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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第97話 ガルンドへの緊急報告(冒険都市にある冒険者ギルド本部の中の会議室のひとつでの出来事)


 クロノス達イゾルデ御一行が迷宮都市での一日目を終えて、明日に向けてぐっすりと眠っていた時のこと。




「えー、「モンスターが大量発生した地方での監視と報告の手順の見直しついてとそれに伴う予算増設案」の報告は以上でございます。皆様方、何かご質問は…」


 ここは冒険都市と呼ばれる冒険者の街チャルジレン。そして街の中央にある冒険者ギルド本部のとある会議室だ。そこには夜遅くであると言うのに多くの老齢の男女が椅子に腰かけて、若いギルド職員の男が一人彼らの囲む丸テーブルの中央の開いたところで先ほど別の会議室で終わった事案の報告を伝えていた。


「おい…」

「ああ…」

「さっきの事なのだけれども…」


 職員が報告を伝え終えたところで老齢の男女達へ質問が無いかと投げかけると、それまで一言もしゃべらず大人しく聞いていた彼らは一斉に声を上げ始めた。


「おい…このひとつ前の報告であった「属性術技とかの属性の名称はちょっと不公平感を感じるから改名しようぜ案」についてだが…やはり火属性という名称は炎属性に変えないか?ほら、例えば水属性とか風属性は「ミズ」と「カゼ」でそれぞれ二文字だろ?でも火属性は「ヒ」でたったの一文字…格落ち感を感じないか?だからこれからは火属性のことを炎属性と呼び、他属性との対等感を出して…」

「異議あり!!そうしたら「ホノオ」だから三文字なって他より優勢になっちゃうだろうが!!今のままでいいよ!!」

「なんだと!?それなら貴様は火属性が不遇でもいいってのかあぁん…!?」

「んなこと言ってないだろ!!お前が自分が現役の頃は火属性のエキスパートだったからって火属性を贔屓しているからそんなことになるんだろうが!!(エン)属性にでもしとけ!!なんかダサいけど…ぷぷっ。」

「おぉん…!?喧嘩の実演販売かな?俺買ってもいいのかな!?おいくら!?」

「ああ上等だコラ!!お代は高くつくがな!!売ってやるから表に出ろや!!」

「あの~」

「「なんだ!?」」

「ひっ…あ、あの…文字数の公平性で改名しようと言うのなら…()属性も(つち)属性へ改名するべきでは?それなら二文字になりますし…それと光属性も「ヒカリ」で三文字なので「コウ」属性に改めては…」

「「却下!!」」「ひぃっ!!」

「地属性を土属性に改める…?なんでそんなことするんだよ!!地って言ったらこの大地全部を表す。だが土はその中のわずかに一欠けら…どうしてわざわざ弱っちい感じに変えるんだよ!?火を炎にするのと訳が違う!!俺は地属性の術技は使えなかったがさすがにそれは擁護するぞ!!」

「コウ属性はもっとひどい…!!他の奴はどの言い方でもだいたい意味はわかる。だがなんだよコウ属性って…どんな属性かパッと聞いてもわからないぞ!!」

「バカか!?お前はバカか!?」

「そ、そんなつもりじゃ…ただ私は公平にするならそうしたほうがいいと…グスン。」

「あ~あ?年寄りジジイが寄って集って女の子泣かしていっけないんだ~!!せーんせにいってやろ~。」

「何だとコラ?もっぺん言って見ろ!!」

「だいたい女の子って言っても…そいつ四十半ばじゃねえか!?この中で一番若いってだけだろ!!」

「そうそう…そしてそいつは嘘泣きだ。こいつは女狐だぜ。」

「え、そうなの!?」

「あーあ、ばれちゃった…テヘペロ♪」

「キモい!!四十すぎでそれはキモい!!見ろよコレ。鳥肌が立っちまった。ケツの穴までイボイボだらけだ。」

「うわぁ…年寄りの裸なんて見たくないよ。見せてもらえるのならギルドの若い女の子の職員を…「セクハラです。人事部に訴えます。」…あちょっと待って。今の無し!!だいいち君には言ってないから!!お願いねぇ見逃して!!」



 …訂正。どうやら話を聞いていた老人たちは皆真面目に聞いてなどいなかったようだ。彼らは今のひとつ前で聞いた属性の名称の見直しの案とかいうそんなどうせもよさそうな件で互いを罵りあって喧嘩を始めていた。


「…はっ。…えーと…皆様…何かご質問は…」


 老人たちをからかっていた爺が後ろで控えていた職員に謝罪していたところで、年寄りの波に飲まれそうになっていた職員が我を取り戻した。そして年寄りたちに話を聞いてもらおうとしたが、年寄りたちは自分の喧嘩に夢中で誰一人取り合おうとしなかった。


「あ、あの…」

「よいよい。どうせいつものことじゃ。あいつら年寄りの名誉職で自分の部署では優秀な部下がみんな仕事やってくれるからやることがな~んにもないんじゃ。この時間までおらずにとっくに家に帰ってもいいのに家には居場所がないから茶飲み友達欲しさに余計な会議にまで顔を出すんじゃよ。そもそも半分はこの会議に出席する必要がない部外者じゃぞ?無視してよいよい。というか誰か追い出せよ。」

