第69話 小さなチャレンジ・スピリッツ(アレン君を探しに行きましょう)
猫亭の一階の元酒場。今やすっかりミツユースで活動する冒険者の溜まり場と化したそこには、冒険者の死屍累々が転がっていた。もちろん本当に死んでいるわけではない。昨日のクエストで得た思わぬ高収入を記念して、いつものようにそれぞれが酒やつまみを持ち寄って宴会を朝までしていたのだ。結果全員ダウンして寝込み、外はお昼時になっていた。
「うぐ…頭が…」「ぐがー。」「完全に二日酔いだわコレ。今日は休みね。明日も休み…」
床に寝そべったり、机に突っ伏したり、他の仲間を枕にしたり…各々が思うが儘好き勝手に遅い朝を迎えていた。そして酒場の端の演奏をする場所で一羽の鳥が翼を大きく広げて叫んだ。
「聞きなさい。酒の誘惑に負けしもはや救う価値のない呆れるほどにアホでバカでマヌケな人の子よ。」
「ぴよぴよ。」
翼を広げ語る鳥の正体はカメガモだった。その横で子カメガモがぴよぴよと鳴いていた。カメガモ親子は時折後ろを向いて自慢の亀の甲羅を見せつける。そうすると甲羅は窓から射す日差しを浴びてきらりと輝いた。
「うお…まぶしーッス…」「ちょっとダンツうるさい…」「クルロさんもそう思います…思いました…?どーでもいいや…」「グー…」
しかし殆どの冒険者達は寝ていたし、かろうじて起きていた者も二日酔いで頭が痛かったのでその演説を無視した。しばらく翼を広げて子ガモと存在をアピールしていたカメガモだったが、誰にも相手にされなかったので遂に翼を閉じてしまった。
「もう一度言います。聞きなさい。二日酔いのダメ丸出しでぺーぺーの…」
「さっきからぴよぴよがぁがぁうっせーよ。頭に響く…」
遂に耐え切れずに演奏場の近くの席の椅子を三つ並べた簡易なベッドで寝転んでいた冒険者がカメガモに対応した。先輩冒険者に付き合って夜通し飲み明かしていた命健組のナッシュだ。彼は頭を抑えて起き上がろうとしたが体に酒が残っていたようで、簡易ベッドから転げ落ちてしまった。
「いつつ…今ので酔いが吹っ飛んだ。昨日はだいぶ飲んじまったな…先輩たち容赦なさすぎ。」
「おや、中々話を聞く才能の有りそうな人の子ですね。よろしい。特別に私の傍仕えにして差し上げましょう。光栄に思いなさい。」
カメガモはがぁがぁと命令した。もしその命を受けたのが亀とカルガモやその他商売人ならば泣いてありがとうございますと地に頭を擦りつけて喜んだであろうが、あいにくナッシュは商売人ではない。カメガモを崇めるどころかちょっと待てと手で制してからナッシュは起き上がり、テーブルの上にあった水差しを手にとって自分のコップに水を注いでから一気に飲み干した。
「ふー…飲み明かした後の朝方の水ってどうしてこうも美味いんだ…水が美味いのは我が故郷の良い所だな。」
「この地の水が良いというのは私も同意です。同意したので聞きなさい。」
「さっきからなんだよ?」
「やっと耳を傾けましたね。では命じます…裏の庭にちょうど良い池がありますね。」
カメガモが翼をびしぃっと向けたのは、窓の外から見える猫亭の裏庭だった。意外と広めに感じられるそこは手入れする者もおらず乱雑に生えた草木で荒れ放題だった。裏庭には小さな畑と今は干からびて何もない人口のため池も見え、カメガモは池と言っているのでおそらくはそれのことだろう。
「あるけど、それがなにか?」
「そこに水を張って魚を放つのです。ついでに草も刈りなさい。」
「クロノスのお兄いさんが留守なのに勝手にそんなことできるわけないだろ。そもそもなんでカメガモがここにいるんだよ。亀とカルガモの本部に行けよ。」
「あそこならまだ私を受け入れる池の用意ができていないとのこと。さすがに頭を下げて申し訳なさそうにされたら引き下がるほかありません。」
「ぴよぴよ。」
「なら森に帰れよ。」
「そうしたいのは山々なのですが…森はあの魔を操りし愚かな人の子の放ったモンスターによってすっかり荒らされ尽くされてしまいました。木々や草花が生命の息吹を上げ動物たちが戻ってくるまでは私が下手に干渉せずに自然の治癒力に任せようかと。それにあそこにはいまだモンスターの残党がいるようですし、我が子が食べられてしまっては大変です。他に行く宛も無いのでしばらく置きなさい。」
