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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第7話 冒険者、供に(新入りに街を案内しましょう)

「というわけでですね。ギルド上層部はクロノスさんがクラン内でパーティーを最低限組める、例の5つの職業クラスを持つ団員を集めることができれば、とりあえずクラン解体を見送ることを正式に決定しました。期間に関しては2か月ほどくれてやるとのことです。」

「何様のつもりだよ。そもそもギルドがクランの解体を勝手にするなんて聞いたことが無いと何度も言っている。これで何度目だ。」


 ヴェラザードの報告を聞き、男は不満の色を見せた。彼の名はクロノス・リューゼン。貿易都市と呼ばれているミツユースで、冒険者クラン猫の手も借り亭、通称猫亭を運営するクランリーダーである。クランの運営を担うクランリーダーという立場にしては少々若く、傍若無人極まりない男であるが、これでも冒険者ギルドにおいて最高のランク称号S級を持つ数少ない人物であり、他の冒険者と組まないソロ冒険者としてかつては大陸中を渡り歩き、誰にも縛られない一匹狼の立場を活かして様々な高難易度クエストを解決してきたのである。


 そんな実力者のクロノスであるがある時旅をやめ、ミツユースに冒険者クランを設立すると言い出した。これは彼を「有効に」利用してきたギルド上層部にとっては、少々、いや、かなり痛手であったらしく、クロノスをソロ冒険者としてあちこちに派遣したいギルドの意思によって、現在猫亭は絶賛営業妨害を受けており、客も入団希望者も1人も来ない状況に陥らされていた。


「くそ。こうなったら徹底抗戦だ。幸いこっちには資金が潤沢にある。何を言われようと運営を続けてやる。」

「ですから前にも言ったとおり、クランとは冒険者の集まりです。入団者がいなければ意味がありません。」


 クロノスにはソロ冒険者の時に集めた潤沢な貯蓄があるので、このままクランの形を維持するだけなら一応可能ではある。しかし、それだけではクランとはおおよそ呼ぶことができないというのがギルドの弁であった。


 本来であればギルドはクランとその庇護下にある冒険者に対して、干渉不要のルールが定められているが、それはあくまで方便であり、ギルドが己に不利益であると判断すれば、いつでも撤回できる程度の軟弱なものだった。そのことに腹を煮やしたクロノスの猛抗議と、ギルドから派遣された彼の専属担当職員ヴェラザードの提案によって、ひとまず解体の憂いを免れることとなった。


 その提案とは、果たしてクロノスに冒険者クランの運営をするクランリーダーが務まるのか。それを入団希望者となる冒険者を集めることで証明して見せよ。というもので、そのために5つの職業を持つ冒険者、「剣士ソーディアン」、「魔術師(ソーサラ―)」、「戦士ウォリアー」、「盗賊シーフ」、「治癒士ヒーラー」を集めることにした。

 そして先日、その中の1つ魔術師の職業を持つ少女、ナナミ・トクミヤをトラブルから救い出し、猫亭に連れてきたのだった。後は彼女の口から入団の意思を示してもらえればそれで勧誘成功になるのだが…


「はい、もちろん入団させて頂きます。よろしくお願いしますね。」

 

 透き通るような大きな声で、ナナミは入団に同意した。そのことに勝算はある、と言っていたクロノスが一番驚いていた。


「え?いいの?そんなにあっさり決めて。」


 ナナミを勧誘するにあたって、クロノスは彼女に所属に関する条件をいろいろと説明していた。それは収入であったり、クエストの消化義務であったり、様々である。もちろんクロノスは厳しい条件を提示してはおらず、むしろ高待遇と言える条件にしていた。それでもナナミは、貴重なしがらみのないソロの魔術師である己の立場を活かして、もう少し条件を釣り上げてくるかと身構えていたのだ。


「条件に関しては何も問題ないです。共同ですけど、お風呂に水洗トイレ付の元宿屋のここにお部屋を一つもらえるなんてミツユースを拠点に活動を予定していた私には願ってもない話だし、それに例えクエストを受けなくても毎日の食事代まで支給されるなんて…むしろ随分都合がいいのでは?」


