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第十一話~キノコ狩りへ~

「キノコ狩りだ、おらあああっ!!」

「狩るぞ、お前らぁ!!!」


 冒険者達は血気盛んに、キノコ型の魔物である『マシュル』を狩っている。ただ、絶対にドロップするわけではないので。


「くそ! 経験値だけか!」

「次だ! 次のポイントに行くぞ!!」


 経験値だけで、肝心のキノコが落ちない。経験値は、生物の体を成長させるためにもっとも重要なもの。冒険者達でも、日ごろ魔物を倒していれば溜まっていき、成長する。

 普通ならば、経験値を得るために魔物と戦う者達が多いのだが。

 今回に限っては、彼らの目的はその魔物から落ちるキノコが目的。経験値は二の次、ということになっているようだ。


「やってるなぁ、皆」

「まあ、一個三千って言われたらねー」

「十個で三万。しかも、えい」


 と、遠目で冒険者達の血気盛んぶりを見ていたエルシーが近くのマシュルを倒す。すると、運良くキノコが二個落ちた。


「運がよければ、複数落ちますからね」


 キノコ二つを収納バックに収納しながら、エルシーは呟く。話によれば、一体のマシュルからは最大で三個ものキノコが落ちるといわれている。

 しかし、三個は本当に稀なので、運がよくても大体は二個。

 それでも、その二個が最大の大きさならば一体で六千。

 魔物一体倒しただけで、六千ならばかなりの稼ぎだ。


「うお!? 胞子を撒き散らしたぞ!?」

「こ、こら!! こっちに胞子を吹き飛ばすな!!」

「そっちこそ、止めてよね!!」


 これだけ、楽しそうに魔物を狩る光景はあまり見ない。なにせ、相手は魔物だ。普段は、命をかけて戦っているため楽しく狩っている余裕などない。


「さて、あたし達も行くわよ」

「おう。さっさと行こうぜ」


 大降りの槍を手に、ルチルは先頭に立って冒険者達から離れていく。アルヴィオ達も、それに続き森へ。そう、アルヴィオ達は、これからクイーンを狩りに行くつもりなのだ。


「それにしても、あんた達は稼がなくてもいいのね。意外だわ」


 草木を掻き分けながら前へ前へと進んでいくルチルが、背を向けたまま喋りだす。


「そうか?」

「そうよ。確かに、魔物ならば早めに倒したほうが皆も安心できるだろうけど。冒険者にとって稼ぎ時のクエストなのよ?」


 このクエストは冒険者だけではなく、飲食店も稼ぎ時なのだ。マシュルから落ちるキノコは、かなりの美味と言われており、世界が認める高級食材のひとつに数えられている。

 マシュルが大量発生する時は、飲食店からよくクエストの申請がくるのだ。

 中では、かなりの言い値で買い取ってくれるところも。

 ちなみに、こうした魔物から落ちる食べ物は全てが安全に食べれるものではない。中には、毒などがあるものもある。


「まあそうなんだろうけど。俺達は、別になぁ。稼ぐために冒険者をやっているわけじゃないからな。ルチルはどうなんだ?」

「最初は、お父さんが冒険者だったからだったけど……今はそれだけじゃないわ。冒険者は、人々の平和を護り、そして未知を求める者。最初に、人々から感謝されたり、自分が今まで見たことが無い光景を見た時は、すごく感動したわね」


