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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第45話 ノンギャランティ・クエスト(報告はきっちりやりましょう)


「いやー、ご苦労じゃったの。まさか本当に二十一本全て回収してしまうとはな。それも三日で。」


 冒険者ギルド大通り支店。そこの二階にある客室で、ガルンドはニコニコとソファの上で微笑んでいた。その喜びの理由は、彼の眼前のテーブルの上に一本一本綺麗に並べられた変わった形状の剣たちに他ならないだろう。その数二十一本。かつて宝剣コレクターグランティダスによって各国から盗まれた宝剣の数々であった。


「これだけの量の宝剣…各国に大きな顔で返還すれば冒険者ギルドと各国の有効はますます深い物になるじゃろうて。本当にお主にやらせてよかった。A級以下なぞ何人集めた所で連携どころかお互いに争って半分以上はまた闇の中へ隠れてしまうじゃろう。それは宝剣コレクター一人の手にあるよりもずうっと危険なことじゃ。」

「もうなんでもいいよ。それよりも眠いんだよ俺は。早く報告終わらせて帰って寝たいの!!」


 にこにことお主は冒険者の誉れじゃ。よっ流石S級!!冒険者の頂点!!などと誉めたてる言葉をイラつき混じりに向かいのソファに座って聞いていたのは、この宝剣たちを集めた張本人クロノスだ。クロノスは座ると言うよりももたれかかると言う方が正しい姿勢で、ガルンドが何か言うたび大きな欠伸あくびを返していた。


 クロノスは冒険者達と倉庫街の後片付けを終えた後、ギルドの大通り支店にある二十四時間窓口の開いている臨時受付に、最後の二本である宝剣フェニックスバードと宝剣イワオトコを預けた。のだが、大通り支店を任された女性の支店長が飛び出してきて、こんな物騒な物を支店に置いておかないでくれと泣きながらこれまで集めた十九本とともにまとめて突き返してきたのだ。なんでも宝剣を預かっていた間、宝剣を奪おうとギルドの支店に強襲した不届き者の撃退や宝剣が起こす摩訶不思議な出来事に朝も昼も夜までも何度も悩まされたらしい。業務のノルマは普段のままであったためにその対処への疲労と苛立ちからギルド職員全員に仕事をボイコットされそうになって大変だったそうだ。


 「男冒険者たちが裸を拝みたい最高の躰の女」の一位をヴェラザードと争うと言われている出るところが出て締まるところが締まった熟れた躰の持ち主である女性支店長は、クロノスの来訪を受けて支店の中にある支店長用の自室から飛び起きて駆けつけたために黒のせくちーな下着を覗かせた薄透明のネグリジェ姿だった。その淫靡な姿にクロノスは興奮して、「代わりに君と甘い一晩を過ごしたい」とつい言ってしまったら、彼女は混乱の余り食堂の厨房から砂糖を持ち出してきて頭からかぶりだしてこれでいいのかと叫んできた。いやそっちの甘いじゃねーよとクロノスが突っ込もうとすれば夜番で眠い目と荒れるお肌と戦っていたその他の女性職員たちが駆けつけ、変態だセクハラ魔だ枕営業だ婚期絶望だからってS級誘惑するとかサイテーだとか言われ、クロノスと女性支店長は宝剣共々支店の外へ投げ出されたのだった。


 仕方なしにとクロノスは全身砂糖まみれのネグリジェ姿の支店長とともに片づけを終え更地になった四十二番貸倉庫の跡地に二十一本の宝剣を運んで受け渡し人であるガルンドがミツユースに戻ってくるまで待つことにしたのである。宝剣を倉庫街に運び出す際、ネグリジェ姿の支店長が持った何本かの宝剣全てが何故か拒否反応を起こさなかったのだが、宝剣探しで疲れていたクロノスはセクシーなギルド職員が持てば多分ああなるんだろうと適当に理由を付けて無視した。


