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第五話~まだ終わらないようだ~

 熊の魔物との追いかけっこを続けているアルヴィオは、チラッとちゃんとついてきているか確認をする。


(よし、ちゃんとついてきているな)


 その形相は怒り。

 そして、腹を空かせた獣そのもの。エルシー達は、逃げていったウィードウルフズを追っていた。ウィードウルフズは、風と地の魔法を得意とし、逃げる時も風属性魔法を利用して走る速度を上げている。

 あれを捕まえるのは、かなり難しいだろう。

 だからこそ、最初の時は拘束系の魔法で動きを封じたのだ。


「さて、どの辺で止まろうか……」


 走りながら、周りを見渡す。

 つり橋だ。

 おそらく、かなり深い谷になっているだろう。


「こっちだ! 熊野郎!!」


 左へと急カーブし、谷の方へと真っ直ぐ突き進んでいく。つり橋の近くまで、辿り着くとアルヴィオは急停止し、追ってきた熊の魔物と対峙した。


「やっと諦めたか、腰抜け」

「まあまあ、そう怒りなさんなって。……お前と一対一で聞きたいことがあったからな。ちょっとだけ移動しただけなんだ」

「この俺と話だと? ふはははははっ!! 笑わせる! 俺は貴様となど話すことなどひとつもない!! さあ、大人しく俺の爪と牙で引き裂かれ、俺の胃袋に入れ!!」


 相当腹を空かせていたうえに、イライラしていたようだ。

 アルヴィオの言葉など一切聞かず、爪と牙を煌かせ、襲い掛かってくる。


「……仕方ない」


 ため息を漏らし、アルヴィオは指輪をはめる。

 刹那。

 近づいてきた熊の魔物を魔力の壁で止めて見せた。


「ぐ、ぬぅお……! な、なんだこの魔力は……!?」

「話をしたいって言ったよな?」

「なっ!?」


 一瞬にして、目の前から姿を消す。


「ぐああっ!?」


 かと思いきや、熊の魔物の腕が一本切り落とされていた。アルヴィオは、切り落とした腕を谷へと投げ捨て刃に付着した血を一振りで弾く。


「お前に聞きたいことがある。お前、最初から喋れたのか?」

「だ、誰がそんなことを」


 痛みに堪えながらも、熊の魔物は反論するが。


「ぐああああっ!?」


 次は左足を切り落とされた。それも、谷へと投げ捨てアルヴィオはもう一度問いかける。


「お前は、鮮血の魔物ってやつを知っているか?」

「し、知らない。俺が知っているのは……フードを纏った男だ」


 フードの男。またフードか……とアルヴィオはため息を漏らす。まさかとは思うが、封印の魔女の同類ではないだろうな? 頭を掻きながらアルヴィオは苦しんでいる熊の魔物を見詰める。


