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第十一話~四人パーティー結成~

「ふぃ……やっぱり落ち着くなぁ」

「あら? 家に帰った途端に気が抜けちゃって」


 先ほどまで少しは背筋を伸ばしていたアルヴィオだったが、ハウスへと入った瞬間思いっきり猫背になってしまう。

 上着を脱ぎ捨て、装備していた長剣も玄関近くにあったクローゼットに放り込む。


「これはなにかしら?」

「これは、ハウスに設置されている装備用のクローゼットです。収納バックは知っていますよね? それのクローゼット版と言ったところでしょうか。どうぞ二人の装備もここに入れてください。出し入れは装備者本人が手を入れれば自動的に手に収まりますから」


 収納バック。それは冒険者にとっては必要不可欠なバックだ。

 見た目では考えられないほど多くのものを詰めることができ、傷薬から魔物からドロップした素材まで収納バックひとつで解決。

 取り出す時も、頭の中で思い浮かべるだけで手に収まる。

 基本的には、冒険者になったらギルド側から配布されるが。


「そういえば、ティカさんには収納バックは配布されませんでしたね」

「それは、私がいらないって言ったからだよ。私、すでに持ってるから」


 腰にベルトと一緒に装着していた。

 それを見て、ミザリィはへえっと声を漏らす。


「あら、なかなか年季の入ったバックね」

「うん。私のおじいちゃんから十歳の誕生日に貰ったんだぁ。これに薬草とか食材とかいっぱい詰めれるようになってからは、採取もらくらく~」


 収納バックは、各地で最初の配布される種類が違っており、ティカのように腰に装備するものから普通に背負うものまで。

 とはいえデザインは、ギルド側に申請を出せば配布されたバックを好きな形に変えてくれる。

 ちなみに、アルヴィオとエルシーは二人でひとつの収納バックを使っている。基本的に、収納バックはひとつあれば事足りるため、パーティーを組んでいる冒険者達は大体一人か二人しか持っていないことが多い。


「ミザリィさんは……」

「私のはこれよ」


 そう言って、太ももにに装着している小さなバックを見せた。見た目はかなり小さいが収納機能は変わっていない。

 これも冒険者達の中では謎となっていることなのだ。

 謎になっているが、便利なので特にギルドへとしつこく聞くことは無い。


「ねー、ここにただ入れればいいの?」

「あ、はい。そのままぽいっと」

「じゃあ、私から。ぽいっと」


 さっそく杖を投げ入れるミザリィ。ティカもそれに続き自分の装備を放り込んだ。


「それでは、ごゆっくりしていてください。今、お飲み物と……そうですね。昨日作ったケーキのあまりがありますから。それを持ってきましょう」


 最後に、エルシーが二振りの剣をクローゼットへと収納し台所へと真っ直ぐ向かっていく。


「……これが、パーティー専用のハウス内。私が住んでいた家よりもずっと豪華ね」

「こんなのが、パーティーの数だけあるんだよね? 【オーファン】のギルドって本当にすごいよ!」


 まるで、自分の家のようにソファーに勢いよく座る。

 すでに座っていたアルヴィオが一瞬浮いてしまうほどの勢いだ。


「いいところだろ?」

「あなた達は毎日ここで過ごしているのね。本当……羨ましいわ」


 ミザリィはクッションに座り、そこから見える景色を目に焼き付ける。ベランダもあり、ここからは見渡す限りの草原。

 少し、殺風景ではあるが自然の中で暮らしている。そんな気分になるので、アルヴィオ達は気に入っている。


「ねえ、二階もあるけど。どんな部屋があるの?」

「そうだなぁ……寝室二つに、小さいけど図書室に後は物置ってところか。浴場とかは一階のほうにあるな」


 寝室は、ひとつの部屋で二人分となっている。図書室は冒険に必要な知識が書かれた本から、古い歴史の本がある。

 今ではアルヴィオやエルシーが買ってきた本もかなりあり、本棚を増やしたので若干狭くなっている。

 浴場も、二人同時に入ってもまだ余裕があるほど広く、洗濯用の魔機が設置されているのだ。

 魔機とは、アルヴィオ達が使っている端末のように魔科学により作られた便利な道具。

 十年前から瞬く間に世界中へと広がり、今でも新たな魔機を作るため科学者達は日夜研究と開発に明け暮れている。


「お待たせしました。昨日の残りなので、お口に合うか」

「わあ! おいしそう!!」


 おぼんの上には、人数分のクリームたっぷりのケーキと飲み物があった。


「さて、落ち着いたところで。さっそくだけど、話の続きといくか」

「と言っても、どんな話をするのかしら? もしかして、私達をパーティーに入れたい、とかそういう話だったり?」


 ケーキをフォークで切りながらミザリィは問いかける。


「その前に、お前はミーシャになったほうがいいんじゃないか?」

「あ、それもそうね」

「ミーシャ?」


 口に中にケーキを含んだまま、ティカは首をかしげていると、ぽん! とミザリィの体は煙となり、煙が消えると。


「ふー。やっぱりこっちのほうが落ち着きますねぇ……」

「むぐっ!?」

「てぃ、ティカさん。お飲み物です」


 突然、ミザリィが小さくなったことでティカは喉に詰まらせてしまう。エルシーやティカはもちろんだが、こうやって姿を変えるところはアルヴィオも初めて見る。


「ミザリィ、だよね?」

「あ、この姿の時はミーシャと読んでくださいティカさん」

「私よりも小さい……」

「こ、これでも成長途中なんですよ!」

「い、いえ怒らせるつもりはなかったんです。すみません」


 確かに、エルシーは同年代の女子から見て少し背が低いほうだ。なので、自分よりも小さいミーシャを見て少し驚いてしまったのだろう。

 とはいえ、エルシーには悪意はない。決して、ミーシャを馬鹿にしたわけじゃない。そのことは、ミーシャも理解しているようだが……やはり、ミーシャ自身も小さいことを気にしているようだ。


