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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第78話 初めての依頼で迷宮を巡ろう(ミツユースから少し離れたある街での出来事)


 今回の話はミツユースの街から少し離れたこの地で始まる。この街の名は通称を迷宮都市と言う。はるか昔からこの地に存在するダンジョン、迷宮(ラビリンス)ダンジョンを囲む形で生まれていった街だ。 街には今日も他所からの冒険者がひっきりなしに訪れてはダンジョンの中で手に入る大いなる財宝の数々を求めてダンジョンへ挑戦する。そんな街の一角にあるダンジョンへ入るためのゲートのある場所でのこと。許可無き者がダンジョン入らないように見張っているギルドの職員である門番の二人が、挑戦者も帰還者もあまり来ないこの退屈な時間を、些細な日常のおしゃべりで潰していた。


「…でよー、そしたらそいつなんて言ったと思う?空からサルが降ってくる訳がないってさ!!必死に説得したんだが、やっぱり聞き入れてもらえなかったよ。」

「あはは!!そりゃ傑作だ。きっとそいつも今頃慌ててるだろうさ。冒険に絶対なんてないんだ。そうやって油断した奴から死んでいくのさ。この迷宮(ラビリンス)ダンジョンではな。」

「そうだな。この出入り口のゲートを守る俺たちの情報は、下手な情報屋よりも役に立つんだから素直に受け取っておけばいいのに。なぁ、あいつが全員無事で帰ってくるかどうか賭けないか?おっと俺は「一人落ち」に銀貨一枚だな。」

「さすがにそこまでバカではないだろう。冒険者のバカは本能に忠実という意味でのバカだからな。…全員帰還に銀貨二枚。」

「ほぉ随分自信満々じゃねぇか。ならやっぱ俺は…」


 門の前で大して大事そうに守っているわけでもないような二人組。彼らが割と退屈なことも多いこの仕事の合間に何気ないおしゃべりを楽しんでいるのは別に珍しいことでもない。挑戦者や帰還者が来た時にはきちんとまじめに対応するので、周りの他のギルド職員も見て見ぬふりであった。

 

 そんな二人を少し離れた備え付けのデスクから、自分も手持ち部沙汰であったが故にぼんやりと眺めていたダンジョンに出入りする人間を記録する係の職員だったが、大きな欠伸(あくび)を一回してから自分の手元に目をやれば、そこにあった石板がぼぉっと光り輝いていたことに気付いて頬を叩いて気を引き締めてから、ゲラゲラと笑っていた二人の門番に呼びかけた。


「お二人さん!!帰還者が戻ってきますよ。さぁ仕事仕事。」

「おっとやべぇ。さぁ休憩終わり!!」

「俺が銀貨二枚でお前が二枚半な。覚えておけよ。」

「へいへい。それじゃみなさん最後の一仕事よろしくお願いしますよ。」

「は~い。」


 夕方になればダンジョンの探索を終えた帰還者達が次々とダンジョンから戻ってくる。ダンジョンの中では外の日の光が届かない故に時間の感覚があいまいになることが多いが、何故か夕方に多く帰還者が戻ってくるのだ。それは今日とて例外ではないだろう。このパーティーはおそらく帰還ラッシュの第一号だ。この後の多忙を乗り切れば後は夜番の担当に引き継いで酒場で一杯やってベッドで眠れる。とにかく退屈な時間は終わりだと二人の門番も他の職員もこれから忙しくなるであろう自分の仕事に胸を馳せてしばしの休憩を終わらせたのだった。


「帰還の申請を確認。人数は四人で緊急を要する負傷者は無い模様!!」

「了解した。転送陣を起動する。」


 今も挑戦者の申請を受けた魔道具が光と音で帰還を要求し、それを受けて係の者が転送のゲートを起動させた。そして出入り口のゲートの先にある何もない所がポウっと光ったかと思うと、次の瞬間には四人の男女の冒険者がそこにいた。


「四名全員の帰還を確認。重傷者はいない。」

「了解しました。お前らは…冒険者クラン「鼠の華」の団員だっけか?これで全員だよな?」

「ああ。入る時も出るときもこの人数だ。向こうに残った奴も残してきた奴もいない。」

「そうか、無事で何よりだ。…だとよ!!書いといてくれ。」

「心配しなくてもちゃんと書いていますよ!!」


 門番は帰還した四人の冒険者が全員無事に帰還したことを確認して隣のデスクの記録係に告げた。それからパーティーのリーダーと思われる男に素性の確認を求めて、それも記録係に報告するのだった。


