B章2話 転生って・・・
3000文字
いててて…
一体何なんだあいつは。
いきなり人のこと殺しておいて、大した謝罪もせずに軽く流したと思ったら、今度は転生特典を無駄にしやがった。
しかもクラスメイト全員を巻き込んで?
ポンコツにもほどがある。
まあ何事もやってしまったものは仕方が無い。
ミスしました、で訂正できるものならすでに訂正しているだろう。
もちろん仕方が無いで全てが済むはずはないのだが、仕方が無いんだから仕方が無い。
前向きに行こう。
まずは現状の確認だ。
ここは…森の中か?
不思議な森だな。
風もないし、とても静かだ。
生き物が住んでいるとは思えない。
異世界なんだしこれが当然なのか、あるいはこの場所が特別なのか。
判断はつかないけど、りんごのような果実も木に実ってるし、湧き水も見える。
一番の懸念である食事には、どうやら困らずにすみそうだ。
目の前に刺さっているのが聖剣か。
かなり大きい。
俺の目線の位置に、柄がある。
森の中でひっそりと一本、異色を放った剣。
木漏れ日を浴びて、その姿はとても神々しい。
これが俺に用意された聖剣か…
確かに見ているだけでものすごい圧力を感じる。
この剣を扱えるようになれば、この世界で最強を名乗ることも出来るんじゃないかと思う。
ただ持っているだけで、魔物は近寄ってこないだろう。
次に俺の体を確認してみる。
うん、ちゃんと目は見えるし、耳だって…
大丈夫だ、聞こえる。
一瞬あまりに森が静かだからもしかしてと思ったけど、そんなことはなかった。
ちゃんと機能してるね。
森林の香りがするし、嗅覚だって問題はなさそうだ。
むしろ以前よりもかなり敏感になってる気がする。
次は腕を見てみるか。
うん、大丈夫しっかり腕はついてる。
両腕あるね。
かなり毛深い、腕が。
ん?
毛深い?
赤ちゃんからやり直しだって、さっきの老人は言ってなかったか?
なんでいきなりこんな毛むくじゃらなんだ?
俺は背後を振り向いて確認してみる。
腕だけじゃない。
全身が毛で覆われていた。
頭から、尻尾まで。
ん?
尻尾?
ちょっと待て。
えーと。
これは…どういうことだろう。
もしかしなくても…あれだよな…
全身覆われた毛。
立派な両腕。とがった爪。
ふわふわの尻尾。
太い両足。やはり毛深い。
そして、細長い口。
牙。
「(って、狼じゃねえか!!!!!)」
魔物だよこれ!!
どちらかといえば勇者に討伐される側だよこれ!!
大声で突っ込みたい気分だったが、人間の声帯と違うのでグルルルと唸ることしか出来ない。
いや、おかしいでしょ。
なんでこうなった。
……もしかしたらこの世界には人間がいないのかもしれないな。
狼が種族の頂点で、そして俺はその勇者ということなのかもしれない。
俺はそう理解することにして、聖剣に近づいた。
これを持って行こう。
これさえあれば、例え狼だろうと人間だろうと関係なくこの世界で冒険が出来るはずだ。
ん?
ところでこの剣、どうやって持ち運べば良いんだ?
狼の体で?
……おいいいいい!!
持てねえよ!剣!
何が「この世界には人間がいないかもしれない」だよ!
よくよく考えたらこの剣って普通に人間が使う用だろうが!
明らかに狼が使うように出来てねえよ!
噛むの?噛めば良いの?
いや無理だわ。まず抜けないもん。
これ狼の体で抜けるように出来てないよね。
通りでやけに剣が大きいと思ったよ。
そりゃ俺の目線が狼だからな。
「あちゃー。間違って狼の魔物に魂移ってしもうたわい。まじめんご」
やっぱりかぁぁぁーー!!