 クロノスの提示した条件はナナミにとっては非常に素晴らしい物であった。しかし彼女は疑問に思う。果たしてそんな適当なやり方で今後運営が続けられるのだろうか、と。


「ええ、疑問は最もと言えるでしょう。しかしながら、クロノスさんはこれまでの活動の中で莫大なクエスト報酬を得ております。今のままなら例え400年経とうと財産は尽きることはありませんよ。」

「400年…」


 クロノスの専属担当者ヴェラザードに教えられ、ナナミは額から汗を流した。3人の詐欺師フール冒険者の事件の後、猫亭に招かれたナナミはクロノスの目的と、クロノスの正体がS級冒険者だと聞かされて驚いた。グリジャたちを一瞬で片付けた腕はとんでもないものであると理解していたが、まさかそれほどの実力者だったとは。


「S級冒険者の保護下にあるというならなおさらよ。それに助けてもらいましたから。」

「まぁ、それならこれからよろしくだな。」


 そう言ってクロノスは立ち上がりナナミと握手をした。本来であればこの後所属のためのいくつかの手続きや、クランによっては入団の儀なるイベントも用意されたりするのだが、クロノスは堅苦しいのは面倒だと思ったので、やらないことにした。


「私も堅苦しいのは好きでないので結構よ。それよりもクロノスさん。私は街へ来たばかりだから、いろいろと街を案内してくれると嬉しいんだけどなー。」


 考えてみれば、ギルドでナナミと初めて会った時、彼女はギルドにまっすぐ来たと言っていた。あの事件の後、ナナミを落ち着かせるため一晩猫亭に泊めたので、ナナミのミツユースでの行動範囲は街道出入り口門付近の大通りとそこの大通り支店。その後で行った亀とカルガモの本部とそこまでの道のり。それに加えて市民公園から裏通りの道半ばとこれだけである。これから覚えればいいとは言え、広いミツユースを1人で散策させるには少々さびしい。ナナミの提案にそれもそうかとクロノスは頷いた。


「よし、それならこれからいくつか案内してやろう。ヴェラ、ナナミの入団手続きと留守番よろしくな。」

「ええ、ごゆっくり。できれば猫亭が潰れてしまうくらいゆっくりどうぞ。」


 ヴェラザードの軽い冗談に、バーカ、とだけ返すと、クロノスはナナミを引き連れ彼女に街を案内するため、猫亭を抜け出した。




「そういえば、まだこれを渡していなかったな。」


 猫亭を飛び出し数分もしないうちにクロノスは立ち止り、ナナミに何かを投げてよこした。

 ナナミが飛んできたそれを見事に両手のひらでキャッチし確認すると、それは片手に収まるくらいの大きさの麻袋だった。口は紐で結ばれており、ごつごつした感触を感じて手で振ってみると袋の中からはジャラジャラと硬い金属同士が擦れる音がした。


「これってお金?でも今日の食費はさっきもらったよね?」


 紐を解き、中身が幾枚かのコインであることを確認してからナナミは疑問を口に出した。           

 クロノスの取り決めにより猫亭では団員の給与の他に、毎日の食費が支給されることになっていた。これは現在クエストの依頼が全くない状態の猫亭では、給与がもらえるか怪しまれ入団希望者が現れなくなるかもしれないというヴェラザードの提案によるものだった。

 ここで知らぬふりをして何も言わず貰っておけばよいのにと、クロノスはナナミの素直さにあきれに近い尊敬を覚えながらも、その疑問に答えることにした。


「いや、それは討伐報酬。」

「討伐…クエスト報酬のこと?でも討伐って何の…」

「グリジャ達の。」


 クロノスの答えに驚き、ナナミは足を止めた。そして彼女の前を歩いていたクロノスの前まで歩いて回り込み、手に持つ麻袋を付きだした。


「受け取れません!!私は何もしていませんし、むしろ被害者になりそうなところを助けてもらった身よ。それに…!!」


 それに、とそこまで言ったところでナナミは押し黙った。ナナミ達の歩く通りは昼真っ盛りの中、行きかう人々の数も多く喧騒にあふれているが、ナナミが大声を出せば気付かれてしまう程度の物である。そんな中で殺したのはあなたではないか!!となど叫ぶことはできないと、途中で気付いたためである。


