第94話 初めての依頼で迷宮を巡ろう(宿屋の向こうの大通りで誤解を解いた後の出来事)
「もういいよ…君達にとって俺の認識ってそんな感じだったんだな。ヴェラのおまけ…これに尽きるということか。はぁ…」
自分の専属担当職員のヴェラザードが隣にいて初めて分かる程度の存在の男。クロノスは自分以外のS級達がそう思っているだろうと決めつけてがっくりとうなだれていた。
「その…すまない。だが本当にヴェラザード嬢がいないと貴様だとわからないんだ。あまりにも纏う雰囲気と性格が違いすぎてな。彼女が隣にいることでかろうじて…何とか面影が…見えるような?」
「見えるような…?見えるような!?やっぱりまだ納得していねえじゃねーか!!」
「…すまない。」
「謝らないでくれ…なんだか俺がより一層みじめに見えてくる…」
「ヒャハハ、そんなに落ち込むなよ。終止符打ちさんの担当がヴェラザードのお嬢ってことはS級にとっては常識だからな。例えるのなら月とスッポン、ウサギとカエル、蝶々と花に、パンにジャム…そして終止符打ちさんにヴェラザードのお嬢ってな!!」
「ガッハッハッハ!!その通りじゃな!!この組み合わせは黄金比にも似た美しさと安心感を覚えるな。」
「なんか納得いかないが…理解できてもらえただけいいのかもしれない…」
「元気だしなよクロノス。良かったじゃないか誤解が解けて。」「ぎゅーい!!」
「シヴァル…!!君に元気づけられて喜ぶ日が来るとはな…人生分からないもんだな。」
「落ち込むことは無いッスよ旦那。」
「そうそう。」
「…おお君達。すまないな置き去りにして。」
さっきまで散々疑ったあげく今度は全然キャラが違うと言っていた三人のSランク冒険者のうち、マーナガルフとヘルクレスはいつの間にかそれを受け入れて互いに笑っていた。そこにヘルクレスの落とし前の時から話しについていけずに置いてけぼりにされていたイゾルデ達がやってきた。
「なんだか場の空気がふんわりしたような感じですが…終わったんですの?」
「ああ、もうこいつら喧嘩とかそんな気分じゃないだろう。」
「ガッハッハッハ!!そうじゃな。儂はもうマーナガルフの坊主とやる気もなくなったし、事の発端であった儂の子分を倒したお前への落とし前も無事終えてこれで手打ち…クランの評判にも影響はなさそうじゃしもうすることはない!!」
「俺様もだぜ。賊王と一対一でやれなかったことは残念だが…利き手の方のグローブも壊しちゃったしこれじゃあ爺さんともやれないぜ。でも今日は二回も喧嘩ができて満足だ!!ギャハハ!!」
「しかし儂の子分をばったばったと斬り倒すのはすごかったのう!!Sランク一年目のなり立てとはいえ、あれだけやるとは見直したぞ。」
「爺さんもな!!おじいちゃんの体でよくやるぜ。俺様の子分も強い方なんだがな。」
「「ガ(ギャ)ッハッハッハ!!」」
それぞれのクランのリーダーは喧嘩の時の互いの戦いを褒め合っていた。そこに先ほどまでの険悪なムードはまったくなく、二人は肩を叩きあって…はヘルクレスがあまりに巨漢であるために叶わないので、マーナガルフが飛び上がり彼の肩を力任せに叩いていた。そしてヘルクレスもまた優しめにマーナガルフの肩を上からたたき返していたのだった。
「喧嘩の後は互いに讃えあい…うん。それでこそ冒険者だ。頂点になってもそれは変わらないな。俺にはそんなこと無いから羨ましいよ。」
「あなたにも結構あると思いますがねクロノスさん。」
二人を見ていたクロノスの隣のヴェラザードが話しかけてきた。どうやら事の成り行きを見守り空気を読んで黙っていたらしい。流石は俺の素敵な担当だとクロノスは彼女の評価をまたも上げてから彼女の話に付き合うのだった。
「ま、そういう訳で君達が来る前に…来たけど全て終わったぜ。もうマーナガルフとヘルクレスの二人も交戦の意思はなさそうだし大事にはならんだろう。そうだよな?」
「ああ、儂も怒涛の展開の連続ですっかり筋肉が冷えちまった。特に最後の方の衝撃が凄まじすぎてもう何もする気にならん。」
