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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第60話 小さなチャレンジ・スピリッツ(カメガモ様に着いていきましょう)

「礼儀知らずな人の子たちよ。こちらですよ。早く来なさい。」


 そう言ってカメガモは偉そうにガァガァと鳴きながらクロノス達を先導する。くちばしにはセーヌ特性サンドイッチの水に沈めてずぶ濡れになった残りが咥えられていた。よほど気に入ったのだろうか?


「人の子は足が鈍くて嫌になってしまいます。なぜこのような愚かな生命にユニコーンやペガサスは惹かれるのか…まったく理解に苦しみます。」

「…」


 歩きながらも幻獣仲間を理解できないと首を横にふりふりするカメガモだが、お前の咥えているサンドイッチも人類の発明品だぞ。そう思うクロノスだった。



 カメガモを釣り上げたクロノスだったが、彼女(?)の首に巻きついた糸を外したところにまず始まったのは非常に貴重な、もしかしたら大陸中でも受けたことのある人間はいないかもしれない幻獣のお説教だった。三人を地面に座らせてからやれ所詮は人の子だとかこれだけ図体がでかいのに役立たずだとかぐちぐちぐちぐちがぁがぁがぁがぁと小一時間にも及ぶ説教を続けたのちに、目の前の餌に目が眩み思わず喰いついた私にも非はありますと話を打ち切って着いて来いとクロノス達を歩かせたのだった。



「…なぁ。」


 カメガモの後ろを黙って着いていくクロノス達だったが、やがて痺れを切らしてクロノスが口を開いた。その声に反応してセーヌとアレンはクロノスに顔を向ける。


「あいつ…いや彼女か?いったい俺たちをどこへ連れて行く気だ。」

「先ほど見てもらいたいものがあると言っておりましたが…」

「聞こえていますよ人の子よ。口を動かす暇があるのならその労力を少しでも歩くことに使いなさい。」

「「はい。すみません。」」


 会話をばっちり聞いていたカメガモは前からがぁがぁと鳴いて二人を叱ったので、おとなしくするべきかとクロノスとセーヌは謝った。仮にも幻獣の一種だ。もし機嫌を損ねられたらどうなるかわかったもんじゃない。その光景をアレンはさきほどから黙って見ていたがついに二人にずっとしたかった質問をした。


「二人ともカメガモが喋ることには驚かないの?だってカモだよ?どうやって言葉を出しているのとか思わないの?」

「別に。仮にも幻獣の一端ならば人の言葉を解したとしても不思議ではないぜ。ユニコーンやペガサスだって喋るしモンスターだって知能のある奴は喋れるんだ。人の言葉はもはや人の物だけではない。」

「アレン君もカメガモ様に失礼のないようにしてくださいね。伝説の通りが本当なら彼女はペガサスやユニコーンと同格の存在ですから。」

「あれが絵本で見たのと同格…てゆうかそれを金に目が眩んで捕まえようとしていた冒険者って…」

「それはそれ。これはこれだ。」


 冒険者達に呆れを覚えたアレンだったがすぐ目の前にカメガモがいてこちらを睨んでいたのに気付いた。どうやらクロノス達がいつまでも歩みを遅めて喋くりあっていたので引き返してきたらしい。


「うすのろの人の子よ。私は先に言っていたはずです。話す労力を歩きに割けと。」

「だって着いて来いとだけ言って怪しさMAXなんだよ。おいらたちをどこへ連れて行く気だ。」

「あ、アレン君。」

「よせセーヌ。失礼があるかもとへりくだっていたが、元々捕まえるつもりだったんだ。今更失礼もクソもあるかよ。」


 カメガモの神聖さを全く信じていないアレンはカメガモにややきつめに質問した。それを見てセーヌはアレンを嗜めようとしたが同じように考えていたクロノスに止められてしまった。


 彼女を無理やり捕まえて窒息しない程度に穴の開いた袋に詰め込んで本部で待つフレンネリックに引き渡してもいい。そうすれば亀とカルガモの団員たちは狂喜乱舞間違いなしであろうし、報酬の金貨を頂けるのだ。しかし仮にも幻獣が自分の意志で人間であるクロノス達をどこかへ誘おうとしている。クロノスとしてはそこが非常に気になるのだった。


