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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第82話 初めての依頼で迷宮を巡ろう(迷宮都市までの街道の山間の中腹辺りでの出来事)


 エリクシール。またの名を不死の霊薬ともいい、高難易度のダンジョンで極々まれに見つかるお宝の一つである。見た目はガラス細工の酒瓶に入った無色透明な液体であり、飲んでみれば何の味もしないただのつまらない酒であったと飲んだ人間は語っている。しかしその効果は不死の霊薬の名にふさわしく絶大であり、それを飲むと例として飲んだ人間を侵す不治の病を復し、死ではない永久の眠りにつき意識の戻らない者を立ちどころに目覚めさせ、生まれつき足が不自由な者は立ち上がって走りだし、盲目の人間は誰よりも遠くの物を例え暗闇でも視界に捉えられるようになり、事故や怪我で手足を失った者はそこから手足が生えてくる…それほどの肉体の回復効果を持った不思議な酒なのだそうだ。有識者によれば古代に栄えた文明の時代に錬金術によって作られたものであるらしい。その有用性に目を付けてギルドや各国の研究機関がエリクシールの成分や効果を調べたがっているが発見例が少ないことと、中身を一滴残らず全て飲まなくては効果がないということから、各国の富豪や貴族王族が少ない発見例を大金を出して買いあげ、すぐに怪我や病を負った自分や家族に飲ませてしまうため今までに一度も調べられていない。現存する唯一の物は神聖協会に属する教会騎士が手に入れそれを聖地へ献上した一本だけであり、そこを覗いて見つかった物は既に使用済みだ。そういったわけで極稀に見つかった際は、もしかしたら自分も手に入れられるかもと数多の冒険者が発見されたダンジョンに挑戦するのだった。



ーーーーー



 次の日の事。朝一番を告げる雄鶏が鳴き出す前。まだミツユースの東の空に太陽が昇るよりも早くに迷宮都市へ向かう猫亭御一行は業者から借りた馬車に乗って街を発った。旅とダンジョンで必要な道具は前日の午後にそれぞれ十分な準備をさせていたがミツユースからは迷宮都市は近い。なので食料や野営の道具も大して必要なくダンジョンで必要な水や携帯食は現地調達にするつもりだ。今は昼前の午前中。迷宮都市とミツユースを繋ぐ街道のある山の中腹辺りをゆっくりと進んでいたのだった。


「わぁ!!見て見てリリファちゃん!!ミツユースの街が見える。あんなにちっこいよ!!大きな街なのに不思議だねぇ。」

「うむ…こうしてみると何か感慨深いものがあるな。そういえばここまでミツユースを離れるのは生まれて初めてかもしれない。」

「そうなの?でもダンジョンに挑戦するためにあちこち行ってたじゃない。」

「外のダンジョンももここまで離れてはいない。ミツユースの管轄内だぞ。しかし小さい街も面白いがやはり海とは広いものだな…あの海の先には何があるんだろうか?」

「そうだね。きっと未知の大陸とかがあって見たことも生き物や食べたことない物がいっぱいあるんだろうね。」


 二人は借りた大人数用の馬車の天井を占領して、ナナミが山と森の合間から見えたミツユースの街を指さしてはしゃいでいた。その横でリリファが騒がしいと窘めていたが、初めて見る小さな故郷に感動していたらしい。いつもの固めな口調を今は早口にして、ナナミの話に付き合うのだった。


 山中に続くチャルジレンと迷宮都市までの道は国とギルドによってすっかり整備されており、今ナナミ達が乗っている大きめの馬車が2台すれ違っても十分な広さがある。往来も激しく何人もの徒歩の通行人を追い抜き、時折反対方向からの馬車がすれ違っていた。今もまさに反対側から馬車が一台来てナナミ達の馬車の横をすれ違っていった。


