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A章5話 俺たちの秘密

5600文字

こうして俺たちは無事にダンジョンの魔石をゲットし、地上へと戻ってきた。

数週間後にはすっかりダンジョンは跡形も無くなっている頃だろう。


「ぶわははは。泰史に唯!お前らは本当に面白いやつだな」

「っすよ!戦利品は全部二人にもらってほしいっす!」

「そうですわ。私たちで話し合いましたの。命を助けていただいた上、ダンジョンの攻略の瞬間に立ち合わせてくださったんですもの」

「・・・俺からも礼を言う。ありがとう」


倒した当初はすごく残念な顔をされたものだが、時間が経つにつれてじわじわと感謝の念が湧き上がってきたらしい。

ダンジョンの最深部まで到達するまでは彼らが主戦力として戦っていたわけだし、ボス戦で途中余計に迷惑をかけてしまったことは事実だ。

俺としてもダンジョンの報酬を全部いただくことなんか出来ない。


「そんな、悪いよ!ポンコツの泰史になんか何もあげなくていいんだから!」

「唯!流石にそれは俺でも傷つくぞ」


いや戦利品が欲しいわけじゃない。

ただもう少し、俺の扱いをあげてくれても良いと思うんだ。


結局、戦利品は半々で分け合うことになった。

俺たちは6人で平等で割っても良いと主張したので、向こうが半々でようやく納得してくれた形だ。

それならばせめて選ぶ権利をくれと、俺たちは魔石など自分たちに必要になりそうなものをチョイスして後は全部向こうに回した。


「泰史、それに唯。今日は俺のおごりだ!いくらでも飲み食いするがいい」

「おごりって言っても、収入のほうが圧倒的じゃないっすか!ジェリームーンの素材なんか自分の分け前だけで家が建つっすよ!」

「そうですわ、おごりなんて大前提ですわ。何か素敵なプレゼントをして報いたいところですわね」


フレイグさんたちはご機嫌な様子で俺を誘ってくれる。

ジェリームーンの驚異的な回復力は、回復薬の素材として使うとものすごい効果を発揮するらしい。

伝説の薬であるエリクサーに匹敵するほどで、人工エリクサーと呼ばれる薬の素材になる。

まがい物とはいえ、エリクサーの名を冠するほど。

効果の分だけ高価だ。


「いや、そこまでしてくれなくて良いよ。それにおごりはまた今度で良いかな」

「う、うん。私たちのことは気にしないで。それよりも色々迷惑かけちゃってごめんね」


もちろん俺もせっかくおごりと言ってくれているんだから、参加したい気持ちはある。

むしろ参加しないなんて言えば失礼に当たるし、浮かれた気分に水を差してしまうことになる。

それを分かった上で、俺たちはお断りをした。


冒険者である以上、秘密はつきものであろう。

危険と隣り合わせな職業である分、一つの情報が命取りになることがある。

盗賊のような者たちに自分たちの情報が売られたりでもしたら、と言えばこの世界における情報の価値が分かってもらえると思う。

望まなくとも、基本的に秘密主義でなければならない。

そうでない者は淘汰されるのみだ。


これだけの祝い事であっても、俺たちがやんわりと断るということは理由があるということ。

冒険者暦の長いベテランの彼らなら、俺たちの態度でその辺を察してくれるはず。


「いーや、ダメだ。絶対に連れて行く。お前らは今日の宴会に参加することが決定してんだ」

「そうっすよ!泰史さんと唯さんがいなかったらしょーがないっす!」

「ええ、私もアナタ方がいらっしゃらない宴会なんて意味がないと思いますの」


と、思ったが案外彼らは強引だ。

いや、彼らとて俺たちが何かワケアリなことを察してはいるのだろう。

それでもと強引に誘ってくれているのだ。


でも、ダメなんだ。

どんなに強引に頼まれようと、宴会に参加することは出来ない。


「ごめん。俺たちは町へは行けないんだ」

「本当にごめんなさい」


理由は、今俺が言ったとおり。

そう、俺たちは町へ行きたくないんじゃない。

行けないのだ。

宴会がしたくないわけでは、ないのだ。


「…ほう、何かワケアリのようだな」

「…話せ。俺たちが他に漏らすことはない」


フレイグさんが核心を突くと、ベルグさんがそれに追随する。

ジョルノーさんとティアーナさんは黙ったままだ。


「俺たちにとって、お前ら二人は命の恩人だ。例え盗賊であろうと、俺たちがお前らを裏切ることなんか無いさ」


フレイグさんは俺の目をじっと見つめ、そう言った。

その瞳は一切の陰りなく、彼の言うことは間違いなく真実だろう。


俺は唯と顔を見合わせた。

唯は俺の目を見て、ゆっくりとうなずく。


「分かった。話すから場所を変えよう。絶対に誰にも話さないと誓ってくれるか?」


フレイグさんがコクリと頷く。

俺はジョルノーさん、ティアーナさん、ベルグさんと一人一人目を合わせ、みんな無言で頷いたのを確認して、話し始める。



もし彼らが約束を守らなければ…最悪四人を殺すことになるかもしれない。

それほどまでに、重大な情報。


出来ることなら、彼らを殺したくはない。



俺は覚悟を決めて、重い口を開く。


「実は唯はな…魔王なんだ」



そう、それが俺たちの抱える秘密。

そして、俺たちが町に入ることが出来ない理由。



この世界であれば、全員が持っている身分証。

何か施設を利用するには必ず提示が必要になるし、町に入るにも身分証が必要になる。


どんな施設を利用するにも、必ず身分証の提示が必要になる。

そもそも町に入ることが出来ないし、こっそり町へ入ったとしても利用できる施設が何一つない。

まして町を巡回する兵士にでも見つかろうものなら、即アウトだ。


この世界は身分証がなければ絶対に町を利用できない。


冒険者の場合は冒険者カードがそれに当たるし、冒険者でない者は商人証明書だったり住民票だったりする。


だが、どれにしても必ず付きまとう問題がある。

それはその人の「証明」と呼ばれるものである。



この世界には証明の神石と呼ばれる宝具があり、これは何かしらの身分証を作ることが出来る場所には必ず設置してある宝具だ。



製作者不明。

原理不明。



分かっているのは使い方と、その高い信頼性だけだ。



使用者がこの宝具に触れると、この世界におけるその人の一般的な認識が表示される。


例えば、Aさんという冒険者がいたとして、Aさんのことを世界中みんなが冒険者だと思っていれば、Aさんが宝具を利用した時に「冒険者」と表示される。


原理が分からないので、なかなか曖昧なところも多いのだが、その信頼性はものすごく高く、間違った情報が表示されたという公式見解はただの一度もない。


非公式なところでなら、これは正しくない!なんて言う人もいるのだが、詳しく調べてみるとやっぱり宝具が正しいことが発覚する。



表示される内容も、人によってまちまちだ。

「冒険者」とだけ表示される人もいれば、「冒険者」「貴族」と表示される人もいる。

じゃあ貴族が冒険者になれば「冒険者」「貴族」と表示されるかといえばそういうわけでもなく「冒険者」だけだったり「貴族」だけだったり、はたまた「A国の貴族」だったり「公爵」もする。


