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第十話~盛り上がる冒険者達~

「どうやら、大量発生したらしいぜ」

「マジかよ。もう、そんな時期か……」

「この時期は稼ぎ時ね。よっし! 稼ぐわよぉ!!」


 ギルドは今、賑わっている。

 いつも賑わっているが、今日は特別だ。その理由は、この時期。初夏に大量に出現するとある魔物を討伐するためだ。

 数は、数えるのもめんどくさくなるほどだが、強さはそれほどでもない。

 ただ放置をしていれば、無限に増えると言われており、ギルド側から冒険者達に夏の緊急クエストとして申請される。


「なにかあるの?」


 それをまだ知らない、体験したことがないティカはアルヴィオに問いかけるも。


「実は俺も知らないんだよ」

「アルヴィオも?」

「私達が、冒険者になったのは数ヶ月前。春になってからですから。夏に緊急クエストの内容はわからないんです」

「でも、丁度教えてくれそうな優しい先輩を見つけたわよ」


 ミザリィの言葉通り、優しい先輩ルチルがギルドに入ってくるのを目撃した。アルヴィオ達は、その内容を知りたく一目散にルチルの近くへと駆け寄っていく。


「わっ!? な、なによあなた達。いきなり、全員で」


 さすがのルチルも、四人全員で勢いよく駆け寄ってきたので驚いてしまったようだ。そのことを反省しつつ、椅子に座って話を聞く体勢に。

 全員の視線が集まる中、ルチルは眉を顰めつつ説明を始めた。


「すぐわかることなんだけど……まあいいわ。先輩として教えてあげる」

「よろしくお願いします! 先輩」

「頼むわね、先輩」

「さすがっす、先輩!!」

「あなた達ね……」


 決してふざけているわけではないのだが、本当にやり難いとばかりにため息を漏らす。エルシーは、すみませんと苦笑しつつ頭を下げる。


「夏の緊急クエストは、地域によって違うけど。【オーファン】の冒険者達がやるのは、キノコ狩りよ」

「キノコ狩り? キノコって秋とかじゃないの?」

「別に秋だけじゃないわ。キノコは一年中生えているわよ。でも、あたし達が狩るキノコは普通のキノコじゃない。……人を襲うわ」

「え?」


 その真実に、さすがにミザリィも、眉をぴくぴくと動かしている。それもそのはずだ。普段食用として食べているものが人を襲うと言われれば誰でも信じられないとばかりに驚くだろう。


「別に驚くことはないわ。相手は魔物よ」

「なーんだ」

「本物のキノコじゃないんだね」

「そりゃそうよ。キノコが人間を襲うなんて、ありえないわ。魔物じゃない限り」


 と、言い切るミザリィだったが。次に、ティカの言ったことで更に衝撃を受ける。


「え? でも、私の村には、収穫の時に人間を襲うにんじんがあるけど?」

「……それももちろん、魔物よね?」

「ううん。普通に畑に生えてるにんじんだよ。こう、引き抜こうとすると顔やお腹めがけて勢いよく飛んで来るんだよ」


 さすが、精霊と会話する一族の村。

 にんじんすらもかなり特殊なものだろうか。


「おじいちゃんは言ってたよ。このにんじんは、精霊達との共同で作った野菜だから、自分で飛び出すほどの新鮮なんだぞって」

「それは、なんかおかしいんじゃない。そのにんじんが」

「そうかな? まあ確かに、クエストで手伝いに行った時の畑のにんじんはすごく大人しかったからなぁ」


 普通はそんなものよ、と突っ込みつつ話を戻すことにした。


「それで、そのキノコの魔物なんだけど。名前は『マシュル』と言って、強さは全然だけど。その増殖力が凄まじいの。それが、今の時期。奴らは一気に増殖を始めて、村の畑や森、草原などに色々現れるの。それで、そいつを倒すことで落ちる素材のキノコなんだけど……それがとてつもなくおいしくて高値で売れるらしいわ」

「だから、冒険者達はこんなに盛り上がっているのか」


 冒険者達は今か今かと話し合っていたり、武器を磨いていたりしている。しかし、キノコと言われてもアルヴィオはそこまで好きではない。 

 おいしいと言われても、やる気がなかなか。


「最後に注意点よ。あまり強くないと言っても、マシュルは魔物。あいつらは胞子を飛ばしてくるの。胞子をついた時は絶対落とすこと。じゃないと、生えるわよキノコが」

「確かマシュルの胞子によって生えたキノコは寄生した生物のマナや水分などを吸って大きくなるんでしたよね?」

「ええ。さすが、エルシーね。だから、胞子にかからないこと。もし胞子にかかった場合は絶対落とすこと。できれば、サーチ系の魔法が使える人に最終確認をしてもらうことね」


 なかなかめんどくさそうな魔物だ。

 それほど強くないと言っていたが、注意する必要があるようだ。弱いと言えば、やはり魔物。


「そういえば、高額って言っていたけど。どれくらいで売れるの?」

「でかいの一個で三千って言ったところね」

「ちなみに、ルチルは去年やったんだよな? どれくらい稼いだんだ?」

「覚えていないわよ。たぶん、十数万ってところじゃない? あたし、キノコ嫌いだからやる気が出なかったよ。しかも、マシュルに混ざって『マニュル』も混じっていたし」


 思い出し、とてつもなく癒そうな表情をするルチル。

 マニュルとは、マシュルの亜種的な存在である。

 普通のマシュルに似ているが、とてつもなく……ぬるぬるしている。そのぬるぬるとしたものは、男女とはずすごい嫌われている。

 ぬるぬるするだけならいいかもしれないが、胞子が臭いのだ。マシュル同様決して強くは無い。しかし、厄介な魔物には変わりは無い。


「そんなのもいるんだ……あれ? そういえば、疑問に思ったんだけど」

「なに?」

「すごく増殖するんだよね?」

「ええ」

「どうやったら、増殖は止まるの?」

「それはあれよ。クイーンを倒せば止まるわ。ちなみに、クイーンから落ちるキノコの値段だけど……五万もするわ」


 それはすごい。普通のキノコの十倍以上の値段だ。だが、そうなると稼ぎたい冒険者にとっては悩みどころだろう。

 クイーンを倒せば増殖が止まり、落ちたキノコは五万とはいえ、他のマシュル達の増殖が止まり、それから落ちるキノコが取れなくなってしまう。

 人々を安心させるため、早めに増殖を止めたいが……。


「まあ、他の冒険者達が全員どう思っているかわからないけど。あたしは、さっさとクイーンを見つけ出して増殖を止めようと思っているわ。あなた達はどうずるつもり? 他の冒険者達と一緒に稼ぐ? それともあたしと同じでクイーンを倒しに行く?」


 ルチルの問いかけに、アルヴィオ達は考える。

 ハウスで済む場合は、四人分の生活費が必要だ。パーティーでクエストをやればそれだけ早く終わり、稼ぐことはできるが。

 それでも、金は多いに越したことはない。だが、冒険者としては早めに人々を安心させたい気持ちもある。


「そうだなぁ」


 アルヴィオ達は……。

お知らせです。次回から、この作品の投稿は不定期になります。

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