第二話~髪留めを探せ~
約一年と三ヶ月ぶりの更新!
「あー、なんだか平和だなぁ」
アルヴィオは今日も、だらしない表情で【オーファン】を歩いていた。クエストは、午後から。午前は特にやることがなく、ハウスでだらだらしていたのだが、ルチルに寝ているぐらいなら太陽の日差しを浴びなさいと追い出されてしまった。
ついでに、どこかへと消えたティカを連れて帰ってくれと。
「見つからないなー、どこに行ったんだろ? ティカ」
ティカは気まぐれに、どこかへと出かけることが多い。その大抵は、人助けだ。街を駆け回っては困っている人を見つけて、人助け。
その後に、クエストをするのだからいったいどれだけの体力があるのか。
人に聞けば、さっき助けてもらって、あっちに行った。
また人に聞けば、さっき助けてもらって、あっちに行ったの繰り返し。
まるで、自分から逃げているかのように遠ざかっていく。
「……ん?」
もしかしたら、もうギルドに戻っているかもしれないと回れ右をしたところで、木箱の後ろから人の足が出ているのを発見した。
なんだか見覚えのある足だなと、近づくと……案の定ティカだった。
しかも、髪留めがない。
「おい、ティカ。髪留めどうしたんだ? まあ精霊にいたずらで取られたのか?」
そうだとしたら、近くにあるかもしれないと見渡すが、どこにもない。
「うぅ……ごめんなさいごめんなさい、私なんかが人助けをしてごめんなさい。でも、お礼を言ってくれてありがとうございます、ごめんなさい!」
相変わらず、髪留めが外れたティカは、よくわからない。
このままだと、午後のクエストにも支障が出る。
とりあえず髪留めを探さないといけない。
(とはいえ、このままティカを放置しておくのもあれだし……よし)
「ふえっ?」
「とりあえず、安全面を考えてお前を連れて髪留めを探すか。この辺りにないのなら、人助けをしている途中で落としたかもしれないし」
やる気の無い顔で、軽々とティカを背負い裏路地から出て行くアルヴィオ。
「ああああの、ごめんなさい。私なんかのために、本当に」
「謝るなって。俺達仲間だろ? それに同じ呪いをかけられた者同士だ。遠慮なんてするなって」
「あ、ありがとう、ございます……ごめんなさい」
「おう」
午前はのんびりしようかと考えていたが、そうもいかないようだ。ティカを背負ったままアルヴィオは、彼女が通ったという道を戻っていく。
「あ、あの私重くないですか?」
「別に」
「あ、あの私臭くないですか?」
「別に」
「あ、あの」
「全然なにも気にしてないって。ティカはどうして、そんなに自分を卑下するんだ?」
一度、ティカのことは聞いた。だが、ただ後ろ向きに考える性格だったとしても、ここまで自分を卑下するのには何か理由があるとアルヴィオは考えた。
「そ、それは……」
「まあ、話したくないならいいよ。話したい時に話してくれ」
「……は、はい」
「あれー? アルヴィオくんにティカちゃんじゃない。どうかしたのぉ?」
喫茶店の前に来たところで、ミザリィが優雅に紅茶を嗜んでいたのを発見。事情を説明しようとしたところで、ティカの様子を見てミザリィは察してくれたようだ。
「あらぁ? 髪留めをなくしちゃったのねぇ」
「そうなんだよ。見なかったか? どうやら精霊のいたずらってわけじゃないらしいんだ」
「そうねぇ、私ずっとここに居たけど、その時はまだ髪留めをしていたと思うけど?」
「それってどれくらいの時間だ?」
「十五分ぐらい前かしらねぇ」
念のため、喫茶店の周囲を探すも髪留めはなかった。ミザリィ以外の客や店員などにも聞いたが、髪留めを見たものはいなかった。
「なかったな」
「すみませんすみません……貴重なお時間を消費させてしまって……本当にありがとうございます……!」
「なかったみたいねぇ。じゃあ、特別に私も手伝ってあげるわ」
