A章2話 ダンジョンにて!
第二話目をご覧いただき、ありがとうございます。
基本的に物語がひと段落つくまでは、章の切り替えは行わないスタイルで進めようと思っています。
3700文字
ダンジョン…
それは未知なる領域。
魔物が大量に発生する、とても危険な場所だ。
ただし、その危険と引き換えに得ることが出来るものもある。
例えばダンジョンの最奥部にある「魔石」はそのうちの一つだ。
魔石を使えば魔道具が作れる。
純度が低かろうと大きさが小さかろうと、それなりの価値があるのだ。
魔石はダンジョンの核となっていて、魔石を取り除けばダンジョンは消失する。
魔石を砕いて半分の大きさにすれば、ダンジョンは半分の規模になる。
昨日まであった道が今日はない。そんなこともたびたび発生する。
もちろんその逆もよくある話だ。
魔石は、魔力を吸収して大きくなっていく。
魔石が大きくなるにしたがって、ダンジョンもどんどん大きくなっていく。
放置していれば無制限に大きくなっていく、というわけではないが、ダンジョンが大きければ強い魔物が出てきやすくなるので、ダンジョンが大きくなりすぎる前に魔石を取り除くのが理想だ。
他にもダンジョンの魅力はたくさんある。
ダンジョンでしか入手できない道具や、あるいは装備なんかがあったりもする。
人々が夢を追い求めてダンジョンに潜るのには、そういう理由があるのだ。
「それにしても、このダンジョンは出来たばっかりのダンジョンだからなのか、やけに人が多いな…」
俺は今、ダンジョンに来ている。
最近発見されたばかりだという、新しいダンジョンだ。
今までに無かった場所に出来たものらしいので、最近出来たダンジョンということで間違いはないだろうと思う。
発見されたばかりのダンジョンは比較的難易度が高くないものが多く、それでいて特に採掘の制限などがあるわけでもない。
だからといって情報のほとんどないダンジョンに初級者が臨むわけがないので、中級者以上の冒険者が集まる。
まあもしかしたら中には初級者もいるのかもしれないが。
その行為がどれほど愚かであるかは、わざわざここで語るほどのことはないと思う。
「唯。いい加減、気を直してくれよ。悪かったって」
結局散々泣いた後、唯はむすーっとして機嫌を直そうとしない。
あれから俺が謝ろうと、ずーっとこうだ。
一体俺が何をしてしまったのか。
怒らせるようなことをした心当たりが全く無いけど、とりあえず謝っておく。
「ヤスフミのことなんか知らなーい」
この調子だ。
お話にならない。
ちなみにヤスフミとは俺の名前だ。
泰史と書いてヤスフミと読むが、ヤスシとよく間違われる。
ヤスフミだ。
「まったく。まあ良いけどさ。一応ダンジョン内だから注意は怠らないでくれよな」
「はいはーい」
まあこのダンジョンの難易度がまだ確定したわけじゃないが、大概大丈夫だろう。
そこまで魔物も強いわけではなさそうだし。
唯のご機嫌を直すのは諦めて、ダンジョンの探索に集中する。
ん?
あれは一体どうしたんだ?
俺の探知魔法に複数の人が反応した。
広間のようになっている場所の中央付近に、複数の人が集まっている。
このダンジョンには人が多いから、人がいることぐらいは珍しいことではない。
恐らくはパーティーを組んだ冒険者たちだろう。
だが探知した限りでは、圧倒的に魔物の数が多いのだ。
考えられる可能性は…
「まずい、唯!この先の広間で、人が大勢の魔物に囲まれてる!」
もし中級者クラスのパーティーだったら、魔物に囲まれたら対処しきれないかもしれない。
それに、もし対処出来るのであれば戦闘開始直後でなければ今頃魔物を倒しきっててもおかしくない。
しかしどう見ても倒す量よりも魔物が集まってくる量のほうが多い。
「助けなきゃ! 泰史、急ごう!」
俺は無言で頷くと、全力でダンジョンを突き進む。
そして見えてきた先には、負傷したパーティーが魔物たちに囲まれていた。
どう見ても彼らの手に負える状況ではなかった。
接近する俺たちに気付いたパーティーリーダーらしき男が叫ぶ。
「来るな! こいつはアンドロメダアント! 攻撃さえしなければ襲ってはこない! 俺たちのことは置いていけ! 俺たちならなんとかなる!」
アンドロメダアント…
その姿形は一匹一匹が人のヒザまで程度の大きさのアリだ。
大して強い魔物ではない。
むしろ単純な強さだけなら弱い部類にはいるぐらいだ。
単純な強さだけなら…
こいつらの厄介な習性は「復讐」と呼ばれている。
一匹でも仲間が殺されると、近場にいる群れが一斉に向かってきて復讐するのだ。
もしもこいつが自然生物であったなら、間違いなく淘汰されるだろう。
しかしこいつらは魔物である。
魔物には理不尽な生物も多いのだ。
戦闘を終わらせる方法は一つだけ。
どちらかが全滅するしかない。
つまり、一度俺たちが手を出そうものなら、ここにいる見える範囲のアンドロメダアント全てが敵に回るというわけだ。