「だな。おい爺さん。今日の喧嘩は引き分けってことで。お前らもそれでいいよな!?」
「「「いえ~い!!」」」
マーナガルフが子分たちに問えば彼らもまた敵だった団員と肩を抱き合い健闘し合っていた。話の間に気絶して倒れていた多くの団員達が目を覚ましており、その中にはディアナの部下に捕まって縄でぐるぐる巻きにされたものもいた。ついでに喧嘩をしていた参加者となっていた冒険者達も加わって讃えあっていた。
「というわけでこれで終わり。後はもう帰って寝るだけ…」
「いえ、まだ終わってはおりません…というか、これからもっと激しくなりますので。」
「あん?これ以上何があるってんだよ。」
クロノスが今度こそ帰ろうと言ったところでヴェラザードがそれを止めた。何事かとクロノスが聞けば彼女は大きくため息をしてから通りを見回したのだった。
「ではお聞きしますけどね…このメチャクチャにされた大通り周辺一帯…誰がお片づけをして誰が元に戻すのでしょうか?」
「…あー。」
「これは酷いありさまだな…」
ヴェラザードの答えにクロノスといつの間にか隣にいたディアナは目を背けていた現実に直視することを決めた。
赤獣庸兵団とバンデッド・カンパニーの団員とクランリーダーのぶつかり合いで今し方いるこの大通りは道にはゴミや何かの破片が散乱し、血なども乾いて張り付いている。その横に軒を連ねる店舗という店舗にはマーナガルフの狼星群・輝の岩をヘルクレスが砕いた時の破片が降り注ぎ屋根を貫通して店内に落ちてきていて、壁には飛んできた物や者が空けた大穴が空いてこれでは営業不可能だ。それに気絶して倒れている団員や野次馬もまだまだ多く…これを一言で表すのなら「とにかくひどいありさま」…これに尽きた。あちらこちらで喧嘩をして倒れていた冒険者を各々が縛り上げていたディアナの部下の女性冒険者達も作業の合間にその現実に目を向け憐れんでいた。
「困りましたね。通りで営業する店はギルドとは関係のない商会の物です。これだけ損傷がひどいと全軒立て替えた方がいいでしょう。その間お店も開けませんね。中の商品のメチャメチャですし…それに通りは掃除の業者も雇わなくては…さてここ問題です。くえすちょんです。これだけの被害に支払う弁償金…はたして誰の財布から出していただくのが道理でしょうか?はいみなさん解答をいっせいにどうぞ。」
「「「「バカヤロウ。」」」」
ヴェラザードの出題にクロノスとディアナと彼女のクランの女性団員。そして最後まで喧嘩の参加者にならなかった野次馬のナナミ達が気持ちいくらいに同時に応えるのだった。それを聞いたヴェラザードは指で丸を作って「皆様全員正解でございます。」と言ってから、後ろでずっと控えていたギルド職員たちを呼び寄せた。
「とりあえず逃げ出す前にそのバカヤロウをみんな捕まえてしまいましょう。この場合そのカテゴリに属する方々は、えっと…」
そう呟き顎に手を当てて考えていたヴェラザード。彼女は答えを見つけるとその妖絶な唇を上下させて、まるで死神の死刑宣告のようにその名を告げるのだった。
赤獣庸兵団
バンデッド・カンパニー
その他喧嘩に参加した野次馬の皆さま方
「「「「え。」」」」
その名を告げられた該当者。彼らは喧嘩をたたえ合うのを一時中断してヴェラザードの方を一斉に見るのだった。
「…以上でございます。それではみなさん夜間の出動になって大変申し訳ないのですが…その恨みはお馬鹿さんにぶつけてください。よろしくお願いします。中途半端なところは冒険者を使って完全に壊してしまいましょう。」
「「「「「了解!!」」」」」
「僭越ながら…騒ぎを事前に止められなかった責任として、我々ワルキューレの薔薇翼も手伝おう。…ピィー!!全員作業止め!!逃げられそうな元気な奴から先に捕まえろ!!…必要なら気の済むまで叩け。」
「「「「「はっ!!」」」」」
ヴェラザードとディアナの呼びかけで一斉に返事をしたギルド職員とワルキューレの女性冒険者たち。彼らはそれぞれが獲物に狙いを定めると、次々と走って行った。