「いえ…その…」

「それでも受け取っておいてくれ。誰がやったかは問題じゃない。これは言わば協力報酬だ。」

「協力、報酬?」

「いや実はだな…」


 クロノスは話した。実は先日の事件の際、クロノスは、ナナミにグリジャ達が接触する前に市民公園で俯く彼女を既に見つけていた。声を掛けようとしたときに、丁度のタイミングでグリジャ達が現れたのである。彼らとナナミの会話を聞き、いくらなんでも話がうますぎると睨んだクロノスは、裏通りに移動する彼らを追いかけ、裏道を駆使して先回りしたのである。


「公園の時点だと刀傷沙汰は目立ってしまうからな。それに接触しても指名手配があるのかわからければ、はぐらかされてしまってそのまま逃げられるかもしれないと思ったんだ。そこで、勝手ではあるが君に囮になってもらったのさ。君は気づいていたか?奴らが君の隙を常に窺っていたことを。特に名前を忘れたがあの盗賊もどき。適度に話しかけてタイミングを計っていた。」


 クロノスの言葉にそういえばと、ナナミはその時のことを思い出す。

 裏通りを歩くということで緊張をほぐすためだとか言ってヴァイグはナナミにしつこく話しかけてきた。あの時ナナミは、ヴァイグはパーティーでも一番話す男だったし、それが素なのだろうと思っていたが、思えばあれは自分をいつ襲うべきなのかと狙っていたのか。あの時何も知らずに歩き続けていれば、ナナミは目的のレストラン…そんなものも実際はないのだろう。とにかくそこで、いや、もしかしたら道中で、ひどい目にあっていたのかもしれない。当時を思い起こしナナミは改めて戦慄した。


「俺が接触したのは、奴らがこらえる限界を察してのことなんだ。本当はギリギリまで耐えて君が襲われる瞬間まで待った方がよかったんだけど、グリジャが殺しの目をしていたから、君が有無を言わさず殺されてしまうかもしれないかと思ってね。君がやつらを釣り上げてくれなきゃ捕まらなかったんだ。そうすれば後でさらに犠牲者が出ていたかもしれない。ま、迷惑料も兼ねてのことだから受け取ってくれ。」


 説明を終えたクロノスは、ナナミの突き出した手の中に収まる麻袋を掴みとり、今度は彼女のローブをボタンを外して軽く開き、中に着こんだワンピースの上部の隙間から胸の谷間に向かって袋を差し込んだ。


「…そうだったんですか。でも、やっぱり受け取れないかな。自分がやったことでなくとも、たとえ相手が悪い人でも、こんなお金を使ったら天国のおばあちゃんが枕元に雷を落としに来ちゃうから。」


 今は亡き優しくも厳しかった祖母。その人のことを思い出しながら、ナナミは胸の谷間から麻袋を取り出し…残念ながら、袋は彼女の谷間と呼ぶには少々誇張気味な平原を突き抜け、腹とワンピースの隙間から地面に落ちてしまったので、ナナミはそれを拾って手で土を払い落とすと、もう一度クロノスに両手を付きだして返す仕草をした。

 …クロノスは彼女の名誉のために一部始終を記憶の奥底へ封じることにした。そいうことにしておいたから元気出せよ小娘。私は応援しているぞ。あれだ。牛乳と鶏肉がいいらしいから。おい、泣くな。


「うぇっ…まな板なんかじゃ…えっぐ…こんなお金、いらない…」

「…わかったわかった。とりあえずあれだ。これは預かっておく、と言うことにしよう。」


 欲しくなったらいつでも言えよ。とだけ言い、クロノスはコインの詰まった麻袋を懐に仕舞い込んだ。そしてこの話はおしまい、とばかりに手を叩くと、未だ泣き止まぬナナミの手を取り、通りを歩いていくのだった。




