第五話~二人の共通点~
「はい。クエスト達成の報告承りました。お疲れ様です、エルシー」
「いえ。今回のクエストは、それほどのものではなかったので。それでは、失礼します」
とある日の夕方前。
エルシーは、いつものようにクエスト達成の報告をして報酬を受け取っていた。報酬は、二つの方法がある。ひとつは、現金払い。
もうひとつは、冒険者専用の銀行に振り込むというものだ。エルシーは現金で直接受け取り、足りなくなった食材を今から買いに行こうとしていた。
「ちょっといい? エルシー」
「あ、ルチルさん」
そんな時、テーブルに座っていたルチルに呼び止められる。すでに、夕食を注文しているらしくテーブルにはおいしそうに焼きあがっている分厚い肉と色鮮やかなの野菜のサラダにスープ、デザートのパフェ。
一人で食べるのは多い量だが、ルチルは見た目以上によく食べることは知っている。
むしろ、少ないほうだとエルシーは思った。
「ちょっと付き合いなさいよ。あんたに話があるの」
「……はい、わかりました」
時間を確認して、まだ大丈夫だと思ったエルシーは素直に先輩であるルチルに付き合うことにした。目の前の席に座り込み、真っ直ぐ目を合わせる。
「それで、お話というのは?」
「最近、あんた達ますます有名になっているの。知ってる?」
「はい、知っています」
別に気にしていない、という風に肯定するエルシーにルチルははあっとため息を漏らす。フォークとナイフを器用に使い、分厚いステーキを一口サイズに切り分け野菜と一緒に口の中へと入れる。
ゆっくり噛み締め、胃の中に入れたところでフォークとナイフを置いた。
「あんたは、期待の新人として有名。でも、そこへ実力とランクが合っていないで有名なアルヴィオのせいで更に注目を浴びて……お次は、あのミザリィと最近はよくパーティーを組んでいるらしいじゃない」
びしっと人差し指を突きつけ、ジト目でエルシーを見詰める。
が、エルシーはそれがなにか? と首を傾げた。
そんなエルシーを見て、本当にこの子は……と呆れながら、ルチルは言葉を続ける。
「最初は私も、ミザリィさんと関わるのはあまりよくないと思っていました。ですが、兄が彼女に何かを感じているようなんです。それに」
「それに?」
「なんだか、親しみやすい方だと最近は思ってきているんです。兄さんとも、なんだか意気投合しているみたいで」
エルシーにとっては、周りからの評価など気にしていない。今、自分自身がミザリィと行動を共にして感じたものを頼りにしている。
彼女は確かに、問題がある冒険者。
だけど、とても親しみやすく、優しい心の持ち主だということはこれまで行動を共にしてわかった。例え、運動音痴で体力がなく、すぐお荷物になったとしても。
それでも、彼女と一緒に冒険をしているとなんだか、楽しいと思っている自分が今いるのだ。ただ、未だにどうしてアルヴィオがミザリィとあれだけ関わろうと思ったのかが、わかっていない。
それだけが、エルシーにとって気がかりなところだ。
妹である自分にも、まだ話してくれないこと……それは、まさか。
「ちょっと、エルシー? どうしたのよ、思い悩んだ顔をして。やっぱり、ミザリィと関わるのは大変なんじゃないの?」
「あっ、いえ。そんなことはないですよ」
「……本当、あんたも変わっているわよね。オーファンでも、問題のある二人と一緒にパーティーを組み続けているなんて。もしかして、ハウスに入れたりしているの? もう」
ハウスに入れる。
それは、つまりこれからもずっとパーティーを組んで一緒に冒険していこうと誓ったということ。しかし、まだその段階まではいっていない。
まだ一時的にパーティーを組んでクエストをやっているだけの関係だ。
「いえ、そこまでは。ですが、彼女の魔法はとても役に立っています。あれで、もう少し体力があればなんですが。あっ、すみません。そろそろ食材を買いに行かないと」
「はいはい。今日も、大好きなお兄ちゃんに夕飯を作ってあげるのね。頑張りなさい」
「はい。頑張ります」
そう言って、エルシーは一礼ギルドを後にした。
・・・★・・・
「ふわぁ……今日はちょっと集中し過ぎたな」
古本屋から出てきたアルヴィオは、大きな欠伸をしてからハウスへと戻るべく歩き始める。アルヴィオは、毎日のように本を読んでいる。
昔はそこまで本を読むことは無かったが、今はとある事情があり情報を集めるため古本屋などによく通い読書にふけっているのだ。
「今日も、情報はなしか。旅商人が来るのをまって、また本を購入してみるかなぁ。それとも」
考え事をしながら歩いていると、道の角をすごい勢いで曲がってくる少女とぶつかりそうになってしまう。アルヴィオは、避けようとしたが体が追いつかず。
そもそも、少女の勢いはすご過ぎて避ける暇も無かった。
「いててて……」
「ご、ごめんなさい! 急いでいたから……あっ」
尻餅をついたアルヴィオの上に乗っている銀髪の少女は声を漏らす。
だが、すぐ何事もなかったかのように立ち上がりアルヴィオに深く頭を下げてその場から立ち去ろうとする。
しかし。
「待った」
アルヴィオに手を握り締められ、止められた。
「……な、なにか?」
緊張した表情の少女は、振り返ることなく問いかける。
アルヴィオは、くるっと少女の目の前に回りこみ顔をじっくりと見詰めた。
「お前、ミザリィだろ?」
「な、なんのことでしょうか? 私の名前は、み……ミーシャです」
そう言って誤魔化そうとするが、アルヴィオはぴんっと頭に生えている獣耳をちょっといやらしい手つきで触っていく。
「ひゃうっ!?」
「嘘は通じないぞ。だって……お前からは【封印の魔女】の力を感じるからな」
その言葉を聞いた瞬間、少女はアルヴィオの顔を見上げた。
見た目から考えるに、エルシーと同じぐらいだろうか?
「……やっぱり、あなたもそう、だったんですね。アルヴィオさん」
「お前も気づいていたんだな。まあ、ちょっとその辺に座って話し合うぜ。時間はあまり取らせないから」
「わかりました……」
そして、近くの木箱に腰掛けまずアルヴィオから切り出した。
「それにしても、驚いたな。それがお前の本当の姿なのか?」
「はい。名前は先ほども言いましたが、ミーシャと言います」
ということは、ミザリィは偽名なのか。
冒険者登録をする場合は、偽名は通用しない。登録する時に、本人の体内にあるマナをスキャンすることで書き込んだ情報が嘘かどうかを判別する。
しかし、ミーシャはそれを可能にした。それはどうやってだ?
「どうやって、偽装工作をしたか、ですよね? 実は、あの姿になっているとマナの構造も変わるらしいんです。だから、あの姿の時はミザリィになるんですよ」
「それも封印の魔女の力ってわけ……」
みたいですね、と一緒に夕焼けを見上げた。
「ところで、アルヴィオさんは。どうして封印の魔女に? 私は……その」
若干言い難そうにしているのを見て、アルヴィオは俺が言うよと制す。
「そうだな。俺は……」
懐かしむように、アルヴィオは話し出す。
なぜ自分が今こうなっているのか。
そして、封印の魔女という存在にどうやって出会ったのかを。