「あ~なんとか逃げて帰ってこれたな。」

「ほんとほんと。まさか次の階層のすぐ手前であんなに強いモンスターが出てくるなんてね。」

「なにが助かったよ。逃げてくるときに手に入れたお宝と魔貨全部落としてきちゃったじゃない。これで今日の稼ぎはゼロよ。」

「そうは言うがな、やっぱり命あっての物種だぜ。全員無事に帰還したことを喜ぶべきだ。」

「だけどこれじゃあ酒場のツケが返せないじゃない。今日は酒無しだっていうの?私はダンジョンに潜る前には必ず酒を飲んでおくのよ!!いつ死ぬかわからないんだから。」

「うるさいな。元々はお前がドジって…!!」

「なんですって!?もういっぺん言ってみなさい!!」

「まぁまぁ二人ともそのくらいにしておけって。」


 出てきた冒険者達は口々に喋り今日の出来事を振り返ってその中の二人が言いあいを始めた。まとめるにどうやらダンジョンの攻略に失敗してお宝も置いて逃げ帰ってきたようだ。ああだこうだと言い合っていたところに、ダンジョンの入り口を守護する門番役の一人だったギルド職員の体格のいい男が話しかけてきた。


「お前らが今日のことを振り返って反省する態度は他の冒険者にも見習わせたいくらいに見事なものだが…そこにいられると後が(つか)える。いろいろ言いたいことはあるだろうがまずはそこをどいてくれ。」

「…!!ああすまない。今どくぜ。ほらお前らも…!!」


 重い武装をした門番に促されリーダーの男が未だに言いあう男女に声を掛けてそこからどかせようとした。広くどこまでも続くと言われている迷宮都市のダンジョンだが、こちらからの入り口と出口は迷宮都市の中にここと他に後二つだけ。もう太陽が地平線に沈み始めた夕方であるために今日は新たな挑戦者は訪れないだろうが、今は彼らのようにダンジョンから戻ってくる冒険者が多く出始める時間帯だ。閉塞的で常に命の危険があるダンジョンから帰ってきたばかりの冒険者は大なり小なり皆苛立っていることが多い。中には出口を塞がれた等の些細な理由から喧嘩に発展することも多い。そんな彼らが暴れ出さないように見張るのが門番の仕事の本領だ。


「なんだよ止めるなよリーダー…門番!?仕方ないねぇ。ここは休戦といこうじゃないか。」

「そうだな。ギルド職員と喧嘩になっても賤貨の一枚の得にもならん。」

「やっと収まったか。さぁ、今日の反省は宿屋でしよう。…行くぞ。」


 リーダーの指示で言い争っていた二人は門番の男に睨まれていたことに気付いてそそくさと仲間と移動ししていった。


「わかってくれたようでなによりだ。危うく動かねばならない所だった。」


 門番は問題が発生する前に事前に小さな芽を摘むのが仕事だ。重武装も冒険者が暴れた場合それを抑えるのためのものである。そしてもし冒険者が門番に逆らえばギルドに対する妨害行為と捉えられて、最悪の場合支店の地下にあるお仕置き部屋に何日か缶詰だ。なので荒くれ者の多い冒険者でも門番に咎められた時だけは大人しく言うことを聞くことが多い。


「俺の仕事が終わったら一杯奢ってやるから元気出せ!!…さて、次の帰還者の申請は…」


 去っていくパーティーの背中に大声を投げてから門番の男は持ち場に戻って出入り口の横に備えられたダンジョン内の帰還者の帰還の申請を承認する魔道具を操作する。ここではダンジョンに挑戦する人間の数が多いので、このように申請を承認して一か所ずつ転送しないと出入り口で転送が重なり重大な事故に発展する可能性もあるからだ。多くの小規模なダンジョンではそのような措置は必要がないが、ここだけは特別なのだ。


「お、一件来てたか。…ダンジョンの階層は…帰還申請六名…緊急の信号はなし。大丈夫だぜ。」

「了解。はい承認っと。」


 門番の男は魔道具のパネルの上で新たに発せられた申請の要求を告げる光と音を確認して、承認の命令を転送陣の起動係に伝えた。やがて先ほどのように入り口が光ったかと思うと、そこから六名の冒険者達が出てきた。門番の男は先ほどと同じく近くのデスクに座る記録係に聞こえるように大声を出して挑戦者の帰還を確認した。


