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第八話~先輩として~

「ええー!! これじゃ足りないの!?」

「は、はい。もう三百イリカ足りませんね」

「なんだ? 朝から元気な声が響いてるな」


 いつものようにハウスから出てきたアルヴィオとエルシー。すると、受付のほうからとても元気な少女の声が響き渡った。

 受付をしているワットもなにやら困ったような表情で対応しており、周りの冒険者達も自然と視線がそっちに向かっている。


「どうかしたんですか?」

「あぁ、アルヴィオ。それにエルシー。いや、実はね。この子が【オーファン】で冒険者になりたいと言って登録手続きをしていたんだけど」

「がくっし……」


 受付の台の上でがっくしと倒れる金髪の少女。

 学生風の格好をしており、まだ春だというのに真っ赤で長いマフラーを首に巻いている。頭の天辺にある毛は随分と太い……いや、どうやらゴムで纏めてあるだけのようだ。


「さっきの言葉から登録料が足りない、ということですか」

「そうなんだよ!! ここへ来るまで魔物といっぱい戦って、人助けもしてお金は十分あったんだけどさ!!」


 勢いよく起き上がり、鼻と鼻がくっつくほどまでアルヴィオに近づく少女。

 うつ伏せだったため、見えなかったが。

 目の色が違う。

 左が赤で、右が青色となっている。その二つの眼は、うるうると悲しみの涙で濡れていた。


「くっつきすぎです!」

「あー、ごめんごめん」

「それで、どうしてお金が足りないんですか? 魔物を倒してきたのなら……もしかして」


 少女をアルヴィオから引き剥がし、エルシーはどうして魔物を倒してきたのに金がないのか。察しがついてしまった。


「お財布。落としたんですね」

「そ、そうなんだよ! 探したんだけど、どこにもなくて。なんとかここまで来るまで魔物を倒してきて聞いていた登録料千二百イリカ貯めたんだけど……」


 千二百イリカ? 少女の説明を聞いておかしいと二人は首を傾げる。


「登録料って千五百イリカじゃなかったっけ?」

「うん。そうだったはずだけど……いや、確か」


 エルシーには何か思い当たり節があるようだ。

 その疑問に答えたのは、受付をしているワットだった。めがねの位置を直し、とある用紙を三人に見せる。


「彼女が……ティカさんが、言っている千二百イリカとは二年前までの料金なんです。増える冒険者に合わせて、ギルド側も色々と変えていきました。その内のひとつが登録料の値上げ」