「む、胸だってまだ成長途中ですから。でも、さすがにミザリィぐらいになると肩が凝るから……むむむっ」


 小さい声で言っているつもりだろうが、丸聞こえである。


「おーい、ミーシャさんやー。話してもいいかねー」

「も、問題ないです!!」


 ハッと我に返ったミーシャは、咄嗟に敬礼をしてしまった。


「じゃあ、さっそくだが……俺は【封印の魔女】と他にも探している奴がいることをお前達に話しておこうと思う」

「それは封印の魔女と同等の相手ってことでいいんですか?」

「同等、なのかなぁ。いや、下手をすれば封印の魔女よりも重要な奴かもしれないなぁ」


 ポケットから指輪を取り出し、アルヴィオは指にはめる。

 そして。


「あいつは、俺から大切なものを奪おうとした。そして、俺が唯一取り逃がした相手でもある」


 雰囲気が一気に変わったアルヴィオに、ミーシャとティカはごくりと喉を鳴らす。目つきも鋭くなり、体に伝わる魔力の波動が桁違いだ。

 普段のまったりとした雰囲気のアルヴィオとは思えない。これには、自然と二人の耳はアルヴィオの言葉に釘付けになってしまう。


「あいつは、言葉を喋る魔物だった」

「喋る魔物って……それ、いつの話なの?」

「五年前だ」

「つまり、魔物化が広まるより前ってことですよね。もしかして、その魔物が魔物化の原因なんじゃ!?」

「俺はそう睨んでる。けど、あれ以来あいつは見つからない。これまでも、旅の商人達や同じく喋る魔物達に聞いてみたんだが……情報はゼロだ。まったく尻尾を掴ませねぇんだ」


 たく……と深いため息を漏らしつつ、ソファーに背を預け天井を見上げる。


「まあ、俺は簡単には諦めねぇけどな。それに、簡単に見つかって欲しくないっていうのもある」

「どういうこと?」

「今の俺の状態は、長くて三分しか保てないないんだよ。だから、もう少し時間を延ばせてからってな」


 全盛期のアルヴィオですら、苦戦してしまった相手だ。

 今の状態で再挑戦なんてしたら、簡単に返り討ちにあってしまうのは確実。


「……まあ、だからまったりやっていこうって思っているんだけど。早く見つけたいって気持ちもあるわけで、もうぐっちゃぐちゃなんだわ、こう見えて俺って」


 指輪を外すと、雰囲気が一変。

 だらーっとしたアルヴィオに戻ってしまった。


「そこで、俺から提案なんだけど」

「……お聞きしましょう」

「ま、二人も予想はついていると思うが。パーティーを組まないか?」


 その理由は、強くなるため、というのもあるが。侵入制限区域へと入るためでもある。侵入制限区域とは、文字通り色んな理由があり侵入の制限がかかっている場所だ。

 魔者達が凶暴で、Aランク以上でないと入れないや。

 四人パーティーでなければならない、などの制限もある。アルヴィオは、そういうところにいるんじゃないか? と睨んでいるのだ。そして、そこには封印の魔女もいるかもしれない、と。

 それを聞いた二人は。


「いいよー! 二人とパーティーを組めるなんてすっごく嬉しい!」

「私も、と言いたいところですが」


 チラッとエルシーを見るミーシャ。


「パーティーリーダーはエルシーさんですよね? アルヴィオさんではなく。パーティーへの参加決定はリーダーが決めるのはふつ」

「私は構いませんよ」

「う……あの、そんな簡単に決めちゃっていいんですか? 自分で言うのもなんですが、ミザリィの時だとすごい迷惑をかけてしまいますよ?」


 ぽりぽりと頬を掻きながらミーシャはエルシーの反応をうかがっている。だが、エルシーは首を横に振り、にっこりと笑顔を作った。


「気にする必要はないですよ。私はむしろ楽しいって思い始めていますから。それに、秘密を知っている者同士手を取り合うのは当たり前のことです。冒険者は、助け合い、ですよ」

「まったく……エルシーさんは、お人よしというかアルヴィオさん以上に変わったお方ですね」

「そうですか?」


 自分では、普通のことだと思っているエルシーを見て、ミーシャはすごい妹さんですねと呟く。

 これには、アルヴィオもだろ? と満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、この四人でパーティー結成だね!! くぅ……! なんだか先のことを考えるとわくわくして」

「あっ」


 テンションが上がってきていたところで、ティカの髪飾りがまた独りでに外れてしまう。また、精霊の悪戯だろう。


「こない……私なんかがパーティーに入ったところで、絶対迷惑をかける……」

「あ、あれ? あのティカさん。なぜ、そんな離れた場所に?」


 髪飾りが外れた瞬間、台所の奥まで離れてしまったティカ。


「私なんかが、皆の傍にいたら絶対不幸になっちゃう……あっ、それどころか私がこのハウスにいるだけで……!」


 だっ! とハウスから出て行こうとするので、慌ててエルシーとミーシャは止めに行く。


「ま、待ってください! 大丈夫ですから! 不幸になんてなりませんから!!」

「え、えっとまずはこの髪飾りを……!」

「は、離して……! 私に触っていたら、変な臭いついちゃうからぁ!!」

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