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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第57話 小さなチャレンジ・スピリッツ(各自カメガモを探しましょう)


――湖周辺捜索チーム(メンバー オルファン ヘメヤ バレル ジェニファー チェルシー セイン)―――


「…あった。ここだ。」

「そうだそうだ。この辺で火を起こした記憶があるよ。きちんと土を被せておいたのにそれを見つけるなんて流石はヘメヤだね。」


 オルファンパーティーの猟兵レンジャーである頭に毒々しい色のキノコを生やした男ヘメヤは、自分達が前に来た時に使った焚き木の痕跡を見つけた。オルファン達は自分達が以前いた湖の近くを探すつもりのようだ。


「しっかし直接の目撃者のオルファンと同じチームになるなんてラッキー。こりゃ旦那のご褒美は俺らのモンで確定だな。」

「あんまり期待しないでよね。僕もちょっと見ただけなんだから。」

「じゃがカメガモは湖を泳いでいたんじゃろう?」

「カメガモについては詳しく知らん。が、不思議な力を有する幻獣の仲間とはいえ結局は獣だ。オルファンの言うとおり親子でいたと言うことは必ずオスやその他の個体がいる。オルファンが見つけた場所を探せば他の個体が見つかる可能性もある。闇雲に探すよりずっと効率はいい。それに生き物は皆必要を持ってその姿をしている。見た目がカモなら普通のカモと同じく水場の近くにいるだろう。」

「さすが猟師レンジャーじゃな。生き物の生態に詳しいのう。」

「でしょ?しかもオルファンはなんとジルドクニックのアカデミーの卒業者なんだよ。頭がいいのは当然だよね。」

「ほう!!ジルドクニックのアカデミーといえば大陸中の天才が集まる最高峰の学問機関ではないか。」

「そいつはすげぇな。それなのになんで冒険者なんぞになったんだ?」

「いろいろあったんだよ。それに卒業者といっても俺は在学中は落第ギリギリの落ちこぼれだった。卒業も教授のお情けでさせてもらっただけだ。それにこんなことはアカデミーに行かんでも少し勉強すればだれでもわかる。お前たちが勉強しなさすぎるだけだ。」

「「それな。俺(儂)達バカだから!!それが冒険者だから!!あっはっは!!」」


 ヘメヤの話を聞いていた戦闘用の大槌を肩に乗せる老齢のドワーフの冒険者バレルとダンツパーティーの小太りな戦士の冒険者セインは肩を並べて笑い合った。それを見たヘメヤはついていけないと首を横に振る。


「冒険者になって五年経つが、やはり冒険者はアホで粗雑でいい加減でわからんちーであると改めて思い知らされる。まったく、まともな方の冒険者であるオルファンに拾われていなければ俺もどうなっていたことか。」

「あなたも一人だけ真面目キャラやっても無駄よ。」

「頭のキノコはバカの証。」

「グッ。キツイな…」


 常識人のふりをしていたヘメヤは本当に常識人である兎獣人の姉妹ジェニファーとチェルシーに咎められる。その原因は頭頂部にある一本の仰仰ぎょうぎょうしい紫色のキノコだった。これは以前のセーヌの歓迎会の際、冒険者達が自由市で各々に買ってきた謎の食材をヘメヤが無毒化してそれを材料に作られた料理を食べたことでできたものだった。それ以来ヘメヤの頭にあり続けもはやこれがヘメヤのトレードマークになりかけてしまっていた。


「ふん。冒険の途中では飢えとの戦いになることもある。毒があると飲食を忌避していてはあっという間にしゃれこうべの仲間入りだ。多少の代償くらい飲まなくてどうする。」

「その代償がだっさいキノコ…ね。」

「無害化には成功しているだろうが。コレ本来なら寄生者の意識を乗っ取ってキノコ人間に変える恐ろしいキノコなんだぞ。しかも他の寄生生物の寄生を止める副次効果付きだ。あの時俺が解毒した食材を使った料理を食った他の冒険者だってまだ一人も死んでない。むしろ人一倍元気だ。」

「そうね。確かに元気ね。みんな奇怪なことになっているけど。」


 そう言ってジェニファーは頭の中で料理を食べた冒険者達を思い出した。そういえばその中の二人に分裂した彼らは今頃どうしているか一瞬心配したがすぐに忘れた。正反対の性格だが元は自分自身なのだ。喧嘩したって最後には一つの器に収まるだろう。


「そいつらの副作用は食べたやつの自己責任だ。毒で死んでないのなら俺は知らん。というか何をどうやったら一人の人間が二人に分裂するんだよ!?生物学上ありえんのかよ!!俺がアカデミーで学んだ知識は何だったんだ!!生物学はいつも居眠りしていたけど!!」