「そのフードは人間だったのか? 魔物じゃないのか?」

「し、知らねぇ。人間でも魔物でもない雰囲気があったことしか……」

「わかった。それじゃ」

「へっ?」


 一刀両断。縦に見事切断された熊の魔物は光の粒子となって四散する。魔物は、未だに謎の存在だ。命を落とすと流した血すらも粒子となって四散する。

 おそらく、谷へと投げ捨てた腕や足も四散しているだろう。


「フードの男か……あいつなんだろうか」


 昔のことを思い出しながらも、アルヴィオは指輪を外す。

 糸が切れた操り人形のようにばたりと倒れこみ、青い空をずっと見上げている。そう、エルシー達が来るまで。

 しかし、そこまで待つ必要はなかった。

 まるで、アルヴィオの用が終わるのを待っていたかのように、エルシーが姿を現す。


「兄さん! 大丈夫?」

「おー、我が妹よ。早いじゃないか」

「当たり前だよ。もう慣れっこだからね」

「あははは。いつもすまんなぁ」

「良いんだよ。それで、なにか進展はあった?」

「うーん、あったと言えばあったけど。更に謎が深まった、かもなぁ」


 困った困った、と頭を抱えていると、ティカとカテジナが一緒に姿を現す。


「アルヴィオ! 無事だったんだね」

「おう。なんとかなぁ」

「それで、あの魔物は? もしかして、一人で倒したの?」


 カテジナの問いにアルヴィオは。


「いや、なんとかこの谷に落とすことができたんだ。いやぁ、俺も落ちそうになったからマジ慌てたぞ」


 あくまで、倒したのではなく。谷になんとか落として、難を逃れたということを知らせる。そこまで、考えてアルヴィオはここを決戦の場所に選んだ模様。

 それを聞いたカテジナは、アルヴィオの本気で疲れた様子を見て、そうだったんだと頷く。


「それで、そっちのほうは終わったのか?」

「うん。残りのウィードウルフズは倒したよ。後は、ギルドに報告しに行くだけだね」

「それじゃ、さっさと帰るか。あ、エルシー頼む」

「うん」

「そ、そこまで疲れたんだ……」


 と、エルシーに背負ってもらっているアルヴィオの姿を見て苦笑するカテジナであった。





・・・★・・・





「……遅いな」


 アルヴィオ達は、三十一分でクエストを終了させた。

 その後、エイジ達がこれなら余裕だぜ! と意気揚々と飛び出して行って、すでに三十三分。とっくに、アルヴィオ達の勝利は決まっているのだが。


「何かあったのかな?」

「うーん。あの熊の魔物はもういないと思うから……あ、でも、谷に落としただけなんだよね? だったら、もしかして運悪く遭遇しちゃっているとか」


 本当の仲間であるエイジ達のことを心配しているカテジナ。

 熊の魔物と遭遇することはまずないだろう。

 だとすると、また違った魔物と? いや、違う。おそらくは。


「あ、戻ってきたみたいだよ兄さん」


 ギルドに入ってきたのは、ボロボロになったミザリィとエイジ。そして、レレとタージンの四人だった。

 アルヴィオの予想通り、ミザリィはエイジに背負われていた。

 しかも、鎧を脱いでいる。


「はあ……はあ……」

「もう、だらしないわね。これぐらいで疲れるだなんて。アルヴィオくんなら、余裕で私のことを送ってくれるわよ?」


 別に余裕ではないが、エイジの疲れ方を見る限りミザリィを背負う前からこうなっていたと考えるのが妥当だろう。

 仮にも、普段のアルヴィオとは違い実力あるBランクの冒険者なのだから。


「ふざ、けるな。誰のせいで、ここまで疲れていると思っているんだ……!」

「なにがあったの?」

「それが、順調にウィードウルフズを倒していたのはよかったのですが」

「ミザリィが暴走をした」

「そんで、取り逃がしたウィードウルフズを追撃しようとしたんだが。こいつが、疲れた、動けないとか言って……体力は冒険者にとって大事なものだろうに」


 ミザリィを、下ろしてエイジはその場にどっかりと座り込む。

 予想通り、と言えば予想通りだった。

 それとも、ミザリィは狙ってやったことなのか。アルヴィオがちらっとミザリィのことを見るとは、ふふっと笑う。

 いったいどっちの意味の笑いなのか。


「まあ、ともあれだ。勝負は俺達の勝ちってことでいいよな?」

「……仕方ない。今回は、これで諦めてやろう」

「今回?」

「次は負けない! その時は、一対一の真剣勝負を申し込む!! 覚悟していろ!!」


 捨て台詞を残し、エイジはさっさとギルドから去っていく。


「では、皆さん。またお会いいたしましょう」

「さらばだ」

「じゃあね! 今日はすっごく楽しかったよ!」


 諦めてはくれなかったようだ。またいつか、来ると。この調子では、次勝ってもまた……その繰り返しになるかもしれない。


(これはカテジナが、俺の実力はそこまででもなかったって。うまく伝えてくれるのを願うとしよう)

「兄さん。とりあえず、お疲れ様。さあ、ハウスに戻ってゆっくり休もう」

「……そうだな。色んな意味で今日は疲れた」

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