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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第54話 小さなチャレンジ・スピリッツ(しばしの休憩をいたしましょう)


「いやぁ、まさか兎ごときにこんなに手こずるとはねぇ。でも腕はぜんぜん衰えていなかったみたいだ。」

「キィキィ♪」

「そうかい。そりゃよかったな。」


 顔中毛塗れのフレンネリックはザコウサギを抱きかかえて得意げにアハハと笑う。そしてそれに釣られるように彼の周りのザコウサギがキィキィと楽しそうに鳴いた。


 クロノス達の温かい目に見守られながら戦っていたフレンネリックだったが、増えたモフモフ達百匹に取り囲まれてもうダメかというところで奇跡が起きた。なんと冒険者の技の一つを咄嗟に思い出してザコウサギ達に放ったのである。技の名前は「野駄夜打根やだやだこん」。打つ手のなくなった冒険者が破れかぶれで放つ悪あがきの一手である。槌を使い攻撃を当てたが、それでもザコウサギを仕留めるほどには程遠い。だがモンスター界屈指の雑魚であるザコウサギにはそれで十分。一撃を受けたザコウサギ達は彼に敗北を認めその場に寝転がった。まるで負けたので自然の摂理に従い食べてくださいと言わんばかりに。しかし勝者であるフレンネリックはこの掟に従わなかった。そればかりかザコウサギをライバルであると宣言し彼らを手当てしたのだった。彼の慈悲を目の当たりにして兎たちは気付いた。この方こそ我らが使えるべきお方なのだと。そうしてキィキィと鳴いて冒険者の列に加わったのであった。


「それにしても戦っていた時は恐ろしい悪兎あくとだとばかり思っていたけど、こうしてみるとなかなかかわいいもんだね。お前達ウチに来るかい?ご飯もあるぞ~!!」

「キィキィ♪」

「いやモンスター連れて帰ったらダメしょ…」

「もう面倒だから気にしたら負けだ。アレは元々フレンネリックさんの飼っていた兎だ。たまたま野に放って運動させていたんだよ。」

「そういうことにする。」


 冒険者達はあれはフレンネリックが放し飼いにしていた兎だったということにして目を瞑ることにした。あれは兎。誰が何と言っても兎。のっともんすたーいえすらびっと。


「しかし繁殖力の強いモンスターなんだろう?ミツユースに連れて帰ってはまずいのではないか。捕食者のいない環境に豊富な食料とか条件ばっちりじゃないか。」

「あ、私そういうお話知ってる。あのね、かわいいからって連れて帰って育てたら瞬く間に繁殖して世界を覆っちゃうの。それで後はどうなるか一切わからないバッドエンド。ちゃんちゃん。」

「おもろそうな話だな…だがそれなら大丈夫だ。」


 人間に危害がないとはいえモンスターを飼うという行為に忌避感を覚えるナナミとリリファだったが、それをクロノスがフォローする。


「ギルドの許可があれば危険性の少ないモンスターは街で飼育が認められている。一応生態研究の名目付きだがな。というか「神飼い」という二つ名の違法モンスター捕まえまくって飼っているアホもいるし、あれくらいなら大丈夫だ。あいつ最後に会ったとき生涯の伴侶を見つけたとか言ってメデューサに首輪付けてたんだぜ?ウケる。」

「突っ込みどころはいくつかあるけどその話は置いといてザコウサギは何で大丈夫なの?お肉もまずいんでしょ。なら増えても減らせないじゃん。」

「食うことばっかりだな君…ザコウサギの生態はまさにダメそのものでな。安全な場所で暮らすと個の寿命が延びる上安心しきって繁殖活動を行わなくなる。殆どと言っていいほどにな。かつてザコウサギの個体数が減少してしまい生態系に影響を与えないようにと野生個体を捕まえて育てた国があったんだが、殆ど増えなくて最後には絶滅したそうだ。だから連れて帰ってもほとんど増えないだろう。フレンネリックさんが大事に育てれば育てる程な。」

