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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第6話 新規入団者いまだ0(少女を騙す悪党に天誅を下しましょう)

「…クロノスさん?どうしてこんな…」


 男の正体を知り、ナナミは独り言のようにつぶやく。ついさっき、わずかな間ではあったが優しくしてくれて、いつか恩返しをしようと思ったばかりの相手。その男になぜ襲撃されなくてはいけないのか。ナナミには理解できなかった。


「おい、ナナミ!!」


 立ち尽くすナナミの肩を叩き、ナナミを現実へと戻したのは、グリジャだった。


「ひどく驚いているみたいだが知り合いか?」


 グリジャの質問に弱弱しくも、はいとだけ答えると、ナナミはグリジャの方を見る。それはまるでグリジャに自分の持つ疑問を解決してほしいかのようだった。


「あの、皆さんに再開する少し前に…ご飯を奢ってもらって、クランの紹介、をしてもらったんです。」


 やっと答えたナナミにグリジャは「なるほどな。」と頷いた。


「そいつ、「詐欺師フール」だ。いるんだよ、困っているヤツを助けるふりして、獲物を探す。そんでコイツと決めたら裏でコト、を犯してくれる。」

「そんな…」


 グリジャの言葉にナナミはただただ驚くことしかできなかった。


「だって、とっても優しくしてくれたんですよ…?ミツユースに着いたときは、お腹が空いて変なテンションになっていたし、ギルドで倒れていた、ときも、みんな無視しているのに1人だけ、声をかけてくれて、食堂の美味しいご飯、しかも一番高い奴を、デザートまで付けてたくさん…」

「まてまてまて待ちたまえ!!美化するな。一番高い定食をデザート付きで頼んだのは君だろう?ついさっきだぞ?もう忘れたのか?それにカモを探していたのならわざわざ無一文だとわかっている君を助けたりなんか…」


 クロノスが話し終わる前に彼に向かって鋭い斬撃が飛んできた。それを横に避けたクロノスは、ヴァイグが復帰して一発お返しをくれたのかと思い斬撃の着陸地点を確認すれば、そこには大きな「両手戦斧トゥーハンドバトルアックス」が地面を割り突き刺さっていた。戦士のグリジャの持つ武器である。


「悪人と話すことは、何もない。」


 グリジャが突き刺さった両手戦斧の持ち手を掴み、それを片手で持ち上げ肩に担ぐ。普通なら持つのにも両手が必要なんだけどなにこの筋肉野郎。とだけクロノスは思ったが、その顔には焦りの1つも見受けられなかった。


「悪人と話すことはない、ねぇ…なら俺も君らと話すことは何もないな。」

「えっ?それはどういう…」


 どういうこと?とナナミは聞こうとしたが、その声は後方からのさらに大きなうめき声によってかき消された。なにかと振り向けばそこにいたのはいまだに痛みで悶え転がるヴァイグと、顔から玉のような汗を滴り落としながらもヴァイグの治療を続けるピサロだった。


「グリジャ!!ヴァイグの奴、全然治んねぇぞ!?俺の一番の術式でもよくならない!!」

「なんだと…クロノスとか言ったな。お前、ヴァイグに何をした?」

「何をしたって言われてもな…本当はさ、短剣だけのつもりだったんだけどさ。ミスって手の骨まで砕いたみたい。いや、本当にゴメン。」


 冒険者としての経験から呪いや毒の類が使われたことを想像したグリシャであったが、クロノスから出たのは意外な答えだった。手練れの剣士ならば攻撃を受け止め、カウンターに腕を斬りおとしたりすることもできる。しかしクロノスと名乗る目の前の男の持つ剣はいまだしっかり鞘に収まっており、その刀身は一度も顔を見せていない。目を凝らしてみても鞘の方はごく普通の作りでいくらなんでもヴァイグの短剣とそれを持つ手の骨を砕けるとはとても思えなかった。


「ふざけるな!!毒の類なんだろう?騙されんぞ。ピサロは治癒士しとしてはかなり優秀だ。ピサロ!!解毒魔法に切り替えろ!!おっと、毒が回るまでの時間稼ぎならそうはいかん!!」