「おお!!見えたぞ!!あれが海か…!!話に聞いていたよりもでっかいなぁ…」

「あそこがミツユースの街?随分と小さいんだね。」

「はっはっは。近づけばその大きさが分かるさ!!」


 すれ違った馬車の中で冒険者の集団が初めての光景にナナミ達と同じように興奮して各々が何やら言っていた。ああ若いとはすばらしい。もっと見たこと無い物や初めて見る物に心を奪われるといい。それこそが良い冒険者になるための近道だとクロノスは馬車を見送ってから、馬車の中の現実に改めて対面した。


「君も外の景色を眺めなくてもいいのか?地平線の先まで広がる海というのは結構貴重な光景だぜ。」

「遠慮しておきますわ。下手に顔を覗かせてあたくしを知る誰かに見られでもしたら面白くありませんの。」

「そうか。君は依頼客のなのだから嫌と言うなら強制はしないさ。」


 馬車の中には少しの荷物と今回の仕事の依頼者であるポーラスティア国の現国王であるカルヴァン王の第一王女イザーリンデ・カルヴァン・ポーラスティア。そしてヴェラザードに十一人の冒険者が乗っていた。その内訳はクロノス、ナナミ、リリファ、セーヌ、アレン…そしてクロノスが暇ならば付き合えと声をかけ、行きたいと着いてきた六人だった。クロノスと隣のヴェラザードとイザーリンデ以外は、皆ナナミ達と同じように外を見るか適当に話をして道中の退屈な時間を潰していた。ちなみにこの街道は腕っぷしに自信のある冒険者がたくさん通るので過去に山賊や野盗の類は殆ど出た試しがない。なので警戒の必要はなく、一応セーヌが警戒役を買って出てくれているがまずいらぬ心配だろう。そのことをイザーリンデも知っていたようで警戒に力を入れないことに何も言わなかった。


「でだ。イザーリン…いや、イゾルデ嬢。」

「イゾルデで結構ですわ。」


 イザーリンデはこの依頼の間、自分をイゾルデ・ファリシテルと呼ぶようにクロノス達に伝えていた。それは当然だろう。この国の第一王女の名を名乗り顔までそっくりな者がいたら誰だって注目する。クロノス達が本当の名を欲したのはあくまで彼女との間に対等な協力関係を築くための信用のため。全員が彼女の名を知った以上本当の名を使い続けるのは精神衛生上よろしくない。できればこの依頼の間は誰にも彼女の正体を知られたくはないと双方意見を一致させ、イザーリンデは支店の時と同じく地味な格好で帽子を目深に被って銀の髪と美しい顔立ちを隠していた。


「出立の前に申しました通り、この依頼の間には絶対にあたくしの真名を呼ばないでくださいませ。不便ならば敬語も不要ですわ。とにかく、あたくしのことは謎の依頼客I程度に思ってくれて構いませんの。」

「まぁ本人がそれでいいのなら…で、聞きたいことがあるんだが。」

「どうぞ。エリクシールの使用目的以外でしたら、あたくしに答えられること何でもお答えしますわよ。…常識の範囲内で。」

「いや、君がエリクシールをどう使おうが俺らは知ったこっちゃない。契約はあくまで入手と引き渡しなのだから。君が知られたくないと言うのなら、多めの報酬を口封じ代として頂いている。それだけの話だ。」


 依頼の内容や自身の名と身分を明かしたイザーリンデだったが、エリクシールを入手できた場合の使用目的についてはまったく話さないでいた。そのことについては前述のとおり口封じ代とも取れるだけの報酬を半分前払いで寄越されていたので全員頭から消すことにした。もしかしたら冒険者の中には知りたい者もいたかもしれないが、仮にも一国の王女に無理やり聞き出すような無礼など働けない。そのため誰も聞かなかった。


「そんなことでなくてな…君、護衛とかいないのか?お姫様としての、外出時の護衛。」

 

 クロノス達の乗る馬車には、猫亭の団員とヴェラザードと着いてきた冒険者。それとイザー…私もイゾルデと呼ばせてもらおう。イゾルデ嬢を除いて他に誰も乗っていなかった。ならば後ろからこっそり護衛の騎士でも着いてきているかと思いここまでの道のりでも何度か後ろを見て確認したが、そこには通行人以外誰もいなかった。


