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B章3話 オークとの出会い

6000文字

歩き続けてあれから1時間。

俺は今非常に困った状況にある。



いや、目的の川は見つけたんだ。

当初の予定通り、川を下っていったさ。


そしたらオークを見つけたんだ。

お、本物のオークだ!と思って近寄ったらさ、ものすごい勢いで襲い掛かってくるわけよ。


多分、飯だと思われてるよね。

だってこっちは狼だし。

狩りじゃなければ逃げるでしょ。

ぎゃーぎゃー叫びながら向かってきたってことは、俺は狩られる対称なんだろうな。



オークは木で出来た簡素な槍を俺に突きつける。

俺は回避するために全力でジャンプして、オークを飛び越える。

さすが魔物の身体能力だ。

勇者補正もあることだろう。


俺はキレイに着地すると、オークに体当たりする。

オークはその衝撃で木の槍を落としたが、槍には目もくれず力いっぱい殴りかかってきた。

肉弾戦か。望むところだ。


俺はオークの突き出す拳を交わし、隙を見て腕に噛み付く。

オークは噛まれているのとは反対側の腕で俺の頭を横殴りにする。

耐え切ることが出来ずに吹き飛ばされた俺に、すかさず追撃を加えてくる。


ぐっ、結構力が強い。

それに腕もかなり硬いな!

こっちも魔物だが、あっちも魔物だった!


正面戦闘では勝ち目がないと思った俺は、スピードに任せた戦いにシフトする。

縦横無尽に駆け巡り、オークの攻撃を交わすついでにカウンターを食らわす。

オークがよろめき、バランスを崩した。


やばい!

狼の姿になって、決定打に欠ける!


狼の姿でパンチするわけにもいかないし、敵に背を向けてキックをするわけにもいかない。

肝心の噛み付きは相手が硬くてうまく通らない。そして隙が大きすぎる。

だとすればこちらの攻撃手段は体当たりしかない。


オークが体勢を立て直し、再び俺に襲い掛かってくる。

相変わらず単調な攻撃だ。

そろそろ慣れてきた俺にとって、回避することなど造作も無い。


そうだ!

狼には爪がある!

大した威力にはならないだろうが、隙の小さい攻撃が出来る!


俺は戦闘スタイルをさらに変える。

爪攻撃を主体とした、回避特化だ。

じりじりと相手の体力を削っていく。


オークの体の怪我がだんだんと増えてきた。

対して俺ももうそろそろ体力がつきそうだ。

オークのパンチ一発に対して、俺は全身動かしてそれを回避しなくてはならない。

硬くて攻撃の重いオークのようなタイプは、恐らく持久戦だと俺のほうが不利になる。


オークも怪我から、すでに体力の限界に来ていそうだ。

オークは俺から距離をとると、地面に落ちている槍を拾った。

疲れ果てている俺はそれを妨害する余裕もない。


次の一手で勝負が決まる。


張り詰めた空気の中、先に動き出したのはオークだ。

オークは今まで突くのに使っていた槍を、俺に向けて全力で投げる。

その余りの速度に俺は回避しきれず、体をかすってしまった。


痛い!

だが回避することは出来た!


オークが無我夢中でこちらに向かってくる!

俺は最後の力を振り絞って全身全霊で体当たりをぶちかます!