「たかが亀の甲羅背負ったカモがなにを偉そうに…」
「とにかく伝えましたからね。私たちは先に池に行っていますから必ずそこの連中を叩き起こして働かせるように。」
「ぴよぴよ。」
カメガモは雛と窓際のテーブルに飛び乗って空いている窓からがあがあぴよぴよと出て行った。
「…俺これからおやっさんのところに昨日の報告に行かなきゃなんだけど。」
「ナッシュさん。カメガモ様は幻獣の一端なのですから、あまり失礼の無いように。」
ナッシュが誰にも聞こぬくらいにか細くそんなことを呟くと横から二日酔いに効く薬と一度沸騰させてから温めに冷ました湯の乗った盆が手渡された。ナッシュが振り向けばそこにいたのは猫亭の女神ことセーヌだった。
「セーヌの姐さん。ありがとうございやす。…てかおはようございやす。来てらしたんですね。」
「はいおはようございます。朝食を作るのも私の仕事ですから。どうせみなさん昨日から飲んでらしたのでしょう?遅めに来て正解でした。スープも作ったので一緒にどうぞ。この薬は食事と一緒だと効き目が良いのです。」
そう言ってセーヌが次に差し出したのは良い匂いのするスープだった。具は色んな野菜が細かく刻まれて入っており、これは酒で胃が疲れた冒険者達への配慮だろうか。ナッシュはセーヌに礼を言ってからスープを飲む。
「ああ…酒で重くなった胃に染み渡るねぇ…しかしカメガモには納得いかねぇ。喋って亀の甲羅を持っていること以外は普通のカモじゃねえですかい。仮に幻獣だったとしても、そもそもミツユースに幻獣信仰はありやせん。商人連中もあんなののどこがいいんだか。」
「それでもです。感謝の気持ちと敬意の心は決して忘れてはいけませんよ。」
ぷんすかとかわいらしく怒って説教もどきを口にするセーヌにナッシュはおばあちゃんかな?と思いながらも、スープの残りを飲んで薬も飲んだ。そして物音に目をやればそこらからセーヌの声とスープの香りを嗅ぎつけた冒険者達が目を覚ましだしていた。
「おー、セーヌちゃーん。こっちにも薬プリーズ…」「俺も俺も。」「私スープ。」「なんなら口移しでも可。てゆーか良。むしろ優…!!」「セーヌお姉さまのお口移し…むっはぁ…!!」「あ、ターナがまた死んだ。」「今度こそ死んだでしょ。この鼻血の量は助からない。」「どうせそのうち冥界から帰ってきて復活するわよ。」「そうね…アホらし。寝よ寝よ。」「さんせーい。ZZZ…」
しかし全員まだ夢現だったらしい。適当なことをぼやいてから再び夢の世界に旅立った。
「あらあら…困った人たちです。いくらお休みだからって昼間から寝ていては子どもの教育によくありませんよ?」
「ご心配なく。ガキの冒険者なら全員今日は遊ぶんだってテーブルのつまみの残りを朝飯代わりに食って出て行きやした。リリファちゃんも一緒でしたぜ?」
「知っています。流石にそれだけでは食べ盛りにはかわいそうだったのできちんと朝食を食べさせておきました。」
「…天使かな?ありがたやありがたや…」
ナッシュがセーヌの背後に光背と天使の羽を感じ取って拝み始めたところで、猫亭の扉が勢いよく開かれて外から誰かが入ってきた。
「ただいま子猫ちゃんたち!!いやーすっかり遅くなっちまった。お土産もたんまり…うおっ、酒臭え!?…冒険者どもめ少し目を離すとこれだ…」
酒精の臭いに顔を歪めたのは猫亭の主クロノスだった。どうやら宣言通り無事に帰ってきたらしい。クロノスはセーヌの顔を見つけ床に転がる酔っ払いどもをよけながらそちらへ歩いていった。
「クロノスさん、お帰りなさいませ。」
「うっすお兄いさん。よろしくやらせてもらってやした。」
「俺がいないあいだ何とも…無くはなかったようだが、冒険者なんてだいたいこんなもんだ。「これ」は異変にカウントしなくていい。最初に言っておく。」
主の帰還にこの中で唯一起きていたセーヌとナッシュが挨拶をした。クロノスはそれを受け止めると留守の間に何もなかったかと転がる冒険者達を指さして二人に尋ねた。
「見ての通りです。何も異常はございません。」
