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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第42話 ノンギャランティ・クエスト(決着をつけましょう)


 クロノスが冒険者達とあれこれ言っている間、それを見ていたポルダムは動けないでいた。正確には自分を無視する冒険者達を斬りつけてやろうかとも思ったのだが、自分の前でじっとしたままのティルダンが自らより前に出ることを許さなかったのだ。


 やがて冒険者達の話がまとまったようで、新たに現れた一人の男を残してその他は皆散っていった。その男はこちらへつかつかと歩いてくる。


「(なんなんだアイツ。アイツも冒険者のようだが…アイツが来てから流れが明らかに変わった。生き残りの冒険者達は逃げたわけでもなさそうだ。空から人間が落ちてきたかと思ったら…しかもアイツまったく怪我してない。あんな高い所から落ちてきたらぱーんとはじけ飛ぶに決まってるじゃねえか。化け物か…!!)」


 ポルダムは体を震わせて自分の唯一の手下となったティルダンを見た。そのたくましい背中に安心感を覚えるとどんどん調子を取り戻していくのを感じた。


「…そうだ。アイツが何者だろうと関係はない。こっちにはティルダンがいるんだ!!あのB級冒険者のセーヌですら無傷で倒した化け物がな!!もはやどんな冒険者を連れてこようとティルダンの敵じゃねえ!!」

「それは試してみないとわからないんじゃないのか?」

「…ヒッ!!」

 

 自信満々に叫ぶポルダムだったが、そこで己の肩に剣の鞘を置いたクロノスが目の前にいたことに気付いた。いつの間にとこちらを向いたティルダンに視線で問いかければ、どうやらティルダンでも気付くことができなかったらしい。主の危険にどうするかと動けないでいた。それを見て満足したクロノスはポルダムの肩から剣を退けてティルダンと立ち並ぶ。巨体のティルダンと普通の体格のクロノスでは大人と子供では表現できないくらいの体格差があったが、それでもクロノスの顔からは余裕は消えなかった。


「さて、待たせて悪かったな。雑魚の相手は退屈だったろう?あいつらもこれからの人間なんだ。大目に見てくれよ?もっとも、君がこの先生きていればだが。」


 クロノスが挑発を行ったが、ティルダンは頭をひねるだけだった。意味を理解できていないのかと不思議に思ったクロノスだったが、やがてティルダンが口を開いた。


「あ、あ。ああ…かまわんヨ。それはお互いさまと言うやつダ。」

「なんだ話伝わっていったのか。てっきり理解できない物かと。」

「ティルダンお前…まともに喋れたのか!?」

「…なんか君のご主人様、すごく驚いているみたいだけど?俺は知らないけど、いつもと違うのか。もしかしてそれも宝剣の力の一部だったり…」


 ティルダンの発言に一番に驚いていたのはポルダムだった。なぜならポルダムは今まで一緒にいたティルダンがここまで流暢に喋れたことを知らなかったからだ。先ほどは的確な避難をポルダムに促せたが、それでも言葉は片言混じりの非常に聞き取りにくい物だった。クロノスは元のティルダンの喋り方を聞いていないので知らないが、それは宝剣の力の一部であるのかとティルダンに尋ねたが、彼は否定と言う形で首を横に振った


「いヤ…これは生まれつきダ。この宝剣は最近になって街で蝶々を追いかけていたら偶然降ってきタ。主よどうか許してくレ。俺は今日のような雲一つない月の綺麗に輝く夜にだけすごく頭が冴えるんダ。普段は自分でも何を言っているのかわからないくらい馬鹿だから、主を見つけて庇護してもらわないと生きていけなイ。いないときは主と初めて会った時のように奴隷商人に自分を売らせるんダ。」

