第一話~Sランクと土の中~
それは、クエスト帰りに【オーファン】へと戻ってきた時のことだった。
「む? 今帰りか」
丁度、喫茶店から出てきたSランク冒険者ダインスと遭遇した。エルシーは、ギルドの集まりで関わりはあるだろうがアルヴィオやミザリィ、ティカには面識は無い。
顔を見たことがあるだけで、一度も話したことは無いのだ。
「はい。先ほど、終わったばかりです。ダインスさんは?」
「ああ。俺は、クエスト前にこの店のブレンドコーヒーを飲んでいたところだ。このコーヒーは、一級品だ。いつ飲んでも飽きない」
なので、もっぱら会話をするのはエルシーになる。
はずだったのが、ダインスはアルヴィオに視線を向けてくる。
「君は、順調に強くなっているか?」
「……ぼちぼち」
なぜそのようなことを聞くのか。とはいえ普通に考えたら、冒険者としてクエストをこなしていく内に強くなってはいくので、そういう意味での質問だと思える。
しかし、ダインスは謎だらけの冒険者だ。謎だらけだが、ギルドからの信用を得ているし、噂では一人で火山地帯で目覚めたドラゴンを撃退したとか。
パーティーは組まず、一人でクエストに行くため、他の冒険者は彼の実力を知らない。知っているとしたら、同じSランク冒険者のカンナだろう。
「そうか。まあ、君達は色んな意味で注目の的だからな。色々と大変だろうが、困った時は俺を頼ってくれ。どんなことがあろうと、同じ冒険者として俺は助ける」
「あら、優しいのね」
「さすがSランク冒険者は言うことが、かっこいいね!」
ではな、と別れの挨拶をして去っていく。
その背中を見詰め、アルヴィオは考え込んだ。
(同じ冒険者として、か……嬉しい言葉だけど)
「兄さん? どうかした?」
「いや、なんでもない。いやぁ、今日も疲れたなぁ。いい加減、ミザリィの重さに慣れてきたぞ」
はっはっは! と笑うアルヴィオに対してミザリィは背中に纏わりつき呟く。
「失礼ね。それじゃあ、私は重いみたいじゃない。ねえ、アルヴィオくん」
「いやいや。別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ」
「本当かしら?」
ぷにぷにと、頬を突き怪しむ目で見詰める。
「本当本当。さあ、早くギルドにクエストクリアの報告をしてどっかでゆっくりしようぜ」
「じゃあ、今日は焼き鳥にしよう! 最近、このオーファンの裏通りで見つけたんだ!」
「焼き鳥か……いいかもな」
「そう? 私、あまり脂っこいものは好きじゃないのよね……」
「ミザリィさんは、もう少し肉をつけたほうがいいと思いますよ?」
・・・★・・・
「うーむ……これは困った」
「困ったね、兄さん」
今日も今日とてクエストを真面目にやっていたアルヴィオ達。今回は、洞窟での採取クエストだった。しかし、採取クエストと言ってもただ採取してはい終わり、というわけではない。
採取するまでが大変なのだ。
普通に魔物が襲ってきたり、採取するものがなかなか見つからない時も。
とはいえ、アルヴィオは案外採取は得意で、エルシー以上である。なので、採取は順調に進んでいたのだが。
「けほっ! けほっ! まったく、この程度で崩れるなんて……」
「いや、爆裂系統の魔法を放てば脆くなくても地盤は崩れると思うのですが」
採取をしている途中、案の定魔物が襲ってきた。
洞窟によく出現するモグラのような魔物。
その名をモジラという。
モグラのように地面を掘ることに長けているが、顔が肉食動物のように凶悪なのである。普段は地中の中にいるのだが、鉱石などを掘る音に反応して炭鉱夫や冒険者達を襲ってくる。
洞窟の中なので、あまり派手魔法や攻撃はできない。
のにも関わらず、ミザリィは。
「今日の気分はこれよ!!」
と気分で爆裂系統の魔法を放ってしまい、見事に地面が崩れてしまい、四人仲良くモジラが掘り進め出来上がった空間に落ちてしまったのだ。
滑り台のようにどこまでも滑っていき、今どの辺りなのかわかっていない状態にある。
「さて、どうやって戻るかな。普通なら、こういう場合じゃ落ちてきたところを上って行くんだけど……」
「塞がっちゃってるね」
天井にあるアルヴィオ達が落ちてきた穴が見事に埋まっている。他にもたくさん穴があるが、これがどこに繋がっているかわからない。
それに、ここはモジラの巣だ。
進んでいけば、いやここに居たとしてもモジラ達が襲ってくる。またいつ崩れてもおかしくはないところで戦うのは戦いなれた冒険者でも難しいことだろう。
「……よし。それじゃあ、私が大地の精霊達に出口のある方向を聞いてみるよ」
ティカは、目を瞑り魔力を放出し始める。
おそらく精霊を呼んでいるんだろう。
「よし。よく来てくれたね。緊急事態なんだ。うん、そう。この通り閉じ込められちゃって。出口を探しているんだ。うん、うん。え? いや、そういうのはいいの!」
いったい何を精霊に言われているのか。