「バーツとシュートは気持ち悪くなってもきちんとトイレで吐きやしたぜ。だからゲロ臭くっても許してやってくだせぇ。それとトルマのお兄いさんの肩が…」
「特に何もなさそうだな。よかったよかった。」
「あの…お兄いさん?」
床に転がる冒険者をカウントしなくていいのならと異常なしと報告するセーヌに満足してクロノスは頷く。一方でナッシュの方の報告はキチンと聞いた方がよさそうだがクロノスは特に気にしてもいなさそうだった。
「なぁナッシュよ。冒険者の間にはとても素晴らしい言葉が三つある。それは「終わりよければ全てよし」と、「些細なことは気にするな」。そして最後に「死んでないなら大丈夫」だ。覚えておけ。」
「…うっす。そういうことにさせてもらいやす。トイレにいったまま戻ってこないやつらを見てきやす。」
クロノスがいいというのなら…とナッシュは無理やり納得して聞いてもらうのを止めた。そして気持ち悪くなったとトイレへ行ったまま戻ってこない仲間の様子を見るために席を立つのだった。
「朝ごはんにスープを用意しましたが…クロノスさんもいかがですか?」
「美味しそうな香りはそれだったか。そうだな、頂こうか。」
セーヌに勧められてクロノスは彼女特製のスープを美味い美味いと飲み干した。そしておかわりした二杯目にテーブルの上にあった残り物のパンを浸して食べながらシヴァルを届けた時のことを話したのだった。
「――でだ。真夜中に始まったギルドの尋問官の取り調べに俺も同伴させてもらったんだが、シヴァルの奴、まさかモンスターの餌用に犯罪者の墓を荒らして死体まで盗んでいたとは…本気であいつと縁切ろうかと思った。…でもあいつのモンスターの知識マジで役に立つしな。くそ、縁を切りたくてもメリットのせいで切るに切れないとは、これが知は身を助けるってやつか。尋問官も夜中に起こされたものだから憂さ晴らしにノリノリでシヴァルを尋問するもんだから俺も楽しくなっちゃってさ。…ヴェラはどうしたって?あいつなら勤務時間外だからとさっさと寝てしまった。」
「それはそれは…それからどうなったのですか?」
美人のセーヌが真剣に聞いてくれるのでクロノスも気をよくして真面目に語った。尋問官とシヴァルを遊び半分で取り調べ続け気が付くと朝になってしまい、流石にこれ以上は付き合えぬと徹夜のハイテンションで楽しそうにシヴァルを尋問する尋問官と後から来た他の職員にシヴァルを任せ朝食を取らずに、やっと起きてきたヴェラザードとガルンドの仕事部屋を尋ねたのだ。
「そんでガルンド爺にシヴァルを捕まえたぞー!!って報告したら…喜んでくれて団員探しの期間も延ばしてもらった。」
「それはよかったですね。してどのくらいなのでしょう?」
「三日。」
「…三日?」
「そう、三日だ。いやー、ガルンドの爺さんも話が分かる。三日もくれるなんて太っ腹だぜ。」
「あの…シヴァル様を捕えた際の報酬などは…?」
「ないよ。だって金と団員探しの延長どっちが報酬に欲しいかって聞かれたんだもん。そりゃ俺が今欲しいのはどう考えったって時間だもんね。」
「(あれだけのことをしでかした人物を捕えた報酬がそれだけとは…いえ、時は金なりと言いますし…)」
にっこりと語るクロノスに胸中呆れるセーヌであったが、必要なことだったのだろうと主の決断を正しい物だと思うことにした。実際に団員探しの期間は刻一刻と迫っていたので間違いでもないのだろうが。
「それでせっかくチャルジレンに来たのだからと時間が許す限りそこに住む知り合いの元を片っ端から「戦士はいねーがー。上等な戦士はいねがー。」って顔に鬼のお面を付けて尋ねたんだけど…全員に白い目で見られて追い出されて塩まで撒かれてしまった。」
「それは…当然かと。なぜいちいち鬼の面を被るのですか。」
「いいじゃんか。久しぶりに会うんだ。これくらいの演出は大事だぜ?しかしあいつらももったいないことをする。ミツユースが近いとはいえ内陸部のあそこで塩は貴重だろうに。」
芸術センスの理解がないやつめと首を振って悲しむクロノスの横で、セーヌは不思議な人だとくすりと笑った。