「わーお。ザコウサギちゃん最高の愛玩動物すぎる…」

「ふふふ。増えたらセーヌさんのところにも分けてあげよう。小さいころから動物を飼うのはいい影響を与えるらしいからね。情操教育ってやつだね。」

「それはありがとうございます。子どもたちもきっと喜びます。」


 クロノス達の会話を知ってか知らずかフレンネリックはニコニコとセーヌに未来の里親相談をしていた。セーヌも子どもたちの教育によいのならと、かなり乗り気の様だった。


「まぁ全く増えないわけじゃないから人にやるくらいは生まれるだろ。もしここがチャルジレンのど真ん中なら「魔砕の戦士」が駆けつけて即抹殺かもしれないがミツユースの中なら大丈夫。さー俺らも休憩休憩。…とりゃさ!!」

「うわぁ。おっきな木が真っ二つだ。流石はクロノスさん。」

「今更だな。そういやこいつはS級冒険者だったことを思い出した。」


 クロノスは休憩と言って目の前にあった手ごろな木を蹴りで風を生み出して斬り倒すと、切り株にどっかりと座った。クロノスの一連の手際にすっかり慣れたナナミとリリファも今更なんだと切り株の空いた場所に腰を降ろす。見れば他の冒険者達も各々気に入った場所に腰を降ろしていた。


 さて、クロノス達は何をしていたかというとだ。目撃情報のあった森の奥の湖までまだ距離があったのでしばしの休息を取っていたのである。湖までは体力バカな冒険者にとっては休憩など必要のないくらいの距離ではあったが、フレンネリックをはじめとするカメカモの冒険者が全員ダウンしてしまったのだ。依頼者のところの人間をまさか置いていくわけにもいかず全員が休憩しようと言うことで意見が一致した。今は一部の冒険者を様子見の先行をさせて皆でセーヌの作ったサンドイッチを頬張っていた。


「セーヌさまのサンドイッチ美味しい!!」

「全くですわ。特に仄かに感じる女神の指の先の甘美なかほり…わたくし幻想に包み込まれていましてよ…!!」

「ありがたやありがたや…」


 一部冒険者はセーヌが作ったという部分が重要であるらしく、ある者はサンドイッチにひれ伏し、ある者はサンドイッチを保存の袋に閉じ込め、ある者はサンドイッチから仄かに香る女神の香りで妄想の世界にトリップし、ある者はサンドイッチをセーヌに見立て茂みの方で…あ、クロノスが粛清に行った。あいつもう終わったな。


「…ったく、冒険者ってのは食事くらいこう、品性を持って食えない物かね。確かにただ具をパンで挟んだだけなのにこれだけ美味しいのはセーヌの腕を認めざるを得ないが…」

「あはは。それが冒険者というものですから。僕も教会から派遣されたての時はドン引きでしたけど、もうすっかり慣れました。」


 粛清を終えたクロノスは休憩中にカメガモを目撃したと言う冒険者パーティーに所属する治癒士ヒーラーの男オルファンに話を聞いていた。オルファンはその時のことを身振り手振りを交えて話した。


「ここだけの話カメガモを見つけたのは他ならぬ僕なんですよ。別のクエストで薬草を求めて湖へ来ていたんですが、薬草の採集も終わって湖のほとりで休憩していたんです。で、辺りにモンスターもいないんで各々が好きにしていて僕は何気なしに湖をぼーっと眺めてました。そしたら奥の方からスイーっとカモの親子が泳いできてほほえましいなぁって思ってたら背中に亀の甲羅が見えたんです。親と子全部に。亀がカモの背中に乗って日向ぼっこしてると思うじゃないですか?でも全部に乗っていますかね?それでまた姿が見えなくなって何かの見間違いだったかと思ったところでみんなして街に戻りました。その時は仲間に話してないですよ。だって話したところで笑われるのがオチでしょう。僕だって笑います。それで次の日…昨日のことですね。亀とカルガモの店に消費した道具の補充をしてもらうために行ったんです。それで番頭さんに昨日これこれこんなことがあったんですよーって冗談交じりに話していたらニコニコしていた番頭さんが血相変えてカメガモがでたぞーって…まぁそれが事の端末です。さて、僕も神に感謝して…うん。美味しい。」


