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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
89/163

第89話 初めての依頼で迷宮を巡ろう(続々・宿泊する宿屋の一階の食事処での出来事)

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氏名:シヴァル・ビートイーター

性別:男

年齢:25歳

ランク:S級

クラス:魔物使い(ビーストテイマー)

携わった活動:ダンジョン「蠱毒の魔窟」発見及び初踏破及び命名、新種モンスター カオス・ドレイクの発見及び命名、ゴブリン病の治療法の発見及び特効薬の調合法確立、暴君竜(タイラント・ドラゴン)の討伐、ソルジャーランドシャークの群れからのミズーエ村防衛作戦参加(討伐には成功したが自分のモンスターが暴れて村の半壊を起こし村民の負傷者を多く出したので報酬減額)、レインボースライムの発見及び捕獲(可愛くてしゃーないと言って引き渡し拒否のため不達成扱い)、ポイズンベアードの討伐及び研究のための生け捕り(生け捕りしたのに野生のありのままの生態が見たいとか抜かしやがって逃がしたため不達成扱い)、幽霊鎧(ゴーストアーマー)の捕獲(シヴァル以外が触れれず収監不可能なうえシヴァルも面倒くさいと触り方を教えなかったので不達成扱い)、熱帯ポイズンスネーク用の血清調合(血清は完成したが結成された研究チームの仲間を血清の実験台にして病院送りにしたので不達成扱い)、レッドサラマンダーの討伐及び素材 逆鱗の納品(逆鱗は納品されたがレッドサラマンダーは自分が育てるとか訳わからんこと言い出して討伐していないので不達成扱い)…等

現ランクでのクエスト達成率:19.5%

冒険者としての総合評価:こいつはひでぇや。早くこいつからライセンスを没収してくれ


・S級冒険者の一人で二つ名は神飼い。特定の土地で活動することはなく大陸中を渡り歩いており各地にあるアジトで生活して、どこかの地で珍しいモンスターの情報が入れば誰よりも早くその地へ駆けつける。彼の特筆すべき点は冒険者の中でも一、二を争うと言われるくらいのモンスターカテゴリに属する生物への知識量(本人はモンスターへの愛と主張)であり、クエストでもその知識を活かしたモンスターの討伐や、生態系の調査、その他にモンスター毒の解毒法や血清の作成と言ったクエストも行っている。

 そこだけ見れば潰しの利かない貴重で優秀な冒険者と言えるが、彼の抱く問題は他のS級冒険者と同様でとにかくわがままで協調性の欠片を持ち合わせておらず、自分の目的のためには他人のことなどお構いなしな点である。ひとたびモンスターへの愛情が目的を上回ればクエストの不達成や怪我人の発生もお構いなしに好き勝手やる。彼の異常性に付き合いきれず担当職員も幾度となく変更されており、その人数は二十を超えている。そのような人間であるためクエストも途中で台無しになって達成率も二割を切るほどであり、彼が所有しているモンスターの大半がギルドでは取扱いや生きている状態での輸送を禁止されている危険な生物であることもあってギルドからは常に危険視されている。…冒険者なのに。違法モンスターの所有や移送の件は幾度となくギルドから勧告されているが当の本人は受け入れる気はないようだ。ギルド上層部も彼を説得することは殆ど諦めており、幹部もはや自分の代で彼が問題を起こさぬよう祈りながら彼にクエストを指名する日々が続いている。

・大量のモンスターの飼育の問題については彼がどこかしらから雇った飼育員と呼ばれる人間が世話をしすることで解決している。その中にはギルドから派遣された彼の元担当職員の姿もあり、硬い意思のギルド職員がギルドを辞めたくなるくらいに心を掴む人心掌握術にも長けている模様。本人はより意思疎通が大変なモンスターと心を通わせようとしているのに、同種の異性ごとき心を操れないはずが無いとのこと。

・クエストなどに出かけるときは所有するモンスターの中からクエスト先の特性に合ったものを選び、モンスターを収容することができる古代の魔道具に入れて連れて行く。この際連れて行くモンスターの数は何かの拘りか必ず六匹で、彼曰くそれ以下でも以上でもバランスが悪いとのこと。