オークはそれを回避することは出来ず、吹き飛ばされた。

オークが倒れている隙に、俺は腹に思いっきり噛み付いた。


反撃される前に急いでオークから離れたが、オークから反撃が来ることはなかった。

どうやらオークは気を失ったらしい。


こうして異世界における最初の戦闘は、俺の勝利で終わった。



この時、俺はひとつ思いついたことがある。

もしかしたら転生特典の自動翻訳でこのオークと会話が出来るんじゃないかと思ったのだ。


幸いにして、俺には「念話」のスキルがある。

これを使えばお互いぎゃあぎゃあグルルルルと叫ぶだけの会話ではなく、しっかりと意思の疎通が図れると思ったのだ。


いやその点本当に念話のスキルがあってよかった。

万が一これ念話じゃなかったら、考えてみたら人と出会ったときに会話できないもんね。

相手の言ってることが理解できたとしても、此方はグルルルと唸ることしか出来ない。


…あまりに出来すぎている。

俺が魔物になることを分かった上で念話にしたんじゃないかと疑いたくなるぐらいだ。


まあ真偽のほどは分からないし、そうだったとしても今更どうでもいい話だ。

どうせそれが判明したところで出来ることなんて、どうやればあの老人に復讐できるか考えるぐらいのことだ。

それよりは前に進むことだけを考えよう。

もし念話が通じれば、この異世界生活がどれほど助かることか。


…いや、考えてもみたらちゃんとそこまで分かってる優秀なやつだったら、クラスメイト全滅させたりしねえわ。

偶然で確定だな。



そんなことを考えているうちに、オークは意識を取り戻したようだ。

まだ起き上がるのには体力が戻らないようで、その間に念話で会話を飛ばしてみる。


「(先ほど戦った狼だ。俺の言葉がちゃんと通じているか?)」


俺が念話を送ると、オークが目を見開いて明らかに動揺しているので、どうやら念話はしっかりと届いたようだ。

ちゃんと翻訳されているかが問題だが。

なにせあのポンコツから授かったスキルだからな。


「(ぬ、拙者に話かけるのは狼殿でござるか。先の戦闘で拙者は完敗であった。貴殿の名を知りたい)」


お、ちゃんと伝わったみたいだ。

しかも何でござるスタイルなんだろう。口調が。

え、翻訳した上でこれだよね? なんかもっと標準的な言葉に翻訳されるかと思ったんだけど。

ていうか俺の言葉もござる口調に変換して相手に伝わってたりすんのかな。

なんかやだなあ。

まあ相手は魔物だし、細かいことを気にしたら負けだ。



「(俺の名前は大地だ。この世界に来たばかりで、右も左も分からない。出来れば色々と知っていることを教えてくれると助かる)」

「(ふむ、大地殿と申すか。その名、この魂に刻んでこの身が朽ち果てるまで忘れることはない。見事でござった。それならば貴殿よ、拙者の暮らすオークの村に来てはいかがか)」