「やべぇ…おい子分ども!!いったん解散だ!!各自適当に夜を過ごして朝になったら本隊と合流な!!」
「儂らもじゃ!!各自捕まらなかったらまた会おう!!…捕まった場合の弁償代は自腹じゃぞ。」
「「「へ~い!!」」」
走ってくる職員とディアナの部下たち。それを見たマーナガルフとヘルクレスは子分たちに逃げるように伝えて、自分達も敵に背を向けて走り出した。
「こらー!!待ちなさい!!」「弁償してもらうぞ!!覚悟しろ!!」「ギャッハー!!弁償なんて御免だね!!」「そうだな!!そこの赤コート。逃げ切ったら一杯どうだ?」「どの赤コートだよ!?」「俺か?いいねぇバンデッドの野盗よ。その後で娼館にでも行って嬢にご奉仕受けながら朝まで匿ってもらうか!!」「おい、俺も連れて行けよ!!」「俺っちが一番倒したんだから俺に奢れよな!!」「待てよ!!そっちの奴ら多く倒したのは俺!!だから…ぎゃあ!?」「…一名退治完了。次へ向かう!!」「おいおい…無駄話してたら追いつかれちまったじゃねえか!!」「走れ走れー!!」「おいお前ら!!俺も混ぜてくれよ!!」「一杯奢らせてくれ!!」「おう俺のファンになったか?いいぜ!!みんなで朝まで飲み明かそう!!」「逃がすか!!」「全員ひっ捕らえるわよ!!」「覚悟しなさい!!これだから男は…!!」「女もかなり混じってるけどね。」
クランリーダーの指示を受けて気の合った仲間や意気投合した元敵と笑いながら逃走する二つのクランの団員達。そんな彼らに喧嘩をしていた観客の冒険者達も合流していった。それをギルド職員とワルキューレの女性団員は一人また一人と捕えていくが、それでも取り逃された団員達は夜の街へ次々と消えて行った。マーナガルフとヘルクレスはそれを途中まで見届けてから自らの脚に力を入れて走る速度を上げた。
「俺様も全力で逃げてやるぜ!!」
「ガッハッハッハ…無事逃げおおせてみせるぞ!!」
「それは…」「…どうでしょうね?」
「「お?」」
前方からの聞き覚えのある声を聞き走りながらも奥の方を見た二人。そこには二人のギルドの職員が立っていた。しかし二人のうち片方は十にも満たない少女であり、どうみてもその辺の幼気な少女がギルド職員の制服を着ているようにしか見えず、もう片方は五十は超えているであろう老婆で、着込んでいた制服も孫の服をおさがりでもらって普段着にしているかのような感じだった。では彼女たちは夜中に出歩いているギルド職員のコスプレをした少女と老婆であるかと言われればそうでもなく、彼女たちはこれでも立派な冒険者ギルドの職員なのだ。
「げ。」「む。」
そんな少女と老婆の組み合わせを見て、マーナガルフとヘルクレスは反応して足を止めた。
「コストロッターのお嬢…!!」
「母ちゃ…げふん。バーヴァリアンのババア!!」
二人のS級は額から一筋の汗を流してマーナガルフは少女の、ヘルクレスは老婆の名を呼んだ。もちろんコストロッターとバーヴァリアンというのは彼女たちの名ではなく姓の方であるのだが…彼女たちは二人のS級冒険者の専属担当職員だったのだ。名を呼ばれた二人は怒りの形相で二人の担当を叱りつけた。
「こらマーくん!!よその人にめーわくかけちゃメッて言ったでしょ!?なにしてるの!!怪我人もこんなにいっぱい出して…!!」
「おいジジイ…いい年してんだからいい加減暴れる側でなく団員を嗜める側に回れと何度も言っているだろうが。お前の耳はもう片方と貫通してんのか?聞いてももう片方の穴から出てっちゃうのか?」
「お嬢…これは…」「許せ…つい遊び心がでちゃって…」
それぞれの担当に威圧された二人はたじろいで何とか言い訳をしようとしたが…
「「問答無用!!」」
「「ぐえっ…!!」」
それを二人の担当職員は許すはずも無かった。コストロッターはマーナガルフの鳩尾目掛けて頭突きを噛まし彼を突き飛ばし、バーヴァリアンはヘルクレスの頭部へ素早く飛んで彼の頭を蹴り飛ばした。その攻撃を受けた二人は横に三回転半飛んで通りの店のまだ無事だった壁に頭をシュート!!…したのだった。
「さすがはお嬢だぜ…」