 グリシャが肩に担いだ両手戦斧を大きく振りかぶると、今度はそれを横薙ぎに力強く一閃した。グリシャの得意技「爪斬斧ソウザンプ」だ。戦斧で横切りをする戦士の基本技で、装甲の堅いモンスター相手でも、大きなダメージを与えられるのが特徴である。本来は片手斧で繰り出す技だが、グリシャはまるでオークと見間違えるかの巨漢の筋肉質の男である。そんな彼が力いっぱい両手戦斧でそれを繰り出せば、たとえ盾で受け止めたとしても、盾ごと胴体を両断するだろう。


 グォッっと大きな風切音が鳴り、両横の壁は衝撃波で横一文字に抉られていた。もしもクロノスがこの技を真正面から受けていれば、おそらく真っ二つという言葉が相応しい素敵なオブジェになっていたに違いない。


「まともに喰らえば、な。」

「何!?確かに一撃当てたはず!!この至近距離で避けられるはずがない!!」


 クロノスの上半身と下半身は綺麗につながっており、体よく言えばいつも通り、であった。その顔は落ち着きの色を持っており、まるで先ほどの斬撃は春のそよ風にすぎなかったかのようだった。


「気が済んだか?あ、話すことは無いんだっけ?」


 クロノスが無表情でグリシャへ語りかける。グリシャはと言えば得意技であるはずの爪斬斧が何の効果も無かった衝撃が大きいのか、両手戦斧を振り下ろした状態から動けないでいた。


「仲間に手出しはさせない!!」


 クロノスとグリシャの間に割って入ったのは、ナナミであった。彼女の手に持つ短杖の先の小ぶりな水晶はメラメラと赤く輝いており、今にも魔術が飛びかねない状態だった。


「グリジャと俺が遊んでいる間に詠唱をストックしていたのか。D級でそこまでやれるやつは滅多にいない。流石は自称辺境の大魔術師の弟子。優秀だな。ますます欲しい。」


 でも後衛が前面に飛び出るのは減点要調整だな。と言うクロノスであったが、その眼はナナミをじっと見ていた。


「ふざけないで!!あなたの言うとおり詠唱は終わっています。私が解放のワードを叫べば、至近距離から、ドンよ!!あなたには一宿はないけど、一飯の恩義がある。今日のことは見逃すから、すぐに私と仲間の前から消えて!!2度は言わない。」


 ナナミは口を小さく開け、解放のためのワードを口ずさむ準備に入る。しかし、その眼には迷いがあり、短杖を持つ手もどこか震えていた。


「…迷っているな。君は人を殺したこと、ない?冒険者の戦う相手は指名手配の凶悪犯罪者やずる賢い盗賊なんかもいるんだ。それだと上のランクまでいけないぜ?」

「うるさいうるさい!!あなただって、そういう手合いなんでしょ!?いっぱいいっぱい騙して、奪って、犯して、殺して、愉しんでるんでしょ!?これだから、文明未開の超野蛮スペクタクルファンタジーは!!」


 ナナミの手がさらに震え、短杖の先の水晶がさらに激しく輝く。クロノスはこの光景に見覚えがあった。人を傷つけたことが無い冒険者がギリギリの崖っぷちで、理性と善性で本能と悪性を抑えている瞬間。これを超えれば一流冒険者の仲間入りだととある冒険者クランのクランリーダーは言っていたような気もするが。


「まぁそういう優しい心は、無くしたら最後だからな。大事に持っておけ。」


 クロノスはそう言い、一言二言何やらつぶやいた。すると今にもはち切れそうな光を輝かせていた水晶が、徐々に光を失っていき、最後にポンと間抜けな音と、燻ったような煙を少し出た。その光景を見たナナミはその場にぺたんと座り込み光の無くなった短杖の先を見つめていた。


「うそ…解術なんて、他人のスペルよ…ストックには暴発防止に魔力チェッカーとしるしるくんまで付けているのに、どうやって…」


 なにやら専門用語をぶつくさと呟くナナミを起こし、クロノスはナナミと視線を合わせる。ナナミの目に映るのはもはや恐怖ではなく、謎に対する好奇心の様なものが見て取れた。