 自らの姿が公道を歩く姿ではないと朝日と共に気付いた支店長がギルド支店に泣きながら戻っていくのを見送ったクロノス。宝剣を探す間に不埒な輩は殆ど警備兵の詰め所地下の牢獄送りにしたし大丈夫だろうと高を括っていたのだが、そこで計算街なことが起きた。実はクロノスが退治した宝剣を狙う輩はほんの一部で、残りは全て宝剣が集まる瞬間を狙っていた欲張りさんだったのである。クロノスが宝剣を守る間、宝剣を狙う輩がギルドに引き渡される前に奪う最後のチャンスだと来るわ来るわ…クロノスは朝も昼も夜もひっきりなしにお尋ね者や各国のスパイ等の手合いを返り討ちにして倒した敵から武器を奪ってそれを壊して次の敵の倒して武器を奪って…それを延々と繰り返して足元に武器の残骸の山を作った。結局ガルンドがミツユースに戻ってくるまでの三日間の間、クロノスは不眠不休で宝剣を守っていたのだった。


「たった一人で不眠不休で三日間…普通なら隙を見て何本か盗まれてもおかしくなかったじゃろうに。それでも守り通すとは流石はS級冒険者。もはや人間辞めとるな。」

「止めろ。止めてくれ。止めてください。俺だって自分でここまでできるとは思わなかったんだ。戦いの合間にウチの団員や冒険者が応援に来るもんだからつい張り切ったんだ。」

「それでもお主に傷一つない。報告によれば輩は所属はバラバラだが実力は珠玉金剛。中には二つ名を持つ大犯罪者もいたとあるぞ。「牙喰い」、「死に明かり」、「窃盗至高」…おお、「雲月」などお主が宝剣回収の途中で倒したという「知恵隠れ」ティルダンを超える猛者ではないか。普通は眠い目を擦って倒せる相手ではないはずなんじゃがなぁ…」

「眠すぎて誰を相手したかなんて覚えちゃいないぜ。てゆーか最後の方半分立ったまま寝てた気がする。…ああ、あいつなら覚えてるぞ!!くじ引きで熱戦を繰り広げたどこかのスパイ。なんでも偽りの支配者に支配された祖国を救うために他国の国宝を奪ってでも宝剣が必要なんだと。理由はどうでもいいがあの漢気は本物だ。今は牢獄にぶち込まれたけど宝剣盗もうとした以外は悪いことしてないみたいだし、後で釈放してやってくれよ。」

「…」


 この三日で繰り広げた戦いは間違いなく冒険者の英雄譚に加えてもいいような代物の数々であるはずなのに、そんなことはどうでもいいとぶっきらぼうに答えたクロノスは、次にガルンドを恨み混じりに見つめた。


「てゆーかガルンドの爺さんどこ行ってたの?仮にも依頼者なんだから大人しくミツユースにいてくれよ。君がいてくれたら俺は眠い思いをせずクエスト完了できたのに。」

「すまんの。しかし今回回収してもらった物が物だけに、ミツユースからギルド本部のあるチャルジレンまで運ぶのに専門の運び屋を使わらざるを得ないて。大陸中に散らばるこやつらを集めたんだ。本来なら三日でも速いと褒められるところじゃぞ?」


 ガルンドは申し訳なさそうに自分の後ろ、つまりクロノスから見れば正面。ガルンドの座るソファの後ろに立ったまま控える七人の男女に顔を向けた。男女はクロノスとガルンドがソファに座った時からずっといたのだが、クロノスは眠いのでずっと無視していた。


「これだけの顔ぶれを見ても顔一つ変えないとは流石じゃな。」

「いや…俺こいつら知らんし。あ、一人知ってる。」


 七人の男女達をクロノスは知らなかったがそのうちの一人。一番左端にいた背の低い女性にだけは見覚えがあった。クロノスはその女性に挨拶をしたが、女性は目を向けただけで返事は帰ってこなかった。


「仕事中は私事わたくしごとなしとは相変わらず真面目だなサクレナ。ということはこいつら冒険者ギルド所属の運び屋。それも相当の手練れ。」


 冒険者達が回収する品の中には曰く付きの呪いの品や取り扱いの難しい素材も多い。彼らはそういった物の扱いに知識がない冒険者やギルドの職員に代わってそれらを管理する施設や欲する依頼人の元へ運ぶのが仕事だ。様々な知識に長けており品を狙う不埒な輩から品と自分の身を守るために武術や魔術に長けた者ばかりと聞く。宝剣を運ぶにはうってつけの人材と言えるだろう。


 品運びの範囲は大陸の端から端まで人類の生存圏ならどこへでもどこまでもとも言われており、運び屋自身が冒険者として大陸中のあちこちで活動している者も多いので、ガルンドは頑張って集めた方なのだろう。クロノスは先ほどまで抱えていたガルンドへの恨みを水に流した。