「そうか、それで…!!」

「ついでだから今まで言えなかったことを言わせてくレ。面倒見てくれてありがとウ。」

「ああ、ああ!!礼だなんていいんだぜ!!これからも面倒見てやるから、まずはこいつらをぶっ殺してくれ!!」

「もちろんダ。ただ激しい戦いになるだろう。少し下がってくれないカ?…すまなイ。」

「ああ。頼むぜ、俺のかわいいティルダン!!」


 覚醒したティルダンに喜び激励の言葉を掛けた後、巻き込まれてたまるかと大急ぎで離れていくポルダムだった。それを見たクロノスはやれやれとティルダンに問いかけた。ポルダムは既に声が聞こえないくらい離れてしまったので、この会話はおそらく聞こえないだろう。


「君、後で彼を殺すつもりだろう?」

「それはそうだガ?だって正体が知られてしまったからナ。まぁこれまでの礼もしたし殺すことをさっき謝ったし、義理は果たしただろウ。お前たちも殺した後でまた仲介屋に身売りせねバ。」

「かわいそうに…と思ったけど、たぶん同情するほどの奴じゃないな。」

「同情よりもまずは我が身を心配したらどうダ?先に死ぬのはお前らだゾ。」

「別に?怖くないもん。」

「減らず口ガ…それが最後の言葉でいいんだナ?後悔するゾ…!!」


 遠く彼方へ去った最後の手下にすら裏切られたことを知らない哀れなポルダムを見送った後で、二人は再び目を合わせた。相手の実力の底を知ってか知らぬか、二人の余裕は崩れないままだった。そして立ったままそれぞれ武器の剣を構えお互い一歩も動かずに様子を覗う。


 二人が対峙して数分が経っただろうか。クロノスが降ってきた際にリリファ達が運び損ねた冒険者や元構成員が目を覚ました。


「おい、おきろ。」「ううん…ハッ!!みんなはどうなった?」「わからん。だがあれを見てみろ。」「…ティルダンの野郎、無傷じゃねえか。それよりも横にいるのは…クロノス!?どうしてここに…」「冒険者のおあ兄さん方。あの男は何者だい。」「おう元構成員。お前も無事だったか。あいつはとりあえず味方だ。というかティルダンもバカもこれでもう終わりだろ。」「勝ったな!!」「え…!?ティルダンは百五十人相手にしても傷一つ追わない化け物ですぜ?」「あっちが化け物なら、こっちはドラゴンみたいなもんだし…」「同感。」「おいお前ら。目を覚ましたなら仲間の手当てを手伝え!!セーヌ嬢が一人で片っ端からヒールを掛けてくれてるんだぞ!?」「あの人救助対象なのに…天使なのか?」「やべえ…ファンになっちゃいそう。」「いいからさっさと来い!!けが人を運ぶだけでも助けにはなる。あと暇な奴はどっかに倒れている治癒士が二人残ってるから探して叩き起こせ!!」「ああくそ…この対戦カード気になるのに…!!」「けが人運びながら見てりゃ良いだろ。どうせ近づけないんだ。」「しょうがねえ。お前も手伝え。」「あ、待ってくださいおあ兄さん方!!」



 一向に動かない二人。倒れた冒険者や元構成員が次々と目を覚ましそれぞれ怪我人運びや治癒士探しをしながら二人を見つめる中、先にティルダンが剣を降ろした。そして額には汗が一筋…ティルダンはクロノスの力量を図り終えたらしい。ティルダンが構えを解いたのを見てクロノスも剣を肩に担いで楽な姿勢となったが、こちらには汗一つなく顔に焦りの色も見えなかった。


「…確かにお前は少しできそうダ。ならば俺も全力を見せてやル…うおおおおオ!!」


 ティルダンが雄叫びを上げた。すると彼が持つ宝剣イワオトコが光り出してその光がティルダンを包む。そして光を浴びたティルダンの肉体が膨らみ固まっていった。やがて剣がティルダンの腕とともに石化したことでその輝きが収まったかと思うと、そこにいたのは全身が黒っぽくゴツゴツした岩のような体になったティルダンだった。離れた所からそれを見ていた連合軍の面々は、只でさえも硬かったのにさらにその上があったのかと、驚きに包まれた。しかしティルダンの正面に立つクロノスはそれを見ても特に驚くようなそぶりは見せない。それどころか彼の表情は無表情に近く、まるでゴミの処分をするかのような淡々としたものだった。