「さてと、ナナミ。俺はお前に用がある。だが今は…あいつらが先だ。」


 クロノスが見つめた先へナナミも視線を向ける。そこにいたのはナナミを置いて逃げ出そうと来た道を走っていく3人の冒険者だった。


「え…!?ちょっと、私を置いていくんですか!?ねぇ…!?」


 ナナミがグリジャ達に叫ぼうとしとき、彼らが立ち止った。ナナミは最初こちらの声が届いたのかと思ったが、こちらに反応しないのを見るに立ち止ったのはまた別の理由らしい。何事かと彼らの先を見つめればそこには1人の女性が立っていた。


「なんだおめぇは!?邪魔だぞ、どけ!!」


 謎の女性に向かってヴァイグが叫んだ。彼は3人の中で唯一手負いのはずなのだが、誰よりも元気に見えた。


「…間違いありません。クロノスさん。こやつ等はギルドの手配リストに載っていた3人です。グリジャ・ハバネイ、ヴァイグ・アイグック、ピサロ・パーロイ。全員「詐欺師フール」です!!」


 女性の言葉にナナミはまた驚いた。何かに驚かされるのは、今日で何度目であろうか。私の心臓は強くないのだ。世界よ、私にもっと慈愛をプリーズ!!


「…どういうことですか、グリジャさん?ヴァイグさん?ピサロさん?」


 地べたに座り込みながらもナナミは彼らに問いかけた。今度はちゃんと聞こえていたようで彼らはこちらを向き、焦りながらも弁明した。


「あ、いや、ナナミ。俺らは助けを呼びに行こうとしていたんだ。俺らを「詐欺師フール」呼ばわりなんて、騙されるな。そうだ、この女もこいつの仲間…」


 手負いのはずなのに人一倍饒舌なヴァイグだったが、その声が止まる。見ればさっきまでナナミのすぐ横にいたはずのクロノスが、ヴァイグの横に立ってナイフを持ち、それを彼の口に差し込んでいた。


「(え…!?さっきまでここにいたのに?だってあそこまで10メートルくらいあるよね?瞬間移動とか!?)」

「君たちさぁ…その女誰だと思ってんの?ギルドの職員だよ?ちょっと、ちょーっとだけ男のロマンに満ち溢れた征服的野望に満ちた制服に、ギルド職員を表す「絶対座標テンプレート」の魔術で取り付けた銀のバッジ。これだけあって彼女を偽者、だって言うのか?」

「なっ…この距離を一瞬で…!!」

「なぁ、ヴェラ。こいつらの名前と罪状なら俺も頭に入ってる。知ってるぞ?新人の冒険者にあれこれ教えるふりしてクエスト報酬がめて、これだと決めた獲物には報酬を払い忘れたと言って再び接触して、そのままパクリ。賢いなぁ。誰だって騙されたと思った相手がまた会いに来て盗られたと思ったモン渡してまた優しくされれば油断するもんなぁ…」


 ナナミに聞いた話が聞いていたものに似ていたから、ヴェラにナナミのパーティー履歴調べさせて正解だったな。それだけ言うとクロノスはヴァイグの口に差し込んでいたナイフを引き抜いた。どうやらナイフを差し込んだのは単に彼を黙らせるためだけだったらしい。


「さて、実は君たちに残念なお知らせ。君たち罪重ねすぎ、積み重ねすぎ、盗みすぎ、犯しすぎ、殺しすぎ。…やりすぎて引き渡しは「デッドオアアライブ(死んでいても生きていても可)」なんだよな。」

「ふざけるなぁ!!ぶっ殺してやる!!」


 クロノスの言葉にグリジャは激高し、クロノスに両手戦斧を振りおろし渾身の爪斬斧を叩きこんだ。それと同時にピサロが至近距離から攻撃魔術を、ヴァイグが隠し持っていた緑色の毒と思われる液体が滴る短剣で、クロノスに同時に襲いかかった。