「まぁまぁ。他の食材もそのままだと大変なんだろう?それを食べれるようにした時点でヘメヤはすごいって。」


 ありえないと当時を思い出し憤慨するヘメヤをオルファン達が宥めた。


「アカデミー出身というのはすごいと認めるわ。チェルシーなんか受験に不合格だったものね。」

「あれはわざと落ちた。私の本気はこんなもんじゃない。」

「へぇ、そうなのか…ん?ジルドクニックのアカデミーって一部の天才を除いてよほどの身分じゃないと試験すら受けられないって聞いたような…ならこいつら…」

「しかしどうして僕らのチームだけ六人なんですか?他は四人か五人なのに。」


 それを聞いていたセインは疑問を覚え一人で考え出すがそれを遮ったのはオルファンだった。


「仕方ないじゃない。チェルシーが離れたくないって聞かないんだもの。」

「や。」

「しょうがない子ね。最近はゲームで同じ年頃の子と仲良くやっていたじゃない。」

「それはそれ。これはこれ。」


 チェルシーはかなりの人見知りだ。今だって隣に姉のチェルシーがいるからなんとか話しているにすぎず、もし彼女がどこかへ行ってしまえば置物と変わらないくらい黙る。


 クロノスはチームを決めると言っていたが正直どう決めていいのかわからなかった。そんなときダンツパーティーの冒険者グザンがこんなこともあろうかとと、懐から取出したのが猫亭メンバーと出入り組の名前が書かれた木の棒だった。そう。適当にくじ引きで決めた。チームの役割とか実力差とか職業の偏りとか知ったこっちゃない。あ、命健組は「めいけん」と書かれた木の棒が百本くらいあって人数に応じて可変できます。そして姉と違うチームになったチェルシーはわがままを言ってジェニファーのいる湖周辺捜索チームに入り込んだのだった。


「あろうことか僕とセーヌさん以外の治癒士四人は一つのチームになっちゃいましたし、モンスターが出たらどうするつもりだろう。それにチェルシーさんが抜けたセーヌさんのチームなんか二人じゃないか。心配だなあ…」

「まぁまぁ、この辺に強いモンスターはいない。それはミツユースが地元のこの俺セインが保証するぜ。」

「ですが万が一ということも…」

「オルファンよ。多分あのチームなら問題ないじゃろう。」

「だよな。なんせミツユースで一番強いかもしれないコンビだぜ?」

「そういやそうですね。よーし、カメガモ見つけるぞー!!」

「いたいた!!おいちょっと!!」


 いらぬ心配だったとカメガモの捜索を始めようとしたところでカメガモ探しをしていた冒険者達がオルファンに話しかけてきた。


「ん?また君達?さっきも言ったけど僕も見ただけなんだ。これ以上詳しい情報はいくら尋問したって吐けないよ。なにせ本当に知らないんだから。」


 オルファンは冒険者達に見覚えがった。なぜなら先ほどカメガモの貴重な目撃者だと情報収集を目論んだ冒険者達に取り囲まれてしまっていたからだ。情報源が自分であることはギルドが伏せていたはずだが、大金がかかった冒険者の情報ルートは底なしだ。ちょっとした噂からあっという間にオルファンの存在を嗅ぎつけてしまったのだ。


 この冒険者達も先ほどオルファンに詰問したチームの一人であり、せっかく解放されたのにとうんざりした顔で何度目かもわからぬ同じ答えを出した。


「ああいや、その情報はもういいんだ。それよりもお前らウチのパーティーのヤツ見なかったか?」

「そういえば君達のパーティーは七人だったね。今は六人しかいないけど何かあったの?」

「それが…いなくなった。森の中で突然に。」


 冒険者の中の男が語った内容はこうだ。オルファンからの情報は改めてめぼしい物はなく、湖を探している冒険者は多いので自分達は森の中を探そうとした。そして森の中でゴブリンの一団に遭遇して戦闘になった。特に苦労するでもなくゴブリンを全滅させたところで突然霧が立ち込めた。その霧はすぐに治まりリーダーがメンバーを確認すると剣士の男が消えていたのだと言う。


「霧があったのはそんなに長い時間じゃなかったから先に行って迷っているとかじゃないと思う。もし何かあったら湖に集合と決めていたから俺たちもこうして戻ってみたが周囲の冒険者に聞いても誰も見ていないと。顔を覚えていないだけだろうと思って俺たちを覚えていそうなお前達に話しかけたんだが…」

「それは懸命だと思うよ。なんせ冒険者達は金貨が懸った珍獣探しで他の事に目がいかないからね。」

「だろうな。それで、見ていないだろうか?」

「僕の答えはノーだけど。みんなは?」


 オルファンは仲間にも見ていないかと聞くが、誰も首を縦には振らなかった。それを見て男は残念そうに首を振った。


「やはりダメか…仕方ない。諦めずに他の冒険者にも声を掛けてみるさ。」

「そうしてよ。案外本部に戻っているかもだし。僕たちも暇を見て探してみるから。見つけたら君達が探していたぞって伝えるよ。」

「そうしてくれると助かる。それじゃあ…」


 そう言って男と仲間達は去って行った。


「なんか行方不明者が出ているらしいから僕たちもチーム単位から離散しないようにしようよ。」

「お化けに食べられた?」

「チェルシー。縁起でもないこと言わないの。でもあなたも気を付けなさいね。もしお化けが私たちを食べるとすらなら、たぶんあなたが一番食べやすいから。頭からバリバリといくでしょうね。」

「っ~!!」


 ジェニファーがチェルシーに冗談交じりに忠告するとチェルシーが驚いてジェニファーにがっしりと抱きついた。しょうがないわねとため息交じりにジェニファーがぼやき、それを他のメンバーがほほえましく思ってからチームは湖周辺の捜索を開始した。


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