「母ちゃんは強いなあ…幾つになっても敵わん…」
「「…がくっ。」」
「もう寝る時間だよマーくん♪起きたら後片付けのお手伝いだからね!!」
「お前もだジジイ。年寄りは早よ寝て早よ起きろ。なぁに、そのうちみんな捕まるんだからさみしくないわ。カッカッカ…!!」
辛うじて意識の合った二人だが、それだけ呟くと気を失って夢の世界へと旅立っていった。そんな二人をコストロッターとバーヴァリアンは壁から引き抜いて通りの向こうに地面を引きずって連れて行くのだった。
「ギルド職員の御方方…彼女たちも随分と強いんですのね。あたくし見直しましたわ!!」
「だからどうしてギルド職員はあんなに強いのさ!?」
「専属担当職員…恐るべし。」
「おいらもしS級になっても担当職員とか就けてもらわなくてもいいや。」
「アレン君、残念だけどS級の担当って強制的に就くらしいよ。理由は…見ての通りだね。」
「それ以前にあそこまで登り詰めるのが大変でしょうが…」
「この中ではセーヌ嬢が一番近いと思うッスけどね。」
「勿体無きお言葉ありがとうございます。ですが私ではまだまだでございます。」
「セーヌさんも割と人外スペックだと思うけど…世界は広いね。」
「そうだなナナミ。」
少女が成人男性を頭突きで突き飛ばし、老婆が三メートルの巨大な男を蹴り飛ばす。そしてどう考えても体格が合わないのに引きずってでも連れて行く…そんなシュールにも見えるその惨劇を離れたところで見ていたナナミ達ミツユース冒険者達は戦慄していた。
「…」
「隙あり!!風紀薔薇討ち取ったりぃ。…ぐえ!!」
「邪魔だ。寝ていろ。おいクロノス。ちょっといいか?」
「…」
「…?おいクロノス!!私だ!!」
「…ん?ああディアナか…どうした?」
「ふん、気配に反応しないとはますます終止符打ちの面影が無いな貴様は。それよりも…」
捕えられていく冒険者達とそれを捕える者達を見て何やら話し合っていたナナミたちを見ていたのは、ディアナだった。抵抗した赤コートの攻撃を見るまでもなく躱して手刀で相手を気絶させた彼女はナナミ達と同じように、しかし自分は黙って見ていたクロノスへ声を掛けた。最初はディアナに気付かなかったクロノスだったが、彼女が大声で呼びかけると反応を見せてディアナの方を向いた。
「彼女たちはいったい何者なのだ?他の野次馬と同じと思ったが彼女たちは喧嘩には参加していなかったようだし…シヴァル程ではないにせよソロ冒険者の貴様がヴェラザード嬢以外と一緒にいるのは珍しいな。」
「あれは俺のクランの団員と協力関係のミツユースの冒険者と今回のクエストの依頼主。団員の方は是非顔を覚えておいてほしいぜ。」
「なるほど…貴様のクランの団員か。貴様の部下なのだからさぞかし優秀な…って、おい!!ちょっと待て!!」
クロノスといたナナミやイゾルデたちは何者か?ディアナが彼に問い合わせて返ってきた答えに納得しかけたところで突然驚いていた。
「なんだよ急に…耳元で叫ぶなし。」
「貴様がクラン!?クランってあの…私みたいな…ってことは貴様はクランリーダー…!?」
「そうですがそれがなにか?」
「ありえん…終止符打ちがパーティーメンバーだけでなくクランを結成…!?明日は大雨と大雪と落雷と大量の飴が降り注ぐんじゃないのか…!!」
「驚きすぎだろ。俺がクランを作るのがそんなに珍しいのか?」
「珍しいっていうか…ありえないだろ…貴様が…!?」
「君達にとって俺ってどういう男なんだよ…」
「いやだって貴様は「隊長!!少しよろしいですか!!」…今行く!!えーっと…ごほん。」
狼狽えてありえないとか言っていたディアナだったが、向こうから部下の女性団員に呼ばれるとすぐに冷静になって言葉を取り戻した。頭の切り替えの早さはやはり大手クランのクランリーダーとしての資質か。
「クロノス…貴様がなぜこんなところにいるのか…そしてどうしてクランなぞ作ったのか…そんなことは今はどうでもいい。だがもしも必要以上に暴れるのなら貴様も私の獲物だ。後処理も兼ねてしばらくこの街に留まるからそのことをゆめゆめ忘れるなよ。」