「ふん、どうダ。これが俺の最強形態。宝剣イワオトコの持つ特殊能力ちから…「硬質化」ダ!!この特殊能力ちからで俺は鋼のような体を…いや、鋼そのものになったのダ!!」


 クロノスの無表情をやせ我慢だと、ティルダンは黒色に輝く岩そのものになった己の肉体を得意げに見せつけた。しかしそれでもクロノスは臆することなく、むしろ体が膨張したことでティルダンを包む衣服は下半身のズボンを除いて全てはち切れてしまっており、見たくもない肉体美を見せつけられて内心何の罰ゲームかな?と思うクロノスだった。


「ドワーフの国ビルギーンの国宝、宝剣イワオトコねぇ…様々な性質と硬さを持つ鉱物への憧れから、ドワーフの先祖に当たる古代文明人が自らがその姿へ変わる手段を生み出した…か。確かに錬金術も一切用いずに人体の成分を変質させるなんてどんな手品か理解不能だが、宝剣の中ではハズレじゃね?それ。」


 ティルダンの姿を岩へと変えた宝剣の性能にクロノスは失望していた。確かにそれは人知を超えた力ではあるのだろう。しかし石になると言うだけでは魅力を全く感じない。なぜならただ硬くなると言うだけでそれ以外の害は一切ない。これならばまだ今まで集めた宴会の一発芸みたいなくだらない特殊能力ちからの宝剣の方がましだろう。そう思うクロノスだった。


 宝剣に失望の目を向けるクロノスだったが、ティルダンはそれは当然だろうと硬質化したことで元の顔の形が分かりにくくなった頭を上下に振った。


「失望しているのカ?そうだろうナ。お前の思っている通りこれはただ全身がこれまで以上に硬く、更なる魔法耐性を得られると言うだケ…宝剣も肉体と一体化するために敵に攻撃する力は何一つなイ。しかし、お前は俺の戦いをまだ見ていない…ハァッ!!」


 ティルダンは宝剣と一体化した岩の右腕を奮う。そしてそれを近くにあった瓦礫の塊に叩きつけた。そして腕の一撃をまともに受けた岩は木端微塵にはじけ飛んでしまった。


「うおっ、こっちに飛んでくるぞ!!」「だから離れとけって…ぎゃあ!!」


 はじけ飛んだ瓦礫の破片が戦況を見守っていた冒険者二人に降り注いだ。そのダメージで二人は再び倒れ、仕事を増やすなバカと他の仲間に運ばれていった。それを見届けたティルダンはさらに得意げになって。クロノスのすぐ近くまで腕を伸ばしてその肉体を見せつけた。


「どうだ…!?この俺が生まれ持ったこの肉体!!この体と合わせることでこの剣は最強になるのダ!! …あア。頭が冴えてくると喉が渇ク。血だ…人間の血が飲みテェ…さぁお前を殺して生かしておいた冒険者共も早く殺して喰うとしよう…!!」

「あーあ。やっぱその類か…その血まみれのシャツは誰か殺ってきたんだろうな。それで一時衝動が落ち着いてさっきまで知恵足らずの状態だったわけか?」


 どうやらべらべらと喋っていたのは己の覚醒したことによって湧き上がった殺人衝動を抑えるためだったらしい。ティルダンに問いかけたクロノスは彼の水晶のようになってしまった目の焦点があっていないことに気付きこれ以上の問答は無用かと、肩の剣を構え直した。


「はじけ飛べヨッ!!グラアッ!!」


 ティルダンが行った攻撃はシンプル…ただ腕を乱暴に振り回すと言うものだった。しかし今のティルダンの両の腕は膨らんで硬質化したまるで神聖教会を支える石柱のような巨大なものだ。さらに重量も半端ではなく、ティルダンが降った腕からビュンビュン轟々と風切り音が鳴り響く。一撃でも喰らえば重傷は免れないだろう。しかし…


