第三話~勝負を受けよう~
「あら、お元気でしたか? お二人とも」
「やっすー」
エイジという冒険者に遭遇してから、三日が経った。しかし、あれからというもの挑戦を挑んでくることは無く、この【オーファン】で冒険者としてクエストをやっているようだ。
登録したところが違っても、同じ冒険者。
どこのギルドでも、クエストはできるのだ。
アルヴィオ達が、クエストをすることなく現在は食材の買い物をしている。四人になったので、食材の減りも前よりは激しい。
とはいえ、昼のほとんどはギルドや外食で済ませているため、節約をすればなんとかなる。
「えっと、カテジナにレレだっけ?」
「そだよー。二人は、仲良くお買い物ってところかな?」
「はい。パーティーが四人になったので。二人の時と違って食材の減りが激しくて」
「わかるわ。しかも、食欲旺盛な人達がいると余計に減るのよね」
「はい。ですが、冒険者は食欲旺盛な人ばかりなので、これは仕方ないというか」
レレもエルシーと同じ役割なのか。
買い物袋を持ったエルシーとちょっとした談義を始めてしまう。そんな中、カテジナがアルヴィオに近づき観察するように体中を見てくる。
「どうかしたか?」
「うーむ。中々良い鍛え方をしているみたいだね。エイジに負けないぐらいだよ」
「あいつは今、何をしているんだ?」
今ここにいるのは、女子組。
男子組はどこにも見当たらない。
「エイジは、今の時間帯はお昼寝中だよ。エイジは絶対お昼寝を欠かさないからねぇ」
「タージンさんは、一人で素振りをしていると思います。私達は、見ての通りオーファンを見て回っているんです」
「なにせ、オーファンは注目の街だからねぇ。ここにしかない技術や食べ物なんかを色々と盗んでいこうと思ってね」
にししと笑うカテジナに、レレはこらっと軽く注意する。
「まあ盗むっていうのは冗談として。噂に聞いていただけで、私達もオーファンに来るのは初めてなんだよ。だから、こうしてクエストがない時に歩き回っているの」
「エイジさんやタージンさんがいると、クエスト! 特訓! 食べる! の三つの行動を繰り返すばかりですから」
とはいえ、冒険者というのはその三つの行動がほとんどだろう。食べるためにクエストをやり。クエストをやるために、特訓をする。
エイジやタージンは、根っからの冒険者と言えるだろう。
「エイジは必ず一時間はお昼寝をするからね。その間は、自由時間なの。後他には、夕方とかかなー」
「俺は一時間半は寝るぜ!」
「おおー。エイジを超えるなんて中々だね」
「本気を出せば二時間は寝るな」
「あらあら。よほど寝るのがお好きなんですね」
それほどでもない、と誇らしげに言うアルヴィオ。別に自慢するようなことではないが、こうした他愛の無い会話は大事だ。
一日にこんなことがあった。こんな魔物と戦った。こんなことをやってしまった……冒険者は、冒険をすることで色んな出来事を体験する。
毎日が、話の種となる。
「兄さんは本当に気持ちよく眠るんです。なんだかこっちが幸せになるような。そんな寝顔を」
「そうなんだぁ。エイジはさ、寝る時絶対アイマスクと耳栓をして眠るから。そういうことはないなぁ。ねえねえ! 一度でいいから、君の寝顔見せてよ。本当に幸せな気分になるか試したいからさ」
「そう言われても、さっき眠ってきたばかりだからなぁ。多分熟睡まではいかないと思うぞ?」
それでも、寝れるんだ……とカテジナは驚く。買い物の前に、アルヴィオはきっちり一時間半ほど眠ってきたのだ。
もちろん、パーティーメンバー全員と。
ティカは、十五分ほどで起きハウス空間を走り回っており、ミザリィは三十分ほどで起きて、読書をしていた。
エルシーはアルヴィオが起きるまでずっと隣で寝顔を見ていたようだ。
「あっ! すみません。私達はそろそろ行かなくてはならないので」