このままでは見つからないんじゃないかと思ったのかミザリィが、指先に魔力を宿し、空へと弾く。
光の粒子となった魔力は、周囲に広がっていったのを見てしばらくし、ミザリィはうーんっと首を傾げる。
「この辺りにはないみたいねぇ。もしかしたら、もっと遠いところに運ばれた、のかもねぇ」
どうやら探知魔法を使ってくれたようだ。
「つまり、どこかで落とした髪留めを、誰かが拾ったってことか?」
「多分ね。一応、どっちにあるのかはわかったわ」
紅茶のカップを片手に、ミザリィが西方面を指差す。
「ありがとうな、ミザリィ。午後のクエストには遅れるなよ。今日は、エルシーが一緒だから遅れるとうるさいぞー」
「はーい。でも、遅れそうになったらアルヴィオくんが迎えに来てねー」
ミザリィの探索魔法を頼りに、西へと進んでいくアルヴィオ。髪留めが誰かが拾って移動しているということは、猫や鳥などが持ち去った可能性が高い。
近くにいた警備兵に話をすると、丁度、白い猫が髪留めっぽいものを咥えて走っていったのを見たという情報を手に入れた。
「あっちか」
「あ、あの」
「ん? どうしたぁ、ティカ」
髪留めを咥えているであろう猫のところへ向かっている最中、ずっと黙っていたティカがアルヴィオの背中に顔を埋めながら話しかけてきた。
アルヴィオは、移動するのをやめず、そのまま耳を傾けた。
「ありがとう、ございます」
今まで、謝罪とセットだったのが、ここに来て初めてしっかりとした感謝の言葉を聞けた。これは成長したんだな……とアルヴィオは小さく笑む。
「でも、すみません! すみません!! ずっと私なんかを背負って髪留めを探して頂いて……!」
「……気にするなって」
成長したと思っていたら、これだ。
だが、これでこそティカなのだろう。もう慣れてしまったとアルヴィオは、髪留め探索を続ける。
「お?」
すると、白い猫の尻尾が視界に入った。
「見つけた……!」
道の角を曲がると、情報どおり白い猫が髪留めを咥えていたのを発見した。まだ二人には気づいていないようだ。
「ティカ。ここで待ってろ」
「は、はい」
ティカを物陰に下ろし、アルヴィオはこっそりと白猫へと近づいていく。
こっそりと、足音をたてないように。
一歩、また一歩と徐々に近づいていくが、ぴくっと白猫の耳が何かを聞き取ったかのように動いた。
気づかれたか!? とアルヴィオは足を止めてしまう。
「……」
しかし、何事もなかったかのように再び移動を再開。
これはチャンスだと、アルヴィオは一気に白猫へと飛びついた。
「捕まえたぁ!!」
「にゃー」
突然捕まえたので、威嚇し、暴れるかと思いきや随分と大人しい白猫だった。くるっと正面に向け、その場に下ろし、頭を撫でながら咥えていた髪留めを取ろうとしたが……。
「あっ」
髪留めが独りでに、白猫の口から離れ、ふよふよとティカのところへと近づいていく。おそらく精霊が持っていっているんだろう。
普段は悪戯などをしているが、今回はティカを助けているらしい。
「……ふ」
髪留めにより髪型が戻り、すっと立ち上がる。
「ふっかーつ!!!」
「おー」
「いえーい! ありがとうね! アルヴィオ!! おかげで、元気いっぱいだよー!!」
嬉しさのあまりぴょんぴょんっと元気に跳びまわるティカを見て、アルヴィオは拍手。
「それじゃ」
「ん?」
「ギルドまで、俺を連れて行ってくれ……疲れた」
ずっとティカを背負って走り回っていたため、アルヴィオはその場に座り込む。
そんなアルヴィオを見たティカはにかっと満面な笑顔をつくり、その細腕でアルヴィオを軽く抱き上げた。
「よーし!! 午後のクエストへ向けていけいけー!!」
「いえーい」
こうしてまた男なのに、また女子に……という情けないアルヴィオの姿があったと街中に広がった。