「ぐっ…上手く避けてるようだナ。だがそれがいつまで続くかな?」

「…適当に振り回せばいつか当たるだろうと思ってる?それ無駄に疲れるだけだろ。まさか頭の中まで石になったのか?」

「なんのこれしキ!!こっちは一発でも当たればかちなんだヨ!!ウラッ!!」


 クロノスはその一撃一撃を明確に見切って自分に当たる寸でのところで回避していく。ティルダンは時々フェイントを掛けたり狙いをつけて殴っていたのだが、一向に当たる気配がない。そのうちクロノスは退屈だと欠伸をしていた。


「…!!そこダッ!!」


 まったく攻撃の当たらない状況に苛立ちを覚えるティルダンだったが、クロノスが欠伸をした際に一瞬の隙ができたらしい。そこを狙って渾身の一撃を打ち込める。


「…あ。」

「勝っタ!!死ねイ!!」


 ティルダンの拳がクロノスの頭部を明確にとらえた瞬間。ティルダンの世界はスローモーションに入る。そしてそのわずかな瞬間に勝利への確信を信じる。


「(俺のこの一撃は、暴走する四頭立て馬車の衝突に等しイ!!当たらなければと奴は言ったが、これだけの攻撃を受けてしまえば首が吹っ飛ぶどころかはじけ飛ブ!!はじけた鮮血の中から脳みそを掴んで啜ってやル!!)」


 クロノスの頭部。その額の中央にゆっくりと正確に吸い込まれていく拳を眺め、クロノスの味わい方をスローモーションの世界で考えるティルダン。そして世界が元の速度へと戻っていく。段々と速くなっていく己の石の拳に更なる力を入れてクロノスの頭を弾き飛ばした。…ハズだった。


「…あガッ?」

「「「えっ?」」」


 目の前の光景に拳を打ち込んだティルダンとそれを見守っていたギャラリーは間抜けな声を上げた。なぜなら…ティルダンの拳がクロノスの額に、正確にはティルダンの大きすぎる拳の中のクロノスに最初に接触した中指の付け根。その第三関節がクロノスの額で止まっていたからだ。クロノスはと言えばあれだけの衝撃で頭が吹き飛ぶこともなく、自分の額に張り付くティルダンの拳を冷やかな目で見つめた。


「なっ…どうして…はじけ飛ばないイ…!?…あ?あレ?」

「…俺が宝剣イワオトコをハズレと言ったのは、お前のようなデカブツの力自慢とセットでないと使えないからって意味じゃねえ。弱点はその硬質化そのものにあるんだ。」


 ティルダンはとりあえず拳をクロノスから離そうと腕を引こうとするが、そこで自分の腕が動かないことに気付く。それを見てクロノスは混乱するティルダンにも聞こえるように呟く。


「ただ硬いってのはだめだ。特に人体の場合は硬さの代償に「柔らかさ」を失う。知ってるか?拳骨ってのは、殴る側も痛いんだぜ。それは殴った衝撃が…」


 クロノスがそこまで呟いた辺りでティルダンの拳が、クロノスの額に触れている部分からパキパキと音を立ててひび割れ始めた。そしてクロノスが「…拳にも伝わるから。」と言い終えたあたりでティルダンの肩口までひびが走り…ティルダンの腕が砕け散った!!


