第四話~ひとつのものを極める~
「それでね。私は言ってやったのよ。疲れたから背負って!! って。そしたら、なんて言ったと思う? アルヴィオくん」
「自分で歩け! とか?」
「正解。もう、助けを求めている女性を見捨てるなんて最低だと思うわない? 結局風属性魔法を使って浮いて帰ったわよ、その時は」
魔法に人生をかける魔法使いミザリィと出会ったアルヴィオ達は、なぜか一緒にクエストをやることになった。
アルヴィオが聞き上手なのか。ミザリィはずっとアルヴィオに対して、愚痴のようにこれまでパーティーを組んだ者達との出来事を話し続けている。
オーファンでも、別の意味で有名な二人が一緒にクエストをやる。
ギルドに入った時は、もう大騒ぎだった。
実力が見合っていないBランク冒険者アルヴィオ。そして、魔法の実力は確かだが、それ以外がだめだめなお荷物冒険者ミザリィ。
その二人と一緒にクエストをやることになったエルシーに対して、冒険者達は止めた方がいいんじゃないか? と優しさで言ってきたのだが。
大丈夫です、問題ありませんと軽く流されてしまった。
今回のクエストは『ウィードウルフ』の討伐。やはり、最近は何かとウィードウルフの出現が多いらしく、自然が破壊されないように、依頼が多く申請されているらしい。
中には、畑を荒らされ、育てていた野菜が全滅したという報告もある。
「その話が本当なら、今は大丈夫なんですか? ミザリィさん」
ウィードウルフ達がいる場所までは、徒歩だ。
軽く五分ほど歩いているが、自ら体力は子供以下だと言うほどだ。そろそろ限界に来ているんじゃないかとエルシーは心配になっている。
「大丈夫よ。今は、風属性魔法でちょっと足元を浮かせて移動しているから。体力は全然使わないの」
「えっと、こういうのは失礼かと思いますが。ずっとその方法で移動すればいいのではないでしょうか?」
その通りだ。
魔法で移動できるのならば、それを使えば問題になっている体力のほうは解消できるはずだ。しかし、ミザリィは首を横に振る。
「私、こういう細かい魔法は得意じゃないのよ」
「え? でも、魔法を中級まで極めたって」
「ええ。言ったわ。でも極めたのは……攻撃魔法だけよ!!」
「おお、なるほど!」
「と、ということは。支援系の魔法は一切?」
「ええ。覚えていないわ。私は、攻撃魔法しか使えないの。だから、この風属性魔法の移動も、五分ぐらいしか持たないわ」
そんな説明をしていると、時間切れになったとようで、足元の風が消えてしまった。アルヴィオもエルシーも理解した。
この人は、普通の魔法使いとは違う思考を持っているということを。ほとんどの魔法使いは、攻撃魔法以外にも支援系の魔法も覚える。
回復魔法などは、治癒者しか覚えられないが。
支援系魔法は色々と種類がある。例えば、身体能力を上げる魔法や。武器や防具などを強化したり、属性を付与したり。
大体の魔法使いはそれらを覚えており、攻撃魔法と使い分けてパーティーの要となる。しかし、ミザリィは攻撃系の魔法しか覚えていない。
「でも、いいのよ。理解されなくてもいい。だって、これこそが! 攻撃魔法全てを覚え、最強の攻撃系魔法使いになることこそが! 私の夢なのだから!!」
杖を天高く掲げ、かっこよく決め台詞を叫ぶ。
エルシーはそんな夢を笑わなかった。
夢があるというのは素晴らしいことだ。確かに、攻撃系の魔法だけでも極めるのはすごいこと。もし、それが達成したのなら、周りの評価も少しは変わってくるかもしれない。
本当を言えば、程よい運動をして体力をそこそこつけて欲しいところなのだが。
「うんうん。夢があるっていいな」
「アルヴィオくん。あなたには夢はないのかしら? あなたのことは聞いているわ。実力がランクと見合わない冒険者って。でも、実際のところはどうなのかしら」
