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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第47話 星空の下の告白(彼女はいったい何者なのでしょう)


「あいてててて…あいつらよくもやってくれたな。」


 猫亭の天井裏の物置から繋がる屋根。クロノスはそこで寝転がり頭を抱えていた。


 宴の場でセーヌに指輪の贈り物したクロノスは、彼女を女神と崇め讃える冒険者たちにいろいろ勘違いされて一斉に襲い掛かられた。やられるものかと応戦したクロノスだったが流石にC級以下の、クロノスにとって雑魚と何ら変わりない連中に本気になるわけにはいかないと手加減したのが運の尽きだった。油断したその拍子に後ろから大柄の冒険者に持ち上げられたその隙に、指輪を渡してきたはずのダンツにかなり強めの酒を飲まされてしまったのである。それはもう酒瓶の口から直接ごくごくと。酒を飲めないクロノスは本来水で薄めなければとても飲めない酒であったということもあり、すっかり酔いが回ってしまった。その結果、向かってくる冒険者に為す術もなくなったのである。流石に無様なところを見せられないと「うわ~や~ら~れ~た~」と棒読みで叫び、巾着を開けて中の銅貨や銀貨を撒き散らした。冒険者達もまさかクロノスが倒れるとは思っておらず余興に付き合ってモンスターのふりをしてくれたのだと思い込み、ドロップ品代わりに床に散らばる金を巡って大乱闘に発展したのでその隙に逃げてきたのだった。


「しかしS級冒険者に傷をつけるとはあいつらの地力も中々。こういうのはモンスターとの戦いで見せてほしいぜ。あ、別に酒を飲んだから戦えないわけじゃないぞ?ただ手加減ができなくなるから安全のため撤退しただけだからな?一応言っておくぞ。」

「あ、こんなところにいた。…何言ってるの?」


 誰かに言い訳にも似た解説をしていたクロノスを見つけたのは、屋根に繋がる物置部屋の天上窓からひょっこりと顔を出したナナミだった。今まで厨房で籠りきりで料理を作っていたためかエプロン姿で、よいしょと言って屋根裏部屋の天窓から屋根によじ登ってこちらへ来た。


「おっす。料理はもういいのか?」

「セーヌさんが替わってくれたの。明日からご飯作ってくれるんだって?食材はまだまだあるしいろいろ作るから二人とももういいって。リリファちゃんはテーブルでご飯食べてる。この機会に食いだめするんだってものすごい勢いでがっついてたよ?」

「もう食うに困る立場じゃないのにな…まだ浮浪児の癖が抜けないのか。」


 クロノスはホールでリスの様に料理を口いっぱい頬張るリリファを想像してやれやれとため息をした。そうしている間にナナミが隣へ来て、自分と同じように寝転んで空を見上げた。


 今夜は雲一つない晴れた空だったので、月と星々が絶え間なく美しく輝いていた。しばらくその絶景を寝転がってみていたクロノスとナナミだったが、やがてナナミが意を決したように頷くと起き上がってクロノスの方を向いた。それに気づいたクロノスがナナミを見ればその表情は真面目なものだった。


「…クロノスさん。」

「なんだ?」

「異世界。」

「…それが?」

「意味わかる?」

「そりゃもちろん。こことは異なる世界って意味だろ?お互いを行き来する方法など何一つない。あると言えるだけで事実上ない世界のことだ。」

「やっぱり…クロノスさんはどうして異世界って言葉を知ってるの?他の人は誰も異世界の事知らないんだよ。ヴェラさんもリリファちゃんもセーヌさんも…他の冒険者さん達だってみーんな。異世界の事を伝えようとしても、そこだけ言葉を上手く聞き取れないみたい。多分そこだけ翻訳が機能しないんだ。それなのに…どうしてクロノスさんにはわかるの?私が初めてクロノスさんに出会った日。三人の詐欺師フールから助けてくれた時、クロノスさんはハッキリと言ったよね?「君…異世界人だろ?」って。」


 ナナミが思い出すのはかつてクロノスと彼女が初めて会った日の事。自分を助け猫亭に入れと言ってきた日の事だった。


「どうしてって言われてもな…S級冒険者だから。は理由になるか?」

「それはちょっとずるいかも。何でもかんでも規格外だからってそれを言い訳にしないで。」

「それは悪かった。」


 ナナミが頬を膨らませて怒っていたので、クロノスも起き上がってナナミの膨らんだ頬に指を当てて潰した。ぷしゅーという声を発して頬を戻したナナミはまたもや真剣な顔でクロノスを見た。