「如何にも。その中でも駆けつけられる腕利きの奴を片っ端から集めた。残った不埒者から宝剣を守るため外でも何十人も控えておる。冒険者ライセンスは全員が所持しておりつまりは全員冒険者。これまでの危険な品の荷運びの功績だけでA級になった猛者ばかり…お主と戦っても七人掛かりなら善戦くらいはできるんじゃないか?」

「へぇ…面白そうだ。じゃさっそく…」

「待て待て待て!!今日はこいつらは宝剣を運ばせるために呼んだの!!」

「なんだよツマンネ。まぁ眠いから今日は見逃してやる。」

「まったく…強そうなものを見ると胸が騒ぐのは悪い癖じゃな。ミツユースに住み着いても終止符打ちとしては普抜けておらんか。」

「だ・か・ら、俺はもうその二つ名は捨てたの!!これからは「流通都市のおしゃべり猫さん」。そう呼んでくれたまえ。」

「無理じゃ無理。一度つけられた二つ名がそう簡単に消えるものか。まぁその話は置いておいてクエストの件をとっとと片付けようじゃないか。この二十一本の宝剣「すべて」を運び出せばクエスト完了じゃ、いやーお疲れさん。さぁお主等よ、支店長に文句を言われる前にとっととこいつらをチャルジレンへ運んでくれ。手順は取り決めた通りじゃぞ。ば多少の「勝手な行動アドリブ」も宝剣に害がなければそれを守るためだと見逃してやるぞ。」

「ハッ。」「うい~す。」「よろしくチャン。」「…毎度。」「了解承り。」「よろしくお願いしますだ。」「楽勝っしょ。」


 ガルンドの命令に七人はそれぞれが返事を返した。各々好き勝手な返事はいかにも冒険者らしい。運び屋たちは二十一本の宝剣を一人三本に分けて宝剣を携えていく。宝剣には大きくてとても重いイワオトコや不適合者が持てば強烈な拒絶反応を起こして熱くなるレッドスティールなどもあったはずだが、運び屋たちは何食わぬ顔でそれらを持ち上げた。当然拒絶反応は一つもない。もしかしたらあったのかもしれないがそれは運び屋たち各々の技術で押さえているのだろう。


 宝剣は次々と扉の向こうへ運び出されていき、いよいよ最後の三本を残すのみとなった。そして最後に残っていた端で順番を行儀よく待っていたサクレナがテーブルの上に並べられた三本の宝剣の一本を持とうとすると、そこで手が止まった。なぜならクロノスがその手を自らの足で制したからだ。


「なんのつもり?私の仕事の邪魔をする気?」

「…」


 サクレナはそこでクロノスに初めて声を向けた。その声は静かで淡々としたものだったが、サクレナは仕事の邪魔をするクロノスに小柄な体から殺気を漏らしていた。しかしクロノスはその殺気を感じ取ってもサクレナを見たままテーブルから足をどけようとしない。二人の対峙をガルンドは静かに見守っていた。


「いや、俺はバカな冒険者だけど計算はバッチリできるつもりだぜ?君達、数を間違えてるんじゃないか?」

「間違ってなどいない。私たちの仕事はここにある宝剣二十一本全てをミツユースからチャルジレンへ運び出すことだ。既に十八本は運ばれて残すはここにある三本のみ。何もおかしくはないだろう?」

「ああん?それなら間違えたのはギルドの方かな…ガルンドさん。数を間違えているぜ。」

「何を言うか。そこにはきっちり二十一本あって、お主はそれを集めた。クエストはグランティダスの所有していた二十一本「すべて」を…」


 クロノスに問いかけられて険しい顔で答えようとしたガルンドだったが、クロノスに手で制されてしまった。そこでガルンドの険しかった表情に更に皺が入る。


「おかしいな?俺は君に「各国が所有していた宝剣全て」を回収して納めろと承っていたんだぜ?「グランティダスが持っていた宝剣全て」じゃあない…よっと。」

「…動くなっ!!」

「…!!やめろ!!お主一人で勝てる相手ではない。」


 クロノスはテーブルから足をどけてソファからふらりと立ち上がった。それを見てすぐさま腰の武器に手を掛けようとしたサクレナだったが、険しい顔をしたままのガルンドに止められてしまう。それを見たクロノスは下手くそな笑顔でニコニコと笑う。


