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第三話~魔法好きの魔法使い~

「ふわぁ……今日も無事クエストをクリアできたな。妹よ」

「うん。相手は、集団行動が得意だったらしいけど、一匹一匹はたいしたことはなかったからね」


 今日も、兄妹仲良くクエストをやり遂げたアルヴィオ、エルシー。

 その帰り、この後は昼食を食べることになっている。

 いつもなら、エルシーがハウスで手作りをしてくれるのだが。今日は、アルヴィオの提案で外食をすることになった。


 たまには、エルシーも何もせずただ昼食を楽しむのも必要だろ、との配慮だ。

 エルシーは反対することなく、素直にその提案に頷いた。

 すでに食べに行く店も決まっている。


「はあ、またあの子なのね……」

「魔法はマジで強いんだけど。それ以外がだめなんだよなぁ、あいつ」

「今日もかなりギリギリだったぜ……もうあいつを誘うのはやめにしようぜ?」


 店に向かっていた途中のことだ。

 男二人、女一人のパーティーが通り掛る。なにやら、どっと疲れた様子だ。それほど難易度の高いクエストを受注したのだろうか。


「お疲れの様子ですね。今日はそれほど難しいクエストはなかったと思いますが」


 と、気になったエルシーはそのパーティーに話しかけた。

 期待の新人として有名なエルシーに声をかけられ、男女パーティーの槍使いの男は若干嬉しそうに表情で答える。


「あぁ、確かに今やってきたクエストは『ウィードウルフ』の討伐だったから大したことはなかったんだ」


 ウィードウルフとは、草食系の珍しい狼型の魔物だ。

 ただの草食ならば問題はないが。

 彼らの食欲は底知れない。しかも集団で、行動しているので下手をすれば森がなくなってしまうこともあると言われている。

 アルヴィオとエルシーも先ほど別区域のウィードウルフを討伐したばかりだ。なので、その強さは知っている。

 彼らの装備を見る限り、それほど苦戦するとは思えない。


「今回一緒にクエストをやったとある魔法使いに問題があったんだよ……」


 槍使いに続き、剣士の青年がため息混じりに呟く。


「魔法使い、ですか?」

「ああ。君も聞いたことがあるだろ? この名前ぐらい。ミザリィって名前を」

「あぁ、ミザリィさんですか……確かに、彼女は何かと有名ですからね」


 ミザリィという名前はアルヴィオも聞いたことがあるし、実際見たことがある。今から半年前、オーファンの冒険者になったばかりの魔法使い。

 ステータススキャンの時に、操る属性魔法の数や魔力、魔法攻撃力などの数値がとんでもないとギルド中が騒ぎになった。

 更に、かなりの美人でお色気むんむん。男達は挙って彼女をパーティーへと誘っていった。

 しかし、一週間ぐらいしたところでなぜかあの騒ぎが嘘のように皆ミザリィから避けるようになってしまったのだ。

 その原因は、なんなのかはアルヴィオは知っていない。


「今回は、魔法使いの子が風邪でいないから。誰か手の空いている魔法使いはいないかなぁって探したらところ」

「ミザリィさんしかいなかった、と言う事ですね」


 ええ、その通りよと弓使いの女性が静かに頷く。


「それで、肝心のミザリィさんはどこに?」


 そういえばそうだ。どこにも彼女の姿が見えない。


「ああ、彼女なら」





・・・★・・・





「いらっしゃいませ、お客様。申し訳ないのですが、現在満席でして」

「……あ、いや。待ち合わせをしていたんです。あそこの人と」


 そう言って、アルヴィオはぐったりと椅子にもたれかかっている女性がいるテーブルを指差した。


「あ、そうだったんですか。では、あちらのテーブルにお座りになってお待ちください。今、お水をお持ちいたしますので」


 店員が去っていき、アルヴィオ達は女性の座っている席の向かいに腰を下ろした。突然、人がやってきたことに驚き、女性はゆっくりと身を起こす。

 白銀の長い髪の毛、赤い瞳。

 ぴこんっと頭から生えている獣の耳。そして、胸元を大きく開いたお色気たっぷりの服装。彼女が、噂になっている魔法使いミザリィだ。


「あ、あら? あなた達は……」

「こうして直接お話するのは初めてですね。私の名前はエルシー・マーカスと言います。そしてこっちが兄の」

「アルヴィオだ。いや、ごめんな。空いている席がなかったものだからさ。やっぱり、昼食時は混んでいるなぁ、あははは」

「……ミザリィよ。よろしくね、私以上の有名人さん達」