「会ったことあるの?私以外の異世界人と。」

「ああ。」

「それいつ!?どこで!?」

「落ち着け…もうずいぶん前。何年も前の話だよ。今はどこにいるのか…そもそもまだ生きているのか…何もわからん。」

「そっか…じゃあ「先代」だね。探してもどこにもいないよ…」


 クロノスの肩を掴んでブンブン振り回したナナミは、クロノスの答えが満足のいくものでなかったようで、がっくりと肩を落とした。しばらくその体制を保っていたナナミだったが、クロノスが何も反応しないことに苛立ちを覚えクロノスに問う。


「…聞かないの?先代って何のことかとか。どうして異世界人の私がこの世界にいるのか。」

「別に。話したくないことなんだろ?猫亭の運営には関係なさそーだし、君が話す気がないと言うのなら興味なんかないね。」


 クロノスの答えを聞いたナナミは少し不満げだったが、すぐにその表情を隠して苦笑いした。そしてこれだけは言いたかったのだとクロノスに三度真面目な顔で向き合い話す。


「ホントはね。適当にお金を貯めて次の目的地が決まったらすぐにさよならするつもりだったんだよ。ここから。この街から。クロノスさん何考えてるかわかんないし。でもなんか次の日にはリリファちゃん連れてきたし、あの子一人ほったらかしってでクロノスさんのおもちゃにするのもかわいそうだから残ってあげようって。」

「君達…俺の事なんだと思ってるの?というか…やっぱり抜ける気でいたか。」


 クロノスはナナミが猫亭に入団した時から彼女がいつまでもここにいないかもしれないと何となく察していた。先ほどもそれを言いに来たと思っていたのだ。


「でもこの一週間でクロノスさんもリリファちゃんもヴェラさんもセーヌさんもその他のおバカさんもみんな優しいってわかったからまだしばらくここに置かせてほしいの。」

「いてくれるのならこっちとしては大歓迎だが…君は何か目的があるんじゃないのか?えっと…魔術の修業、だっけ?そんな設定だった気がする。」

「設定って…うん。やっぱりクロノスさんには聞いてほしい。なんで私がこの世界に来たのか。ナナミちゃんの過去回想劇…始まり始まりだよ!!」


 ナナミはクロノスの横になって自分の故郷とはまるで違う空の星々を見上げながら、静かに語りだした。その語りの中にはあちらの言葉や物と思われる言葉も混じっていたが、クロノスは黙って聞いていた。






 ナナミ・トクミヤは元の世界で、ごく普通の少女だった。ある日彼女は学校に遅刻した。朝と昼の間のような時間に学校へ向かうために急いで乗った電車というあちらの世界の乗り物には、ナナミの他に様々な人が乗っていた。自分と同じように遅刻したと思われる他校の生徒。出社の前に医者に行ってきたのかマスクをして通勤するサラリーマン。子供を連れて買い物に出かける主婦。大学をサボったのか欠伸をしてスマホをいじくる若い男性。その他何人もの人がいたがそれは日常の一つにすぎないと特に気にしなかった。


 ナナミの住む町はそこそこ都会なのでそのような時間でもかなりの乗客がいた。おそらくその他の車両も同じような混雑具合なのだろう。そう思いながら目的地の駅まであとわずかというところで…電車が爆発した。テロか事故か。そもそもあれが本当に爆発だったのか。何もわからないままめちゃくちゃになった車内でナナミは気を失った。


 そして次に目覚めたナナミがいたのは不思議な空間だった。そこにいたのはナナミと同じ車両に乗っていた人間と知らない人々。見覚えが無い方は別の車両にいた人々だろうとナナミは直感でわかった。そしてその中でナナミよりも先に目を覚ました人たちが見ていたのは一人の大きな女性だった。大きなと言ってもそれは常識の範囲では無い。なぜなら彼女はおそらく某大国のシンボルである自由の女神像並みに大きかったからだ。


 混乱する人々は口々にここはどこだ?私たちはどうなったのだ?などとなにか知ってそうな巨大な女性に話しかけるが女性はピクリとも反応しない。仕方なしにと他の人と話し合いながら残った人たちが目を覚ますのを待った。