 話を終えたオルファンはセーヌからもらったサンドイッチをありがたく祈ってから美味しそうに食べた。彼が咀嚼している間にクロノスも同じ物を食べるとハムとレタスとトマトの組み合わせがクロノス好みの中々の配分だった。セーヌが手渡す時にクロノスさん用だと言っていたが、どうやらアレは好みの具材を選んだという意味ではなく本当に自分用に作ってくれたものということだったのだろう。ただ食材を切って挟んだだけの料理なのにここまで美味しく仕上げられるのかとクロノスはセーヌの料理の才能をさらに評価する。クロノス達の他にも多くの冒険者がセーヌにサンドイッチを貰っていたらしく、先ほどのように女神さまがお触れになられたありがたいサンドイッチだと祈る者までいた始末。最早手に負えない。一体彼女の何が冒険者達を惹きつけるのか?(…顔…)(…おっぱい…)(…御御足…)(…尻…)(…慈悲の御心…)こいつら…天界に直接…!!普段信仰心の欠片も無い癖にどうしてこういうときだけ…!!


「うまうま…しかし目撃者は君だけなんだろう?やっぱり君の見間違えと言うことは?本当に亀が一匹ずつカモに乗っていたというのが妥当ではないだろうか。」

「セーヌさんのサンドイッチ美味しいなぁ…僕自身も未だに自分の頭の中の光景を疑っています。しかし亀とカルガモが捜索の依頼を出してギルドがそれを認めたのですから本当なんでしょう。ね?ヴェラザード嬢。」

「ええ、その通りです。ん…ごちそうさまです。」


 オルファンの問いに返事をしたクロノスの専属担当職員であるヴェラザードは、セーヌに自分用に味付けを変えてもらったサンドイッチを美味しそうに食べ終えると会話に参加した。口元に残った白いドレッシングを舌で舐めとる蠱惑的な姿に魅了されていた周りの冒険者一同だったが、ヴェラザード本人はいつものことだとその視線のどれとも目を合わせずに無視していた。一応クロノスとだけはしっかりと目を合わせていたが。


「ギルドでもカメガモ捜索や情報提供のクエストは常時多くの商会から頂いております。もちろん亀とカルガモからも。しかし仮にも幻獣の一種であるそれが簡単に見つかるはずもなく、それよりも優先していただきたい現実的なクエストの多くが冒険者を待っていますから各支店のクエストのボードには張り出しておりません。いわゆる裏クエストという奴ですね。」

「なんだその飯屋の裏メニュー的なのは。それただ単に店主が出すの面倒だから裏メニューにしてるだけだろ。」

「否定は致しませんよ。とにかく目撃情報はオルファンさんのもの一つではないのです。」


 クロノスの問いに答えたヴェラザードだった。普段街の外のクエストには滅多に着いてこない彼女であったが、今回のカメガモの件は他にいくつも過去に同じ場所で目撃情報が寄せられており、ギルドは今回の件で情報が信憑性の高い物であると判断したらしく、ヴェラザードはその確認役として仕事を押し付けられてしまったらしい。


「まったく、大通り支店の支店長にも困らされますね。なにが「いいじゃないの。どうせクロノス君の御付きとしてサポートしなきゃなんでしょ?なら物のついでに頼むわ。」ですか。私はクロノスさんの起こした問題の数々を治めてそれを本部へ報告する資料の作成で忙しいと言うのに。クロノスさん。帰ったらたっぷり支店長にお仕置きしておいてください。」