「もちろん普段なら王宮の外を出歩くときは、隣に侍女を連れて後ろからはこっそり変装した騎士が何人も着いてくるのですが、今日はいませんわ。王城からも無断で抜け出してこちらに来ましたわ。いたら面倒ではないですの。」

「…おい。」

「あたくしには優秀な影武者が一人おりまして、今は彼女にあたくしの役を務めてもらっていますの。おそらく騎士も侍女も誰一人気付いておりませんわ。流石にいつまでも隠し通せるとは思いませんが…まぁ依頼が終わるまでは大丈夫ですの。」

「ならいいや。」

「いいの!?」


 イゾルデの回答に満足して質問を終えたクロノスに、待ったの声を掛けた男が一人。この馬車の中で一番年下の少年アレンだった。


「なんだよアレン。」

「大問題だよ!!一国の!!お姫様が!!無断で!!お城から!!出てくるなんて!!」

「本人がいいって言ってるんだからいいんだよ。幸い気付かれないように代役がいるようだし。冒険者はクエストに支障をきたさないのなら、依頼人の事情なんていちいち気にしないの。俺はてっきり護衛がイゾルデ嬢を見失ったのかと思い、それなら煙幕でも立てて呼ぼうかと考えただけだ。」

「いやクエストに支障があるでしょそれ絶対!!おいらたちが姫様を誘拐したとでも勘違いされたらどうするの!?」

「君は気にしすぎだアレン。まだ民間人としての常識が残ってるからおかしいと思うんだ。慣れろ。」

「う~ん納得いかない…ヴェラザードさんはいいの?」

 

 満足げなクロノスとは逆に納得いかないアレンだったが、クランリーダーである彼に口答えしても無駄と思い、常識的な回答を求めて涼しい顔で状況を見守っていたヴェラザードに尋ねた。彼女は揺れる馬車の上でも器用に書いていたバインダーに挟んだ記録用紙を畳んで仕舞ってから、アレンの質問に答えるのだった。


「大丈夫だと思いますよ。もちろん無断で王城を抜け出したり依頼を出す件を国王のお耳に伝え入れなかったことは問題だと思いますが…なによりこちらにはクロノスさんがおりますから。彼女の身の安全は既に保障されてるものとお考えいただいても相違ありません。」

「そういうことだ。ギルド職員のお墨付き。依頼者が現地についてくるならその護衛は冒険者の必須義務なのさ。きちんとやるから心配するな。」

「…やっぱり納得いかない。でもそれがクロノス兄ちゃんの判断ならおいらはそれに従うよ。それがクランの団員なんでしょ?とりあえずおいらも外見て来る。」

「その方が良いですよ。とりあえずわからないことはクロノスさんとヴェラザードさんにまかせて、私たちも外の景色でも眺めていましょう?」

「そうだねセーヌ姉ちゃん。おいらも遠くから街や海を見るのは初めてだよ。よっと…」


 アレンはなんとか理解できないともがく自分の心を抑えるとセーヌに勧められ、彼女とともにナナミとリリファがいる馬車の外側に移動していった。


「すまないな。彼はまだ冒険者になりたてなんだ。今回はあいつとリリファの育成もあるから大目に見てやってくれ。足りない所は俺がカバーする。」

「ただでさえも団員が貴方も含め五人しかいないのにそのうち二人はまだ新人の子ども…もはやあなたの実力に疑問を持つことは諦めましたが…本当に大丈夫ですの?このクラン。」

「クランに関してはまだ芽が出たばかりでこれからだが、全員のケツを俺が持っている以上安心しろ。むしろ気にしてほしいのは…そもそもエリクシールの入手など夢のまた夢ということだ。それは発つ前にも言ったが、ご理解されているかな?」

「…ええ。たしかにあたくし以外にエリクシールを欲して迷宮都市に多くの人間が向かっていることは百も承知ですの。そもそも一国の王女「程度」の人間がその情報を掴めたのですから他にも随分情報が行き渡っているはず…」