「グランティダスが各国から盗んだ宝剣は全部で十八本…さっき持ち出された分だけだろ?今ここに残っているのはグランティダスが宝剣コレクターとして自ら見つけ出した未知の宝剣だ。ヴェラに借りた手帳。あの中にあった宝剣の情報はどれも事細かに書かれていたが、この三本だけ何も書かれていなかった。当然だ。どの国の誰の物でもないんだから性質を知るのは死ぬまで手放さなかったグランティダスしかいないんだからな。さて…ヴェラ。」

「呼びましたか?」


 クロノスは自分のソファの後ろにずっと控えていた…今の今まで気配を消して空気同然になっていたヴェラザードに声を掛けた。呼ばれたことでヴェラザードは存在を消すのを止めて返事を返す。


「俺の記憶が間違っていなければ…お尋ね者の資産は正当な持ち主がいる物を除いたら、討伐した冒険者の所有物となる。であってるかな?」

「間違っておりませんよ。そもそも冒険者のクエストの中にお尋ね者の捕縛と討伐があるのはそのためですから。犯罪者モンスターを打ち破りその先の宝を手に入れる…まさしく冒険者の普段やるべきことではないですか。」

「ヴェラザードよ…ギルドの人間ならば嘘を言ってくれてもいいのじゃぞ。」


 淡々と答えるヴェラザードに恨みがましく目線を送るガルンドだった。冒険者ギルドの利益を考えたら、ここは嘘を言ってでもこの三本の宝剣を回収するべきだった。


「申し訳ございません。私はクロノスさん専属の担当職員ですので、例えギルドが不利益を被ろうともクロノスさんをサポートしなくてはならないのです。それがギルドが私に与えた最上級の優先事項ですから。」

「天邪鬼な女め…いや、頭が固いと言うべきかの。」

「ありがとうヴェラ。流石は俺の担当。愛してるぜ。さて、三度聞こう。宝剣の数の計算間違ってない?この宝剣三本…誰のだ?」


 クロノスはヴェラに愛の言葉を送ってからガルンドとサクレナに向き合った。宝剣を守る戦いでまたもや得物を失ってしまったため今のクロノスは丸腰だったが、それでも老いたギルド幹部と手練れとはいえたった一人の運び屋。外に控える者達に合図して間に合うかどうか怪しいし、仮に間に合ってもクロノスの有利は覆らないだろう。それがS級冒険者というものだから。


 二人が額から夥しい量の汗を流してクロノスと対峙して一分が経った頃、クロノスは欠伸を一つして背伸びした。


「一応聞くけど、なんでギルドは俺から宝剣を没収したいわけ?」

「そんなの聞かなくてもわかるじゃろうに…」


 クロノスの言葉にガルンドは呆れた。宝剣とはかつて一本だけでも大国同士がその所有を巡って大戦争にまで発展したことさえある代物だ。現在は小国がこれ以上の所有をしないと宣言したり複数所有する大国などもきちんと管理を明確にして扱っているので表立った争いはないが、それもいつまで持つかわからない。


「今回だってグランティダスが遺した宝剣を巡ってそこらで激しい争いが幾つもあった。そもそも宝剣は一つの地に幾つもあってはならない。宝剣同士何か引き合うのがあるかもしれないが、引き離しておくことが一番の安全な取り扱い方なんじゃ。ミツユースに三本も置いてたまるか!!」

「こんな宴会の一発芸みたいな剣がやばいとは思えないけど。」

「それは、お主が冒険者でバカだからじゃ。考えてもみろ。「どこにでも花を咲かせる」、「空高く飛び上がる」、「童貞しか持てずそれ以外は熱い」、「全身が岩に」…これらは宝剣の能力ちからの一端にすぎない。もしこれが理解ある適合者が手にしたのなら、S級のお主でも命の危険があったぞ。今回報告にあった適合者が皆冒険者並みにバカで助かったわい。」

「そんな危険な物に見えないけど…てゆうかそんな危険な可能性のあるクエスト無報酬でやらせるなよ!?流石の俺でも怒るぞ!!」

「それは信用の裏返しという奴じゃな。実際お主はあっさりと全部集めてくれたしの。とにかく、その宝剣を渡してくれないのなら儂は全力でやるぞ。例えこの身が朽ちようとも必ずお主から奪い取って「あげるよ?」…はれっ?」