 気を失っていた人々も次々と目を覚まして、最後の一人が起きた所で巨大な女性は口を開いた。そして一人一人を確認してからこう叫んだ。


「―――先代が全滅したので、あなた方にはこれから異世界に行ってもらいます。ってさ。何人かはすごく喜んでいたよ。チートだハーレムだ魔法だ冒険者だ現代知識だこの退屈な世界にサヨナラだヒャッハーだって。でも私も含めて殆どの人は不安だった。当たり前だよ。何が起こったのかさっぱりだもん。こんなんで喜ぶ人の方がどうかしてる。それから一人ずつ所謂スキルとかチートっていうやつとこっちの文字と言葉への知識を貰ったの。どんなチートだったかは渡されたカードに書いてあった。私のは「魔術への理解レベルⅠ」だったかな。多分そんなによくないのだよ。実際使えたのは火と氷の魔術だけだしね。他の人も弱すぎるからもっと寄越せって言ってたし。相手にされなかったけど。」

「…」

「ここまでで何かわからないことは?全部わかんないって顔してる。そうだよね。じゃあ続ける。それからうるさい人たち含め次々と何も聞かされずにこっちへ飛ばされて、私の番になってまた意識が無くなった。次に気づいた時にはどこかの山の中。何がなんやらサッパリだけど、とりあえず生き残りますかって意気込んてたらなんかものすごくおっきな蛇が出てきたの。私を食べようとしたから逃げたけど相手も追ってきて転んじゃってもうゲームオーバーだわこれって時に助けてくれたのが、私の魔術の師匠ね。そんで混乱の余りこれまでのこと全部喋っちゃったんだけど、師匠がこれまた優しい人でさー。行く宛の無い私を家に置いてくれてそこで魔術を習ったの。」

「魔術師に魔術を教えてもらったってのは本当だったのか。てっきりそういう設定かと。」


 黙ってナナミの話を聞いていたクロノスだったが、そこで初めて横槍を入れた。今までナナミが話していた山奥に師匠と二人きりで暮らしていたと言うのが、適当に作った話だと思っていたからだ。


「ひど-い。女の子の話はたとえ嘘でもそれなりに信じてあげなきゃダメだよ?えっと…どこまで話したっけ…あ、そうそう。それでそこで暮らしながら魔術を教えてもらって半年くらい経った頃にね。師匠があなたはこれからどうしたいって聞いてきたの。そしたら答えは一つだけだよ。元の世界に帰りたい。そしたら私にはこれ以上力になれないから冒険者になって旅をしなさいって進めてくれたの。大きな街に行けば何か手がかりがあるかもって。家を追い出されたってのは嘘だよ。そこだけ嘘。師匠には悪いことしたなぁ…それで師匠にこの短杖とか当面のお金とかもらって山をいくつも超えて…やっと平原に出て近くの大きめの村にあった冒険者ギルドの支店で冒険者登録をして、晴れて活動開始です。それからミツユースの話を聞いて他の旅をする冒険者達とパーティーを組んでクエストをして旅費を稼いで旅を続けること半年…遂にたどり着いて大通り支店でお腹が空いて倒れたのが先週の話。以上、ナナミちゃんの珍道記でした!!ハイ感想どうぞ!!」


「君16なんだっけ?ハードな人生送ってんなぁ…いや、こっちの世界に来て一年経ったんなら17か。」

「それなんだけどね。私、年とってないみたいなんだ。あ、髪とか爪は普通に伸びるよ?でも背は変わらないし、おっぱい…おっぱいも変わらないの!!」

「それは君の成長期が終わっただけでは?」

「酷い!!ナナミちゃんはまだまだ育ちざかりなんですー!!」


 ふざけ半分のクロノスを、ナナミはポカポカと殴りつけた。少女の拳なぞ効かんと笑って受け止めるクロスだったが、偶然鳩尾にいいのが一発入ってしばらく悶えてしまった。そして何とか復活して会話を続けた二人。


「それで?君は元の世界に帰ると言ったが何か方法は見つかったのか?」

「ぜーんぜん。こっちに来るまでは冒険者が忙しかったし、そもそも誰も異世界の概念が分からないし。こっちから異世界って言っても伝わらないから、結構へこんでるのよね。だから、もう正直諦めてる。ウン。」