「しかしそれは…」


 話を聞いてもらえず困り果てていた職員の男は、そこで唯一誰とも話をせず自分に対応してくれた老人たちの中の白い髭の爺にそう言われたが、外の見張りの職員を呼びつけてその部外者たちへご退席願うことには随分な抵抗があるようだった。それもそのはずでこうして術技の属性の名称がああだこうだとくだらない話をしている爺婆連中…彼らは皆、この冒険者ギルドの本部で各部門の幹部格を務める者達だったからである。


「廊下に警備が二人いたじゃろ?そいつら呼んで儂以外追い出せ。」

「ガルンドさん…勘弁してください。自分には無理です…」


 ここにこうして立って話をしているだけでも若い時分には緊張の連続だったのに、そこに無理やりご退席願うなど職員四年目の自分にはとてもじゃないができたものではない。下手したら首が飛ぶ。仮に首が繋がってもどこぞの冒険者ギルドのまだ未発展な地方に新設されるであろう支店送りだ。結婚したばかりの愛する妻に突然田舎に赴任することになった。任期は未定だなどと言って見ろ。泣かれた挙句に実家に帰られてしまう。あそこのお義父さんには娘さんをくださいと挨拶に言ったら一発どころか十発は殴られてしばらく頬の痛みが消えなかったのだ。そんなことになったら今度は十発じゃすまない。


 職員の男は自分には不可能なお役目だと、一人自分と親身になって話してくれている幹部の男…ガルンドへそう答えるのだった。


「ま、当然じゃな。それなら…あいつらは無視して儂がまじめに全部聞いてやる。というわけでさっきの案での質問なのじゃが…」

「は、はいっ…!!ガルンド様どうぞ。」


 ガルンドは他のまともに話を聞かない幹部たちを追い出すのを諦めて、目の前の男の職員に先ほどの件の質問をしたいと片手を挙げた。彼に相手をしてもらえたことで嬉しくなった職員は元気よく返事してガルンドの名を挙げ質問を聞いた。


「それでは三ページの四番目の項目について…「ガルンドさん!!ちょっといいですか!?」…うん?」


 ガルンドが手元の資料を捲って目の前の職員に指でなぞって見せながら尋ねたい項目を告げていると、そこに会議室の廊下へつながる扉が開き、そこから一人の中年の女性ギルド職員が入ってくる。彼女は喧嘩する爺婆の顔を見てそれからそれの被害を被っていない端の席にいたガルンドを見つけると、そちらへ一目散に向かってきた。


「ガルンドさん大変です。今迷宮都市に置いている「草」から報告があって…」

「なんじゃいヌーテルハウ。今は会議中じゃぞ?何かあったのなら帰る前にそっちに寄るから後にせい。」

「ですが…せめてこれを読んでください。これは草が伝書鳩で送ってきた紙なんですけど…」


 会議中の会議室には許可無き職員はいずれも侵入禁止である。そのことをわかっているはずなのに入ってきた自分の部下のヌーテルハウにそう言って彼女を外へ出る用に促した。しかしそれを受けてもなおヌーテルハウは引き下がらず、手に持つ一枚の汚れの目立つ紙をガルンドの前に差し出したのだった。


「わかったわかった。あとで資料がうっすい報告があったらその時に読んでおく。」

「今読んで下さい!!大変なんです!!」

「なぜそんなに焦っているのじゃ…わかった。読むから…どれどれ…」


 紙を渡しても相変わらず引き下がらず今度はそれを今読んで欲しいと懇願するヌーテルハウ。仕方ないのでガルンドは簡潔にとその紙に目をやったが…そこに書かれていた文章を読み始めるとたちまち手が震えだした。


「…迷宮都市でS級二人が自分の運営するクランの部下数十人を率いて喧嘩じゃと…!?二人は…レッドウルフと賊王…!!しかもそこへ風紀薔薇(モラル・ローズ)が駆けつけて団員と共に強引に二人を捕縛するが…レッドウルフが暴走…大岩を落としたところに偶々現地にいた神飼いと終止符打ちがそれを止めた…!?」


 手を震えさせて報告の紙を読み上げていたガルンド。他に聞いているのは関係ない報告中の男の男性職員だけなのでわざわざ声に出して伝える必要はないが、おそらく動揺しているのだろう。


 しばらく薄汚れた紙をじいっと見つめていたガルンドだったが、やがて片手を放すと手元にあった自分の分の茶を手に取りそれを飲んだ。しばらくして手の震えも止まるとヌーテルハウへなんとか語りかけることができた。


「マーナガルフとヘルクレス…どうしてあいつらが迷宮都市にいるんじゃ…!?二人ともクランを率いて西の方へ行っていたはずじゃろ…?」

「ええ…確かマーナガルフ様はいつもの悪癖で赤獣庸兵団の団員と一緒に治水権で揉めて兵を出していたふたつの貴族の片方に志願兵のふりをして潜り込み。ヘルクレス様は西で発生したモンスターの大群を相手取った多人数戦(レイド)クエストにバンデッド・カンパニーの団員や現地のクエストに参加した冒険者と挑んでいたはずです。」