・本人曰く人間嫌いで普段は飼育員以外の人間と必要が無ければ積極的に関わらず無関心であるが、同じS級冒険者である終止符打ちとは互いに親友と呼び合うほどに親しく、彼の言うことはだいたいなら素直に従う。性格も全く違う彼らに過去に何があったかは他の誰も知らず、もしかすればそれを知ることがギルドが彼をコントロールするための切り札になるかもれない。調査予算の確保の検討を求める。切実に。

・現在彼はギルドに無断で行った某ダンジョンの研究およびダンジョン(コア)の不正改造の責を問われ身柄を拘束。チャルジレンにて軟禁され活動の多くを制限されており、前述の事件で資産を殆ど失いモンスターも殆ど没収されたことから大人しくそれに従っている。しかし優秀なS級冒険者に何もさせずタダ飯ぐらいにするのもどうかと一部で意見が上がっており、監視付きで不良のクエストを消化させる案が出ている。

・余談ではあるが彼の二つ名である神飼いについては宗教関係者や信心深い人間の間で物議を醸しており、主に神聖教会から「神すら飼いならせるという意味の比喩というのは理解できるが、さすがに神に不謹慎」と言った意見が出されている。そのことについてシヴァル本人に何代目かの担当職員が尋ねたことがあったらしいが、彼は「やだなぁ、神ならもう飼っているよ。三番アジトの地下の三つ目の部屋で放置プレイさせているよ。」と言ったそうだ。当然冗談のつもりで言ったことだろうがそのことを神聖教会に知られると対応が面倒になりそうなので極力秘密にされたし。



―――冒険者個人詳細資料の該当者のファイルより抜粋―――


~筆記されるギルド職員の皆様へのお願い~

冒険者個人詳細資料はギルド職員なら誰でも自由に作成・編集が可能なフリーの資料です。個人を誹謗・中傷するような内容や根拠の無い情報は書き込まないでください。この資料は皆様の善意によって成り立っております。ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。


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 クロノス達のテーブルでは皆が満足いく量の食事を終え、今は食後の余韻を楽しんでいた。そこに先ほど食後の酒や茶を承った女性の店員が両手に盆を掲げてやってくる。


「お待たせしましたー♪こちらご注文のお茶と食後酒になります!!それとご注文されたお塩…はメニューに無くてちょっと出せないので…料理の風味調整用に出している岩塩でございます!!こちらのヤスリで削ってお使いください。入れすぎにはご注意くださいね。こちらおさげしますね…それでは失礼します♪」

「おうありがとう。…そりゃ喰らえ!!悪霊退散!!」


 店員は酒や茶をそれぞれ頼んだクロノス達に配り終えると、最後にクロノスの前に更に乗った拳ほどの大きさのある岩塩の塊と、その横に石でできたヤスリを置いてから空いた食器を持てるだけ持って去って行った。クロノスは彼女に礼を言ってその背中を見送ってから、目の前の岩塩を手に持ちそれをどこかのテーブルから持ってきた椅子に座ってにこにことこちらを見ていたシヴァルに投げつけた。


「痛い!!どうして僕に岩塩を投げつけるんだい?せめて粉にしてから掛けてくれよ。そこにヤスリもあるんだから。」

「知るか。恨むなら気を効かせて普通の塩を出してくれなかった店を恨め。」

「もう…親友にすることじゃないよ。まぁそれも照れ屋な君なりの友情の証ってことにしておいてあげるよ。」

「誰が照れ屋だコラ。さっさと俺の視界から消えやがれ。そりゃこれも喰らえ!!亡霊撃退!!」

「あ痛!!ヤスリまで投げないでよもう…」


 岩塩の塊を頭に受けそこを擦りながらも親友の二文字を強調するシヴァル。クロノスはそれをうっとおしがってヤスリも投げつけるのだった。


「今度はこいつも持ってけ!!それ…」

「ちょっとクロノスさん。ご親友にそれは酷いではありませの。」


 岩塩とヤスリを頭に喰らっても相変わらずヘラヘラ笑うシヴァルに苛立ちを覚え、今度は岩塩が乗っていた大き目の皿をシヴァルに投げつけようとしたクロノスだったが、その手を止めたのは依頼主のイゾルデだった。