「つまり、この子が記憶していたのは二年前の知識だったってことか」

「まさか、二年前の情報だったなんて……おじいちゃんのうそつきぃ!!」


 どうしたのものか、とワットは困り果てている。

 時間も時間なので、他の冒険者達がクエストの受注をするため受付をしなくてはならない。しかし、ティカはそこから動こうとしなかった。

 どうしても、冒険者になりたいようだ。それを見ていたエルシーは、財布を取り出し三百イリカをワットの目の前に置く。


「これで足りますよね?」

「はい、足りますが……」


 ちらっと涙目のティカを見るワット。

 エルシーの行動に彼女は、ふるふると震えながら呟いた。


「い、いいの?」

「冒険者は助け合いが大事です。それに、これ以上ここに居座り続けていても何も始まりませんよ。新人さん」

「さすが、我が妹。さっそく先輩の風格を見せ付けたな」


 エルシーの行動を褒め、ぐっと親指を立てるアルヴィオ。それほどでもと笑顔で答え、へたり込んでいるティカの手を握り締め立ち上がらせる。


「この三百イリカは、先輩からの餞別です。これで、ティカさんも冒険者。平和のために一緒にクエストを頑張りましょう」

「……あ」


 徐々に湧き上がる感情。

 それが一気に爆発し、目を輝かせエルシーに飛びついた。


「ありがとうー!!! 本当にありがとうー!!!」

「いや、喜ぶのはいいけど。早く受付から離れないと……」

「そ、そうですよ。それに私達もクエストを受注しなくちゃなりませんから」

「あ、あの。これあなたの端末に」

「とう!!」

「わっ!?」


 二人の言葉にハッと我に返り、飛び退く。

 そして、ワットから端末を受け取り、冒険者達にどうぞどうぞと道を開けた。先ほどの出来事が忘れられないのか、ワットは苦笑いで業務をしている。


「えへへ。これで、私も冒険者だぁ!」


 いえーい!! と子供のようにはしゃいでいるティカを見てアルヴィオとエルシーは苦笑い。


「それじゃ、私達はクエストに行くので。頑張ってくださいね、ティカさん」


 と、ワットのところが丁度空いたのでクエストを受注しようと端末を取り出す二人。だが、ティカは待って!! と大声で呼び止め自分の端末を二人と一緒に出した。


「まさか、俺達と一緒にクエストへ行こうとしているのか?」

「もちろん!! 恩返しがしたいから!! 戦いに関しては結構自信があるから任せてよ!!」


 自慢げにドヤ顔をするティカであったが、アルヴィオ、エルシー、ワットの三人は眉を顰めた。その意味がわかっていないようで、ティカは首を傾げる。


「私達が今から行くクエストは、Bランク冒険者じゃないと受けられないクエストなんですよ」

「え?」

「つまり、さっき冒険者になりたてのあなたでは受けれない、ということです。Dランク冒険者は、規約としてDからCのクエストしか受けられません。先ほど登録する時に、ご説明したはずなんですが……」


 ぽりぽりと苦笑いしながらティカを見詰めるワット。

 その事実を知ったティカは、数回瞬きをした後、すっと端末を一度下げ、もう一度端末を置いた。


「じゃあ、二人が私のクエストについてくるってことで!!」

「なんでそうなるんですか……」

「それじゃ、恩返しじゃなくて。俺達がティカのランク上げの手伝いをすることになるんだけど」


 また指摘されたティカは、それじゃあ! それじゃあ……と考え込んでしまう。どうやら、どうしても二人と一緒にクエストに行きたい様子。

 それを見たアルヴィオは、エルシーの肩に手を置き小さく笑う。


「仕方ありません。私達がティカさんのクエストに同行します」

「い、いいの!? あ、でも……やっぱりそれじゃ二人の予定が」

「いえ。別に構いませんよ。それに、新人の成長を手伝うのも先輩の役目ですから」


 さすがエルシーちゃんだ! もう立派な先輩冒険者だな! とエルシーの言葉に近くで聞いていた冒険者達は絶賛である。


「うわああん!! 君って本当に優しいんだねえぇっ!!!」

「わわっ!? で、ですから抱きつくのは止めてください……」


 今度は、倒れることなく受け止められたが。こうもすぐ飛びつかれては、恥ずかしくてしょうがないとエルシーは眉を顰める。

 しかし、その一方で一部ではおお!! と歓喜している声が上がっていた。

 アルヴィオもアルヴィオで、とてもほっこりとした表情で見詰めている。

 こっちは、ただただ恥ずかしいのにどうして……と思いながらティカを引き剥がし咳払いをする。


「では、さっそくクエストに向かいましょう。まず初心者におすすめなクエストは『グリーンスライムの討伐』ですね。ワットさん、これを私達三人で受けます」

「わかりました。Dランククエストグリーンスライムの討伐を三人で挑戦ですね。達成条件は、グリーンスライムを三体討伐することです。よろしいですか?」

「もちろん!! それってあの緑色でぷるぷるしている魔物でしょ? それだったら、簡単だよ!!」


 そして、三人はクエストを受注しギルドを後にする。グリーンスライムの討伐は、必ずしも初心者達が通るクエストのひとつ。

 スライムという種族は、魔物の中でも戦いやすく、これでまずは勢いをつけるのだ。何事も、積み重ねが重要。

 いきなり大きなところから攻めて一気にランク上げまで突き進むのもいいかもしれないが、冒険とは何があるかわからない。だからこそ、安全なところから攻めていくのだ。


「あ、そうだ! まだちゃんと自己紹介していなかったよね。私はティカ・ミルソン! モーダンの村から来たんだ!」

「私は、エルシー・マーカスです。そして、こっちが兄の」

「アルヴィオだ。モーダンって確か結構森の中にある村だったよな?」


 モーダンとは、ここからずっと東側にある深き森の中にある不思議な森だ。そこに住んでいる者達は、自然と共に生き、精霊達と会話をすることができると言われている。


「そうそう! だからさ、こういう大都市は初めてなんだ! 服装だって、ちゃんとそれっぽくしたんだけど。へ、変じゃないよね?」


 自分のファッションに若干の不安があるようで、周りを見渡しながらアルヴィオ達に問いかけてくる。


「どこもおかしくはありませんよ。それに、オーファンは確かに大都市ですが。冒険者達は、ほとんどが遠くから来ている人達です。私達も、自然豊かな村から来ましたからね」

「そ、そうだったんだ! ……いやぁ、それにしてもほっとしたよ」

「どういうことだ?」

「おじいちゃんから、冒険者は荒くれ者ばかりだからなめられないようにしろ!! って言っていたから。エルシー達みたいに優しい人達もいるんだって」


 それを聞いて、二人はちゃんとティカに色々と教えなくては、と思うのだった。

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