プロローグ~いつも通りに~
新章開始ー。
「ごふっ!?」
「わー!? アルヴィオが吹っ飛ばされたぁ!?」
「よくも兄さんを!!」
アルヴィオの提案で、パーティーを結成することになって早一週間。
順調にクエストをクリアしていき、まだ新人だったティカももうCランクへと上がった。アルヴィオとは違い実力はあり、前向きになんでもクエストをやっている。
その持ち前の明るさで、他の冒険者からも街の人達からも気に入られてはいるのだが……アルヴィオにミザリィとパーティーを組んでいるため、心配をされている。
ただ純粋に心配している者達から、馬鹿にしながら心配している者達で分かれており、そういう者達に文句を言ってやろうと思ったティカであったが。
本人達が気にするな、と制す。
この一週間、色んなごたごたがありつつも今もこうして真面目にクエストをやっている。
「くっ! だから……言ったのよ。前に出過ぎだって……げほっ!?」
「わー!? 次はミザリィが!?」
今回の依頼は、旅人達を無差別に襲う突進攻撃を得意とする魔物アームルの討伐。
討伐数は六体。
出現地は、色々だがよく山脈地帯で発見されるとの情報だ。情報の通り、山脈地帯でアームルの群れを発見し、さっそく倒しに行くのだが。
最初にアルヴィオがアームルの強烈な突進に吹き飛ばされ、ここまで移動してすでに虫の息のミザリィまでもが吹き飛ばされてしまった。
「こ、こんなイノシシども。疲れていなければ……」
うつ伏せになりながら、なんとか杖を使い立ち上がろうとするもギリギリである。
「二人は無茶しないで! ここは私とエルシーでなんとかするから!」
「いきますよ! ティカさん!!」
「うん!!」
その後、エルシーとティカで、四体のアームルを撃退し休憩することになった。落ち着ける場所を探し当て、持ってきたサンドウィッチと飲み物を収納バックから取り出す。
「いやぁ、あの突進はかなり強烈だったなぁ」
「次こそは……次こそは、あのイノシシに私の魔法を……!」
無様に吹き飛ばされたことを根に持っているミザリィは、不気味に笑いながらサンドウィッチを齧っている。
アルヴィオはやられてはいるが、いつも通りマイペースな雰囲気で喉を潤す。
「二人とも、とりあえず回復をしましょう。アームルの突進に加えて地面に叩きつけられたんですから」
「お、そうだな。頼む、エルシー」
「任せて、兄さん」
手をかざし、魔力を高める。
そして。
「癒しの力を汝に。《オールヒール》」
範囲回復を二人に施す。優しく温かい力が、アルヴィオとミザリィを包み込み、傷跡が最初からなかったかのように消えてしまった。
「それにしても驚いたわ。まさか、エルシーちゃんが回復魔法を使えるなんて。てっきり、バリバリの前衛だと思っていたもの、私」
回復魔法を持つ者達のほとんどは、後衛。
稀に前衛をやりつつも、回復をする者達もいるが。そこまで多いわけじゃない。その少数の中でも、エルシーは前衛も勤められ、後衛も勤められる。
だからこそ、入りたての頃はパーティーへの誘いが殺到していた。
「この力は、兄さんから受け継いだものなんです」
「え? それって……」
「パーティーを組んだ時にも話したと思いますが。私は、一度死に掛けたんです。ですが、兄さんがこの力と魔力を分け与えてくれたおかげで今こうして生きている」
アルヴィオに宿っていたのは二つの力。
ひとつは、今も尚アルヴィオの内に眠っている攻撃的な力。そして、もうひとつが癒しの力。瀕死のエルシーを助けるため、まず癒しの力を分け与え、そこから魔力を全力で分け与えたのだ。
「最初聞いた時も思ったけど、攻撃と回復の両方。それもかなり強い力が宿っていたって。昔のアルヴィオってそんなにすごい人だったんだね」
「あはははは」
「今は、馬鹿そうな感じなのにね」
「ひどいな、それは」
などと言いつつも、そこまで気にしていない様子のアルヴィオである。
休憩も終わり、残りのアームルを倒すため探索を再開する。
そして、五分もしない内に残りのアームルを発見した。
物陰に隠れ、アルヴィオは呟く。
「よし。俺が囮になる。そこをミザリィの魔法でどかん! だ」
「いい提案だわ。あのイノシシどもに、私に魔法の凄さを思い知らせてやる!」
「というわけで、二人はちょっと見ててくれ」
「気をつけて、兄さん」
「頑張れー!」
作戦も決まり、一目散に飛び出していくアルヴィオ。
近づいてくる気配に気づいたアームルは、突進する体勢に入る。
「いつまでも、弱い俺じゃないってところ見せてやる!」
いったいなにを? と皆が注目する中、アルヴィオが取った行動は。
「とう!!」
突進してくるアームルを飛び越えた。しかも、背後には大きい岩があった。それに激突したアームルは脳が揺れたらしくふらふらと足取りが怪しくなっている。
「ふっ。どんなものだ」
かっこよく決めているが、着地に失敗したらしくうつ伏せに倒れていた。
「よくやったわ、アルヴィオくん! さあ、イノシシども! 私の怒りの魔法をくらいなさい!!! 《ロック・フォール》!!!」
高められた魔力により、放たれたのは巨大な岩。
これは地属性の中級魔法で、どこからともなく巨大な岩を召喚し対象へと落とすというものだ。その郷土は普通の岩とは違い、魔力が込められているため硬い。
「よし!!」
当然、動きが鈍っていたアームルには直撃し粒子となって四散した。
「やっぱり、突進しか脳の無いイノシシね」
「いやぁ、土塗れだ。ぺっ! ぺっ!」
巨大な岩が落下した衝撃で、土煙が舞い近くにいたアルヴィオに襲い掛かったようだ。
「ともあれ、これでクエスト達成だね! なんだかんだ言って、私達良いパーティーだよね!」
「はい。このまま行けば、ティカさんもBランクに上げれるはずです」
「早くBランクにならないかなー。なりたいなー!」
「まあでも、Bランクからはかなり遠い道のりだぞ。俺達も結構クエストをクリアしているけど、未だに昇格クエストが出ないからな」
特定のポイントを稼ぐことで、ギルドから昇格クエストが申請される。CからBまで上がるのは、それほど苦労しないと言われているが、Aランクに上がるにはかなり……Sランクなど、未だに数えられるほどしかいないため、低ランクの者達は若干不安になっているほどだ。
「気長にやっていけばいいのよ。そんな簡単に昇格しちゃったら、面白くないでしょ?」
「まあ、それもそうだけど」
「では、皆さん。ギルドに報告へ戻りましょう。報告するまでが、クエストですよ」
「リーダーの言うとおりだ。冒険は、何があるかわからないからな。油断せず、帰ろうぜ」
「あ、それじゃアルヴィオくん。私を背負ってくれないかしら? もう限界なの……」
「さっき休憩したばかりなのに!?」
四人パーティーとなり、騒がしくなり、楽しくなっている。色々と噂をされているメンバーが集まっているが、今日もいつも通りの冒険者生活を送っていた。