「ふむ、まだ通信が繋がっておったようで良かったの。聖剣の近くにいるのと、おぬしが念話の持ち主だからじゃな。だがもう少ししたら恐らくもうワシとの通信は出来なくなるはずじゃ」
いやいやジジイ!
これどうすんの!ガチで!
何かと八方ふさがったんだけど!
「ま、まあ、なんだ、その…強く生きるんじゃ!」
丸投げー!!!
いやもう期待なんかしてなかったけどね!
ただ、これだけは言わせて。
ポンコツレベルカンストしてるよこいつ!
ポンカンだよ!
ポンコツ、ここに極まれり。
それから、もう自称神の声が聞こえてくることはなかった。
どうやらもう念話は届かないようだ。
「(強く…生きよう…)」
こうして俺の異世界生活第一歩目は、散々なスタートを迎えた。
★
もー無理。
やる気ない。
この世界救う気になれん。
俺は例によってふてくされていた。
まあ当然といえば当然だ。
だって生まれて初めてだよ。
ぶっ殺された挙句に、自ら用意した謝礼を台無しにされ、しかも人間辞めさせられたのは。
その上周りを巻き込んで、だ。
せめてクラスメイトは人間に転生していることを信じたい。
だが、もうやってしまったことは仕方がない。
いや仕方なくねーよ。
……仕方ないんだけどさ。
いつも便利に仕方ないって言葉を使ってきたけど、こんなに仕方ないって言葉を使いたくないと思ったのは初めてだよ。
もう、いくつもの初めてをあのジジイに奪われちゃったよ。
誰得でもねえよ。勘弁してほしい。
はぁ…
とりあえずこの森を散策してみるか。
どんな魔物がいて、それぞれがどれだけの強さがあるのか把握したいし。
俺は聖剣を背に、この森を散策する。
歩き始めて5分もしないうちに、薄い半透明の膜で出来た壁に突き当たった。
どうやらこの壁は、聖剣を中心としてぐるっと一周覆っているらしい。
どうやら通り抜けることが出来そうだ。
恐らく聖剣を守る結界とか、そういった類のものだと思う。
壁の外に出てみると、先ほどまでとうって変わって生物の声が森中に響き渡っていた。
ぎゃあぎゃあと叫ぶ魔物や、ジジジジと鳴く虫。鳥の声もいたるところから聞こえてくる。
そしてふと振り向くと、いつの間にか聖剣は無く、全然違った森の景色になっていた。
やはりあれは聖剣を守るための結界で正解だったようだ。
中と外がまるで別世界だ。
まあ戻り方分からねえんだけど。
一度外に出たらもう聖剣と出会えませんとか勘弁してくれよ?
なんて、流石にそんな理不尽なことがあるわけないか。
…と笑い飛ばせないのがこの世界の怖いところなんだよな。
あの老人の仕打ちを考えれば全然ありえないことじゃない。
まじめんごとか言いそうだもん。
それにしても…
これからどっちの方向に向かって歩いていけば良いんだろうな…。
まあ方向が分からない以上は、確率の問題になるな。
人の町の方向へ行く可能性が50%。
人の町と離れた方向へ行く可能性が50%。
いや、どっちの方向にも町があるかもしれないか。
というか左右二択じゃないしね。進むべき方向は360度ある。
だが、とりあえず何か目標を持って歩いたほうが良いだろうと思う。
例えばまず川を見つけて、そこから下っていくとか。
最初のスタートこそ方向は決まらないけど、何も目安もなくただ歩き回るのは厳しいだろう。
気付いたら元の場所に戻ってて、それに気付かないとか考えるだけでも恐ろしい。
幸いそう遠くない範囲内に食料となる獲物はたくさんいるからな。
俺の野生としての本能がそう訴えているから、間違いない。
今まで愛玩動物ですら美味しそうとしか思えない。
となると後は水だけだ。
しかしながら、この森の中でどうやって川を探せば良いのか…
まあそう遠くないところに川はあるだろうな。
テキトーに散策していれば、川ぐらい見つかるだろう。
俺の冒険はここから始まった?