ふむ。

オークの集落があるのか。

てっきりはぐれオークかと思ったが、どうやらこいつはその村の一員らしい。

やはり狩りの最中だったようだ。



その後オークの体力回復を待って、色々と話を聞いた。

これから向かうオークの集落は大体50~60頭ほどのオークが住んでいるとのこと。

オークの寿命は20年程度で、一番年をとっている長老が22歳であること。

オークから進化すると寿命ももっと延びること。

ただし進化するとたいてい村を出て行ってしまうので上位種はいないこと。

集落によってはもっと大きなところもあるが、繁殖力も高いので増えすぎると一部が他の地域へ移動し、そこで新しい集落を築くこと。



そして、オークの集落はよく人族に狙われること。

人に狙われたら最後、オークたちが全滅するか逃げ切るかしか選択肢がないこと。

だから逆に人に集落を発見される前に、人を発見したらすぐ処分すること。

下手に襲撃に失敗して生き残りを出そうものなら、すぐに集落討伐のために人族が派遣されてくる。

発見されたら一人残らず殺すしか、オークの生き残る道はないのだ。



悲しい連鎖。

殺される前に、殺す。

そして殺されたから、殺し返す。

どちらかが折れるまでそれは続く。

そしてどちらも折れることはない。

守るべきものが、あるから。

だから戦いは終わらない。



まあ嘆いたって仕方が無い。

戦争なんてなくなれば良いのにと思っても、なくならないのと同じように。

世界は変わらない。

考えるだけで世界を変えられるなら、今頃世界は俺の思い通りだ。

…あるいは世界の誰かが「戦争をしたい」と思っているから、世界の誰かの「戦争をしたくない」という意思と衝突して、優勢な方……戦争をする方向に傾くのか。

意図せずして、世界の本質に気付いてしまった気がする。


世界の本質は人々の意思と心理の集合体だ。

物の価格から、青信号の時間に至るまで、大衆の心理が全てを決めているのだろう。

スーパーで売られているものは、店長が価格を決めるのではなく、人々の意思が価格を決めるのだ。

そこには多少の誤差と裁量はあれど、メロンを1つ10万円で売るスーパーは無い。

人々が「買いたい」と思わないからだ。

これは立派な意思であり、心理だろう。

「なるべく安く、物を買いたい」という心理だ。


もしかしたら特異な人は「いや俺はメロンを10万円で買いたいんだ」という人がいるかもしれないが、そういった人は極一部であろう。

大勢に影響を与えない。

もし大勢の人が10万円で買いたいと思ったなら、メロンの価格は10万円になることだろう。

やはり人々の意思によって価格が決まっている。


道路を走る車の交通量だって、同じだ。

此方はもっと複雑だが、人々が何を思って道を選ぶかで交通量は決まる。

まさか直線ルートを曲がり角のたびにジグザグと曲がりながら進む人はいないと思う。

これもやはり「いやそこに曲がり角があるのならば俺は曲がらずにはいられない」という特異な人がいたとしても、大勢に影響を与えない。

そしてやはり、特異な人ばかりになったとしたら交通量はそのように動く。

全て大勢の人々の意思で決められたことだ。


言い換えれば交通量とは

「どれだけの人々がどれだけその道を通りたいと思っているのか」

と結論付けられるかもしれない。

人が思うから、交通量が変わる。

だから信号機の間隔も変わる。


まあ厳密に言えば大勢の人というのは間違いで、力のある方向に動くというのが正しいのかもしれない。

100人が戦争をしたくないと思っても、力のある1人の戦争をしたいという意思が、100人の力を上回れば、戦争する方向に動くことだろう。

だが人数は力だ。

1000人が戦争をしたくないと思えば、今度はその1人の意思をねじ伏せることが出来ることだろう。


……これは日本にいた頃に投資で培った考え方だ。



なんてことをガラにもなく考えていたら、オークの集落が見えてきた。


いや、それにしても思ったより規模が大きいな。

オークの体が大きいからか、家の一軒一軒がそれなりの大きさだ。


この集落の様子を例えるなら、教科書で見たような縄文時代とか弥生時代とかそんなイメージだ。

ん… 縄文と弥生を一緒にしたら歴史の先生に怒られそうだな。

いや覚えてねえし。一緒だろ。原始人文明。

え?違う? 細かいことは気にすんなって。

久々に頭使って考え事してたもんだからこれ以上余計な問題を増やさないでおくれ。



「(ついたでござる。ここが我らがオークの村。貴殿を村長の元へ案内するでござるよ)」


そう言われて案内されたのは、村の中心にあるひときわ大きな小屋だ。

中に入ると村長と思われるオークが鎮座していた。


いかにも話を聞こう的な雰囲気だけど、準備はやすぎね!?

俺、集落に今来たばっかりだし、村入ってすぐここ来たんだが!

いつの間にか伝令が報告してたん?そうなん?

それともまさか一日中この体勢だったりするの!?


俺がそんな疑問を抱いて悶々としていると、連れのオークが口を開いた。


「村長、この者は拙者と一騎打ちをし、拙者を打ち負かした者である!不思議な力で会話が出来、拙者もこの者なら信頼できると見込んで連れて来たでござる」


連れのオークは村長にそのように説明を始めた。

そっか、考えてみたら念話がなくてもオーク語を聞き取って理解できるんだ。

ただ念話がないと此方から話しかけることが出来ないだけで。


「ふむ、ご苦労。状況はよう分からんが、この狼は客人であると思って良いのだな?人間の手先であったり、他種族の手駒であることもないと?」

「間違いないでござる。拙者は倒され、本来であればこの命はもう尽きてたはず。拙者が目覚め、動けるようになるまで拙者を守ってくれたでござる。話に聞くとこの者はこの世界に来たばかりで何も分からないとのこと。それならばと村長のもとへ連れて来た次第でござる」


オークという種族が特別なのか、あるいはこのオークの思慮が浅いのか。

俺がオークの集落の場所を特定するために、わざと生かしておいたとかそういう考えは出来なかったものか。

俺としてはありがたい話だったが、50~60頭もの集落全員の命がかかった判断だという認識はあるのだろうか?



「なるほど。話は分かった。聞く限り確かにこの狼は歓迎すべき客人で間違いなかろう」


…村長でこれならどうやらオークという種族全員が思慮浅いのかもしれない。

よくこれで今まで生きてこれたもんだ。


「して、この狼とはどのように会話すれば良いのか」

「(心配には及ばない。俺には念話がある)」


すかさず村長に念話を入れる。


「(おお、これが不思議な術とやらか。貴殿、名をなんという)」

「(大地だ。村長、色々と話を聞かせてはくれないだろうか?)」



そうして俺はオークの村長に色々とこの世界についての話を聞いた。


先に聞いていた話がほとんどであったが、新しいことも聞くことが出来た。

特に重要だったのが魔法についてだ。


高い知能と魔力を持っていれば、魔法が使えるらしい。

この念話についても村長が言うには魔法の一種だろうとのこと。

オークには魔法を扱うことが出来ないためあまり詳しくは知らないようだったが、話に聞いたところ強いイメージによって発動するとのことだった。

ただし相当魔力が高くないと大した威力は出ないらしい。

人間は詠唱というものを使ってどうやら威力を上げているらしかった。

かつて村長は人間に村が襲われたときに、詠唱しているところを聞いたらしい。

即座に発動する必要があるときは無詠唱で。

多少時間をかけてでも威力を上げたいときは詠唱で。

そのように使い分けているようだと教えてくれた。

それ以外にも何か威力を上げる方法があるようだが、村長は分からなかったという。



この話を聞く限り、どうやら俺は詠唱魔法は出来ないだろうな。

喋れねえし。


ただし、恐らく無詠唱での魔法なら俺にでも使えるはずだ。

念話が無詠唱魔法だとしたら、念話を使っててなんとなく魔法を使うイメージが分かった気がする。

後で練習しておこう。



そんなこんなでもう夜遅くなってしまった。

もう寝ようかと思ったが、しかし村長に止められる。


滅多に見ない客人が来たということで、村をあげて宴の準備をしてくれていたらしい。

眠かったが、まあせっかくだからと俺も全力で楽しませてもらった。

宴なんていってもキャンプファイヤーがあるわけでもなく、ただ飯が用意されてオークがそれぞれ自由なダンスを踊ってるだけだったがな。

まあ雰囲気は楽しめたさ。


飯は正直くそ不味かったが、異世界なんてこんなもんだと思う。

特にオークの料理(?)だったし。



宴の終了と共に、俺は村長の家に泊めてもらった。


オークと戦ったときはどうなることかと思ったが、案外この世界は思った以上に優しい世界なのかもしれない。

魔物といったら意思疎通なんか出来ずに問答無用で襲い掛かってくるものだとばかり思っていたからな。

そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

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