第九話~繋がり~
「ううぅ……!」
「これは仕方ないことだ。ずっと仕舞わずにしていればな」
「で、でもぉ! これじゃ」
ダンジョンに潜り順調に罠にかからず先へと進んでいたアルヴィオ達だったが、魔物達に襲われそれを撃退している最中。
事件が起こった。
ずっと出しっぱなしだった罠探知機が、戦闘中に壊れてしまったのだ。それはもう呆気なく。容易くぽっきりと……。
買ったティカは、自分の不注意で壊してしまったことに落ち込んでいる。
こんなことになる前に、収納バックにしっかり仕舞っておくんだった、と。
「これからは、自分達で判断していかないといけませんね。……ティカさん。落ち込まないでください。こう考えましょう。これで、よりダンジョンの魅力を感じられると」
「ダンジョンの、魅力?」
エルシーは落ち込むティカの肩に手を置き、にっこりと笑う。
「はい。ダンジョンとは、広大な道を進み、罠を突破し、魔物達を倒し……そして、宝を手に入れる。今までは、この道具に頼りその魅力が削られていました。でも、今は」
「その魅力を体験できる」
「はい。まあ、罠にはなるべくかかりたくは無いのが本音ですが。ダンジョンとはそういうものなんです。ですから、元気出しましょう?」
「……うん! わかった! 私、落ち込むのやめた!! 壊れちゃったものはしょうがないし。これからは、罠にかかっても皆で突破しよう!!」
その意気です! と元気を取り戻したティカと一緒にやるぞー! と気合を入れるエルシー。それを後ろから見守っていたアルヴィオは、何度も首を縦に振っていた。
「さすが、我が妹だ」
「ティカの立ち直りの早さもね。でも、これからは罠にかかるのを覚悟して進むと考えると……憂鬱だわ。もう、この際だからミーシャになろうかしら」
確かに、一時間だけとはいえミーシャになったほうが体力的にも身体能力的にも向上するが。
「でも、まだ魔法は使えないんだよな?」
「……ええ。まだ、トラウマがちょっとね」
ミーシャの状態では、昔の。【封印の魔女】に封印される前の出来事がトラウマとなっており、魔法がどうしても使えない。
それを乗り越えれれば、魔法使いとしては最強の位置につけるのだが。
「あんまり無理するな。ミーシャになった時は、俺達が代わりに戦う」
「あら? 頼もしいじゃない」
「俺はいつも頼もしいぞ? なんつって」
「ふふ。それじゃ、もしもの時はお願いね。アルヴィオくん」
「二人ともー! 早く行こうよー!!」
完全に立ち直ったティカに呼ばれ、二人は今行くと駆け出す。
が。
「ん? なにか、今踏んだような」
アルヴィオの足元を見ると、一部だけがへこんでいた。まるで、何かのスイッチのかのように。静寂に包まれる中、背後からゴゴゴゴゴ……と何かが近づいてくる音が大きくなっている。
四人同時に、振り返ると。
「さっそくピンチなのだけれど」
「……正直、すまん」
大岩がこっちに向かって転がってきていた。アルヴィオは、謝りながらミザリィを背負い。
「逃げろー!!!」
「これぐらい私が!」
「ま、待ってください! あの岩。強力な魔力で護られています! さすがのティカさんでも、一発では無理があるかと」
普通の岩ならば、ティカの拳一発で砕けれるだろう。しかし、こちらに転がってきている岩は魔力で護られており、一発で破壊するのは無理だとエルシーは判断した。
ここはダンジョン。
いったい誰が作っているのか、何のために用意しているのかわからない場所。そんな不思議なところにあるものが普通なはずがない。
「むむむ! 悔しいよー!!」
・・・★・・・
「やあ!!」
「とりゃあ!!」
ダンジョンには、不思議な魔物が多いと言われている。
例えば、宝箱に擬態している魔物。
今もティカが、お宝だと思って開けた宝箱が魔物だったのだ。
「物理攻撃があまり聞いていないみたいだよ!」
「だったら、私の魔法で!!」
「威力弱めので頼むぞー。うおっ!?」
アルヴィオを噛み付こうと魔物が飛び掛ってくる。
ぎりぎりのところで、剣で防ぎ、そこへ。
「任せなさい! 氷結の槍よ、悪しき者を凍てつかしなさい!! 《フリーズ・ランス》!!」
ミザリィの初級魔法である氷の槍が飛んでいく。
「つめてぇっ!?」
「あら。ごめんなさい」
予想通り、アルヴィオごと凍ってしまった。氷の槍が飛んできたのを察知し、すぐ後ろに下がったため一緒に凍ることはなかったにしろ、その冷たさに剣を落としてしまった。
「兄さん!」
「おりゃあ!!」
エルシーは、即座にアルヴィオを助けに向かい、ティカは凍った魔物を拳で打ち砕いた。
なんとか戦闘を終了させ、しばらく歩いたところ。
「あっ! 見て! 扉があったよ!!」
「入り口の扉と同じに見えるけど……もしかして、戻ってきちゃったかしら?」
ダンジョンに潜り、もう一時間は経っている。
なんとか、道を覚えながら進んでいたのだが、戻ってきたか? と思うほど、入り口の扉と同じなのだ。
「いえ、私がつけた印がないので違うと思いますよ」
「そんなこといつの間に……」
「こういうところを攻略する時の基本です。さあ、おそらくあそこの中に転移魔法陣があるはずです。行きましょう」
「おおー!!」
気合いと共に鉄の扉を開けると、そこは入り口の休憩所と同じで広々とした空間が。
そして。
「ん? ああ、君達か」
「あっ! サングラスの人だ!」
「ダインスさん? どうしてここに」
Sランク冒険者であるダインスがいた。まさか、ダインスもダンジョン攻略を?
「俺は、このダンジョンの調査だ」
「調査? どういうことかしら」
「魔物化のことを、な。もしかしたら、ダンジョンの中にその謎を解くヒントがあるんじゃないかと。各地を回っているんだが……どうやら、ここは一階層しかない短いただのダンジョンのようだ。ほら、そこが外へ出るための転移魔法陣だ」
ダインスが指差すところには、確かに転移魔法陣がある。だが、どうして外へ出るためのものだとわかるのだろうか?
その疑問を投げると。
「単純だ。次の階層へ行くためのものは、翡翠色だが。入るや出るためのものは水色なんだ。……じゃあ、俺はもう少しここにいるから、君達はお先に」
と、道を譲るダインス。
まだ調べることがあるのか? と不思議に思いつつも、アルヴィオ達は転移魔法陣に入る。そして、あの落とし穴の近くに転移した。
心地良い風を感じながら、ぐっと背を伸ばす。
「……魔物化の謎、か。どう思う? エルシー」
「そうだね……未だに魔物化のことは全然解明されていないから。それと同じで謎の多いダンジョンを調べるのは、私はありだと思う、かな」
そっか、とアルヴィオは頷き、採取クエストの途中だったので目的のものを採取しに穴から離れていった。




