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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第40話 ノンギャランティ・クエスト(空から幸運が降ってくるでしょう)


「くそ…イケると思ったのに…!!」

「ぐオ…ぜんブたオした。おれ、スごい。」

「ああいい子だ。俺のティルダン。」


 最後まで一人戦っていた元構成員の男が地面に倒れ、周囲に戦える者はいなくなった。ポルダムはティルダンが苦しみだしたところで旗色が悪くなったかと瓦礫の影からティルダンを見守りつつもいつでも逃げだせるようにしていたが、ティルダンが調子を取り戻して連合軍を残らず返り討ちにするとそこから出てきて、勝ったと叫ぶティルダンを調子よく褒め千切った。



 ナナミ達が宝剣だリリファが閉じ込められただの言っていた間に、その他の連合軍は最後のチャンスだと苦しむティルダンティルダンを狙って総攻撃を仕掛けた。しかしティルダンはそれに気づくと腕にもう片方の手を突っ込んで埋まる宝剣を無理やり引き抜き、宝剣がティルダンの手の先で灰色の輝きを見せたかと思うと、ティルダンは元気を取り戻てしまった。そして最後の連合軍の捨て身の特攻を手に持つ宝剣を使って全て捌ききったのである。ティルダンは剣技を扱えないようで剣の振りも刃を敵に向けない適当な物であったが、それでも巨体のティルダンが剣を金棒のように振り回して扱うことで危険な武器であることには変わりなかった。



「ああおいおい…俺に逆らうなんて百年早いんだよ。おらおら!!」

「ぐっ、がっ…」


 ティルダンが勝ったことでいつもの調子を取り戻したポルダムは、最後まで戦っていたうつ伏せに倒れる元構成員の頭を踏みつけてにじった。


「これでわかったろ?お前たちの主は誰なのかって。俺だって鬼じゃねぇ…泣いて謝れば片手の指全部と下っ端からの勉強し直しでもう一度やり直させてやる。もちろん、しばらくは給料でないけどな。えっと…お前名前なんだっけ?いちいち下っ端の名前まで憶えてらんねぇからなー。」

「…うっせえよ。」

「何?」


 元構成員の男はポルダムに頭を踏みつけられたまま彼の方を向く。そしてポルダムの顔に向かって痰を吐いた。


「うわ!?汚ねぇ!!」

「この唾はお前なんかよりもはるかに高潔だぜ?これでも組のために尽くしてアンタの仕事を手伝ったことも一度や二度じゃないんだけどな…まさか名前すら覚えていなかったとはどこまで無能なんだ…もうアンタにはうんざりなんだよ。自分と同じ考えのすり寄ってきた奴とだけつるんで、街中でも弱い者に威張り散らす腐った態度のアンタには…!!そんなことするために俺は組に入ったんじゃねぇ。俺が憧れたオジキはそんな人じゃなかった。下っ端の俺の名前だって覚えてくれてたんだ。あの人が勝手に手下を増やすなってのはなぁ、組の人間の全員分の名前を覚えるためなんだよ。アンタ知っていたか!?」


 元構成員の男はぎろりとポルダムを睨んで威嚇した。その姿にポルダムは一瞬弱腰になるが、明らかに自分が有利な状況であったことを思い出して男を踏む力を強めた。しかし男は睨むことを止めずに、それを見てポルダムはだんだんと苛立ってきた。


「あームカつく。どうせこれからは俺の気に入った奴で組を固めるつもりだったんだ。雑用程度に何人か残そうとも思ったけど、そのうち俺様がミツユースの街を表も裏も支配すれば、俺に憧れて雑用でも進んでやりたがる奴はこの先掃いて捨てるほど来るんだよ!!」

「アンタ…いやもうバカ頭でいいや。バカについていくような好き物がティルダン以外に果たしているのかね?」

「バカはどっちだ。ティルダン、皆殺しだ!!まずはこいつを見せしめにズッタズタのボロ雑巾みたいにして全員を恐怖の色に染めてやれ!!」

「あい。」


 男から足をどかしたポルダムの命令でティルダンは元構成員の男に近づき、倒れたままの男の首根っこを血と肉の見える右腕で掴んで持ち上げた。宝剣の力によるものか、もはや痛みは微塵もないらしい。大口をたたいていた男だったが、やはりティルダンは恐ろしい。奴の気迫にすっかり負けてしまっていた。