 この人数でダンジョンのどこから出るのかわからないエリクシールを探すのは例えるのなら砂漠の中に落とした一本の針を探すよりも難しい。さらには自分達と同じくそれを狙う人間は他にもいる。イゾルデはそのことは理解しているとヴェラザードに視線を向ける。彼女はそれを発言の許可と受け取り代わりに応えるのだった。


「前日のうちに支店で問い合わせておきました。報告によるとエリクシールを発見したパーティーが迷宮ダンジョンから帰還したのはおよそ一週間前。そのあとギルドはすぐに情報の規制と発見した冒険者達を保護しております。しかし素早い対応だったにもかかわらず本部にエリクシールを買い取りたいという問い合わせが殺到したそうです。そのことから考えても、おそらくはかなり情報が漏れているかと。」

「そうですの…やはりライバルは多いですわね。」

「各国のスパイをあえて泳がせている部署も多いですからね。それに情報を売渡してその見返りに金銭を得ようと目論む人間らしさも職員はきちんと持ち合わせております。人の口に戸は建てられませんし、欲望に蓋はできません。ちなみに彼らが持ち帰った一本のエリクシールもそのうち競売にかけられるとのことですが…そちらの入札で入手を間に合わせるおつもりは?」

「ありませんわ。いくらポーラスティアがそれなりにお金のある国と言えど、あたくしの扱えるお小遣い程度の国庫の予算ではとても…それに大金を動かせば国に、お父様に感づかれてしまいますわ。ですからあたくしが雇える冒険者の人数はこれが精一杯なんですの。」

「現地で雇おうとしても今迷宮都市にいる冒険者も誰かに雇われてエリクシールを狙う輩ばかりだろう。そいつらを雇えるとも思えん。」

「ポーラスティアから迷宮都市へ行くのが早いのにわざわざ遠回りしてミツユースへ来たのも、こちらに少しでも腕利きが流れ着いている可能性に賭けてなのですわ。…一応目論みは上手く行った?ようですが。」

「こらこら、ハテナをつけるんじゃない。それより感づかれるってことは王にも言えぬ個人の事情によるものなのか?」

「さて…これ以上はエリクシールの用途を悟られかねませんのでノーコメントとさせていただきます。…ギルドの職員もいることですしね。」


 イゾルデはそう言ってクロノスの隣を確保しているヴェラザードに微笑んだが、それに気づいた彼女も強く微笑み返したのだった。冒険者には納得してもらえたが一国の王女の秘密の依頼をギルドはどうとらえるのかわからない。今は大人しくクロノスの担当としての任務を全うしているがイゾルデがエリクシールをどう扱おうとしているか知られてしまえば、内容によってはこの職員が自国に密告してしまうかもしれない。ヴェラザードはあくまでギルドの飼い犬。クロノスに熱烈なサポートを行っているのはそれが彼女の第一優先命令であるからなのだ。とにかく彼女の警戒は怠れないとイゾルデは決意したように一人頷いてから、もう一度クロノスの方を向いた。


「あたくしの答えでご納得いただけましたか?それならばそろそろ…あたくしの依頼を受けてくださった皆様の紹介をしていただきたいですの。たったこれだけの人数でライバルと張り合おうなどと無茶も良い所ですが、依頼を受けそれに勇気をもって挑んでいただいた勇者たちの名を教えてくださいませ。」

「ああ、そうだな。ウチの団員はいつでも紹介できるし今は皆道中の景色を楽しんでいるからな。それに飽きた後でいだろう。まずは野良猫共を…おい、集合。集合しろ。イゾルデ嬢に挨拶。」