そして生き残るには、全滅させるしかない。
限りなく厄介な魔物として有名な蟻だが、上級者向けのダンジョンにしかいないので、パーティーメンバーの一人が手を出してしまったのだろう。
となると、彼らは即席パーティーである可能性が高い。
そして怪我の具合を見るに、どうみても何とかなる量ではない。
この戦闘の終わりは、冒険者パーティーが全滅する方で間違いなさそうだ。
このままならば。
「唯、やれるか?」
俺は唯に確認する。
「うん、任せて」
唯は強く頷いた。
リーダーの男がしきりに何かを叫んでいるが、俺たちの耳には届かない。
聞く必要も、ない。
唯はゆっくりと詠唱を開始する。
「神聖なる太陽の光よ!燃え盛るその火炎で全ての敵を焼き尽くせ!」
唯が詠唱を終えると同時に、腕を前に突き出す。
瞬間、視界を覆い尽くすほどの途方もない、光。
それは赤く燃え盛る、まるで龍のように、蟻たちに向かって伸びていく。
唯の魔法によるものなので、唯の意思に守られた俺は熱くもなければまぶしくも無い。
わずか数秒で光は消えたが、そこに残っていたのは冒険者たちだけ。
数百匹はいたアントは、この数秒で全てが消え去っていた。
相変わらず、めちゃくちゃな威力と範囲だなぁ…
半分呆れつつも、冒険者たちの救出が優先と思い出し、急いで駆け寄る。
「大丈夫でしたか? どなたか重傷者はいらっしゃいませんか?」
だが冒険者たちの反応はない。
みんなぽかんとしてしまっている。
「な…」
「…な?」
「なんだあれはーーーー!!」
リーダーと思われし男が叫んだ。
まあ無理もないだろう。
「ああ、あれ?あれはプロミネンスって魔法だね!すごい強い!」
唯が元気よく答える。
あーあ。魔法名教えちゃった。
誤魔化しておけば良いものを。
「プロミネンスって、おい!! 炎帝の究極魔法じゃねえか!! 一体お前らは何者なんだ!?」
リーダーらしき男が叫ぶが、パーティーメンバーの一人がリーダーを止めた。
「リーダー! まず礼が先っしょ! 危うく全滅しかけるところを助けていただいたんだから!」
メンバーはそういってありがとう、と頭を下げた。
「あ、ああ。すまん。驚きすぎてすっかり頭から抜け落ちていた。危機を救ってくれてありがとう。 正直に言うと、もうここまでだと覚悟してたよ。君たちは命の恩人だ」
リーダーが深々と頭を下げる。
それに続いて、メンバーたちも全員頭を下げた。
「ああー。いいよいいよ。気にしないでだいじょぶ!それよりも皆さん怪我してますよね、ほら泰史!」
「はいはい」
唯に急かされ、俺は鞄から回復薬を取り出した。
同時に、メンバーに一人ずつ回復魔法をかけていく。
回復魔法は即効性がある。
回復薬だけでも怪我の治療には十分だが、治る速度は魔法に比べてゆっくりだ。
もちろん自然回復を待つのとは比べ物にならない速度だが。
その代わり回復魔法は相当魔力が高いわけでなければ、そんなに回復量は多くない。
特に俺の場合は小さい回復魔法を長時間行うので、高級な回復薬と大差ないかもしれない。
ダンジョン内だし念を入れて、魔法と薬、両方の重ねがけだ。
「か、回復魔法!? 本当に君たちは一体何者なんだ!」
リーダーの男が再び驚きの声をあげる。
この世界では怪我を治したいときは回復薬が基本だ。
理由は簡単で、回復魔法を使える者が限りなく少ないからだ。
薬もそれなりの価格はするので、回復薬もそれなりの怪我でないと使わない。
医者のようなものだ。
ダンジョンに潜るよりも、町で拠点を作って治療したほうが圧倒的に収入が良い。
回復薬は自然回復を助ける効果だから、自然に治るものでなければ治療できないが、回復魔法は魔法なので何でも治すことができる。
とはいえ、相当高位の魔法でもなければ腕を生やす、だとかそういうことは出来ない。
悪性の病気を治す…ガンだったり心筋梗塞(血栓)だったり、放置してそうそう治るようなものではない場合に回復魔法が大活躍する。
きっと糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病から治せるのだろう。
もちろんそれなりの高位魔法でないと治せないのだろうが。
まあそんな事情もあり、普通はダンジョン内で回復魔法に出会うことはない。
彼らが驚くのは無理もないといえる。
回復魔法の適正があって、本当に良かった。
「はは。回復魔法の適正があったんですよ。しょぼい効果の回復しか出来ませんけどね」
そういって俺は笑う。
実際効果はかなりしょぼいから胸を張れるほどではない。
「いや、助かる。君たちにはいくら礼を言っても言いたりんな。一度は失ったこの命だ。俺たちに出来ることなら、何でも言ってくれ!」
他のメンバーたちも首をそろえて頷いた。
だから俺は言ってやったさ。
「じゃあ行こう。みんなで一緒に!!」
この物語は、日本から迷い込んだ俺たちの、時に笑って時に泣く、波乱万丈な人生を描いた物語だ!