同じ人であっても、時によって変わることも多々ある。

昨日まで冒険者だったのに、今日は貴族になった、など。



ただひとつ言えることは、そのどれも間違っていたことはただの一度もないということだ。


平民が国王に貴族の位を与えられた際に確認されたことがある。

なんと前日まで確かに平民だったのに、当日は貴族に変わっていたのだ。


表示が増えたり減ったり変わったりコロコロするが、科学の世界ではないので、その辺はきっちりしてないらしい。

信頼できる情報ならそれでいい。



そして問題は、まさしくそれだ。

唯が証明の神石に触れると「魔王」という文字が浮かび上がる。


この世界において、魔王というのは恐怖の象徴。


過去、人類の存続をかけた戦争が行われた。

その敵側の主導者が「魔王」であったことから、魔王大戦と呼ばれている。

歴史上、最大の戦争である。

魔王は最期、勇者に討伐されるまでその猛威を奮い続けた。


ゆえに、この世界における「魔王」は人類最大の敵。

証明の神石で「魔王」なんて文字が表示されようものなら、全世界全人類が敵に回る。


今でも魔王こそ存在しないものの、幹部たちは世代を超えて現存している。

魔王軍は種族もバラバラなので、それぞれの種が各々統治しているが、最低限の国々の方針や法は幹部会で決められる。らしい。

そしてやはり人族とは相容れない。

大規模な戦争こそ起こることはないが、いつ起きてもおかしくは無いという状態が魔王戦争以後何千年も続いている。



脅威として現存している以上、魔王なんて称号の者が現れようものなら、即討伐の対象だ。


初めて唯が証明の神石を使用した際に、実際とても大変なことになったのは記憶に新しい。

それ以来俺たちは町に入ることも出来ず、施設を利用することも出来ず、誰にも頼ることなくずっと二人で生活をしている。


俺たちが現状を打破するには、方法は一つしかない。


虚偽の身分証を作らせることだ。



ただし虚偽の身分証を作ったことが発覚した場合、厳罰を処される。

発覚したら即処刑だ。

待ったはない。

それほどまでに、身分証には慎重な扱いが求められている。



そうでもなければ、盗賊たちが自由に町を闊歩することになる。

せっかく証明の神石という最高のセキュリティがあるというのに、誰かが虚偽の身分証を発行でもしてしまった場合、身分証は何の意味もなくなってしまう。


実際のところは、盗賊たちも町を利用するために必死なので、身分証を発行する者本人はもちろん、その家族まで脅して虚偽の身分証を作らせたりということも多々ある。

だから毎年、虚偽の身分証を作って処刑されるという事が起こるのだ。


まあどんなに厳重なセキュリティでも穴があるというのは、現代日本も変わらないかもしれない。

泥棒対策として家の玄関の扉に、鍵に加えて、指紋認証、虹彩認証、さらにパスワード認証まで突破しなければ開かない玄関を作ったとする。


毎回それら全て認証しなければ開かない扉なんて不便そのものでしかないが、セキュリティは非常に高いと思われる。

どんな泥棒も、この家に侵入することが出来ないように思える。



だが実際のところ、扉を壊されてしまえばそれまでだ。

まして玄関の扉ではなくガラス窓なら簡単に壊れてしまうだろう。


どんなに厳重なセキュリティも、案外そんな基本的なところで無意味になったりする。

証明の神石も同じことが言えるだろう。



もちろん俺たちがその気になれば、虚偽の身分証を作らせることなど容易い。

だがトラブルになる可能性は非常に高いし、出来ることなら虚偽の身分証を作らせるようなことはしたくない。


その思いがあるから、俺たちは今までずっと町へは行かず、外で生活を続けている。