 軽い自己紹介も済んで、料理を注文したところでミザリィが切り出す。


「それにしても、よく私と相席しようと思ったわね。私の噂、聞いているでしょ?」


 先に注文していた紅茶を嗜みながら、ミザリィは呟く。


「いや、俺が聞いたのはミザリィさんがすごい魔法使いだってことだけだけど」

「……なら仕方ないわね。でもまあ、周りの言っていることなんて私は気にしていないわ。いや、本当マジで」

「私も、あなたのことはすごい魔法使いというころだけしか知らないのですが。どうして、皆さんはあなたのことを毛嫌いしているのですか? 最初はあんなに人気だったのに」


 かちゃっとカップを置き、ミザリィは小さく笑いエルシーの問いかけに答えていく。


「そうねぇ。確かに、皆は私の魔法を頼りにしてくれたし。すごいとも褒めてくれたわ。でも」

「でも?」

「それ以外が、だめだめなのよ。私って」

「それ以外ってことは……運動音痴とか?」


 アルヴィオの答えに、正解と笑う。

 そこからは、落ち着いた雰囲気から一変し熱い語りが始まる。


「私はね。獣人の中でも、魔法に長けている【白狐族】なの。他の獣人達は、さほど魔力を持っていないから大体は肉体強化とか牽制の魔法を使うぐらいかしらね。そう! 私達は魔法を使うために生まれてきた種族なのよ! その中でも、私は全属性を扱えて、魔力の数値だって種族の中でナンバーワンだったわ!!」


 白狐族とは、ミザリィも説明したように魔力が少ない獣人の中でも珍しく魔族と同じぐらい、いやそれ以上持っていると言われている種族。

 獣人の獣的な身体能力と魔法が合わさり、敵はいないだろうとも言われている。しかし、そんな白狐族のミザリィが運動音痴……二人は彼女の語りを邪魔することなく耳を傾け続けた。


「小さい頃から、何十何百もの魔導書を読んで、血の滲むような努力をしたわ。元々才能があっただけに、子供とは思えないほどの成長を遂げついに……中級魔法までは極めたわ」

「おお。それはすごい。全属性をってことだよな?」

「そうよ」


 ふふんっとドヤ顔を決めるのもわかる。魔法の属性というのは、誰もが全て扱えるわけじゃない。相性というものがあり、努力すれば全属性を扱えるとは限らないのだ。

 更に、相性がいいと言っても魔法を極めるのも簡単ではない。それを、全属性の中級まで極めたというのは本当にすごいこと。


「……まあ、そんな私だけど。魔法だけに力を入れ過ぎたせいで」

「運動音痴になってしまった、と」

「ええ。自慢じゃないけど、持久力は子供以下よ」

「さすがに、子供以下は……」


 さすがのエルシーも、なんと言えばいいのかわからないという反応だった。だんだん見えてきた。どうして、あれだけ騒がれた魔法使いが今、避けられているのか。

 強力な魔法を使えるのはいいが、運動音痴に加え体力の無さが皆の足を引っ張っている。いくら、魔法が強くとも冒険者は、体力が重要となってくる。

 なにせ、冒険をしなくちゃ冒険者とは言えないからだ。それがミザリィには欠けている。


「まあ、気にすることは無いわ。私は魔法使い! 魔法を極めるため、人生を捧げると決めたのよ!」

「で、ですが。さすがにある程度の体力はつけたほうが……」

「いやよ。だって、疲れるじゃない」

「……そ、そうですか」


 これはかなりの重症だ。

 昔から魔法のことばかり考え、魔法だけのために生きようと思ったがゆえに運動嫌いになってしまっている。

 エルシーは少しでも体力をつければ、変わるんじゃないか? と思ったようだが。


「お待たせしました。ご注文のバランスランチセット二つです」

「あ、どうも」


 話の途中で、二人が頼んだバランスランチセットが届いた。肉から野菜などバランスを考えられた料理が揃っていて、健康などに気をつけている人達には人気のメニューだ。


「これだけ話したのはいつぶりだったかしら。ねえ、もっと話を聞いてくれる? それまで、私は待っているわ」

「いや、私達は」


 と、エルシーが断ろうとしたのだが。


「別にいいぞ」

「あら、ありがとう。優しいのね、アルヴィオくん」

「兄さん? いったい」

「まあまあ。それよりも、冷めないうちに食べようぜ。もう腹ペコだ」


 いったいどうして、彼女との関わりを続けようと思ったのか。その真意がわからないまま、エルシーは野菜に噛り付いた。

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