 クロノスのあっさりとした言葉に一世一代の決め台詞を放とうとしていたガルンドは間抜けな声を上げて盛大にずっこけた。


「…本当に?」

「いや…そもそもこんな剣別に要らないけど。どうせどれも俺を嫌っているみたいだし。」


 ガルンドの問いかけに答えたクロノスはテーブルに置かれた宝剣に触れようとする。しかしクロノスの手が触れようとした瞬間、宝剣からバチリと衝撃波が発生して宝剣が後ろに跳んで壁にぶつかる。それをポカンと見るガルンドとサクレナ。クロノスは少しダメージを負った手をイテテと大げさに振ってヴェラザードに呆れられながらも彼女から手当てを受けていた。


「見ての通りだ。他の二本でも似たようなもんでな。こいつらはここの支店長が触った時には何ともなかったのにな。おかげで倉庫街からこっちに持って戻るときも支店長呼んで運んでもらわなきゃならなくて面倒だったんだ。支店長以外が触れるかもわからないし。」

「…宝剣が自ら逃げ出すとはお主どれだけ嫌われておるのじゃ。宝剣が適合者を探して自ら歩み寄ったり、不適格と断定した持ち主から離れることはあったらしいが、これだけ激しい物ではないぞ。」

「まぁというわけで俺はいらん。この街にはリリファのイノセンティウスもあるし、二つ置くとやばいならギルドで買い取って。」

「…ミツユースで回収した宝剣がバラバラで破片が足りないと報告を受けていたが、やっぱりお主の仕業か。ヴェラザードよ。何故教えてくれなんだ。」

「申し訳ございません。しかし宝剣イノセンティウスはリリファ・フーリャンセの家が代々守ってきた剣だと聞いておりましたので、彼女が受け継ぐには何の問題も無いかと。」

「ばっちり適合してるみたいだし、欠片だけで今は果物ナイフみたいなちっこい短剣だからさ。勘弁してくれ。」

「いいじゃろう。しかし困ったな。ギルドで買い取れと言われても、宝剣に価値など付けられん。」

「おいまさか…君はプライスレス=タダって思ってるんじゃないだろうな!?払えよ。はーらーえーよー!!」

「誰も払わないとは言ってないじゃろう。そういう交渉は後にしてとりあえずこの宝剣たちはチャルジレンに運んでしまうぞ。サクレナ、早よ持って行ってくれ。」

「えっ?ああ、はい…」


 ガルンドの指示でサクレナは三本の宝剣を持って出て行った。そして啖呵を切っただけ損だとクロノスとガルンドは仲直りしてソファに座り直すのだった。


「ああまあいろいろあったが…これで無報酬クエストは完了じゃ。はいご苦労お疲れー。」

「あんがとさーん。うがー、もう宝剣なんて勘弁だ。二度と見たくはない。」

「くく、しかしいいお灸になったろう?聞けばティルダンの時はすぐに殺さずヴェラザードが情報を発するまで待ったとか。いやはや喧嘩っ早い終止符打ちもようやく成長したな。」


 疲れてしまい格式ばったクエスト完了の儀を適当にやったクロノスとガルンド。クロノスが終わったからと帰ろうとすればガルンドは茶を飲みながら呼び止めた。


「経費の報告書を寄越せ。それくらいの面倒は見てやる。」

「ああ、そんなこと言ってたな。ヴェラに頼んで一応用意しておいてよかった。でも通るかな…?」

「いいから貸せ。そもそも今回の宝剣回収二十一本なんて高ランク冒険者何十人も雇って金貨を大量に散らしてやっと数本確保できるかどうかだったんだ。多少払わねば逆にギルドのメンツが立たん。」

「そういうことなら…はいこれ。」


 クロノスが懐から宝剣探しで使った経費をまとめた報告書を取り出した。しかしこれが通るかはクロノスから報告を聞いて代筆したヴェラザードも怪しいと言っていた。クロノスがさっきの宝剣と違いおとなしく渡してくれたことから上機嫌になったガルンドはその報告書に目をやる。


「なになに…森林の伐採の人夫の給与…くじ引きの代金…高級娼館の宿泊料及びサービス代…商店街のダメになった商品の弁償代…公園のブロンズ像の修理費用…その他諸々…おい。お主何してたんだ?いくつかはしょうがないけど、他は遊んでないか?無報酬クエストだぞ?わかるか?罰則のクエストなんだぞ。」


