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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第9話 冒険者、供に(喧嘩を止めましょう)

 泣く子も黙り大の大男も堅気であれば尻尾を巻いて逃げ出すと言われる暗黒通り。時に暗黒街とも呼ばれるその町の一番街の細い道。その真ん中でスリ師の少年ダグは、うつ伏せになって倒れていた。これは通りに粗雑な藁巻を敷きそこで寝泊まりするような浮浪者と同じく、ここが俺のマイホームだぜ!!…と言う訳では決してなく、倒れているダグを取り囲む彼と同じ年頃の少年たちの仕業であった。


「よぉ、ダグ君よ。お前なんか最近すごく景気がいいらしいじゃねぇか?」


 俺たちにも分けてくれよと少年たちのリーダー格の男ゼルは、倒れるダグの右手を踏みつける。それを見て取り巻きの少年たちもゲラゲラと笑った。この光景をクロノスが見ていれば子供とはいえ品が無いと、酷評していただろう。


「お前の活躍のおかげでさ、こっちはだいぶ警戒されてるんだよ?だから…迷惑料にこれは貰っておくぜ。」


 そう言ってゼルは押さえつけたダグの右手に収まる、先ほど彼がナナミから盗み取った彼女の財布を、自分の手の中に収めた。

 ルールに厳しく表立った暴力沙汰は禁止されている暗黒通りであったが、それは裏の勢力の均衡が崩れ、殺し合いの地獄絵図になるのを防ぐためのものであり、背後に勢力がいない個人同士の諍いは、むしろ表よりもずっと多かった。

 通りに寝込む浮浪者は何事かと一瞬少年たちを見やるが、すぐに目をそらして無視を決め込む。助けに入ったところで自分に何も得はない。むしろ余計ごとに首を突っ込めば命に関わる。暴力に支配された暗黒街で少しでも長く生き残るためのコツは、幸運と薄情であることなのだ。


「ふざんけんなよ…!!返せよてめぇ!!そもそも騒ぎを起こしているのはお前たちの方だ!!俺はお前らとは違う。一緒にするな!!」


 ゼルに激高したダグは身をよじって立ち上がろうとするが、踏みつけられた右手に激痛を覚え、仕方なく力を抜いた。


「聞いたぞ。お前らまた表の店で強盗したんだってな。しかも今回は油を撒いて火まで点けたらしいじゃねぇか…!!」


 ダグの言葉にゼル達はまたゲラゲラと笑い、目に涙を浮かべた。何人かは笑いの余りせき込み、壁に手を当て息を荒げている。


「あー、ダグ君おもしろーい。しょうがねぇだろ?俺たちは食べ盛りで数も多いから大金が必要なんだよ。死人が出なかっただけありがたいと思っているだろうさ。むしろ感謝してほしいねぇ。ま、店員のジジイとババアは火を点ける前にボコボコにしたから、今頃二人仲良くベッドの上だろうがな。」


 もしかしたらもう死んじまったかもな。でもしょうがないだろうと、ゼルは全く悪びれる様子もなく弁明をするが、ダグは知っている。こいつらは最近になり、賭け事や酒。女の味を覚えたのだそうだ。何人かは目が泳いでいるところを見るに、何か危ない薬物もやっているのかもしれない。


「お前たちが盗んだ金をどう使おうが知ったこっちゃない。けど流石に放火や強盗はマズイぞ。そのうち警備隊がお前たちのことを嗅ぎつけて捕まえに来る!!」


 ダグは推測の範囲ではあるがそろそろ警備隊が大がかりな動きを見せるだろうと確信していた。ゼル達の犯罪は日増しにエスカレートしていっており、噂では既に暗黒通りに迷い込んだ者から金を脅し取り、時には命まで奪っているとも聞く。


「警備隊なんか怖くないよな?お前ら!!暗黒通りは裏社会のルールに守られているから、警備隊が来るはずがないだろう。それにさ…」

 

 俺たちは子どもだから、捕まっても謝ればきっと許してくれるさ。笑顔でそう答えるゼルとその仲間たちにダグは背筋が凍る何かを感じた。ゼル達は舐めているのだ。裏社会も表の人間も自分たちが子供だから大目に見てくれているのだと。しかし実際は違う。ゼル達は「子どもだから」今まで相手にされていなかっただけであって、「子供だから」の範疇を超えている罪を犯した今、表の勢力も裏の勢力も見過ごすはずはないと。


「お前も頭下げればウチのチームに入れてやるぜ?まぁ、俺の所で一番の下っ端からスタートだけどな。今月で下っ端が5人も「いなくなった」から、そろそろ補充したいんだよね。」


 ゼル達はミツユースのストリート・チルドレン・グループ「デビルズ」のメンバーだ。元々は過激ながらも少数派のグループとして、危険視されることも少なかったのだが、最近になってグループの頭が変わり、積極的な勢力拡大を目論むようになった。その手口は裏町に落ちた浮浪児を惑わし、時には酒や薬物の誘惑で言葉巧みに引き込むというもので、