「ギャアアアアアアア!!俺、俺の腕!!俺の腕がアアア!?」


 自分の腕が石の破片となって地面に落ちてその痛みに悶えたティルダン。肩口からはドロドロの泥のような液体。おそらくティルダンの血と思われるものが並々と漏れ出ていた。





「あれは…」

「お、ジェニファー。」


 戦いを見ていたギャラリーが声のした方を向けばそこには怪我を負って撤退したジェニファーがいた。その隣にはチェルシーがいて姉を支えていた。


「傷はもういいのか?」

「治癒士を見つけてなんとか…まだ痛いけど、相棒の最期くらい見届けておこうかと思って戻ってきたわ。」

「相棒って…そういやクロノスの持っている剣、お前のじゃん。…そんなことより、ジェニファー。あれはどうなっているんだ?」

「ティルダンの剛腕がクロノスの額に当たった途端、逆にティルダンの腕が弾け飛んじまった!!」

「あれは剣士の防御技…「我金剛ガコンゴウ」よ。でもあの技は本来一瞬だけ体を硬質化させて敵の物理攻撃を幾らか防ぐだけの物よ?完全に遮断できるわけじゃない。私だって使えるしチェルシー助けるときに使ってこの足だもの。ダメージを完全に無効化してさらに反撃カウンターなんて威力はあり得ない…人間軽く辞めてるわね。」

「クロノスさんS級だよ。」

「それもそうね。」


 ティルダンの腕を破壊した正体を看破して、クロノスを散々ありえない、人間辞めてるとぼろくそに言ったジェニファーは、妹のシンプルかつ最も効果的な答えで勝手に納得してギャラリーに加わった。





「ふーん。血は石にならないんだな。ということは涙は?小便は?それと人体から離れた元人体も肉片に戻らないのか…これ硬質化を解いた後どうなるのかな?ちょっとやって見せろよ。」

「アア…アア!!グアアアアア!!痛イ…痛イ…!!」

「おーい、聞いてる?」


 ティルダンの腕の一部だった破片を手に取ったクロノスは頭に沸いた疑問を次々とティルダンに詰問する。しかし痛みに喘ぐティルダンには全く聞こえていないようだった。



「クロノス!!チャンスだ!!」「みんなの敵だ!!やってくれ!!」「まだ誰も死んでないっぽいですけど!!」



 苦しむティルダンを見つめて動かないクロノスに連合軍のギャラリーは次々と今のうちにティルダンを仕留めろと叫ぶ。しかしクロノスはそれを無視して手に持った鞘を被ったままの剣を地面に突きたて、目を閉じてしまった。それを見て何をしているんだとギャラリーが口を挟めば、そのうちにティルダンは少し冷静になって肩口を硬質化して出血を止め始めた。


「ゼェ…ゼェ…塞いだら、殺ス…」

「おいクロノス!!傷を塞いでいるぞ!?早くしないと反撃される!!」

「まぁ待ちたまえよ君たち。この間はよく確認しないで手を出してしまって大変だったからな。これからはちゃんと相手を確かめようってな。…これだけの騒ぎだ。もう嗅ぎつけただろう。それとも…もういるのかな?」

「ええ、もういますよ。」


 不意に場違いな女性の声が聞こえ、ギャラリーたちがその声の発された方向を見ればそこにいたのはギルド職員のトレードマークである制服と、ギルド職員であることを示す銀のバッジを胸に着けた一人の女性…ヴェラザードだった。


 ヴェラザードはあたりを見回して酷い惨状だとか誰が市長に頭を下げるのだとか何やらぶつぶつ小言を言うと、血眼で殺気を出してクロノスを睨むティルダンに臆することなく近くへ歩いてきた。


「夜分遅くにご苦労様です。お疲れ様とはいいませんよ?ギルド職員と冒険者は対等ですから。」

「対等ならお疲れ様でいいんじゃないのか?まぁいろいろと言いたいことはあるのは分かる。だがその前に君の仕事を果たしてくれ。こいつ…誰だ?」


 クロノスは今にも噛み付かんと睨み付けるも痛みでまだ動けないでいるティルダンに指をさす。ギャラリーは何言ってるんだと思っていたが、ヴェラザードはティルダンの顔や体つきを見て頭の中の記憶を探したようだった。やがて当たりを見つけたのか。クロノスに尋ねられた答えを発した。