「聞けば久々の再会であるとか…そこは再会を祝って抱きしめるくらいしてもよろしいのではないですの。」

「あ、それイイネ!!さぁクロノス。僕の胸に飛び込んでおいで!!…ぐへ!!」

「誰が君の胸なんかに飛び込むか!!例え君がバストが豊満な女性だったとしてもお断りだ。」

「アハハ、君も面白いこと言うね。…おっと、危ない危ない。戻しておこうっと。ハハハ…」


 イゾルデの提案に普段は他人などお構いなしなシヴァルは名案だとそれを受け入れ、腕を広げてクロノスの体を迎え入れようとしたが、来たのはやっぱり皿だった。シヴァルは胸からこぼれ落ちそうだった皿をなんとか受け止めてテーブルへ戻してからまたもへらへらと笑うのだった。


「イゾルデ嬢。君はこいつの根を知らないからそんなことが言えるんだ。それに久しぶりと言うが俺はこいつに先月会ったばかりなんだ。はっきり言って向こう三年は会いたくなかったね。君達もそう思うだろう?こいつがこの間君達ミツユースの冒険者にしたことを思い出せ。」

「まぁ確かにこの人には以前迷惑かけられているけど…」

「わざわざ岩塩を注文してまで追い払う必要は…」

「なんだなんだ君たち、冒険者だから昔のことはネチネチ振り返らないってか?上等だ。」


 クロノスはダンツとキャルロに話を振るが、彼らとしてはシヴァルに前回掛けられた迷惑よりもクロノスの謎の行動の否定が上回るらしい。センスを理解できないやつらだとクロノスは舌打ちしてテーブルに肘をついて通りの方に視線を向けた。それは絶対にシヴァルと視界を合わせたくない。そんな意思にも見て取れた。


「アハハ、恨み言がないのはいい冒険者の証だね。」「ぎゅう!!」

「シヴァルの旦那。言っておくが俺らはあんたのことは恨んじゃいないッス。ここにいるやつらダンジョンの牢屋に落とされたとき大きな怪我は負ってないし、何よりトロルの魔貨で得た金でいろんなところのツケを払えてむしろ感謝しているくらいッス。だがミツユースの冒険者全員が全員感謝していると思うなよ?クロノスの旦那がくれたダンジョンポーションで大怪我は治ったとはいえ痛い思いした奴がいたことには変わりないんだから。それにあのダンジョン周辺の森もまだ危険で入れないッス。」


 シヴァルが改造したダンジョンの周辺の森には未だトロルの生き残りが何体も彷徨っており、並の冒険者が数人単位では大変危険な場所と化していた。犠牲者も出ているしそこでたくさん採れたアップールの実も採れなくなって大変だとナナミが言っていた。あと猫亭の裏庭にいるカメガモがいつまでたっても自然が元に戻りませんとがぁがぁ鳴いていた。


「アハハ、この度はご迷惑をおかけしましたー!!メンゴメンゴ。」

「旦那。こいつは真面目に謝っているッスか?」

「ふざけているのかもしれないし、あるいは本気で謝っているのかもしれない。なんせ人には無関心に輪をかけてそこにおまけで縄を巻いたような人間だ。人への謝り方なんて果たして知っているかどうか…」

「やだなぁ、僕はこれでも誠心誠意謝罪の意を示しているつもりだぜ?むしろこれ以上の謝り方があるのかい?あるなら教えて僕知らないから。」

「…だそうだが?」

「やめておくよ。私たちは特に何とも思っていないのは本当だし。ねぇダンツ?」

「そうッスね。だけどしばらくはミツユースの街に行かないことをお勧めするッス。シヴァルの旦那を恨んでいるヤツ結構多いッスから。」

「そうだね。ミツユースの街にはしばらく行かないさ。まぁ今の僕はギルドに身柄を拘束されているから勝手にチャルジレンを出ることはできないんだけどね。」

「そこだよ。君はなぜ迷宮都市にいるんだ?まさかさっきのゼルみたいに鉱山送りになった所を逃げ出したとか。」

「ゼルって誰だい?心配しなくても僕はチャルジレンから逃げてきたわけじゃないよ。そもそも愛する友達のモンスターもまだたくさん没収されているのに逃げられるわけないだろう。」