「わぁ、すごい光景!!」


 目の前に広がる光景にナナミは驚き、声を上げた。

 しばらく落ち込んでいたナナミを露店の「偉大なる魔法アイスクリーム」を使って立ち直らせた後クロノスが連れてきたのは、街の海沿いにある自由市であった。

 海に面する土地を有するミツユースには大小様々な港がいくつもあり、そこには海を渡って多くの人々がやってくる。その中には店を持たない流しの商人や旅人なども多く含まれ、陸路へ切り替えるため、あるいは一握りの儲けを得るためミツユースで荷物を売り捌く。元々はそれらの個人商人や旅人はミツユース内で勝手気ままに商売をしていたのだが、それが原因で地元の商店や街の住人とのトラブルが頻発した。そこでミツユースはそうした者たちを一か所に集め、自由に商売をさせることにしたのである。結果は大成功となり、今や自由市で一日に動く金銭はミツユースの中でも比較的中堅な商会の一日の売り上げのそれを超えるとも言われている程になっていた。


「それにしてもすごいなぁ…イベントでのフリーマーケットでもこんな規模にならないし。」


 山奥で師匠と2人きりという設定はどこへ行ったのか。ナナミはついそんな感想を口から洩らす。


「売るものがあれば誰でも自由に利用可能だから、そのうちいらない物があったら売りに来てもいいかもな。」


 口をあけたまま目の前に飛び込む賑わいに魅入るナナミを横目に、クロノスも自由市を見回す。ちなみに自由市は客としてなら入場は無料で、販売は有料だが、それもほんの小遣い程度の金額であり、売り上げが一定額に満たなければ返還されるシステムである。


「でもどうしてここに?確かにすごいですけど、別に一番最初に見せる必要はないような…」


 正直に言うとナナミはもっと退屈な…主要な大通りだとか、役所の場所だとか、日用品を買う店だとか、そういった生活に役立つ場所を最初に案内されると思っていたのだ。


「そういうことはヴェラに聞いてくれ。特に生活用品なんて男の俺と女の君じゃあ使うものが全く違うだろう。それに…君は多分ここに通い詰めることになるだろうぜ。」


 クロノスの答えにナナミは疑問の色を隠せないでいたが、クロノスは自由市を背に歩き出した。どうやら今日はあくまで案内で、中までは入る気が無いらしい。


「それにしても通い詰めるってどういうことだろう?確かに掘り出し物はありそうだけど…小説やゲームなら埃をかぶった伝説のアイテムがあるパターンだよね…もしかしてレジェンドアイテムの入手イベントの開始フラグとか。いやでも、ここは現代知識で道具作ってTUEEEとするところでは?うーん、それとも…って、クロノスさん待ってー!!」


 思考の海に引きずり込まれそうだったナナミを陸へと引き上げたのは、その場から遠ざかっていくクロノスという現実だった。ナナミはまだミツユースの街をほとんど知らない。ここではぐれれば猫亭に帰還することだって怪しい。ナナミは急いで足を進めた。


「ああもう!!結局バーチャルから引き戻すのは、いつも厳しい現実なの。トホホ…うわぁ!!ごめんなさい!!」


 クロノスに急いで追いつこうと早足になるナナミであったが、その途中で人とぶつかってしまった。


「おっと、気を付けてな。」


 ぶつかった相手は子どもだった。帽子を目深にかぶり顔を確認することはできなかったが、ナナミの謝罪を素直に受け取り、その場を早足で去っていく。

 向こうも急いでいたのだろうか?その場で立ち止って去っていく子どもを見送ったナナミであったが、クロノスの存在を思い出し、すぐに足を動かそうとした。


「おい、目移りするのはいいけど、迷子になるなよ?ミツユースは広いんだ。」


 回れ右をして駆け足準備していたナナミの目に映ったのは、目の前にいるクロノスであった。おそらく、途中でナナミがいないことに気付き引き返してきたのだろう。


「あ、ごめんなさい。ちょっと人にぶつかっちゃって。」

「気を付けろよ?お前のいた所がどんなところ知らないが、昼間だからって呆けた女1人を見逃すほど、悪党は暇じゃないんだ。まったく…いつもこんな調子なのか?そんな世間知らずでよく五体満足でミツユースまで辿りつけたもんだな。」