「この方は「知恵隠れ」のティルダンですね。普段は精神に障害を負った大男のふりをしていますが、数か月に一度月の綺麗な夜に真の人格が覚醒して殺戮の限りを尽くしてまた眠る厄介なお尋ね者ですよ。前は普段が真の人格で月夜の方は患った二重人格だと勘違いされていたのですが、ダメな子ほどかわいいと普段のティルダンの面倒を見てくれる人物や真の人格を目撃してしまった人すらまとめて殺してしまう残虐性と計画性から、劣悪な知能犯であるとギルドが決定を下しまして…何人かの賞金首狩りが追っていたはずですが、ここのところ目撃情報がさっぱりだったんです。まさかミツユースにいたとは。人を隠すなら人の中とは至言ですね。」

「ミツユース犯罪者だらけじゃねえか。監視員仕事してるの?ジムとアトライアさん仕事してるの?君たちの事今度から「かんししないん」って呼ぶぞ。…やっぱ面倒だからいいや。」

「そういえばですけど、さっきこちらへ向かう途中で近道しようと裏通りを通ったのですが、そこは血まみれで倒れるゴロツキや浮浪者であふれかえってましたね。きっとティルダンの仕業かと。一人監視員と思わしき男性も混じっていましたので、おそらく騒ぎを聞きつけて返り討ちにあったのでしょうね。」

「監視員全然だめだな。あいつらに税金払う気なくなりそう。」

「ウウ…コロス…ヒキチギル…!!」


 クロノスが知り合いにぼやいていたところでティルダンがクロノスに向かってきた。目は焦点が定まっておらず、先ほどまでの知性のやや感じる喋り方ではなかった。もしかしたら宝剣に意識を少し持ってかれたのかもしれない。


 クロノスは剣を構えたが、そこで何か思い出したようで向かってくるティルダンを一度無視してもう一度ヴェラザードの方を向いた。


「一番大事なこと聞き忘れていた。こいつどっち?」

「宝剣コレクターの件、懲りているようで結構。彼には特別な背後関係はありません。ただ保身のために様々な組織の主に入れ込んでいるだけで完全な殺しが趣味の一匹狼です。当然の如く「死んでいても生きていても(デッドオアアライブ)」ですので、どうぞご自由に。」


 それだけ伝えたヴェラザードはクロノスに一礼して後退していった。クロノスはその言葉が聞きたかったと再びティルダンと向き合い、紅い瞳を輝かせた。暴走していたティルダンだったが、その紅い瞳を見て何かに気付き、突然震えだした。まるで今まで自分が戦っていた相手が、ドラゴンか何かであったと気づいたかのように…


「あ、あア…思い出しタ。お尋ね者の間で実しやかに囁かれる噂…その紅い瞳には絶対に会うナ。会えば俺もお前も殺される…お前…終止符打ちだな…!?人に仇為すモンスターと外道の討伐専門の冒険者。冒険者ギルドの寡黙な犬…終止符打ち「リューゼン」…!!」


 目に恐怖の色を浮かべ震える声で記憶をなぞるように、読み上げるように語るティルダン。不気味に体を震わせ真っ黒な体がどす黒く染まっていくティルダンに、クロノスはムッとして答えた。


「あん?俺をあんな奴と一緒にするんじゃねーよ。だいたいあいつはギルドの寡黙な犬だが、俺はクランのおしゃべりな猫だ。この差は天と地ほどにも、月とすっぽんほどにも違う。…あ、俺が天で月のほうね。略して天月!!かっこいい!!」

「嘘だッ!!お前は、俺と同じ殺人狂ダ!!そういう目をしているル!!お前が冒険者をやっているのも、正義の側で堂々と殺しができるかラ!!…そうダ。お前を殺せば俺は最強ダ。ガウウ…お前なんか怖くないゾ。俺の鋼の肉体とこの宝剣イワオトコがあれバ…殺してやル…殺じでやル…!!」


 ティルダンはクロノスを仕留めようと、もう一本の宝剣が埋め込まれた腕を振り回す。しかしその狙いは的確ではなく、またも余裕で受け流すクロノスだった。


「だから違うんだけどなー。ま、どうせこれから倒される奴に何言っても変わらないか。…それじゃあ、行くぜ!!」


 ティルダンの渾身の一振りを最後にクロノスはティルダンに急接近した。ティルダンの懐に飛び込んだクロノスはそこで手に持つ剣を鞘から引き抜いて…すぐに仕舞った。少なくともギャラリーにはそう見えた。