 シヴァルは一月ほど前にダンジョンの研究のために潜伏していたミツユースの管轄のダンジョンで、そこのモンスターであるトロルをダンジョン(コア)で操ってカメガモの捜索に来ていた何十人もの冒険者達を襲い、次々とダンジョンの中に捕えたのだ。結局その企みは駆けつけたクロノスと捕えらえた冒険者によって打ち砕かれ、哀れなシヴァルはクロノスにひっ捕らえられてチャルジレンまで連れて行かれたのだ。現在の彼はあちこちで問題を起こしたうえ違法性の高いモンスターを不当に所持していた件でギルドに身柄を拘束されている。そんなシヴァルがなぜここに?本人に直接尋ねたところ答えてくれた。


「ちょっと迷宮ダンジョンのモンスターの調査をギルドに依頼されてね。今の僕は君に捕まって一文無しでギルドに身柄を確保されている身だ。友達のモンスターのご飯代も稼がなきゃだし偶にはまじめに働かないと。でも出かける直前でガルンドの爺さんが「なんかお主が行く予定の迷宮都市でエリクシールっていうレアなお宝が出たらしいぞ。ギルドでも一つサンプルが欲しいから物のついでに確保してきてくれ。できればでいいぞ。できればな。…できれば…できれば…できれば…」なんて言われちゃってさ。できればってもうコレ完全にエリクシールがメインだよね?持って帰らなきゃ僕ガルンドの爺さんに説教でしばき倒されちゃうよね?」

「なるほど。ギルドもS級冒険者にタダ飯食わせるほど余裕ではないか。いつからここにいるんだ?」

「一週間くらい前からだよ。エリクシールが見つかった次の日にはこっちに来てダンジョンに潜っていた。迷宮都市とチャルジレンはミツユース以上に隣同士みたいなものだからね。メインのモンスターの調査の方は既に終えて後は帰ってレポートをまとめるだけなんだけど、エリクシールの方がまだだから帰るに帰れず適当にダンジョンを彷徨い歩く日々…と言う訳さ。」「ぎゅーい…」


 シヴァルは自分の近況を語りおいおいと泣く真似をしてそこにクロザコウサギのブラック君が「泣かないで?俺がついているよ?」と彼を慰めた。


「ありがとうブラック君。君のおかげで元気百倍さ。」

「くだらん芸は終わったか?それで君の方の収穫は何かあったか?それらしいものを見つけたとか。」


 シヴァルからそれとなく情報を得ようと尋ねたクロノスだったが、シヴァルの方もあまり成果は芳しくないようで、彼はその問いに首を横に振って答えたのだった。


「あまり良くないかな。僕も迷宮ダンジョンは初めてだしパーティー組んでくれる奇特な冒険者はいなかったからソロでの挑戦だった。ダンジョンへの挑戦のためにギルドから没収されていた友達も何体か返してもらえたからサクサク進めたよ。今は23~27階層目を毎日延々とループしている。そこのマップのどこか一か所だけで出現する珍しいダンジョンモンスターを狙ってるんだ。」

「エリクシール狙いなんかモンスター狙いなのかはっきりしろよ。」

「いや僕だって偶のお仕事くらいは真面目にやるよ?実際の所はモンスター探しはついででギルドが保護しているエリクシールを見つけた冒険者の実力的にその辺の階層が一番怪しいかと思ってね。」