「うーッス。お前ら旦那がお呼びッスよ。早よ早よ。」

「あ?はいよー。」


 イゾルデに冒険者を紹介してほしいと頼まれたクロノスがダンツに呼びかけると、彼は何人かと遊んでいたカードをいったん中止して皆を呼んで集まるのだった。


「あたくしの立場という都合の悪い状況の中、よくぞ依頼を受けてくださいました。まずは感謝しますの。」

「えーとイゾルデ嬢。この度は毎度ありッス。ミツユースの冒険者のご利用は初めてのようだが、どうぞお手柔らかに。」

「いにゃいにゃ、これはギブ&テイクってやつにゃ。王女の依頼をクリアしたとなればにゃあ達も鼻が高いにゃ。きっとクリアしたらランクが無条件で一つ上がるだろうしにゃ。」

「クルロさんも無謀な喧嘩はしませんよー!!」

「ライバルは多いといっても直接張り合わなければ実害はないと思うよ。喧嘩になっても雑魚なら勝てるから…」

「前金で半額払いでしかも手に入んなくてもいいんならこちらとしても万々歳ですよ。」

「まぁ仕事である以上手は抜かん。全力でやらせてもらおう。」


 冒険者は礼を言うイゾルデにそれぞれ答えるのだった。彼らが全員イゾルデに声を掛けたところでクロノスが申し訳なさそうに口を挟んだ。


「悪いが命健の連中が何人か来るかと思ったがアテが外れた。猫亭の他に受けてくれたのはこの六人だけだ。」


 命健組は今週は月末の借金の回収で全団員が出払っているらしい。金貸しは廃業にすると言っていたが、扱う商品が金である以上そんなにすぐに店を畳めるはずが無い。借金を毎月決められた分計画的に返済している客や、商売で利益を定期的に出すためにどうしても仮いなければならない商会の経営者だって少なくないので、クラフトスは数年単位の閉店作業がいると言っていた。


「月末なのがついていなかった。彼らもそちらが無ければ格安で協力すると言っていたのだから許してやってくれ。…で、集まった野良猫共が君達と言う訳か。」


 集まったのはダンツ、オルファン、ヘメヤ、ニャルテマ、クルロ、キャルロ。猫亭に出入りして騒ぎミツユースで活動する愉快な冒険者だ。


「改めて自己紹介でもしてくれ。全員顔と名前は知ってるが君達が互いに仲がいいかまでは知らんからな。イゾルデ嬢がわかるように名前と職業。後は今日着いてきた理由でも聞かせてもらおうか。」

「一理あるッスね。実は俺もニャルテマとは殆ど話したことないッス。じゃあまずは俺から…ダンツだ。職業は盗賊(シーフ)。普段は五人の仲間とパーティーでやらせてもらってるが皆が野暮用ってんで今日は遊びがてら一人で参加ッス。」

「次は僕とヘメヤかな。僕の名前はオルファン。治癒士(ヒーラー)だよ。前から迷宮ダンジョンには興味あったんですよね。ただ他のメンバーが今は里帰りして不在で、僕とヘメヤだけでは不安だったからこれはいい機会でした。」

「オルファンが紹介してくれたが一応…ヘメヤだ。猟兵(レンジャー)をしている。自然を相手にする職業ゆえダンジョンは不慣れだが、前衛としても自信があるからいざというときは盾にでもしたらいい。」

「にゃあはニャルテマにゃ。魔術師(ソーサラ―)にゃあ。いつもは他にパーティー組んでる獣人の仲間がいるんだけどにゃ。一昨日ふざけて闇鍋やったら食あたりで全員腹痛で…まぁ原因はにゃあが入れた腐った魚にゃんだけど、それを疑問に思わず食ったあいつらが悪いにゃ。」

