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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第51話 小さなチャレンジ・スピリッツ(無駄話でもしてから帰りましょう)


 フレンネリックが「忙しいのにどこ行ってるんだ馬鹿部長。ただでさえも半月休んだくせに休憩とはいい御身分だな?」と、亀とカルガモの団員たちによって連行されてしまったので片づけを再開したクロノス達だったが、フレンネリックが置いていったアルバイトで倉庫の管理をしているらしいアレンに正直期待していなかった。しかしその評価をすぐに覆すことになる。


 アレン少年は倉庫の中身とこれから搬入される品をしっかりと把握しており、これは必要だから前にとか、こっちは使わないから第二倉庫行きだとか、的確な指示を出して散らかる品々をどんどん整理していった。少年のアレンを舐めて掛かり命令を聞かない冒険者もいたが、倉庫整理を早く終わらせたいクロノスによってシメられたことで素直にアレンの指示を聞いたことも大きかった。


 いつの間にか苦労していた片付けは殆ど終わりを迎え、ミツユースの西の空が赤く彩られ始めたころには第二倉庫へ仕舞う荷物を運びに行った運搬係が帰ってくるのを待つばかりになっていた。


「なんだ。バイトと聞かされた時には不安だったが、終わってみれば実に優秀な管理者だったじゃないか。」

「そうだな。聞くところによればあれで私の一つ下…11才なんだそうだ。」


 掃除道具を洗って片付けたことで手が空いたリリファはクロノスに先ほど様子を見に来ていた亀とカルガモの団員から聞いた情報を伝えた。その手には何枚かのカードが握られており、どうやらチェルシーたち子供冒険者の面々と倉庫で見つけた処分品の子供向けボードゲームで遊んでいたらしい。彼女たちが囲むこれまた処分品のオンボロの丸テーブルの上にはカードの束と駒が乗った色々と書かれた盤が置いてあり、どうやらゲームで使う道具の様だ。


「ドロー。…ああくそ、役が作れない。ほら、次はチェルシーのターンだ。」

「私のターン。ドロー。囲い場にゲージをプラス。嘆きの戦士と嘆きの幽霊を召喚。悪魔の叫びの打撃力プラス1。ヒュースに奇襲攻撃。」

「うわ!!ダウンを取られた…しょうがない、ザックに配点40だな。これで僕は一回休みか。だけど次のリザルトフェイズで…」

「へへっ、ラッキー!!これで俺はクラスブレイクだぜ!!次の俺のターンに場の灰跡の山ドラゴンをレベルアップできれば、分散攻撃で俺の勝ちだ!!」

「笑止。トラップ発動。ハイドラゴンバスター_シロイツ。これでザックのマナエネルギーマイナス5。」

「なに!?ブラフか…!!」

「ちょうどいい。ハイスペル詠唱だ。カウンターランデヴー!!」

「僕まで巻き添えに!?」

「ドライブチェック…バースト。エナジーはダストボックスへ。ダブルシンパシーシンボル。」

「「ぎゃああああ!!」」

「これで一対一だな。ヒュースとザックの後ろでコソコソやっていたようだが、小細工はもうできまい。」

「…負けない。」

「あっ。その前に二人の駒を進めなよ。」

「そうだな。…よし。これで私は商人から商会長にランクアップだ。」

「私は漁師から猛獣使いにクラスチェンジした。これで次からアニマルカードが使える。」

「こいつ…!?そうか、私にスペルカードを使わせたのは二人同時討ちの追加ボーナスを狙ってか。雌兎め…!!」

「フフ。」

「いいぞー!!」「俺はリリファに賭けるぜ!!」「やっぱこのゲームは見てるだけでも楽しいな!!」

「傍から聞いていてもルールがさっぱりわからないんだけど…」


 四人の周りで熱心に応援していた子供冒険者たちに混じって観戦していたクロノスは、このゲームのルールがさっぱり理解できないでいた。一方の子供冒険者達は倉庫の片づけを有り余る体力で早い段階で終えていたらしく、残った時間は全てのこのゲームの遊び方に費やしていたようだ。


「決闘開始…!!」

「チェルシーがアタックのリクエストをしたぞ!?今までは全て攻撃を受けていたのに…」

「何か手があるんだろう。しかしリリファの総攻撃力は7200…戦闘力25のチェルシーでは厳しいな。」


 やがて残ったリリファとチェルシーが攻撃力と戦闘力という明らかに比べる数値が見合っていない何かのステータスを比べだし、本当に同じゲームをやっているのかそれ?と口に出そうとしたところでクロノスは観戦をやめた。自分にはこういう頭を使う仕事は似合わない。自分はただ手と足を動かすのみだと。