「俺がかよ。というか君が作っている資料の原因を作っているのはダンツ達なんだが。」


 冒険者というのは荒っぽい性格な人物が多いので、よく些細なことで喧嘩を起こす。特に大きな港があるミツユースでは同じく荒っぽい性格の船の乗組員とはちょっとしたことからトラブルに発展しやすい。猫亭に冒険者達が出入りするようになってからというもののクロノスが騒動を治めに出た回数は既に量の指では足りないくらいになっていた。


「私が何か小言を言ったところであの人は聞く耳持ち合わせておりません。一端の職員でしかない私では支店長に勝てるはずもございませんもの。とにかく、あなたが責苦の一つや二つ言った方があの年増の嫁ぎ遅れには効くのです。ご褒美に取られるかもしれませんがその時はその時で。」

「はいはい。たっぷりお仕置きしておきますよ。」


 クロノスの答えによろしいと満足したヴェラザードは、他の冒険者の様子を見るために立ち去った。


――――――――――――


 休憩時間も終わりを迎え、さぁ出発だと歩き出したところでクロノスはあることを思い出した。今回のクエストはセーヌ的にはどう捉えていたのだろうか。


「セーヌは大丈夫なんだろうか。またクエスト恐怖症出してないのか?」

「ああ。セーヌならほら…」


 リリファが後ろの方に顔を向ければそこには仲良くなった冒険者達に囲まれながらルンルン気分で歩いているセーヌの姿があった。手にはすっかり空になったサンドイッチの入っていたバスケットを携えており、隣の少女の冒険者と楽しく談笑をしていた。


「今日は実地訓練を兼ねた冒険者のハイキングだと言ったら何とかなった。早起きして全員分のサンドイッチを用意したらしいぞ。あの籠ギルドで借りた「なんでもくん」なんだと。今日来た冒険者達全員の分を作るとはかなりの腕前だな。」

「そんなんでいいのかよ。割とどうにかなるんじゃないのクエスト恐怖症。」

「しかしクエストや報酬という言葉が聞こえたら一発アウトだ。だからこうして…おいダンツ。」


 リリファが横にいたダンツに声を掛けた。


「なにッスか?」

「今日のはホレ、どのくらい出るんだったか?」

「ああ!!今日のクエス…痛っ!!…アレ、何か飛んできたような…とにかく、今日の報しゅ…ぶべっ!!」


 ダンツが「クエスト」や「報酬」と言おうとすると、背後から何かが飛んできた。それはセーヌを取り囲む女性冒険者達が放った魔法や飛び道具だった。一般人が喰らえば痛いでは済まなさそうどころかそのまま遺体だが、あいにくダンツは冒険者なので痛いで済む。


「いやー、しかし見つからなくても一人銀貨1枚とは破格のにっと…プゲミーッ!!」


 「日当」と言おうとした冒険者の一人が背後から忍び寄った冒険者に激辛のソースを飲まされて口から火を吐いた。


「それにしてもこんだけいるんだからサボって別のいら…フンギャッペ!!」


 「依頼」と口にしかけた冒険者が前後の冒険者からクロスボンバーを喰らって気絶した。


 その後もクエスト、報酬、日当、依頼…クエストに関わりそうなワードを口ずさむ冒険者は次々とセーヌを守る親衛隊の手に落ちて行った。冒険者達が通った後に転がる冒険者達の無数の屍…まぁ生きてるけども。


「見ての通りあんな感じだ。セーヌが倒れている奴らを介抱しないのも行程に疲れてリタイアした奴だから厳しくとも置いて行けと言ってあるからだ。セーヌは冒険者としても真面目な女だからな。素直に聞いてくれた。」

「…女性ってたくましいな。お互いが手を取り合うことでここまで強くなれるもんなんだな。」


 女性にはこれからも優しくしよう。そう決意するクロノスが冒険者の通った後の道を見れば、そこには無数の冒険者の屍が転がっているのだった。死んでないけどね。


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