「そうか…いくら情報は規制されているといってもギルドはその情報をいくらでも使えるんだものな。ギルドから派遣された君なら当然情報を貰っているか。」

「フフ、そういうこと!!どうせ君達もエリクシール狙いで来たクチなんだろう?そちらが依頼をしたお客さんかな?」

「イゾルデ・ベアパージャストと申しますの。初めましてですわ。S級冒険者神飼いのシヴァルさんにお会いできて光栄ですの。」

「ベア…?ああ、よろしく。ククク…!!」


 イゾルデはシヴァルに自己紹介をしてがっちり握手を交わすが、シヴァルは静かに震えていた。


「さて…情報だったね?欲しいのなら親友価格で譲ってあげるけど?」

「いいのかよ?ギルドの極秘情報だろ。」

「知るかよ。どうせ僕が黙っていたって君の担当が君にこっそり漏らすだろ?来てるんでしょヴェラザード嬢。」

「そうだな。少しでも手に入る可能性を高めたいから頼む。ではまずこちらが知っている情報だが…」


 クロノスはイゾルデが教えてくれた情報をシヴァルにそっくりそのまま伝えた。途中で雇主の許可なくそれを教えるのはまずかったかとイゾルデの方を見たが、彼女はシヴァルがクロノスの友人であるらしいと言うことと、彼もまたS級冒険者である事からその身元を信用したらしい。自分の分の食後の茶を啜って大人しく話を聞いていた。ならばいいとクロノスは話を続けたのだった。


「――まぁそんなところだ。何か他にこれ以外でエリクシールが見つかった階層やマップについて参考になりそうな情報は無いか?」

「悪いね。もっと不正確な情報しかもっていないものだと思っていたんだけど、そこまで正確だと話すことが無いな。保護されている冒険者達なんだけどエリクシールの副作用か自分達がダンジョンに入っていたときの記憶がひどく曖昧らしくてね。持ち物も急いで帰るのに慌てて殆ど落としてきて魔貨やドロップアイテムやお宝なんかも何一つ持っていなかったから階層の特定ができなかったそうだよ。せめて肉体に致命傷の傷が残っていれば僕が見ればどんなモンスターやトラップが原因か見極められるんだけど…流石にエリクシールの前に残る傷痕なんてないからね。僕も全員を隅々までチェックしたんだけど…ちょい耳かして…」

「なんだ…ふんふん…あーそりゃ…そんなところまで治るの!?いや治るっていうかそれはもはや…エリクシールすげぇ!!」


 シヴァルに請われて耳を彼の口元に寄せ話を聞いていたクロノスは、その冒険者にひどく同情するような口調で納得してからエリクシールの性能に驚いていた。


「そこまで治ってるんなら彼らの肉体からはヒントは得られないだろうな。」

「でしょ?彼らが直前にどの階層に挑戦したのかその時対応していた門番の職員を何とか見つけて彼にも聞いてみたんだけど、たくさん挑戦者がいた時間に来たもんだからどこの階層に送ったか全然覚えてないって。しかたないんで酒場とかを片っ端から当たって保護された冒険者と知り合いのパーティーとかに話を聞いて彼らが普段挑戦していた階層を割り出してその辺を当たってたってわけ。そこが23~27階層目で偶々珍しいモンスターが出るマップもあるから僕もやる気ってこと。わかった?」

「わかったわかった。君もしっかり仕事しているんだな。」

「それ全部お一人で一週間でお調べになられたんですの?」


 イゾルデは説明をしてくれたシヴァルが一人でそこまでの仕事をやりきってダンジョンのエリクシールが見つかる可能性が高い階層を見極めていたことに驚いていた。


「もちろん情報屋とかもちゃんと使ったよ。元の情報だってギルドありきなわけだし。」

「それでも一週間でそれはすごいことですわ。とても優秀な冒険者なのですわね。」

「シヴァルはモンスター狂いに見えてそういうの実は得意な奴だからな。仮にもS級の一人だ。しかしそうか…20階層目以降となると…俺たちではそこまでたどり着くのに時間がかかりそうだな。」


 クロノス達はクロノスとクルロとキャルロ以外全員迷宮ダンジョン初挑戦だ。夕方のうちに猫亭メンバー+イゾルデは一階層目を踏破したがそんなもの焼け石に水だろう。


「なぁクロノス。私達の実力で20階層目付近までは何日あればたどり着けるんだ?」

「さぁな…地上にも戻らずダンジョン内で寝泊まりして全力で走り続けても…一週間では厳しいな。だが15階層目付近でアレンとナナミとあと君の実力の方が先に限界が来るんじゃないのか?セーヌならば余裕だろうが…」