 売れない理由がなんとなくわかるような気がするボードゲームに別れを告げたクロノスは、そこで自分の後ろに気配を感じたので振り返れば、そこにはアレンとナナミがいた。


「ナナミと…えと、君の名前。」

「もう!!さっき自己紹介してくれたでしょ。アレンくんだったよね?」

「そうだよ。おいらの名前はアレン・ヴォーヴィッヒさ。まったく、忘れないでくれよな。」


 少年はふんと鼻を鳴らして腰に手を当てて見せた。少々生意気な態度が実に年頃といったところか。


「悪かったよ。女の子の名前以外ってのは中々覚えづらくてな。ほら、男の名前って親が力を注いだ結果やたら長くて呼びづらい名前になることも多いだろ?」

「クロノスさんの場合は元々男に興味がないだけでしょ。」

「そんなことないぞ?まぁそんなことよりも…アレンは俺に何か用か?他にやらなきゃいけないことでも思い出したか?人手がいるならあそこのガキども使えよ。」


 アレンは冒険者ではない亀とカルガモがあまりにも人手不足から仕方なしに臨時で雇ったアルバイトだ。なお本人と人事部長のフレンネックはあくまでこの倉庫を取り仕切る優秀な管理者だと言い張っている。実際アレンは倉庫の品の管理はきっちりと行っており、優秀であることは間違いないのだろうが。


「いや、あとやることと言えば倉庫の帳簿をまとめるくらいだけど、それはおいらが後でやっておくからいい。前に書いたのは不完全だったし。」


 前にというのは先ほどクロノスが読んでいた物の事だろう。確かにあれは品の並びがバラバラで非常に読みづらかった。最初は良くない考えを持つ輩に倉庫の中身を把握されないようにわざと面倒な書き方をしていたと思ったほどだ。どうやらアレンが自分で把握する用の自分が読めればいいだけの物だったらしい。なるほど道理で読みづらかったわけだと納得したクロノスだった。


「それじゃあ今日搬入された品の中に良くわからない物があったとかか?一般市民じゃ中々お目にかからない物も多いからな。俺も全部知っているわけじゃないがさっくりとなら応えられるぞ。」


 亀とカルガモの品の中には冒険者向けの一般人には理解できない物も珍しくない。中には触れたら即呪われ神聖教会でバカ高い聖水を買わなくては解呪できない呪いの装備品や、食べようと思っただけで爆発する不思議な木の実などもあり、予備知識なしに取り扱うことは非常に危険だ。だからこそこうして冒険者が品のチェックや荷運びなどをクエストという形で行っていたのだ。…最も、今日クエストに参加していた冒険者の大半はそういった知識を碌に持ち合わせておらず、不用意に扱ってひっきりなし壊したりしてしまっているのだが。今も命健組の団員の一人が謎の種を箱からちょろまかして隣の射手アーチャーの男に食べると筋力が上がるドーピングシードだなどと言われ本気で信じて、口いっぱいに頬張っていた。商会の品をつまみ食いするなし。そういうことを先ほどからドン引きして見ていたアレンだったので、話しかけてきたのも品の扱いに関してだと思ったが、答えはクロノスの予想と違うものだった


「ああ、違う違う。おいらここのバイトはもう半年やってるからさ。だいたいのヤバいもんは知ってるんだ。そうじゃなくておいらちょっとお兄さんたちと話がしたくてさ。」

「俺たちと?そんなこと言ってセーヌとお話ししたいんだろ。彼女なら倉庫に一人残って床の細かいゴミを拾っているから、今行けばふりふりする素敵なお尻を眺め放題だぜ。年頃のガキはおませサンだなー。」

「なぁっ!?違う違う!!そんなことないって!!」

「今私を呼びましたか?」

「なぁ!?なんでもない!!なんでもないです!!」

「そうですか…?」


 クロノスがアレンの肩をこのこのーと突っつくと、アレンは照れながら必死に否定する。やけになっているところが可愛らしくもあるがセーヌは魅力的な女性であり、性に目覚め始めた年頃の男の子なら思わず目が行ってしまうのも仕方がない。というかアレを見て何も感じなかったらむしろソッチの気を疑うだろう。自分の名前が聞こえたので倉庫から顔を出したセーヌが尋ねてきたので、アレンは驚き更に必死になって否定していた。


「もし何か御用であるのなら…あらあら。大変…」


 理由を見いだせないセーヌが首をかしげていると、庭で要処分と張り紙を張っていた木箱に不用意に触った冒険者が爆発していたので彼らの治療のためにセーヌは去って行った。


「だから違うって!!俺が聞きたいのは…お兄さんたち、今木箱を爆発させた冒険者達と違ってクランってやつに所属する冒険者なんだろ?さっきダンツのお兄さんから聞いたよ?ねね、クランってどんなとこなの?亀とカルガモもクランらしいけど、ここは特殊だって言うしさ。ちょいと教えてくれよ。命健組には自分らよりクロノスのお兄さんが詳しいだろうからって断られちゃってさ。」


 どうやらアレン少年はこれまで殆ど目にしたことが無かったクランという存在にいたく御関心のようだ。無理もない。ミツユースの街には冒険者のクランは少ない。正確に言えばクランの支部がいくつかあるそうだが、それらもクランに卸す武器や食料の買い付けとそれを置く倉庫の管理が主な仕事の末端支部で冒険者らしいことはあまりやっていない。運営者もクランに雇われた現地の一般人であることも多く、ミツユースの街で活動するクランらしいクランはおそらく猫亭か命健組くらいだろう。このうち命健組は最近冒険者になったばかりの方針もない集団であるので、猫亭になら何か聞けると思ったのだろう。


