞いたりした所、そう言う事らしい。
少しすると小屋が見えてくる。
「……あっ! 小屋!」
「そうそう。あれだな。」
「キャンプみたいで楽しそう。」
妹は僕に振り返るとにっこりと笑う。
「……そうだな。今夜は楽しみだ。」
僕は頷くと妹に笑い返したのだ。