 ルチルは、どうやら冒険者として、充実な生活を送っているようだ。


「そういうあなた達は、どうなの? なんで、冒険者に?」

「私は、魔法を極めるためね。まあ、他にも目的はあるけど」

「私は、おじいちゃんにずっと冒険者の話を聞いていたからかな。ずっと村で生活するよりも、自由に冒険して自由に色んなものを見て回りたいって」


 ミザリィ、ティカの順に語り、残す葉アルヴィオとエルシーだけだが。


「俺達は」


 と語り始めようとした刹那。

 ルチルはしっと、制す。


「見つけたわよ」

「どいつだ?」


 茂みの隙間から、アルヴィオは覗き込む。

 そこは、マシュルの大群が生えており、その奥に一体だけ一際大きく、色が違うマシュルが生えていた。おそらく、あれがクイーンだろう。


「結構早く見つかったね」

「まあ、早いほうが私は断然良いんだけど。もう疲れちゃったし」


 ため息を漏らしながら杖を構えるミザリィ。

 だが、ルチルは待ちなさいと先走りそうになっていたミザリィを止める。


「言っておくけど、考えもなしに倒そうとしても無駄よ」

「なんでかしら?」

「マシュルは、魔法に対して耐性があるんです。なので、クイーンであるからには他のマシュルとは比べ物にならないぐらいの耐性があります」


 つまり、この場で魔法を放ち一気に倒そうとしても、堪える恐れがある。そして、そのままクイーンが怒り今見えるマシュル以上に増やしでもしたら大変だということだ。


「じゃあ、どうするのかしら」

「あなた。本当に攻撃魔法しか使えないの?」

「ええ。私が目指すのは最強の攻撃魔法使いだから。いくら、耐性があろうともそれ以上の攻撃魔法で殲滅すればいいんじゃない?」


 確かに、中級魔法。それも、ミザリィの魔法攻撃力ならばマシュル程度であれば容易に殲滅できるだろう。だが、クイーンを一撃で倒せるかはわからない。


「……班を分けましょう」

「班を?」

「はい。例えば、マシュル達の視線を釘付けにする班とその間にクイーンへと近づき倒す班の二つ」


 確かに、一体一体は強くないが増殖の速度は尋常ではない相手だ。それに、今回の目的はクイーンを倒すこと。

 クイーンを倒せばもう増殖することはない。

 エルシーの提案に、アルヴィオ達は頷く。


「じゃあ、どうわけるかだけど」


 そして、班分けも終わり、アルヴィオ達は動き出す。


「炎よ、刃と化し魔を切り裂け! さあ、焼きキノコにしてあげるわ! 《フレア・ブレード》!!」


 視線を釘付けにする班は、アルヴィオとミザリィ、ティカの三人。その間に、エルシーとルチルが息を潜めながらクイーンの背後へと回り込む。


「いいか、ミザリィ。クイーンは攻撃するなよ」

「わかっているわ。アルヴィオくんこそ、ちゃんと役に立ちなさいよ?」

「頑張ってはみる」

「よっしゃー! やるぞー!! キノコ叩きだー!!」


 アルヴィオ達の役目は、クイーンをあまり刺激せずただひたすらにマシュルを倒すこと。クイーンは、自らダメージを受けない限り、本気にはならない。

 そこで、どっかりとマシュルに護られる存在。

 ただ、ある一定の数になると行動が変わるため、そこも考えて戦わなければならない。


「おっとと。こいつらだったら、俺でもなんとかいけるな」

「全然動かず、そこに生えているだけだものね」

「キノコ回収ー」

「こらこら、戦闘中だぞ。……二人とも、うまく近づけているかな?」


 マシュルに囲まれながら、アルヴィオはクイーンの方へと視線を向ける。

 すると。


「時間はかけられないわ! 一気にキメにいくわよ! エルシー!!」

「はい!! 大技でいきます!」


 どうやら、気づかれずにクイーンの背後を取ったようだ。あまり時間をかけず、大技で一気にキメにいく。

 茂みから飛び出したルチルの槍には膨大な力の雷が纏う。


「《ライジング・ブレイザー》!!!」


 そして、エルシーの二本の刃には、炎と風が纏っていた。


「《デュアル・レイジ》!!!」

「グギャアアアアッ!?」


 雷と炎、風の一撃がクイーンを切り裂く。魔法耐性があろうと、二人が一撃を同時に喰らえばクイーンと言えど。


「ふう。やったわね、エルシー」

「はい。さすが、ルチルさんです。魔法耐性のあるマシュルのクイーンに対して、あれだけのダメージを負わせるなんて」

「それを言うなら、あなたもでしょ。まったく……早くAランクにきなさい。待っててあげるから」

「はい! その時は、兄さんも一緒に」

「はいはい」


 クイーンが倒されたことで、他のマシュル達の様子が明らかにおかしくなる。動揺し、どうすればいいのかと。


「さて、まだ戦いは終わっていないわ」

「ですね。お片づけ、といきましょう」


 その後、全てのマシュルを狩り終え、クイーンから落ちたキノコはルチルが代表として受け取ることになった。

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