 眉間に皺を寄せて不機嫌になっていくガルンドを見てクロノスは大きなため息を一つした。そしてこれから訪れる地獄の到来に覚悟を決めるのだった。


「ですから通るかは怪しいと言っていたのに。適当に嘘言ってはぐらかしておけばよかったのです。」

「仮にもギルド職員がその発言はどうよ?それより経費よりも高くつきそうなんだけど…やっぱりダメ?」

「オイオイオイ…ちょっとコレ説教してもいいか?いや説教するわコレ。ちょっとそこに正座しろ。正座だよ、せ・い・ざ!!…ソファじゃねぇ床に座れや!!」


 ガルンドはクロノスを床に正座させると、自分もそこに正座してクロノスに冒険者ギルド幹部のそれはありがたいお金を払ってでも受けたいと噂されるほどの説教を始めるのだった。



「…というわけだ。わかるか?わかるよな?わかるっていえや!!だいたいお主はいつもこう。何かやるたびに新しい問題を起こして…つまり…が………なら…て…………!!…ば……い…加減?…?…だって…なら………だぞ!?……わかん……コラ………!!」


 一時間が経過した。大通り支店の二階は木造建築であるがゆえ石造りの一階と比べても座った時の肌触りはまだ温かさを感じる方である。その温かみを胸に染み込ませてクロノスは未だ萎える様子の無いガルンドの説教を黙って聞いていた。クロノスだってガルンドの気持ちは分かっているのだ。今回宝剣を安全に回収する幾つもの方法。もしも自分がガルンドの立場であったなら、言い訳する自分を笑って再起不能にしただろう。拳で。未だ説教だけで済んでいるのは、目の前にいるガルンドが冒険者ギルドの幹部の中でも元は冒険者上がりで粗雑な人間であることを加味しても優しい男であることの証拠に他ならない。だからこそ黙ってガルンドの説教を聞き続けたクロノスだったのだ。我慢して、我慢して、我慢して、我慢して「ふんがーーーーー!!」…ダメだったようです。


「いつまでもぐだぐだぐだぐだぐだぐだねちねちねちねちねち…うるせえよ!!俺だってなぁ、今回は真面目にやったんだよ!!普段ギルドの幹部として頑張ってくれているガルンドの爺さんの、顔の一つや二つ。偶には、偶には立ててやろうと気まぐれで頑張ってみれば…なんだよ!!宝剣ってのはどうしてどいつもこいつも…!!可憐なお花を咲かせて、ぼったくりのくじ引きやって、大空の遙か彼方を空気が無くなるまで飛んで、その他諸々…挙句の果てには童貞冒険者の卒業プロデュースだぁ!?冒険者ごときが初めてのシチュにぐだぐだ注文付けてるんじゃねぇ!!俺なんて…俺なんてなぁ…!!森の奥深くで薬を一杯どころか十杯は盛られ、痺れる手足を縛りつけられ女七人の冒険者パーティーに代わる代わる逆レ…ぷげらッ。」


 どんどんとヒートアップするクロノスが自分の初体験を暴露しそうになったあたりで、マヌケな声を出してテーブルに突っ伏した。その原因はクロノスの座っていたソファの後ろで先ほどから黙って控えていた彼の専属担当者ヴェラザードが放った蹴りである。


「おやクロノスさん。どうされました?…ぐっすりと眠られたようですね。無理もありません。ガルンド様がミツユースを再訪するまでのこの三日間、ずっと宝剣を狙う輩から不眠不休で宝剣を守っていたのですから。きっと話疲れて途中で眠ってしまったのでしょう。S級言えど疲労には勝てませんね。人類共通の大敵です。」


 ヴェラードは自分で止めを刺したことを認めもせず猫亭に帰ってゆっくり寝ましょうねと、クロノスを小麦の袋を担ぐように乱雑に自分の肩に担ぎあげた。小柄な方のヴェラザードが成人男性であるクロノスをいとも簡単に担ぐ光景は些かシュールである。もし恋に恋するミツユースガールがその光景を目撃すれば、今巷で流行の「お小麦様抱っこ」だ。しかも逆お小麦様抱っことは昨今の女性進出社会を援護する非常に上級者向けなプレイだときゃいきゃい騒ぎ立てるだろうが、あいにくとここはミツユースの通りではなく冒険者ギルド大通り支店の来客室の中。既に運び屋連中は宝剣を携え部屋を後にしてしまったし、残っているのは若者のトレンドなど知るはずもないガルンドだけだ。騒がれない状況にヴェラザードは少し残念そうにして出口の扉のドアノブに手を掛けた。