「とりあえず時間が無かったからヴェラが残ってチャルジレンでの戦士探しをしてくれているが、伸びた期間でもそれは難しそうだ。どういうわけかあっちにも猫亭の団員探しの件は伝わっていなしいし…そうだ!!聞いてくれよ。実はすごいことがわかったんだ!!なんと…」
逸る気持ちを抑えて息を整えてからクロノスは続きを語った。
「なんと黒ザコウサギの正式名称でオンブルとソンブルどっちが先に来るかは生物学的要素と経済学的要素でそれぞれ先に来るのが違うから、ノンジャンルで語る時はどっちが先でもいいんだって!!」
「…はい?」
「…じゃなくって!!違う!!そんなことはどうでもいいの!!間違えた!!ちょっと待って今の無し。こほん…」
どうやら逸るあまりどうでもいいことと間違えたらしい。こほんと咳をしてからもう一度クロノスは語るのだった。
「アレンの父親のアラン。そいつのことをガルンドの爺さんが知っていたんだ。あ、さっきも話に出たガルンドの爺さんってのは、俺の面倒を見てくれてるギルドの幹部で…」
「それについてはまた今度で。というよりもガルンド氏と言えばギルドでも超を付けるほどの有名人ではないですか。私でも知っております。それよりもアラン氏についてというのは?私気になります。」
「どうやらガルンドの爺さんがとある地方の一支店で支店長をしていた時の知り合いらしくてな。いろいろ聞かせてもらったよ。それもあって遅くなったんだが。皆にも聞いてもらおうと思ったけど…ナナミとリリファは?」
「リリファさんは他の冒険者のお友達と遊びに出かけました。ナナミさんはあなた様に申しつけられたました通りアレン君の動向を監視に…」
「ゴメン!!アレン君どっか行った!!」
セーヌが二人の行方を話していたところに入り口の扉を勢いよく開け放って飛び込んできたのはちょうど話に出てきたナナミだった。
「おうナナミ。首尾は…」
「順調じゃない!!「じゃない?」じゃなくて「じゃない!!」疑問型ではなく非定型です!!てゆーかクロノスさんお帰り!!」
「おうただいま。で?アレンがどこかへ行ったというのは?」
クロノスはナナミに続きを促したので、ナナミは一度ぜぇはぁと息を整えてから報告した。
「アレン君が学校に行ったっていうからそっちに行こうとしたんだけど、途中でアレン君を見つけたの。それで声を掛けようとしたらどこかへ飛んで行って…マジ全速力。その後で片っ端からアレン君がどこへ行ったか街の人に尋ねたんだけどサッパリで…学校にも行ってみたんだけど今日はまだ見てないって用務員のおじさんに言われて…お腹が空いたので帰ってきました。というわけで何か食べたい!!カロリーぷりーず!!エンゲル係数ぷりーず!!」
「報告ご苦労。セーヌ。」
「はい。」
クロノスはナナミの報告を聞き終えてから彼女を労い、そしてセーヌに彼女の分の遅い昼食(ナナミは朝しっかり食べたので昼食だが)を与えさせたのだった。
「おいしいおいしい…!!」
「そうか…アレンはどこかへ行ったか。すぐには動かんと思ったが…まぁ、帰ってきてからここへ来るまであの件があちこちで噂されていたから時間の問題だと思った。まったく、冒険者も守秘義務というものを守ってほしいものだぜ。それを期待するフレンネリックさんもフレンネリックさんだが。」
「…うまうまごっくん。そういえばだけど、どうしてクロノスさんはアレン君を見張るように言ったの?やっぱりアレン君が冒険者になることに何か問題でもあるの?」
「それはだな…ん?誰か来るな。俺の知らない足音…客か?」
口に食事を詰め込みながら問うてきたナナミに答えようとしたところで、クロノスは猫亭に誰かが入ってこようとしていたことに気付いた。そして息を整えてあのダサイで一山作れそうなセンスのないセリフを呟こうとする。
「いらっしゃいませ!!ようこそ猫の手も借りて…」
「大変なんだ!!セーヌ姉ちゃん!!」
クロノスが言い終える前に入ってきたのはアレンと同じくらいの年ごろの少年だった。クロノスは見慣れぬ少年に誰何しようとしたが彼の御所望がセーヌであったことに気付き彼女の方を見る。セーヌは少年と顔見知りだったようですぐに前に出てきた。
「あらあら、ハンス。どうかしたのですか?こちらへ来るのは初めてですね。」