「へいへい。気を付けます。」
「よろしい。それでは失礼する。」
ディアナはクロノスに念を押して伝えると、彼の返事を聞いてから自分を呼んだ部下の元へと駆けて行った。
「ルーシェの手当ては終わったか?」
「とりあえずの応急手当ては…しかし斬撃は瞼を切って眼球にまで及んでいるようで…もう片方の目も何やら痺れてよく見えないらしく…おそらく毒の類かと。」
「そうか…マーナガルフの奴私の可愛い部下に手を出しおって…!!後で覚えていろ…!!とりあえずこの街の医者に連れて行って診てもらおう。寝ていたら叩き起こす。私も肩を貸そう。立てるかルーシェ?」
「なんとか…すみません隊長…うう…」
「ルーシェ大丈夫?あなたは足だけ進めなさい。よいしょっと…じゃあいくわよ!!」
「ちょっと待ってくれ…おい!!私はルーシェを連れて行くから後はロウシェに頼むぞ!!二番隊は入場門の封鎖をギルド職員と一緒に解除しておいてくれ!!」
「「「はっ!!」」」
ディアナは冒険者を近くで捕縛していた部下たちに大声で呼びかけ彼女たちはそれに大声で返事をする。それを聞き届けたディアナはマーナガルフに手負いにされた団員に肩を貸し、同じく肩を貸した彼女を手当てした団員と共に向こうへ歩いて行った。
「…ディアナの所の団員も随分と優秀じゃないか…あれが…クランの形の一つなのか…?マーナガルフの所の赤コート連中もヘルクレスの賊どもも…みんな…」
「クロノスさん?」
「…え、ああ。すまないなナナミ。というかみんなも置き去りにして話を進めて悪かったな。さぁ、喧嘩も終わったしここにいても捕縛と片付けの邪魔になる。宿屋に戻るぞ。」
「そうだね。じゃあ帰ろっか。」
ナナミに声を掛けられクロノスは仲間に呼びかけ、宿屋のある通りへ歩き出した。その道がてら仲間達は喧嘩のことやその他の話で各自盛り上がる。
「しかしS級冒険者とそこのクランの団員とのぶつかり合い…壮絶でしたね。」
「そもそもS級が五人も同じ地にいること自体珍しいからね。末代まで語れるよ君達。良かったじゃないか?」「ぎゅいぎゅい。」
「そうなんですの?帰ったらメイドに自慢しますわ!!」
「イゾルデさんは元気だね…」
「わっ、シヴァルの旦那…まだいたッスか?」
「実は君達のいた宿屋は僕が拠点にして寝泊まりしているところでもあるからね。僕は個室だけど。」「ぎゅい!!」
「うわぁ最悪…どうか部屋が隣ではありませんように…!!」
「まぁまぁ、実は俺はシヴァルのモンスターへの知識に興味がある。今度時間がある時に話でもさせてくれ。」
「ホント!?いいよいいよなんなら今からでも話をしてあげるよ!!何から話そうか…じゃあまず僕がここのダンジョンで調べた珍しいダンジョンモンスターについて…」「ぎゅいぎゅーい…」
「アハハ、私たちは明日からダンジョンなんだからシヴァルさんもヘメヤさんも軽めにね…クロノスさんもそう思うでしょ?」
「そうだな。俺たちも明日から本格的にダンジョンだ。なんだか初日からすごいものを見させられた気もするが…あんな喧嘩はチャルジレンならあれほどではないにせよ毎日のように見れるからな。」
「え…そうなの…!?」
「ああ、なんせ常時A級以上の冒険者が四十人とそんな猛者たちを含めた優秀なクランリーダーがその地で運営する120を超える冒険者クランが毎日のように凌ぎを削りあっているからな…そりゃあ喧嘩の一つや二つ毎日のように見れる。だが不思議とそんなに重傷者や死人は出ないんだよな。」
「120って…てゆうか死人でちゃうんだ…私しばらく冒険都市にはいかなくていいわ。」
「自身がないならそうしておけ。さぁ、帰って寝よう。あ、ちょっと先行っててくれ。すぐに追いつく。」
「…?わかったわ。」
クロノスの話を聞いて驚き呆れていたナナミに彼は前を行くように伝えた。特に疑問にも抱かずに前を進んでいくナナミ達。クロノスは一度後ろを見て捕まり捕まえあう三つのクランの団員を目に入れてから、再び前を向いてナナミ達の後を追うのだった。