「あら? お急ぎだったのかしら」
「はい。後十五分で、半額時間になるんです。数に限りがあるので、早めに到着して死守しないといけないんです」
「おっと、そうだったな。それじゃ、俺達は行くから。まあ、しばらく居るなら後で俺達が色々と案内するからさ」
「それは嬉しい提案ですわ」
「じゃあ、その時はよろねー!」
そう言い残し、アルヴィオとエルシーは市場へと走っていった。
・・・★・・・
「アルヴィオ・マーカス! さあ、勝負をしろ!!」
「まあ別にいいぞ」
「そうか。また断るのか。だが、今日の……ん? さっきいいって言ったのか?」
早朝のことだった。ハウス空間から出てくると、エイジが腕組みをして待っていた。そして、開幕からの挑戦。
前回が、即答で断ったことから今回も断られると思っていたのだろう。予想外の返事に、エイジは二度見をしていた。
「そうだけど。何か間違っていたか?」
「さあ? 私は、知らないわ」
「勝負するなら、私も参加してもいいよね? パーティーなんだし」
「そうですね。兄さん一人に戦わせるのは、私としても承諾できません。やるのなら、パーティー戦で如何ですか?」
「あ、いや……うん、そうだな。お前達はどうだ?」
予想外の返事の後に、エルシーからの提案にたどたどしくも、仲間達に問いかけるエイジ。
「あたしは、別にいいよ。そっちのほうが面白そうだし」
「わたくしも、それで構いませんわ。タージンさんは如何です?」
「俺もそれで構わん」
どうやら、エイジのパーティーメンバーもエルシーの提案に賛成のようだ。
「わかった。なら、パーティー戦だ! ルールはどうする?」
「そうだなぁ。今から、同じクエストを各パーティーで選んで、ギルドに戻ってきた時間で勝敗を決めるっていうのはどうだ? クエストの種類は採取でも魔物討伐でもなんでもいいことにする」
「なるほど。それはいいな……いや、だが問題がある」
「なんだ?」
エイジは指をアルヴィオに突きつけ、問題点を言い出した。
「僕は、アルヴィオ・マーカスの実力を知りたいんだ。これでは、パーティー全体の実力となり、お前個人の実力を測れない」
「あー、そういうことか。だったら……よし、こういうのはどうだ。お前のパーティーメンバーを、一人こっちに一時的にだが加える。そうすれば、傍で俺の実力を見れるだろ?」
「ですが、そうなるとこちらは二回クエストに行くことになります」
「だから、こういうのはどう? パーティーメンバーを一人交換!」
パーティーメンバーの交換。確かに、そうすれば一回で済む。アルヴィオは、自分のパーティーメンバーに視線を向ける。
「どうする?」
「メンバー交代かー。そうなると、誰と誰を交換するかってことだよね?」
「バランスを考えて、お互いのパーティーで被っている職業同士を交換するってことでいいんじゃないかしら?」
互いのパーティーで被っているのは、剣士であるアルヴィオとエイジ。だが、この二人は除外される。そうなると、次に被っているのは、魔法使いのミザリィとカテジナになってしまう。
「というわけで、あなたと私が交換ってことで。いいかしら?」
「あたしは構わないよ。うーん、違うパーティーで戦うなんて久しぶりだなぁ。短い間だけど、よろしくね!」
「よろしく! 私はティカだよ!!」
ぶんぶん! と元気よくカテジナと握手をするティカ。正直、勝負の勝敗よりもあっちのパーティーが心配になっているアルヴィオ。
こちらは慣れているため、大丈夫なのだが。この勝負の内容から、悪く言えばミザリィは足枷になってしまうだろう。
「よろしくね、エイジくん」
「よ、よろしく」
そして、次にどんなクエストをやるか。どのパーティーが先に行くかを決定した。クエストは、魔物の討伐。先に行くのはアルヴィオ達からになった。