「ハンナに場所を聞いたんだ。それよりも大変なんだ!!俺のクラスの友達のアレンってやつなんだけど、朝登校中に突然どっかに行っちゃって…後から遅れて学校に来ると思ったんだけど結局授業が終わるまで来なくて…俺昼休みに抜け出してここへ来たんだ。」
「ハンス。まずは落ち着きなさい。さぁ水でも飲んで…それからゆっくり教えてくださいね。」
セーヌが息を荒げるハンスにコップに注いだ水を差しだすと、ハンスはそれを受け取ってゴクゴクと飲んだ。それからアレンは朝の公園での出来事を語って聞かせた。
「ガキがガキを身請けね…アレンもなかなかやるな。完全にノープランなのは減点だが。」
「まさか金を工面しに行ったとも思えないけど…アレンは真面目なやつで理由もなく学校をサボる奴じゃないよ。ハンナはべリンダおばさんの所へ行ってる。でもそっちにもたぶん…俺の気にしすぎなのかな…?」
「そんなことはありませんよ。ハンスもよく報告してくれましたね。私たちも今彼の話をしていたのです。」
「え…なんで?セーヌ姉ちゃんアレンと知り合いだっけ?あいつなんかしたの?ってなにこいつら!?」
セーヌに促され落ち着きを取り戻したハンスは、床に横たわる冒険者達にようやく気付いた。というか一人踏みつぶしてしまっており、そいつは「勇み系ショタに踏みつぶされ…ご褒美ですにゃ…」などと譫言を言っていた。
「こいつらは気にしなくていい。さてアレンがどこへ行ったかだが…だいたい予想はつく。」
ハンスの話を聞いた後で自分の分のパンとスープをいつの間にか平らげたクロノスは立ち上がり、背伸びを一度してから出口に向かった。
「クロノスさんどこへ行くの?」
「アレンを連れてくる。どこへ行ったかだいたい予想はつく。そうだ君達は…」
「人の子よ。遅いですよ。早くしなさい。」
クロノスがナナミ達に指示を出そうとしたところで、カメガモが痺れを切らして戻ってきた。
「…なんでカメガモがいるの?」
「それが亀とカルガモが受け入れる準備がまだできていないとかで、準備ができるまでの間こちらに身を置かせてほしいと。それとこちらの池を解放してほしいとのことです。」
「ふーん。あれ池だったんだ。俺てっきり近所で共同の野菜の洗い場だと思ってた。別にいんじゃね?水は出るからそこで寝ている連中使って準備すればいいさ。」
「かしこまりました。そのように…」
「それとナナミ。君にお土産。」
「お土産?なになに?」
「頼まれていた魔術で火を起こす魔道具…コンロだっけ?知り合いにもらってきた。料理に使いたいんだろ?セーヌ用に雷属性版もある。それと道中でアップールの実を採ってきたからそれでなにか茶の時間の菓子でも作ってみてくれ。全部入り口に置いておいたから。」
「ホントに!?わーい!!」
ナナミは喜んで入り口に向かいそれを取りに行こうとしたが、やがて両手いっぱいに果実を抱えて戻ってきた。
「魔石コンロめっちゃ重い!!これどうやって運んできたの!?」
「普通に…手で抱えて。」
「普通の基準が違う!!手伝って!!」
「酔っ払いのバカども起こして手伝ってもらえ。セーヌがいるだろ。」
「そうだね。セーヌさんよろしく!!」
「仕方ありませんね。カメガモ様のお池作りも人手がいりますし。それでは…」
「ほう。その年でこれだけの魔力は素晴らしいですね。」
「えっ、セーヌ姉ちゃん何する気?」
セーヌが袖からトンファーを取り出して何やら魔術の詠唱を始めると彼女の足元が光っていく。それを見てナナミはハンスとカメガモを引っ張って裏庭に。クロノスは入り口から出て行くのだった。
「早くしないとアレンの命もやばいかも。とにかく急ごうか。」
最後にクロノスが振り返れば、そこは眩い閃光に包まれてバチバチと雷撃が飛び交う愛しの拠点があるのだった。中からいっぱい断末魔が聞こえた気がするが、たぶん気のせいだろう。
「セーヌが新たに習得した状態異常全員回復の神聖魔術「ライメイ・スタンピード」。これで回復の魔術というのだから魔術の世界は興味深いな…あれ?他にも誰か起きていたような…まあいいか。」
クロノスは視線を前方に戻してアレンのいると思われる場所に向かうのだった。