「そうじゃ…貴族の諍いはまだ兵を下げる段階まで終わっておらんからマーナガルフがそれをほっぽり出すとはとても思えんし…ヘルクレスの方はモンスターもほぼ殲滅して後は残党退治だけと聞いたが…それもどうしてまた迷宮都市に…?わからん…」


 ヌーテルハウからマーナガルフとヘルクレスのクランが行っていたクエスト(マーナガルフの方は違法なクエストである)の仔細を聞かされてからガルンドは両腕を前にがっちり組んで考え出した。


「それと…ディアナはまだわかる。前からマーナガルフに一目会って教育してやりたいと言っていたからな。ここからは迷宮都市はすぐじゃしそのうち手が空いたら行くのはわかっていた。シヴァルもモンスターの調査とエリクシールの捜索で送ったのは儂じゃからそれもわかる。…じゃがどうしてクロノスが…?」


 ガルンドの疑問はディアナでもシヴァルでもなく、ミツユースでクランを結成して本格的な活動を開始して団員の育成に勤しんでいるはずのクロノスだった。それからもガルンドは必死に五人のS級冒険者が同時に集まった理由を頭の中で必死に探ったが老いぼれの脳では答えは出せず、とりあえずそれを隅に置いてヌーテルハウに報告の続きを聞くことにした。


「続報は来ていないのかの?」

「私が部屋を出る直前に窓から鳩がもう一羽来ましたので軽く確認を。部署へ来ていただいてから見てもらおうと思っておりましたが…」

「よい。早う言わんか。」

「はい…喧嘩が終わった後で建物の消火活動を終えたギルド職員が駆けつけ、連行と弁償と粛清を拒否して逃走を目論んだマーナガルフ様とヘルクレス様を彼らの担当職員のコストロッターとバーヴァリアンが捕えたとありました。二人の指揮下の喧嘩をしたクラン団員も現地のギルド職員がワルキューレの薔薇翼との共同作業で多数を捕えたとのことです。しかし喧嘩もあったこともあり双方とついでに野次馬の冒険者に多数の重軽傷者が出た模様です。幸いにして死者はいなかったようですが…」

「当たり前じゃ。仮にも正義の側を名乗るS級冒険者が五人もいたのじゃ。これで死人を出すはずがない。それに冒険者の野次馬が喧嘩に加勢して負傷するのはここでもよくあるからいちいち気にせんわい。報告を続けよ。」

「騒ぎは収まったようですが…喧嘩のあった通りの店舗などでも破損被害は甚大らしく、追って怪我人の人数と個人の特定を含めて被害状況の報告をするそうです。」

「わかった。現地に何人か派遣せねばな。すまないのそこの職員…儂はちと抜けなければならなくなった。後は適当にして帰っておくれ。」

「えっ?あの…あちらの方々はどうしたら…」

「放っとけ。そら、嫁さんが待っている温かい家庭に帰るといい。美味しい晩飯が待ってるぞ?それから…おい!!儂は急用ができた!!部署に戻るからお主たちも適当に帰れよ!?」

「「「「は~い!!お疲れ!!」」」」


 ガルンドは質問を待って待機していた男性職員に一言告げ、それから未だに子どもみたいな喧嘩を続ける他の幹部へ軽く挨拶して席を立つ。その言葉を聞いて元気のよく返事してそれからまた喧嘩を始めた同僚達を背中に受けてヌーテルハウと共に退出した。 






「よくよく考えてみればあいつらがほっぽり出してここまで来る理由があるとしたら…やはり最近発見されたエリクシールじゃろ。戦いに明け暮れる武闘派の二人だとすればどんな怪我や病気でも治すというあれを欲しがるのは不思議ではないの。じゃがあいつらが怪我などそうそうするわけないから…誰か知り合いに大怪我を負った者でもいたのかの?しかし…不死の霊薬か…たった一人を治すために数多の求め人を集わせ、そして傷つけ遭わせる…まさに呪いの秘薬と呼ぶにふさわしいの。」

「ガルンドさん、早く行きましょう。派遣人員の選定を行いませんと…」

「うむ…もう皆帰ってしまったから、派遣が決まった者には明日出勤と共にそれを伝えなくてはならないのはかわいそうじゃが仕方ない。おのれあいつら…これはあいつらが裏で結託して儂を残業漬けの過労で倒れさせる作戦に思えてきたぞ…!!普段は好き勝手に共闘なぞ以ての外な態度の癖に、こういうときだけ仲良しなのじゃから…!!まぁそれでも遭遇したのがシヴァル以外はS級の人格では比較的マシな連中でよかった…他じゃったらと思うと…」


 ガルンドはそこで背中を丸めて肩を震わせる仕草をすると、それから口を止めて自分の部署に部下と急いで向かうのだった。

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