「幻獣の伝説に人間をどこかへ案内した逸話はいくつもある。ある幻獣は虹の終点にある無限の財宝の元へ。またある幻獣は不老不死の果実酒が尽きることなく湧く泉へ。逆に終わることの無き地獄や危険なモンスターだらけの迷いの森へ連れてくって話もある。だがカメガモは商人にとっての大成の証というだけで具体的に何を得るのか語られていない。亀の甲羅を背負った鳥公よ。いったい俺たちをどこへ連れて行く気かな?」

「ちょっとクロノスさんまで…!!」


 二人の行動にセーヌはギョッとした。これがもしユニコーンだったら尻の穴を角で突かれて悶絶していただろう。しかしクロノスとアレンの暴言をカメガモは怒ることなく聞いていた。


「人の子とは理由をせねば行動できない愚かな生き物だということはよくわかりました。よろしい。先に私があなたたちをどこへ誘おうとしているのか…それからお話ししましょう。」


 カメガモは嘴を上に向けてサンドイッチの残りの一欠けらを丸呑みにすると、その場にどっかりと座りこんだ。


「残念かも知れませんが私はあなたたちを財宝の元や迷いの森に連れて行くわけではありません。私が来てほしいのはこの先にある…人の子がダンジョンと呼んでいる場所なのです。」


 カメガモは静かに語った。彼女はこの湖周辺の土地を支配する存在なのだと言う。


「支配すると言っても特に何かをするわけではありません。自然は全ての生き物の物。だからこそモンスターが土地を荒らそうがそのモンスターを人の子が狩ろうが好きにすればいい。しかし最近おかしなモンスターが蔓延するようになりましてね…」


 そのモンスターはある日突然どこかから現れた。ただのモンスターならば自然を幾ら荒らしたところでたかが知れているしモンスターもまた他の生物に捕食されるので生態系に多きな変化はなかった。しかしそのモンスターは今までのモンスターとは異なったのだ。


「そのモンスターは肉食の大変な大喰らいで土地の生き物を片っ端から捕えて食してしまうのです。ウサギもシカもクマもオオカミも…モンスターであるゴブリンやオークですら関係なく、ある意味で平等に公平にです。人の子も何人か食われているようですね。食べカスの中にそれらしき骨がありましたから。」

「げ。人も食べられちゃってるの。」

「そりゃ冒険者のことだろうな。ここはギルドで立ち入りが制限されているから猟師や山菜取りの爺婆も来ない。いるかもしれんが何かあったら自己責任だ。冒険者なら一人か二人消えた所で余所へ行ったかと思われるだけだし。しかしクマやオオカミまで喰うとはどれだけ強くて大きいんだ。」

「その通り。この中で一番大きい赤き瞳のあなたを5人合わせてもまだ大きいでしょう。おかげで土地中の生き物は喰われることを恐れよその土地へ逃げてしまい寂しい森になってしまいました。」

「そういやここへ来てからずっと獣の気配がしないな。」

「そんなのわかるの?」

「わかる。セーヌもわかっているだろう?」

「はい。何となくではございますが。」


 余裕でわかると回答したS級のクロノスとB級のセーヌに正体を知らぬアレンはすこし驚いていたが冒険者ならば皆そうなのであろうと納得してカメガモの話を聞くのに徹した。


「今はまだ目に見えて大きな変化はありません。しかし生命がいなくなれば遠くない未来に不毛の土地となることは容易に想像できます。とにかくこれは一大事だと私は重い腰を上げて干渉することにしたのです。」


 まず彼女が調べたのはモンスターの出所だ。もしかしたらよその土地から移動してきたのかもと知り合いである近隣の土地の主に尋ねることにした。しかし答えはいずれも知らぬの一択であり、むしろウチの土地が危なくなるからお前の土地から絶対に出すなと言われる始末。


「ひでーなお仲間。こういう時こその助け合いだろうに。」

「それは仕方のないことなのです。彼らにも守るべき土地がありますし私が支配する土地というのは私が管理できる土地ということ。力不足で助力を求めたならば私には不相応の土地ということに他なりません。自分の預かりは自分で納めよ。それがあなたたち人の子が幻獣と呼ぶ生命間のルールなのです。」

「で、おかしなモンスターってのは?」


 まだそのモンスターの名前すら知らないクロノスはそれを教えろとカメガモにせがんだ。しかしカメガモは短い首を残念そうに横に振った。


「私はその問いに返す知識を持ち合わせておりません。勿論近隣の主もです。それは私が土地を支配していた間一度も森で見たことの無いモンスターなのです。しかし近隣の主が知らぬと言うのならやはり出所はこの森のどこか。そう考えた私は我が子を使って森中を探しました。」