「そうか…もしも私達が足手纏いなら私達を外し、ダンツ達の方から引き抜いてパーティーを再編成しても構わんぞ。クルロとキャルロは迷宮ダンジョン経験者だし、それならばきっと…」

「リリファちゃんの自分の実力不足を弁えた献身的な申し出はありがたいけどね、そこまで深い所は私とクルロでも行ってないんだ。私達のベストは十二階。そこでも油断すれば死人が出るくらいだから適当に個人の実力だけで組んだパーティーじゃね。」

「…あの、とゆうかお一人で20階層以上を何度も踏破できるシヴァルさんはもしかして…結構すごいんですの?」

「まぁS級ですし。」「ぎゅいぎゅーい!!」


 イゾルデにおそるおそる尋ねられ、そうですがそれがなにか?と言った感じで適当に流すシヴァルだった。


「どちらにせよまずはある程度の階層まで行かないことにはどうしようもない。まだそこに確実にあると決まったわけではないからこれからの進展を見て考えよう。それよりシヴァル…君はもうマーナガルフに会ったか?」

「レッドウルフだろ?顔を合わせても何もいいことはなさそうだから赤獣の連中が歩き回っている時は宿で寝るかダンジョンに籠ってる。幸い彼らとは活動時間が真逆でね。この一週間は何とか躱せているけど…ついさっきここを通って行ったみたいだね。」

「ならバンデッド・カンパニーの方は?」

「バンデッド・カンパニー?ああ、確かに奴らもいたね…夜な夜な街で女の子ナンパしているようだけど勝率はよくないみたいだ。」

「クロノスさん。バンデッドカンパニーと言えばキャルロさんに声を掛けていたあの野蛮な男性たちもそこの団員でしたよね?あそこも何かあるんですの?」

「バンデッドのクランリーダーもS級なんだ。しかも場合によってはマーナガルフよりヤバい。」

「え!!そうなのですの!?でもS級はそんなにたくさん同じ場所にはいないとさっき…」

「あいつなら心配はしなくていいよ。今街にいるのは先兵らしくてね。リーダーのあいつはまだ来ていないようなんだ。僕の見立てでは早くても明日ごろに…なんだい?」


 シヴァルが話していたところに赤獣庸兵団が歩いて行った通りの向こうで激しい音が聞こえてきた。皆が話を打ち切りそちらへ目をやればそちらには人ごみができておりなにやら騒ぎが見て取れた。それを見たクロノスは額に汗を一つ流す。


「おいシヴァル。さっき君はまだ奴は来ていないと言わなかったか?」

「アハハ、僕の見立てが外れたね。まぁ僕は預言者でもないし…今日はもう夜中なんだからあと数時間で明日だろ?なら許容範囲内のずれってことで一つ…」

「よくない。もしあの騒ぎの元が俺と君の期待する奴で、それがマーナガルフと衝突したらやばい。」

「どうしたクロノス。そんなに汗水を垂らして…奴って誰だ?」

「決まってんだろ。バンデッド・カンパニーの…ああもういい。」


 クロノスは自分の分のほとんど残っていた茶を一気に飲み干すと席を立ち騒ぎの方へ歩き出した。突然の行動に誰もが動けないでいたが、その中でただ一人涼しい顔のシヴァルがクロノスへ呼びかける。


「面倒なのは僕はごめんだね。万が一何も関係なくてマーナガルフがただずっこけただけかもしれないから、僕はここでこの子たちと…そっちの混沌の食卓を眺めておくよ。」

「ああ頼む。リリファ、もし俺が戻らなかったら全員連れて来てくれ。そっちの酒に酔っている連中とそれの相手している連中も。野次馬は好かないがちょっと見に行ってくる。」

「ああ。でもそいつら簡単に酔いを醒ますだろうか?」

「セーヌに頼めばなんとでもなる。勘定もこれで頼むぜ。」


 クロノスはリリファにナナミ達も頼むと伝えて金貨を一枚投げてから通りの向こう…他にもたくさんの野次馬が駆けつけていた方へ向かっていった。



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