その勢力は拡大の一途をたどり、いまやミツユース中の浮浪児の3割はデビルズに属しているとも言われている。しかしデビルズは食い扶持を得るための手段が少々、いやかなり強引なことで知られており、強盗や殺人に放火などは当たり前。特に最近は仲間同士の諍いや裏切り、犯罪の身代わり(スケープゴート)に下っ端を使うなど行為が段々とエスカレートしていった。そのためスリやゴミ拾いで生計を立てて静かに暮らしているその他多くの浮浪児たちにとってその存在は迷惑極まりない物だった。

 ダグの仕事仲間にも食い詰めるあまりデビルズに入ってしまい、やりたくもない仕事をやらされて困っている者がおり、ダグはデビルズのやり方にひどく恨みを持っている。


 ダグの手を踏みつけるゼルの足に力がこもっていく。このままダグの手が折れてしまうかと思われたその時、どこからかゼルに向かって一本のナイフが飛んできた。それに気づいたゼルはダグから足を離して間一髪それを避けると、ナイフの飛んできた方向に睨み付けた。そこにいたのはファリスだった。


「警告だ。それ以上の暴力行為は、暗黒通りのルールの抵触の恐れがある。今すぐ止めるんだ。」

「おうおうおう。冗談きついぜ、ファリス君よぉ。俺たちゃただ、ダグ君とじゃれあってただけなんだぜ?その証拠に、監視員も飛んでこないだろ?」

「阿呆が。監視員が来るかもしれないから警告しているんだろ。」


 しばらくの間にらみ合いを続けるファリスとゼルだったが、折れたのはゼルの方だった。ファリスの戯言を真に受ける気はないが、それでも監視員の存在は恐ろしい。万が一、本当に何かの誤解で監視員が来れば喧嘩両成敗でどちらもただでは済まないだろう。それに、目的のダグの収入もこの通りゼルの手の中。既に奪った以上無駄に争う必要はない。貧乏人だって無駄な喧嘩はしないのだ。


「わかったよ。ダグ君からはもう「奢って」もらったし、おとなしく引き下がりますよーだ。ダグ君、ご忠告ありがとさん。あー、うざったい説教聞いたら喉が渇いたから何か、飲みに行こうぜ。」


 ダグに一声かけると、ゼルとその取り巻きは足早に去っていった。ダグはゼル達に気付かれないように彼らに唾を吐いた。飲むと言ってもどうせ酒だろう。果たして彼らに酒を提供してくれる店があるのだろうか?いやどうせ提供を拒んだところで彼らは脅して手に入れるのだろう。あんな奴らを客にする店はかわいそうだが、知ったことではない。

 ゼル達がいなくなったのを確認すると、ダグは起き上がり、踏みつけられた手を確認した。激痛だったが骨は折れていない。大切な商売道具に何かあったらどうしてくれるのだろうか。


「痛え…クソ、あいつら人の稼ぎを全部持っていきやがって。また稼ぎなおしだ、クソ。ファリスも金を奪われる前に助けてくれりゃ良かったんだ。」


 ゼル達に悪態をつくダグだったが、背後に気配を感じてすぐに黙った。振り返るとそこには冷たい目をしたファリスが立っていた。さっきのが聞かれていて機嫌を損ねれば自分はどうなるだろうか。ダグは懐から愛用のナイフを取り出した。愛用とは言っても、所詮ゴミ捨て場で拾った刃毀れだらけのナマクラではあったが、人を殺める度胸もないし、自分にはこのくらいがお似合いかもしれない。

 いっそ相討ち覚悟でファリスと刺し違えるのも悪くない。自分はまず死ぬだろうが、悲しむ者もいない。どうせ浮浪児だしこの先生きていても何も期待できないのだ。


「助けてやったのに、その態度は何だ?」

「ボコボコにされた後に金も奪われたんじゃ、助けたとは言わねーよ。」


 ダグはファリスに悪態をついた。ファリスの言うとおりここは素直に礼を言えばいいだけだが、ダグに金を奪われたダグはひどく不機嫌だった。


「すまない。確かに無意味だったようだな。」


 それを聞いたファリスは謝罪をした。ゼル達を止めることができなかったことに対することに後悔があったのかもしれない


「別に怒っちゃいねーよ。そもそも相手は10人もいたんだ。ファリス1人で勝てるとは思ってない。」

「オレが1人で勝てるとは自分でも思っていない。それでも、仕事なのだから…」


 言い訳を並べるつもりは無かったが、自然と口が開くファリスをダグは手で制して止めた。


「そもそも、誰もお前には期待してねーんだよ!!ファリスがファーレンさんみたいにやってくれるのを、誰も期待していない。いい加減に門番ゴッコなんて辞めちまえ!!」

「…ッ!!」


 ダグの言葉にファリスは息を詰まらせた。その間にダグは立ち上がり、硬直するファリスを尻目に通りの向こうへと歩いていく。ゼル達に金を奪われた以上、ダグはまた大金を狙った盗みを働くかもしれない。しかしファリスは彼を引き止めることができなかった。


「私には、父さんのようにはできないのか…」


 その場に立ち尽くすファリス。通りには無視を決め込んだ浮浪者がいびきを立て、寝たふりを続けていた。



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