 我が子?と首をかしげた三人だったがそこで思い出した。カメガモは親子で目撃されていると言うことに。


「おや、知っているようですね。ならば話は早い。お前達出てきなさい。」

「「「ぴよぴよ」」」


 カメガモががぁがぁと鳴くと近くの茂みから何匹かの子ガモが現れた。子ガモもまた背中に亀の甲羅を背負っている。


「親子でいるって本当だったんだ。これを連れて帰ったら幾らになるのかなぁ…」

「アレン君よだれよだれ…」


 うへへとよだれを垂らして呆けるアレンにハンカチを取り出して口元を拭いてあげるセーヌと一般人も欲の深さは冒険者と大して変わらんと評価するクロノス。


「普段ならば幻獣といえどまだ子ども。他の生き物に食べられないように隠して育てるのですが外敵もそのモンスター以外皆逃げてしまったので目を気にせずあちこちを調べさせました。途中人の子に姿を見られてしまうことがありましたが…とにかく何日も探してつい最近になってようやくそのモンスターが現れる場所を見つけたのです。そこが…」

「ダンジョンってわけか。」


 なるほど確かにダンジョンならば外界と生態系が異なるし今まで土地の管理者が目にしたことの無いモンスターがいたとしてもおかしくないし、むしろ当然だ。入り方を知っている人間と違い隔絶された空間であるそこに他の生き物が侵入することは例えカメガモが不思議な力を有する幻獣であることを考慮しても難しいだろう。


「あれ?でもそれっておかしくはないでしょうか?」


 しかしそれには少々おかしな点があると納得のいかないセーヌだった。


「入れないということは出ることもできません。ダンジョンは通常外界と隔絶されており中のモンスターは地上に出られませんが。」

「確かにその通りだが…最近は少し違うな。」


 ダンジョンのモンスターは外界に出られない。仮に出ようとしても外界とダンジョンを繋ぐ外壁と呼ばれる硬く厚い不思議な壁に阻まれてしまうのだ。冒険者ならば当たり前のように知っている知識を語るセーヌだったがその横でクロノスが不正解だと指摘した。


「セーヌ。君の知識は少し古い。実は外界と入り口の間にある隔てる壁が壊されたとき、ダンジョンがそれを修復する一瞬なら出てこれるんだそうだ。」

「そうなのですか?私の知識不足でした。」

「わかったのは本当につい最近のことなんだ。君は五年の間冒険者の活動に関わってこなかったらしいからな。多少のブランクは仕方ない。」

「ならモンスターが壁を壊して抜け出ちゃったってこと?」

「それはないな。壁もモンスターもダンジョンの一部。ダンジョンがモンスターに自分自身を壊させるなんて話聞いたことが無い。それに壊せば出られるっていっても本当に一瞬だ。一匹出られるか出られないかのくらいわずかな時間だ。」

「しかし例のモンスターはそこから引っ切り無しに出てきますよ。一度に何匹も出てくるところを我が子も私自身も目撃しているのですから。」

「「「ぴよぴよ」」」


 がぁがぁとカメガモが抗議すればそれにならって子ガモもぴぃぴぃと抗議する


「とにかく一度見てください。人の子ならばどういう状態かわかるでしょう。」


 カメガモは立ち上がるとまた歩き出した。


「カメガモ様はああおっしゃっておりますがよろしいのですか?」

「ん?ああ…」


 昼時はとっくに過ぎていたしこの先はカメガモ捜索のクエストの捜索範囲外だ。お目当てを見つけたとはいえ絶対に昼に集合と言っていたクロノスとしては守らなくては立つ瀬がないだろう。


「まぁ冒険に絶対はないと言ったのは他ならぬ俺自身だからな。別に集合時間に間に合わないのはこれっぽっちも気に病んじゃいない。しかしモンスターがいるとなるとアレンを連れて行くのは…」

「おいらなら大丈夫だよ。それにダンジョンも一度見ておきたいしね。ダンジョンのあるところはどこも一般人は立ち入り禁止だからおいら楽しみ。」


 モンスターを恐れない辺りアレンは相当胆の据わった子供の様だ。前に一人で守りに立ち入ってモンスターと戦ったと言っていたしモンスターと出会っても驚いて何もできないと言うことは無いだろう。なにかあったらアレンの身を最優先で行こう。口には出さないが顔を合わせて決心するクロノスとセーヌだった。



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