「ああそう言えば…例のスーザンなのですが…」


 扉を開けて出て行こうとしたヴェラザードだったが、そこでふとあることを思い出してガルンドに話しかける。その話題とはナナミとリリファが治癒士探しの際ミツユースの神聖教会の治癒士斡旋所で出会ったスーザンという大男のものであった。


「お主の出した早馬ならここへ来る途中に会ったぞ。報告者は入れ違いにならなくてよかったと言っておったが儂はどうせミツユースに戻ってくるのだから、今報告すればよかったんじゃないか?」

「いえ、重要事項ですのでガルンド様のお耳に直接入れてしまうと、驚きの余り昇天してしまうかと思いまして。ならば先に触れを出して覚悟の状態でお聞きいただいた方がよろしいかと考えたのですが。」

「儂はそこまで脆くはないぞ。借りにも冒険都市チャルジレンにある冒険者ギルド本部で幹部をしている男が、そこまで弱くてやってはおれんよ。この間なんか「神飼い」の奴が新しいペットだと言ってトカゲほどの大きさの「暴君竜タイラント・ドラゴン」の子どもを肩に乗せて連れてきたぞ?そんなのよりは遙かにマシじゃ。だがそれを踏まえても今回の件は少々驚いた。早馬では名前だけじゃったから碌に調べもせずに早馬を出したのじゃろう?儂が来るまでに分かったことを報告せよ。」

「はっ、それでは報告させていただきます。六日前…冒険者クラン猫の手も借り亭の平団員であるD級冒険者ナナミ・トクミヤと同クランの称号無ルーキー冒険者リリファ・フーリャンセが神聖教会ミツユース支部にある冒険者向け治癒士斡旋所にて、スーザンと名乗る女性物の修道服を着て女装をした大男に接触したそうです。次の日私がそこへ行くと斡旋所には誰もおりませんでした。関係者の話によるとあそこは今の時期紹介できる神官見習いの者がいないので人員は他へ回し部屋には鍵がかけてあるそうです。念のためミツユースの教会関係者を片っ端から洗い出しましたが、スーザンという名前の職員や神官は男にも女にもいないと言うことです。ここの所草から入ってきた情報を加味しても本物のスーザンであるかと推測します。」


 ガルンドの命令でヴェラザードは彼が来るまでの間に調べたスーザンについての情報のあらましをガルンドに伝えた。それから詳しい報告はこちらにと、クロノスを抱えていない方の腕をその身の暴力的な胸の中に突っこんでガサガサと胸回りをいじくってそこから分厚い報告書を取り出してガルンドに投げた。この時ヴェラザードは片腕で数メートル離れたソファにいたガルンドに正確にドスンと着地音がするくらいの重たい報告書をいともたやすく投げたのだが、ガルンドはそんなこと今更だとさして気にするほどでもない様子で報告書を受け取りテーブルに置いた。


「ふむご苦労。クロノスのサポートと団員のお守をする中で本当にご苦労だった。帰り道は儂も宝剣の護衛の指揮に集中せねばならんから、これはチャルジレンの本部に帰ってからゆっくり読ませてもらう。しかしスーザンか…まさかこれほどの大物がミツユースに来ていたとは目的が一切不明であることも含めて謎じゃな。どうやら火吹きのヴァロイの件も「御残し喰らい」の仕業のようじゃし、本当に忙しいのう。」


 ガルンドが出したのは以前ミツユースの暗黒通りで騒動を起こしたストリートチルドレングループのデビルズで、身分を偽り姿も変えて幹部の少年ローヴァとして暮らしていた一人の犯罪者の名前だった。警備兵から引き渡してもらいチャルジレンへの輸送中に彼は何者かに殺されてしまったのだそうだ。