 防げない、そう思ったナナミは瞼を閉じて目の前の惨劇から目をそらす。10秒たっただろうか?いや1分はたったかもしれない。もしかしたら今までの光景は全部夢で、今私はベッドの中で布団にくるまって目覚ましの音に耳鳴りを覚えながら―――と、いくら現実逃避しても、自分がド腐れ汚ねぇ不衛生ファンタジーの世界にいることには変わりないので渋々目を見開く。そしてそんな彼女の眼前に映るのは、ピサロの魔術で黒焦げになるヴァイグ。グリジャの爪斬斧で真っ二つになるピサロ。そしてヴァイグの毒剣で突き刺され、苦しみの表情で泡を吹いてもがくグリジャであった。


「3対1でS級に勝てるわけないだろ。」


 何が起こったのか理解できず、いや、あの3人のうち2人は確実に死んでいるだろうと理解できる。なぜか冷静に観察できる自分を殴りつけ、何とか立ち上がろうとしたナナミだったが、今日の出来事で疲れがたまったのだろうか。ふらついたところに誰かが支えてくれた。礼を言おうと振り向くと、そこにいたのは何事もなかったような顔でナナミの肩を支えるクロノスだった。


「私、助かったってことでいいんでしょうか?」


 ナナミはすぐ向こうにある2つの死体…グリジャももう動いていないので3人だろうか。それを見つめクロノスへ問いかけた。口調はまた営業向けの敬語混じりの物に戻っている。


「まぁ、不埒な輩から貞操と命は守り切れたと言えるんじゃないか?金はきちんと返してもらったみたいだし。」 


 クロノスが手渡したのは紐で口を縛った小袋だった。これには見覚えがある。公園でピサロが自分に渡したクエストの報酬である。先ほどまで懐に入れていたのにと自分の体を手でまさぐるナナミだったが、すぐにそれが無いことに気付く。袋は少し黒焦げになっており、それから察するに盗賊であるヴァイグが、逃走の直前で自分から盗み出したのだろうとナナミは推測した。

 

「私、何を信じて行けばいいんでしょうか。わずかな間とはいえ仲間だと思っていた人たちは悪党で、私を食い物にしようとしていたみたいですし。これからミツユースでやっていける自信がありません。あ、亀とカルガモの入団の件ですけど、報酬はこの通り頂けたので…」


 やっぱ辞退します。とナナミが言い終わるよりも早く、クロノスはナナミを持ち上げ横向きに抱きかかえた。右腕は背中を支え、左腕は膝裏に通す格好にナナミは思った。これは幼稚園児の時から、時々夢にまで見た、あのすべての女児の憧れる伝説の…


「亀とカルガモはな。君の情報を聞き出すためのフェイク。だから何週間待ったところで合格の知らせは来ない。だから、「猫の手も借りウチ」に来い。リーダーの俺が認めてやる。」

「え?クロノスさんクランリーダーなんですか?…でも、私クロノスさんのこと何も知りませんよ。そもそも猫の手も借り亭なんてふざけた名前のクラン、見たことも聞いたこともないわよ。」

「俺のこともクランのこともこれから知ればいい。俺には君が必要だ。それに嫌でも俺のこと知りたくなるぜ?」

 

 だってお前…とクロノスがナナミの耳元に口を寄せて呟く。彼らの元へ近づいていくヴェラザードが見聞きしたのは「…だろ?」というクロノスのわずかな言葉とそれに驚き、さすがに疲れたのか目を閉じて眠りに落ちるナナミであった。

 クロノスは足元に転がる麦わら帽子を手に取る。手でほこりを払い落し、あの外道3匹の血などが付いていないのを確認するとホッとした。そして麦わら帽子を腕の中で眠るナナミにかぶせたところでヴェラザードがたどり着く。


「さて、ナナミが目を覚ました後の返答次第だが、とりあえずの魔術師様一名確保だけど?」

「おめでとうございます。目覚ましい一歩ですね。これからのご活躍を期待しております。」

「まかせておけって。これからナナミを馬車車のように…いや、いっそ自分から馬車車にしてくれたほうがマシだというくらい使ってやるぜ。」

「相変わらずダサいでおっきなお山ができますね。」



猫の手も借り亭――――団員2名



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