「…」

「おいどうした?早くそこからどいてくれ。ん?おたくらも今日は利益の無い口か?そのナリを見りゃだいたい想像はつく。」


 入り口の冒険者六名が動かないまま立ち尽くしているのを見て門番の男はまたかとため息をついた。冒険者達はボロボロの血の付いた衣服で顔中泥だらけ。何人かは武器も見当たらないがモンスターとの戦いで壊れて捨ててきたか帰る途中でどこかに無くしたのだろうか。一人が持っていた鞘に入れていない剥き出しの剣も刃毀れだらけであり、門番の男は、こいつらも実力に合わない階層に挑戦してそこのモンスターに負けて碌なお宝も持ち帰れずに逃げ帰ってきたのだろう。そう予想をつけてからリーダーと思わしき男に話しかけた。


「まぁ元気出せよ。今日はもう挑戦できないがまた明日があるさ。武器が無いのなら武器屋でツケでなにか買ってこい。ナマクラでも上の階層でなら十分戦える。ま、命あっての物種だ。生きてることを喜びな。」


 門番はそう言って先ほどの冒険者が言っていたことと同じことを言ってリーダーの男を元気づけた。そこでリーダーの男は疲れたような目で門番の方を見たのだった。


「生きてる…生きてるか…ふふ、俺たちは生きてるんだな。」

「あん?何言ってるんだ?…そういやお前ら服がボロボロで血だらけの割には誰も怪我が無いな?帰るまでにダンジョンポーションでも使ったのか?」

「いや…俺らはな…死んだんだ。そう、一度死んだ…」

「何言ってやがる?お前らはこの通り生きているじゃないか。仮にお前たちがダンジョンでアンデッド系のモンスターに殺されてゾンビになっていたとしてもダンジョンモンスターはダンジョンから出られない。だからここにいるお前たちは正真正銘の生きている人間さ。誰も死んでいないよ。」

「ああそうか…それならやっぱり…これは本物だ。噂通りだったな。…見てくれ。」


 リーダーの男は門番の話を聞いていたのかいないのか、そんな虚ろな目を門番の目と合わせてから懐に手をやり一本の酒のボトルを取り出して門番に手渡した。門番はそれを受け取って中身を外から眺める。ボトルはガラス製の作りで色は薄茶色。大きさは門番が普段仕事終わりに冒険者に負けじとよく飲む手に持てる普通の大きさだ。薄茶色の瓶であったために中身の液体の色は良くわからなかったが、液体は瓶の飲み口ぎりぎりまで溜まっていて口の封も未開封だ。ラベルの確認もしたがそこに書いてあった文字古代文字の一種であったためにそう言った知識のない門番の彼には読めなかった。


「これは…古代文字か?なんだダンジョンのお宝もしっかり持ち帰れたんだな。悪いが俺はただの門番だから宝の鑑定はできないぞ。鑑定ならそっちの受付で…」

「ああ。それがなんなのかは知っている。俺たち自身で…試したからな。だから俺たちはこうして生きている。最初は死に掛けのおかしなテンションで…冗談半分だったんだが…恐ろしいモンスターに手足を吹き飛ばされて体を動かす血が足りないくらいに血を流してもこうして…生きている。」


 ぶつぶつと言うリーダーの男の後ろで彼の仲間達も口々に「本物だ…」とか「噂は本物だった」と虚ろな目で呟いていた。それは身に起こった出来事が現実で、それをまだ半分も受け入れられていないという感じであり、門番はそんな彼らが不気味にも思えてきた。。


「試した?同じのが他にもあったのか?んで、これはなんだったんだよ。お前らどうなったんだ?…お、おい…!!」


 相変わらず要領が掴めない門番の瓶を持った腕を自分のぼろきれのような袖をまとった腕で掴んだリーダーの男は目をかっと見開いて口を開いた。


「ここの支店長を呼んでくれ。神の万能薬酒…「エリクシール」を持ち帰ったとな。…効果は本物だ。俺たちはそれと同じ物を飲んでこうしてここに生きているのだから。」


 男の言葉でしぃんと静まり返った空間で、魔道具から発せられた次の帰還者の申請の要求を告げる音だけが響いていた。

 


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