 ウンウンと首を振るナナミだったが、その言葉はまるで自分自身に諦めろと言い聞かせてるように思えた。


「まぁ妹や両親も私がいなくなったら泣いてくれる程度には人間できてると思うけど、その後健やかに生きてくれるならそれでいい。諦めた私だけど…他の人はどうなのかなって思ったわけ。」

「他の人…?ああ、他にこっちに送られたっていう奴らか。」

「うん。でもあっちから来て一年経っているわけだし、私が即ゲームオーバーみたいなところに行ったのなら、他の人も同じかも。私は運が良かっただけでもう他の人は死んでるかもねってところまで思ったんだけど…ハイコレ。」


 ナナミが懐から取り出してクロノスに渡したのは、女性物のカチューシャだった。しかしそれは異様な作りで、軽くて透明な素材にドワーフでもおいそれとできないような細かい模様が幾つも刻まれていた。


「随分軽いが…これは?」

「クロノスさんもわからないか。クロノスさんがこっちに行った後、ホールで物知りなヴェラさんやいろんな地方出身の冒険者さん達も誰一人わからなかったから多分こっちにはまだない技術ね。これは「プラスチック」っていう素材です。作り方は原油を…私にもわかんないや!!」

「こっちの技術ではない…ということは、異世界の技術か?」

「そういうことになるね。今日の昼間クロノスさんが倉庫街でドンパチやっていた時に応援に行った帰りに寄った自由市で見つけたの。売っていた人は他地方から来た人で、他の人から買ったって言ってたけど、その他の人も他の誰かから買ったらしいね。で、思い出したんです。コレ電車で私の前に座ってた他校の人が着けてたやつだって。だから…生きてる。多分他の人も頑張って生きてるんだよ。」


 ナナミの呟きはまたも自分に言い聞かせている物だった。


「それで思ったの。自分に帰る気は無くても他の人はまだ諦めてないかもって。だから、私はその人たちに会いたい。会って何かを手伝いたい。」


 ナナミはクロノスの前に座り、これまで以上に真剣な表情をしていた。


「それじゃ君は猫亭を抜けてそいつらを見つけに行くのか?」

「話は最後まで聞いて!!闇雲に探し回っても無駄ってのはわかってる。だから…待つの。」

「待つ?」

「うん。ミツユースはおっきな街で交通の便がいいから他地方からいろんな人が来る。ならここで待ってその人たちが来るのを待った方が得策だよ。」

「だがそいつらは君のことを知らないだろう?旅の途中でふらっと立ち寄っただけですぐに旅立つかもしれない。」

「そ・こ・で!!我らがクラン猫亭の出番だよ!!クロノスさん。猫亭、猫の手も借り亭は「猫の手も借りたい」ってことわざから付けたんだよね!!」

「そうだけど?」

「やっぱり。それ前に会った異世界人から聞いたことわざなんでしょ?このカチューシャを見せるときに冒険者の人たち、みーんな言ってたよ。「猫の手なんてまったくもって意味わからん言葉だな。S級のセンスは全然わからん…」って!!」

「あいつら…俺の素敵で崇高で甘美で大大大ジャスティスな芸術センスにケチ付けるだと…!?いい度胸じゃねえか。この機会に上下関係きっちりわからせてやる…!!」

「わぁちょっと待って待って!!話を聞いて!!」


 クロノスが拳をポキリポキリと鳴らして冒険者達に焼きを入れてやろうと天上窓から降りようとすればナナミが必死になって止めた。


「なんだナナミ?話なら後でベッドで聞いてやる。着替えて大人しくまってろ。」

「待たないよ!!てゆーかセクハラだよそれ!!良いから聞いて…ください!!」


 ナナミが必死に聞いてくれとせがむので、クロノスはやれやれと腰を掛けた。


「異世界人に聞いたかだと?ああそうだよ。あいつ…俺の事猫の手よりも役に立たない冒険者だとかなんとか言ってくれちゃってな…!!ああ思い出しただけで腹が立つ…!!」

「とりあえず今は私の話を聞いて。とにかく、猫の手も借りたいって言葉はこの世界のどこの地方にもありませんってことが分かったの。…これだけ言えば後は分かる?」

「…このクランの名前を耳にすれば、こっちで聞かなかった言葉だ。少しは反応するかもしれないな。君の同胞。だが今の猫亭はミツユースの冒険者以外全然知られてないぞ?商店街の連中だってつい最近活動を始めた程度しか知らなかったみたいだし。それで大陸レベルってのは…」