「ああ。やはりそうでしたか。現場の確認はご自身でなされたので?」

「うむ。三日前ミツユースを発つ時についでにな。死体は処分したそうじゃが現場が事の悲惨さをこれでもかと語っておったよ。あれだけの仕業まずあやつで間違いないて。」


 ガルンドは身震いを一つして、テーブルの向かいにあったクロノスが手を付けていなかった茶を飲んだ。時間が経っていたのでぬるくなっていたが、年寄りにはこれくらいがいいのじゃとごくりごくりと飲み干す。


「それなりの手練れの詐欺師フール三人、宝剣コレクター、知恵隠れ、御残し喰らいにスーザン。ゴロゴロとミツユースに犯罪者が現れて、これはまるで…犯罪者の百貨店のようです。この流通都市に何が起きているのでしょう。」

「まぁ単なる偶然かもしれんな。ミツユースは海路も陸路も発達しているからただ単に移動の途中で寄っただけかもしれないし…今までも犯罪者は普通にウロウロしていたんじゃないか?クロノスが定住したことで埃が見つかりやすくなっただけじゃと儂は思う。この件に関してはお主もクロノスも考えなくていい。クロノスが終止符打ちをもう名乗る気が無いのなら、なおさらじゃ。」

「分かりました。ガルンド様がそうせよと仰るならばクロノスさんのサポートを優先します。それでは…」

「あ、そうじゃ。それともう一つ…」


 ヴェラザードが報告は終えたぞと今度こそ扉を開けて出て行こうとしたが、ガルンドに呼び止められた。そろそろ肩のクロノスが重くなってきたのですがと目で抗議したが、ガルンドが真面目な表情をしていたので、抗議の目を仕舞って自分も真面目な表情で返した。


「クロノスの冒険者クラン設立の件、幹部共は殆ど反対していたが儂は良いと思うぞ。それこそ冒険者の配置はギルドの手腕じゃ。報酬や名誉で釣って、釣れた冒険者にクエストをしてもらえばよい。腕利きの冒険者を無理やり派遣しないとクエストを片付けられないのなら、それはギルド側の失態じゃて。クロノスが気にすることはないんじゃ。冒険者は自分が好きにクエストを受ければよいのじゃ。」

「クロノスさんにずっと目を掛けていたガルンド様ならそう仰ってくれると思っていましたよ。」

「ふむ…妨害は多数決での決定だった故に許してくれ。しかしクロノスが自分と集めた団員の力でクランを正式に動かせるようになったのなら、儂は立場を顧みず応援するつもりじゃ。本人には言うなよ?聞けば付け上がるからな。」

「心得ております。しかしガルンド様はクロノスさんには本当に甘いですね。今回の無報酬クエストだってギルドの方針では経費も彼持ちにするつもりだったのでしょう?」

「うむ。しかしそれもかわいそうじゃて。ずっとギルドの寡黙な犬であった男が、ようやく自分の意志で何かをやりたがっておるのじゃ。こんなつまらない理由でクラン運営の資金を溶かしてほしくはない。とにかく、報告通りならこれで猫亭の団員はクロノス自身と新入りの「稲妻」を入れて四人…あとの一人である戦士ウォリアーを残すのみじゃな。戦士は冒険者の職業比率から見てもかなりの数がおるし期間も一か月超残っておる。ま、贅沢を言わなければ楽勝じゃて。もう勝ったも同然じゃ、ワハハ!!」


 ガルンドがまるで何かのフラグにしか聞こえないような言い方でクロノスを褒めれば、ヴェラザードはあまり褒めて甘やかさないでくださいと、まるでお母さんのようにガルンドを窘める。ガルンドの気持ちはクロノスがS級になった時からずっと担当としてサポートしている自分も良くわかっているつもりだ。しかし甘やかしすぎはよくない。彼だって冒険者なのだ。アホでバカでマヌケでガサツでイイカゲンでワカランチー。そんな存在の延長線上にすぎないのだから。


「ガルンド様のお言葉が例え何かの伏線だったとしても、この人ならきっとやりとげてくれますよ。S級だとかそういうの以前に、クロノスさんもまた夢を追いかける自由人…冒険者なのですから…」


 その言葉を最後に、ヴェラザードは客室から出て行った。そしてドアを閉めた拍子の揺れでクロノスが目を覚まし、寝ぼけ眼で自分のスカートの下の下着に手を突っ込もうとしたので、壁に叩きつけて止めを刺して今度こそゆっくりと休んでもらうのだった。


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