「よろしくお願いしますわ。…なんか変な事情の方が混じってませんでした?それとなぜヘメヤさんは頭からキノコを生やしているんですの?」

「そうか?変な物食って食あたりなんてよくあるよくある。キノコもよくある。最後。クルロとキャルロ。」

「おお!!やっとクルロさんの出番ですか!!退屈で死んでしまうところでしたぞ!!」

「…いっそ死ねばよかったんだお前なんて。」

「よろしくお願いしますわ。お二人はなんだかお顔が似ておりますが、ご姉弟(きょうだい)なのですか?」

「ややこしいからそういうことにしておくといい。君達も仲間がいたはずだ。四人は野暮用か?ブラウとマルテとラウーシャにターナ。」

「それが…」


 最後に残った小さな少年の容姿のクルロと彼に似た顔の女性キャロル。一見姉弟(きょうだい)に見える彼らには他に四人のパーティーメンバーがいたはずだ。パーティーの盾役を一手に引き受ける戦士の男ブラウ。彼を後方から甲斐甲斐しく支える射手の女性マルテ。仲間内の陽気なムードメーカーで一番の年上の女性ラウーシャ。そして在学中は優秀な成績を修め、高位の治癒術もいくつか扱える神官見習いの治癒士の少女ターナ。彼らを加えたクルロ達のパーティーはミツユースでも屈指の実力があり、ギルドとしても常に気にかけておきたいと以前ヴェラザードが言っていた。だが彼らは今日はクルロとキャルロの隣にはいない。どこへ行ったのだろうか?そのことを姉に見えるキャルロの方に問うたクロノスだったが、キャルロは一度言葉を詰まらせて苦い顔を見せてから答えるのだった。


「ええと…ブラウとマルテの二人は実は付き合ってたんだけど、ブラウが浮気したのがばれて喧嘩中で顔も見たくないって二人ともどっか行っちゃった。でもマルテだって過去に三股して一番顔の良いブラウを選んで付き合ったんだから御相子だよ。ラウーシャは借金の返済期限が近くて集金屋が来るからしばらく身を隠すって。ターナはセーヌさんにもらったおさがりの靴下を煮込んで出汁を…じゃなくて、さすがにそれは言えない。…編み直して自分の足のサイズに直すから忙しいって。そういうことにしといて。」

「…はい?」


 なんとか答えたキャルロの言葉を聞いて、思わず口から間の抜けた声を漏らしたイゾルデ。その横でクロノスが「やったな。今回のメンツは当たりな方だぞ。特にふざけたやつが半分以下なところが素晴らしい。ポジティブに捉えれば半分がまともとも言えるな。よかったよかった。」とイゾルデの肩をぽんぽん叩いていた。


「…え?浮気?三股?借金?靴下で出汁?あれあれ…?」


 どうやら高貴なお生まれのイゾルデにはその下品な言葉のどれもが受け入れられなかったらしい。軽く混乱して何とか頭で処理しようとしていたところにクルロが話を続けた。


「みんな屑なんですよークルロさんとこのパーティー!!いやー困っちゃいますねー。」

「お前も人の事言えないよ。こいつ迷宮都市に置いてきた昔の女に会いに行くんだって言ってるけどそんなの建前で、こっちでいろんな女に手を出してその中に男が他にいた女がいたもんだから…そいつが怒ってクルロを殺す気で追っかけ回してるんだ。しかもそいつが結構な悪らしくて、ほとぼりが冷めるまで身を隠すつもりなんだよ。」

「そんなの乗ってきた女の方が悪い!!いやー魅力的な自分が怖い!!」

「こいつ最近はちっこくなったことを悪用して子供のふりして女に近づくんだ。で、母性が沸いた女に襲い掛かる。」

「君も大変だな。君のパーティーにもし不幸が襲い掛かっても、君だけは俺が面倒見てやるよ。」

「え…!?それって…!!…いやいや、ない。彼は男だぞキャルロ!!もしもカルロに戻ったら私は男に戻るんだ。もしこれでクロノスさんに欲情して見ろ?私はホモ野郎だぞ?おーけーおーけー…よーしイイコだ私の理性ちゃん。煩悩退散煩悩退散煩悩退散…!!」

「…ええと…うーん…あら…あ…!!」

 

 しばらく悩んでいたイゾルデだったが、高貴な頭が冒険者の言葉をようやく処理できたようで、なんとか次に一言絞り出せたのだった。その言葉が…


「本当に大丈夫なのですか?このメンバーで。」

「ええ。比較的当たりな方ですよ。ラッキーですね。」


 イゾルデがなんとか出した言葉に隣にいたヴェラザードは優しくそう答え返すのだった。



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