「クランがどういうところかって聞かれてもな…ギルドの説明通りなら同じ目的の冒険者が目的を達成しやすくするために群れる支援組織といったところか。ギルドで冒険者を募集するのと違って最初から同じ目的の同胞がいるわけだから各地の冒険にせよダンジョン攻略にせよやりやすくなる。」

「へぇ~。ならお兄さんたちのクランにも何かあるの?活動方針とか。」

「ん?それはだな…君達なにかやりたいこととかある?」

 

 アレンの新たな問いにクロノスは頭をフル回転させ考えた。そしてそのような目的など最初から無かったことを思い出し、さてどうするかと近くで他の冒険者と世間話をしていたナナミに話題を振った。


「私にはちゃんとあるよ。仲間探し。具体的なことはまだ決めてないけど。」

「じゃあ次は…リリファ。」


 クロノスはいつの間にかチェルシーに敗北して膝から地面に崩れ落ちていたリリファに話題を振る。


「私のやりたいことか…立派な冒険者になることかな。とりあえずはこのイノセンティウスを上手く使いこなせるようになりたい。」


 リリファは立ち上がり自分のスカートをめくる。そして太股に着けたナイフホルダーからナイフを一本引き抜いて天に掲げた。その横で同世代の男の子達が自分の目を手で覆って隠していたが、指の隙間からリリファのパンツをチラチラ見てるの分かってるんだぞ?


「なるほど…あとスカートを戻しておけ。それじゃあ最後にセーヌ。」


 クロノスはリリファを嗜めてから、冒険者の治療を終えて戻ってきていたセーヌにも話題を振った。


「私は特に…強いて言うならば施設で子供たちの面倒を見ることへの足しになればいいかと。」

「「「天使かな?」」」


 セーヌの話を聞いていた一同はセーヌに後光がかかっている様に見えた。


「ありがとう子猫ちゃん達。非常に参考になった。とうわけだアレン君。勉強になったかな?ちなみに俺の目標は猫の手より役立つ冒険者になることだ。」

「全員バラバラじゃん…しかもお兄さんの意味が分からいよ。猫の獣人じゃあるまいに猫に手なんかあるわけないだろ。あるのは前足と後ろ足だけだよ。」

「まぁ俺たちは各人が各々やりたいことをやって必要なら団員が力を貸すってことで。得意なジャンルのクエストとかは特にないが今はモンスターとの戦いをしっかりできるように連携やダンジョンの歩き方なんかを教えている。冒険者の旅にモンスターはどこでも付き物だからな。」


 クロノスは猫亭の現状をさっくりと説明してまとめた。


「いまいち納得できない所もあったけど、なるほどねと言っておくよ。ありがとう。…あ、運搬係も帰って来たみたいだね。」


 これで聞きたいことは聞けたと満足したアレンは道の向こうから運搬に駆り出された冒険者たちが帰ってきたのを確認すると、この場の全員に聞こえるくらいの大声を張り上げた。


「ご苦労様でーす!!これにてクエスト「亀とカルガモの倉庫を整理しろ」は終了でーす!!報酬はギルドの支店にて受け取ってくださーい!!顔は覚えてるんで手形は不要でーす!!」


 アレンの精一杯の叫びにも似た大声を聞き取った冒険者達はやれやれやっと終わったかと帰路に就きだした。それからアレンは倉庫の中に誰も残っていないことを確認してから倉庫の扉に持っていた鍵をかけて帰っていった。


「俺たちも帰るか。」

「そうだね。汗かいちゃったからもう一度お風呂に入り直しだよ。セーヌさんも帰る前にひとっ風呂どう?」

「そうですね。お言葉に甘えます。」

「ああもう!!もう少しで勝てそうだったのに…!!こうなったら勝てるまでとことんやるぞ!!クロノス。ブースターを買ってくれ。」

「いやだよ。というか冒険者なら自分の金で買えよ。そもそもブースターってなんだよ?」

「これを遊ぶための駒とカードが別売りで売っているらしい。それでその中にはブースターでしか手に入らない強力なユニットがいて…」

「こっちにもそういうのあるんだねー。」


 あれこれ中身のない会話を楽しみながらクロノス達猫亭の冒険者一同も帰路に就く。後ろにはダンツ達猫のマークの冒険者達もついてきていたが、どうせヴェラザードに邪魔されたひとっ風呂からのキンキンに冷えた一杯の凶悪コンボのやり直しをする気なのだろう。猫亭で。


「あーもう疲れたッス。」「さっきはヴェラさんに邪魔されてお預けだったからねー。」「氷魔法の準備はバッチリよ!!」「でかした!!」「いざ行かん!!酒が俺らを待ってるぜ!!」「その通り!!ガッハッハッハ!!」


 どうでもいいが羽目を外しすぎてまたヴェラに怒られないようにしてほしい。そう思うクロノスだったが、彼の頭には戦士探しの件はすっかり無くなっていたのだった。


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