声が聞こえないアルヴィオ達にとっては、ティカが一人で喋っているようにしか見えない。だが、サーチ系の魔法を誰も持っていないため今頼れるのはティカだけだ。
本来は、魔法使いが覚えているはずなのだが。
ちらっとアルヴィオはミザリィを見詰める。ミザリィは、攻撃魔法しか使えない。それに、ミーシャの状態ではまだ魔法が使えないようだ。
理由は。
「もうお願いだよ? こっちは真剣なんだから!」
「交渉はどうなってる?」
「あ、うん。なんとかなったよ。私が先頭に立って行くから、後ろからついてきて」
よし、とティカの後を追って狭い土の道を進んでいく。
モジラは、全長一メートルちょっと。
だから当然、掘り進んでできた道もアルヴィオ達にとっては狭く小さい。
「……」
「えーっと、こっちだね」
「……」
「次はこっちだね?」
目のやり場に困る。
狭く小さい道なので、必然的に屈んで馬のように移動しなければならない。背後からモジラが来た場合アルヴィオではすぐに対処できないので、一番後ろはエルシー。
次にミザリィ、アルヴィオとなるのだが。
ティカは、スカート。これを意味するのは……下着が見えそうになっている。アルヴィオは、平常心を保っているがいつまでこんなことが続くのか。
尻をふりふりと振りながら進んでいく度に、スカートの中が見えそうで見えない。いったいいつまでこんな移動が続くんだ。
こんなことだったら、ミザリィの後ろに行くべきだったとアルヴィオは後悔している。ミザリィは、屈んだとしてもかなりのロングなスカートなので、ティカよりは気にならないはずだ。
「あっ」
突然ティカが止まった。
目のやり場に困っていたアルヴィオが、一瞬だけ視線を下に落としていたところだったので、止まるのが一歩遅れ。
「むぐっ!?」
「ひゃうっ!?」
ティカの尻に顔が激突。
「す、すまん……」
「だ、大丈夫……わ、わざとじゃないんだよね?」
こちらを振り向かないまま、問いかけてくるティカに対し。
「誓って!」
曇りなき眼で即答した。
「本当かしらぁ? 進んでいる間ずっとむらむらしていたんじゃないの?」
「ふっ。ノーコメントで頼む……それで、ティカ。いったいなにがあったんだ?」
キリッとした表情で何事もなかったかのように話を切り替える。
「えっと、この先が出口なんだけど」
「思っていたより早く辿り着いたわね」
「ですが、ティカさんの反応から何かあるみたいですね」
「ティカ。とりあえず、先に」
「わかった」
急ぎ狭い道から出ると、アルヴィオ達が最初に落ちた場所よりもずっと広い空間に辿り着いた。
ここが出口? と周りを見渡すと。
「……なるほど。そういうことですか」
「なんだあのでかい毛玉は」
もそもそ奥のほうで動くでかい毛玉。
明らかに三メートルは超えている。
ひょろっとした長い尻尾に、鋭い爪、肉食動物のような鋭利な牙。
「モジラの親玉と言ったところかしら?」
座り込んだままミザリィは、近づいてくるでかいモジラを見詰めていた。どうやら、体力の限界にきているようだ。
それもそのはずだ。
今の今まで、採取をしていて、狭い道を屈んで移動していたのだ。ミザリィにしてはよく堪えたものだと。
「大地の精霊が言ってる。人間が通れるような出口はあの巨大なモジラの後ろにあるところだけだって」
「そういうことなら、やることはひとつですね」
二振りの剣を抜き放ち、その一本を投擲。
「とっ! 弾くか」
弾かれた剣は、魔力の糸にてエルシーの手に戻ってくる。巨大モジラの体が思っていた以上に硬いようだ。剣を簡単に弾いてしまうほどに。
「……であれば、方法を変えましょう。私達の目的はここから出ること。巨大モジラを倒すことではありません」
そうだ。巨大モジラを倒さなくとも、出口から退いてもらえばいいだけ。そうすれば出口へと一直線で、外に出ることができる。
「そういうことなら、私の出番ね」
「私も手伝うよ」
「ならば、俺は新たな力を!」
収納バックから取り出したのは、弓矢だった。それを構え、巨大モジラの目に放つ。いくら体が硬くても目は違う。
しかし、大きく外れて地面に突き刺さった。
「どこに撃ってるのよ」
「まだまだ練習中なもので。そんなわけで、頼んだ二人とも」
「ええ、最初からそのつもりよ。ようは、出口から引き離せばいいんでしょう? だったら……《フリーズブレス》!!」
凍るのブレスで、足元を凍らせる。そこへ、ティカが突撃していく。
ティカを止めようとその爪で攻撃してくるも、ひょいっと回避し強烈な蹴りを巨大モジラの足に与えた。それにより、凍っていた地面が効果を発揮し、つるっと滑り頭から倒れてしまう。
「よし! 今のうちだ! ……よいしょっと」
「さすがアルヴィオくん。慣れてきたわね」
「慣れたくて慣れたわけじゃないんだけどな」
動けないミザリィを回収し、アルヴィオは滑らないように出口へと向かっていった。