「おいおいクロノス何やってんだ!!」

「調子が悪かったのか!?」

「…」

「バカメ…せっかくのチャンスヲ…今度こそ死ネ!!…ア?」


 野次を飛ばす冒険者を無視してティルダンの懐からつかつかと元の場所へと戻っていくクロノス。そして背中を向けるクロノスにチャンスだとばかりに殴りつけようとしたティルダンは、そこで再び腕が動かなくなった。腕だけではない。体中どこも動かなかった。


「また腕ガ…どうしテ?今度は触ってもいないのニ…!!体も動かなイ!!…ム、これハ…」


 どうしたことだとティルダンが自分の腕をよく見れば、そこには無数の切り傷がつけられていた。動く範囲で目で体中を見渡せばその傷は胸にも足にも腹にも付いており、おそらくだが全身にその切り傷はあるのだと推測した。そしてティルダンはクロノスの方を見てその切り傷の正体に気付いた。クロノスが何気なしに鞘から出した彼の剣の刃はボロボロになっていたのだ。あれだけの刃毀れ、おそらく剣としては既に死んだだろう。


「お前…いつのまニ…!!体はなぜ動かないのかわからないが、だがやはり俺の体の硬さには勝てなかったようだナ!!ガウウ!!さぁ、これからどうすル?どうやって俺を殺ス!?」

「あ、もう終わったんで。最後の言葉、それでいいの?」

「…エ?」


 言葉の意味が全く理解できずティルダンはもう一度自分の体中の切り傷を見た。傷は浅く幅も狭い。しかしその中の一つ。自分の腹と胸の間を横一文字に伸びる傷だけはなぜか他より幅が少し広く…広がっている?


「…まさカ。」

「斬撃は後から遅れてやってくる。…で、最後の言葉。何がいいの?」


 傷の正体に気付いたティルダンは再び恐怖の目でクロノスを見た。その目は自分に倒せない者はいないのだと自身に満ち溢れていたころの輝きは全くなく、ただひたすら懇願するだけの弱い存在だった。まるで自分が今までに殺してきた…見逃してくれ。助けてくれと鳴いて許しを請う被害者たちと同じ…


「…た、助けテ…許しテ…」

「うん、ダメ。」

「そ…ん…ナ…」


 それがティルダンの最期の言葉だった。次の瞬間、ティルダンの横一文字の傷が一気に開いて斬撃に変わり、ティルダンは真っ二つになってしまった。そして二つに分かれた体は、それぞれが新たな斬撃でまた真っ二つに割れて四つに。四つは八つに。八つは十六に。十六は三十二に。六十四…百二十八…二百五十六…五百十二…千二十四…どんどんと細かくなり続け、そしてその欠片の数が数十万を超えた所で、ようやく斬撃の嵐は止み、ティルダンは破片となってその場に崩れ落ちた。


「ダンツ君のリクエストにお応えして、「流星剣術・微塵斬り」。本物の剣豪が使えば爪楊枝一本で文字通り粉微塵にできると聞くが…ま、俺程度じゃこのくらいが限界です。」


 クロノスはボロボロになって剣としての使命を終えたジェニファーの剣に礼を言ってから、それをジェニファーに投げて返した。それから元ティルダンの瓦礫の山の中に手を突っ込んで、斬撃の嵐を受けてもなお傷一つついていない宝剣イワオトコを取り出す。ティルダンが持てば普通の大きさに見える剣だが実際に持つととても大きく、そして重い剣だったがクロノスはそれを難なく担いで歩いた。


「さて…宝剣回収クエスト。これにて完了。…あ、ダンツからフェニックスバード返してもらわんと。」


 クロノスはイワオトコを担いだままで、奥の方で浮かびながら未だにぎゃあぎゃあ騒いでいるダンツ達の方へ歩いていくのだった。


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