「それでいいの。今はミツユースに来た冒険者が知るくらいで。あのね、私たちの国の住人は、冒険者ギルドが存在していたら全員冒険者になるくらい冒険者大好きなの。だから旅をするなら間違いなく冒険者になる。それでミツユースで冒険者が出入りする便利な施設があるって聞いたら、その名前が猫の手も借り亭って名前と知ったら、必ず掛かる。入れ食い!!それにいきなり大陸中から地球人来られてもまだ受け入れられないかな。」


 ナナミの話を聞いていたクロノスは彼女の目的を理解した。しかしおそらくそれだけでは足りない。彼女自身には、まだ。


「そうだな。君は同胞の助けになりたいと言う。しかし所詮D級冒険者の魔術師一人でできること等、たかが知れている。仮に誰か同胞が来たところで、君は何をしてやれる?」

「そう。だから私は決めたの。私自身もっと冒険者として実力をつけて、このクランをもっと大きくして、ミツユース中どころか大陸中で名前を聞くくらい有名なクランにすれば、きっとみんな興味を持つ。そして元の世界に帰りたいとか、こっちの世界で何かをしたいとか、何かできることがあれば手伝ってあげるの。難しい話かもしれないけどね。」

「大陸中に…か。くく、ナナミ。君のその誇大妄想的な考え、嫌いじゃない。というか大好きだ。ミツユースに寄ったら名前を聞くくらい程度でいいで終わってたら俺は興味を無くして下に降りてた。」

「それじゃあ…!!」

「猫亭にクラン方針はない。各々がやりたいことをやって力を借りたければ他の奴らにも助力を願い出るといい。少なくとも、俺は面白そうだから力を貸してやる。」

「ありがとうっ…ございます。」


 もう一度屋根に寝そべったクロノスに、ナナミは何度も何度も感謝の言葉を述べた。


「リリファとセーヌは、君が言える範囲で伝えとけ。無駄に優しいからそれなりに協力してくれるだろう。ただし、二人が力を貸してほしいことがあると言った時には、君も力を貸すんだぞ?」

「それはもちろんです!!さぁて、猫亭躍進のために頑張ろうっと。まぁ今日は遅いからまた明日から。冒険者のランクを上げるために何をすればいいのか、しっかりヴェラさんと相談しなきゃ。とりあえず実力を伸ばすためにダンジョンかしら…」

「明日…?おい待て。明日から月の始まりの三連休だぞ?だからこそ普段飲まないと言うジェニファーすら酒を飲んでたんだ。流石に君も休んどけよ。」

「ふっふーん。クロノスさん。異世界人は休日でも働くんだよ?忙しい超ブラック!!私とリリファちゃんはゴブリンの林以外のダンジョンに挑戦したいかな…おやすみなさい!!」


 ナナミはそう言って天上窓から飛び降りて去って行った。床まで結構な高さだが下にはマットを敷いてあるので大丈夫だろう。明日は朝から叩き起こされてダンジョン挑戦かなと、クロノスは明日からの休日を諦めた。


「やれやれ…異世界人ってのはみんなせっかちなのか?」


 クロノスは空を見上げてそこに輝く星々を眺めてから瞼を閉じた。ミツユースの夏は夜に外で寝ても風邪をひかないくらい温かい。ひと眠りしたらホールで騒ぐ冒険者達を解散させてベッドで寝よう。多分誰も帰らないだろうが、その時はヴェラザードと一緒に強制おねんねの刑をしてから泊めてやろう。そう考えたクロノスは眠る直前、あることを思い出した。それはもう何年も前に出会い別れた一人の異世界人。終止符打ちという寡黙な犬を殺し陽気な猫を生み出したあいつの言葉。



 あはっ。犬のお兄さんって戦い以外ホントなんにもできないんだねー。これならまだ猫の手の方が役に立つよ。



 その言葉だけを思い出し、後はどんどん意識が遠くなっていく。そして完全に眠りに着く直前、意識の混濁の中で寝言と変わらぬ呟きを不意に呟く。


「クランってのはもっとこう簡単にできると思っていたが…猫の手よりも役に立つって…難しいもんだなぁ…」


 その呟きを最後に、クロノスは完全に眠りについた。その言葉は、ミツユースの空に輝く星々だけが聞いていた。




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