 クロノスはあきれにも近い不満を漏らすが、あくまでナナミを心配してのことだろう。その口調は優しさを含んだものだった。


「本当にすみません。目移りはほどほどにするから…」

「怒ってるわけではないからいいさ。ただ、気を付けてくれと言う話だ。前みたいにいつでも俺が守ってやれるわけじゃないんだ。冒険者なら自分の身は自分で守れ。」


 その杖はアクセサリーか?と、クロノスはナナミの腰のホルダーに下げられた、今は眠る短杖を指さした。


「はい、心得ておきます。次は人にぶつからないようにします。」

「よろしい。ま、人にぶつからない以外にも注意してほしいがそれはまた今度だ。さて、次に案内するところだが…ん?人にぶつかる?」


 自分の発言の中に疑問があったのか、クロノスは歩き始めて足をすぐに止めてしまう。


「どうしました?」

「ん、いや…ナナミ。お前がぶつかったというのはもしかして子どもか?」

「はい。確かに子供でしたね。背は私より低かったし、男の子か女の子かはわからなかったけど。」

「…服装は?種類とかじゃなくて、薄汚れていたとか、ツギハギがあったとか…」

「服装は動きやすいもので、お世辞にはきれいとは言えなかったですね。」

「…最後に、そいつどこへ行った。」

「えっと、向こうの方…ちょうど私たちが自由市へ来たのとは逆の方へ。」 


 あっちは何があるんですかとナナミが指をさした通りを眺め、クロノスは大きくため息をした。


「ええっ、いきなり大きなため息なんかしてどうしたんです?幸せが逃げますよ?」

「やられたな。ナナミ…財布はあるのか?」

「そりゃもちろん。大切なものだから肌身離さず…!?あれぇ!?おかしいな、ない!?」


 ここにも、ここにも、ここにも。あっそういえばこっちに入れたんだっけ!!…やっぱりない。約一分ほどナナミは自身の体をまさぐり探したが、結局財布は見つからなかった。


「幸せが逃げたのはお前の方だ。ぶつかったそいつ、たぶんガキのスリ師だ。」


 クロノスの悲痛な言葉が胸に突き刺さったナナミは膝から崩れ落ちた。あの財布の中には今日の食費の他、グリジャからもらったクエストの報酬も入れてあったのだ。つまりナナミの全財産である。


「この辺はスリやカツアゲが多いから、住民は出し易い所に小銭だけ入れたフェイクの財布を用意しておくのさ。」

「…おいかけましょう。」

「追いかけるって、相手は子どもだがプロだぞ?当然気づかれても逃げ切れる逃走ルートをいくつも持っているし…第一お前が示したあっちの道は…」

「いいから!!追いかけて怪しい子見つけたら片っ端から剥ごう。そのうちアタリを引けるから!!」

「え、えー!?」


 クロノスの手を力強く掴むや否や、ナナミは勢いよく走りだした。当然腕を握られているクロノスもそれを追う形となり、転ばないように必死である。


「あんのガキャア!!引き剥いで、道中さらしてくれるゥ!!ははははははは!!」


 ナナミの激高ぶりを見てクロノスは驚きを隠せないでいたが、財布の中身が彼女の全財産であるというなら仕方ないかと思った。


「おい待てって…!!しかしナナミがお上りだと思われたか?この辺のスリ師は警備隊に目を付けられないようにあんまり大金を狙わないはずなのに…」


 それだけ考えてクロノスは走ることに集中した。なぜなら腕を引くナナミの速度がどんどん上昇して、油断すると転んだまま引きづり回されてしまうかもしれないからだ。


「とりあえず、いつでも抜剣できるようにはしておくか。なんせこの先はミツユース最大の闇の裏町「暗黒通り」だ。」


 入り口手前で捕まえられればいいがな、とクロノスは呟き、猪突猛進という言葉が似合う状態になったナナミに引っ張られていった。


 クロノスは全財産の入った財布を盗まれたからナナミは怒っているのだろうと思っていたが実は違う。ナナミは意外と貴重品の取り扱いには注意を払っており、特に財布はワンピースの内側、胸の平原をごまかすために無理して買ったカップが大きめの下着の中に、パッドと入れ替える形で入れていた。ぶつかったときは衝撃で気付かなかったが、盗られた後で思い返すとそこに違和感はあった。下着と胸の間の財布を盗るのなら当然そこを触らなければならないわけで…


「餓鬼イイイ!!お前のキタナイ手のせいで縮んだらどうしてくれる!?」


 覚悟しろぉぉぉと、自由市でにぎわう広場に響いた声。心配しなくてもこれ以上はそうそう縮まない。



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