「ん?」
真剣なミザリィの問いかけに、アルヴィオは首を傾げる。
それを傍らから見ているエルシーは、まさか気づいている? と自然と緊張感が包み込む。
「だって、本当ならあれだけ言われて平気なはずがないでしょ? 多少なりとも、精神的にダメージを負っているはず。でも、あなたからはそんな感じは一切しない。それは……実力があるから、なんじゃないかしら?」
「あの、ミザリィさん」
と、エルシーは止まる。アルヴィオの本当の実力を公言したほうがいいのか? と。確かに、アルヴィオは本気を出せば強い。
ランクだって確実にSまでの実力はあるだろう。しかし、一日経った三分だけ。力を使い果たせば、身動きが取れないほどの疲れが襲う。
でも、本当の実力を知れば、周りの評価は違ってくるはずだ。今までのように、馬鹿にされることは……なくなる。
「あはははは。そう言ってもらえるのは嬉しいけど。今の俺は、弱いぜ。いや、本当に」
「……ふふ。なるほどね、今の、ね」
その言い方だと、今の状態は弱いだけで。本当は強いと言っているようなもの。最初に怪しんでいたルチルに対してもそんな言い方をしなかったのに、どうしてミザリィには?
飲食店の時も、そうだったが。
彼女には、エルシーには感じられない何かがあるのだろうか?
「そういうことなら、いいわ。でも、どうして私に?」
「さあね。あんたのことが気になっているから、てことじゃだめか?」
「に、兄さん!?」
「あら? それって、どっちの意味の言葉なのかしら」
「どっちだろうなぁ。お? どうやら、討伐対象がやってきたようだぞ」
がさがさっと、茂みが大きく揺れ、勢いよく飛び出してきたのは今回の討伐対象ウィードウルフ。それも丁度四匹だった。
ここで一気に倒せば、クエストは達成できる。
「もう、良いところだったのに。話の続きが気になることだし、お邪魔虫さん達には早々にご退場願おうかしら!」
刹那。
ミザリィの体内に流れる魔力が湧き上がる。
近くで感じると、噂以上だ。
確かに、普通の魔法使いとは違いかなりの魔力を保持している。
「嘶け、鋭き雷火の槍!!」
足元から魔法陣が展開。
呪文の詠唱の呼応し、ミザリィの周りには炎を纏った雷の槍が四本展開する。これは、魔法使いにとって高等技術。
魔法同士を融合させ、オリジナルの魔法を生み出すという【混合魔法】だ。
「《フレアライトニング》!!」
一斉発射された魔法は的確に魔物達を仕留めた。今放った魔法は、初級魔法の混合だったようだ。火属性の《フレア》と雷属性の《ライトニング》が合わさったオリジナルの魔法。
威力は、中級魔法に匹敵するだろう。
「はい、おしまい。ウィードウルフ程度ならどうってことはないわね」
「さすが、攻撃魔法を全て極めると豪言するだけはありますね。正直、感服しました」
「そうでしょう? さ、クエストを達成したところで……」
へたりと、その場に座り込むミザリィ。
そして、アルヴィオに対して両手を広げてみせる。
「アルヴィオくぅん。ギルドまで背負っていって~」
まだ体力はあまっているはずだが。
歩きたくないだけのようだ。
仕方ないなぁっとアルヴィオはミザリィを背負おうとするが、エルシーがそれを阻止する。
「あら? エルシーちゃんが背負ってくれるの?」
「はい。大丈夫ですよ。これでも、兄さんは背負っていますから」
「あははは。エルシーは見た目のわりに力持ちだからなぁ。よし、それじゃあ俺が変わりの周りの警戒をしてやろう!」
くすっと笑いミザリィはエルシーの背にもたれかかる。
そして、立ち上がろうとした刹那。
耳元でミザリィは呟く。
「ふふ。お兄さんが取られそうって思ったのかしら?」
「……そ、そんなんじゃありません。さあ、行きますよ!!」
「お願いねぇ」