第七話~一緒に~
「すごいですねぇ。まさか、本当に全部食べてしまうなんて。他の人達は、諦めて食べたケーキ分のお金を支払って帰って行ったというのに」
「ふ、ふん。あたし達にかかればこんなの余裕……うぷっ」
「無理するなって。甘いものを食べすぎて、吐きそうなんだろ?」
とはいえ、アルヴィオもそれほど余裕があるわけではない。
最後のホールケーキは、今まで出てきたものよりも格段に大きかった。それを一人で食べたことで、もはや腹部はぱんぱんである。
倒れたエルシー達は、店員達が介抱しているようだが。
「ふふっ。それじゃ、これが賞金です」
そう涼しい顔で、テーブルに札束を叩きつけた。
「随分と乱暴なんですね……」
「もっていけ!! みたいな感じをやってみたかったんです。それで、副賞ですが」
そうだ。
ルチルは、その副賞が欲しくてこの甘い甘い戦場へとアルヴィオ達と共にやってきたのだ。少し回復したルチルは椅子から立ち上がり、ルミエを見詰めた。
「はい。これが、勝者に与えられる商品です」
「……うん」
受け取ったのは、ナイフ?
別にそこまで特殊な力があるようには見えない。だが、ルチルはそれをとても懐かしそうに、それでいて嬉しそうに撫でている。
「それが、欲しかったもの、なのか?」
「ええ。……ごめんね。あたし達家族のことにつき合せちゃって」
「喧嘩?」
どういうことだろうか。首を傾げるアルヴィオに対し、ルチルは小さく笑い受け取ったナイフを見せながら語りだした。
「先に言っておくけど、これは本当に追加商品じゃない。これはね……あたしが約束したの。この戦いを勝ち抜いたらあたしに譲ってって。お母さんが、最初に使っていたナイフを。最近、あたしお菓子作りを始めたのよ。でも、どうしてもうまくいかなくてね。それで」
「そのナイフが、近くにあればうまくできそうな気がした、ってことか?」
「そう。でも、それだけじゃないの。もうひとつ、理由があって」
「このイベントを誰かがクリアすれば、終わりにするってことになっていたんですよ。ほら? いくらなんでも、お金的にも相手側の健康的にも、ね?」
確かにそうだ。
いくら、大人気店だとしても、このイベントを開催する度に参加人数分の全ケーキを作ればそれだけお金がかかる。
しかも、相手側が支払うのは食べたケーキ分だけ。残ったケーキは、そのまま。
そしてなによりも、これだけ甘いものを食べれば健康的よくない。
「お母さんも、何か盛り上がることをやりたいってことで始めたイベントだけど。娘としては、店がつぶれる前に止めたかったのよ」
「もう、ルチルちゃんは本当に心配性ですねぇ。そう簡単には、私達の店は潰れませんよ」
「ちょっ、くっつかないでよ!」
親子のスキンシップを目にし、アルヴィオは微笑ましく思い笑う。なにはともあれ、これでルチルに恩返しができた、のだろうか。
賞金も手に入り、オーファンの有名店の危機も救った。
そして。
「あ、口元にクリームがついていますよ。ルチルちゃん。ぺろり」
「ななな、なにしてんのよ!?」
あんなにも、歳相応な反応をするルチルを見れただけでも、この甘い甘い戦場に来てよかったとアルヴィオは倒れた。
・・・★・・・
「ほらほら!! どうしたの! その程度で、へばっていちゃAランクなんて夢のまた夢よ!!」
「……ぽへぇ」
「わー!? ミザリィの口からなんか出ちゃいけないものがぁ!?」
「いけません! すぐ回復魔法を!」
「しんどい……」
あれから、数日の時が経ち。ルチルは、いつも通りに戻っていた。それどころか、いつも以上にアルヴィオ達にお節介を焼いている。
なぜか、いきなり現れ、鍛えてあげるわ! と言い出したのだ。
「ちょっと、なに休んでいるのよ。あんたはまだまだ余裕でしょ?」
「いやー、もうだめっすわ先輩。俺、もうだめっすわー」
「声にまだ余裕がある。だらけてないで、本気で動きなさい後輩」
「……なあ」
「なによ?」
休ませてくれない先輩に、何かを言い返そうとしたがそれを止め走り出すアルヴィオ。
平行して走ってくれるルチルを見詰め、アルヴィオは。
「今度、お前が作った菓子を食べさせてくれよ」
「は、はあっ!? なな、なにをいきなり!」
いったい何を焦っているのか。
よくわからないまま、アルヴィオは言葉を続けた。
「いや、菓子を作り始めているって言っていただろ? それで、うまくいかないから母親が使っていたナイフのご加護ってやつで~って。あれからも、練習しているんだろ?」
「……ま、まあそれなりには」
歯切れの悪い返しだ。
おそらく、まだうまく作れていないのだろう。
「うまくいっていないなら、俺達と一緒に作ってみるか?」
「一緒にって……」
「とはいえ、俺はそこまで得意じゃないから。エルシー先生に教えてもらいながら、なんだけどな。でも、一人で永遠に作っているよりも、皆で楽しく、そして味見をしながら作ったほうがうまくなれるんじゃないか?」
ルチルのことだ。失敗しては、もったいないと廃棄することなく自分で全部食べているのだろう。確かに、一人で練習して、成功した時は嬉しい気持ちになる。
だが、皆で楽しくやりながらのほうがもっと嬉しい気持ちで溢れるはずだ。
出会った時から、一人で何でもできるような雰囲気があったルチル。
それが、あの出来事から、意外と弱点があることが判明し始めている。
例えば。
「な、なんでそんなことをあんたが言うのよ……そういうのは、他の人達に相談してからにしなさい」
「相談したぞ? エルシー先生も、任せて! って張り切っていたし」
「ふーん……そう。そうなの」
嬉しそうだ。冒険者同士や、街の人達の好意は動揺することなく受け入れるが。友達、交友関係ができてからの好意は、うまく受け入れることができないようだ。
そして、意外と押しに弱い。
今までは、その雰囲気から押し入る者達がいなかったためわからなかったが。
「なあ、やろうぜ?」
「で、でも」
「なあって、先輩ー」
「ち、近いっての! というか、走りながらくっ付いてこないでよ!? 走り難いでしょ、お互い!」
無理やり引き剥がされ、また静かに走り出してからルチルが切り出す。
「いいわよ」
「え?」
「だから! 一緒にお菓子を作ってあげてもいいわよって言ってるの! い、言っておくけど、あたしが納得するまであんたには永遠にお菓子を食べてもらうから!! 覚悟することね!!」
ずびし! と人差し指でアルヴィオの頬を強く突く。
「永遠かー。それはちょっと無理だなー。俺は途中で寝る」
「寝させないわよ。その瞬間、叩き起こしてあげるから」
「それはご勘弁……」
少し、からかい過ぎただろうか? と思いながらルチルを見ると。
なんだか嬉しそうな表情で走っていた。
しかし、そのことを言えばまた不機嫌になりそうだとアルヴィオは悟り、ただただ平行して走ることにした。
「……死にそう」
が、体力が限界を向かえ、倒れてしまうのだった。