「なるほどなぁ」

「くぅ~。二人とも苦労されてるっすね!」

「そんな事情がおありでしたの…」


三者三様の反応が返ってきた。

ベルグさんは黙ったまま喋ろうとしない。



思った。

これ勢いで話しちゃだめなやつじゃん。


フレイグさんたちが唯が魔王だということを知っている、ということが周りに知れれば、彼らは処刑されるだろう。

そうなったら、俺たちが殺したにも等しい。


今でこそ同情してくれているが、これから先は分からない。

そもそも同情してくれて本当によかった。

場合によっては話を聞くなり、即俺たちは襲われていてもおかしくないのだ。

まあ彼らは俺たちの実力を知っているから、襲ってきたりはしないだろうけど。



とにかく、言わないに越したことは無かった。

後になって、事の重大性に気づくということは珍しいことではないが、完全にやっちまったな…。



そんなことを考えていたら、フレイグさんが不意に口を開いた。


「なあ、俺に良い考えがあるぞ」


フレイグさんはその顔をニヤリ、と歪ませる。


「良い考え…ですか?」


オウム返しをした。

良い考え…なんだ一体。

今までの話を本当に聞いていたのだろうか。

どちらにしても聞いてみる価値はありそうだ。

俺は勢い余って暴露してしまっただけだから、まさかこんな反応が返ってくるとは思わなかった。


「身分証を作れる。しかも、虚偽ではない。どうだ、お前たちも俺の話を聞く覚悟があるか?」

「よろしくお願いします」


即答だ。

俺たちは命よりも重い情報を彼らに提供した。


その覚悟に勝るものはない、とは言わないが、話を聞く程度のことなら覚悟の必要すら感じない。


「俺の知り合いに、学園の長をやっているやつがいる。そこで学生になって身分証を作ってもらえば良い。学生証は嘘ではないし、虚偽の身分証にはならないだろう?」

「学校!?」

「・・・」


唯が過剰反応してるが、事情が事情だけにそうそう即答は出来ない。

俺は少し逡巡する。


「……その学園長は、信頼できる方ですか?」

「ああ。昔俺が命を助けた。貸し一つのままだ。年に一度ぐらいの頻度で会う。こいつは俺が信頼できる、数少ない人間の一人だ」


「学生証を作ることは虚偽の身分証の作成に当たりませんか?」

「大丈夫だ。証明の神石で魔王と出たからといって、学生証に魔王と書かなければいけないという決まりはない。もしかしたらグレーかもしれないが、かなり地位のある人物だ。万が一有罪判決を受けても、処刑されるようなことにはならない」


俺はだんだんと悪くない話かな、と思い始める。

フレイグさんがそこまで言うのであれば、信頼してみても良いかもしれない。


いや、信頼してみよう。

どうせこのままじゃ何も変わらない。


それに唯がすっかりその気になって目をキラキラさせている。



断るのは…愚策だ。

そう、思った。



「フレイグさん、よろしくお願いします」


「よし!任せろ!じゃあ今から早速学園のある町まで向かうぞ!」

「ええ~っ!泰史さんたちには悪いっすけど、せめて出発は明日にしたいっすよ~」

「ちょっと、ジョルノー!彼らには泊まるところが無いのよ!一刻も早く向かうべきですわ!」

「……ティアーナが良いなら、俺はそれでいい」


「みなさん、ありがとうございます」

「フレイグさん、ありがとうっ!!」


俺と唯はパーティーの皆さんに深々と頭を下げた。



たった一つの出会いが運命を変える。

そんなことが、あっても良いのかもしれない。


そんなことを、ちょっぴり思った。

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