「くそぉ…ここまでか…」

「ぐが、こロす。」

「もうおやめ…ください…!!」


 ティルダンが元構成員の男を仕留めようと手を伸ばしたところで女性の声がした。三人が声のした方を見ればそこにいたのはセーヌだった。セーヌは自分を一度は負かしたティルダンに臆することなくずんずんと近づいていくと、ティルダンの男を掴む右腕を叩く。思わぬ痛みがあったのかティルダンは腕を離してしまい男を地に落とした。


「ぐ…」

「もうこのお方は戦えません。それでもなお危害を加えようと言うのですか…?」


 ボロボロの彼女は美しい顔から鼻血を垂らし修道服はボロボロの汚れまみれだったが、それでもこの惨状を止めようとする光景に元構成員の男は彼女に女神の姿を重ねた。むしろ女神がそのままの姿で現世に顕現したらその美しい姿を見た男たちが卒倒してしまうからわざと醜くなったのではないかと思えるほどだった。元構成員の男は「女神さまだ…」と譫言を言って気絶した。





「ちょっとダンツさん!!セーヌさんが危ない!!あの人また自分が犠牲になるつもりだよ!?早くその電気の牢獄を解いて!!」

「無茶言うなよッス。B級冒険者の仕掛けをどんな道理ならたかがC級の俺が解けるっつーんだ!!くそ!!この!!」


 ナナミの催促を適当に流しながら盗賊の術技で何とかリリファを閉じ込める雷撃の牢獄を解こうと試みるダンツ。しかし雷の魔術に天才的な素質を持つセーヌが生み出したこの魔術を解くのには苦労しているらしかった。


「私はもういい!!どうせ触れなければダメージはない。それよりも早くセーヌを!!手遅れになる前に…!!」

「ああもう!!ダンツさんそれ解いておいてね!!私先に行くよ!!」

「えちょ。危ないッスよ!!」

「嬢ちゃんは儂が見ておく。お前は早よそれを解いておけ!!」


 リリファの解放を待っていられぬとナナミがセーヌの元へ駆けて行き、その後をバレルが追った。ダンツもすぐに追いかけたかったが、セーヌの魔術の牢屋を解除するので手一杯だ。下手に途中で投げ出せば自分も中のリリファも無事では済まないかもしれない。冒険者仲間にセーヌはそこまで鬼なことをするかとも思ったが、少なくとも危険に巻き込まれぬようにこれ以上動けないようにはするかもしれない。魔術を解く手元の緊張をほぐせないダンツだった。


「…来る。」

「これで…どうだ!!…ダメか!!チェルシーちゃんも何でもいいから手伝ってほしいッス!!そうでなければナナミちゃんを守って…」

「何か…来る。」


 ダンツの横で獣人であるチェルシーが持つウサギの耳がピクピクと動く。そして目を瞑って何かをよく聞こうとしていたチェルシーは、不意にそう呟いた。手伝えとぎゃあぎゃあ言っていたダンツの手と口がピタリと止まり、チェルシーの方を見た。


「何かが来るって、どこからッスか?」

「上…から。すごい勢いで…!!」


 チェルシーが上から音がすると上空を見上げた。それに追従する形でダンツも空を見上げたが、雲一つない月の綺麗な大空には燦然と輝く星々たち以外何も見つからなかった。


「チェルシーはウサギ獣人ッスからねー。きっとお耳もさぞいいんでやしょうね。それで?何が来るッスか。」

「何か…怖い物。恐ろしいけど、優しくて…とっても強い何か。」


 独り言のように呟き続けるチェルシーの言葉に、ダンツは頭にハテナを浮かべていたが、何かを思い付いたようでニヤニヤと笑いが止まらなかった。口角が上がるのが止まらないダンツに今度はチェルシーが頭にハテナを浮かべる。


「ああ。ラッキーッス。何の因果か、何の偶然か…とにかく、もう勝ったな。ガハハハ!!」

「ダンツ…アレなんなの…何が落ちてくるの…?」

「おいダンツ。手を休めないでこれを解除してくれ。お前が何もしないとここで三人の冒険者が手を持て余すことになるんだぞ。」

「そのうち消えるッスよ。セーヌ嬢も満身創痍のようだしこれだけの魔術そう持つはずが無い。それよりもこれから降ってくるという何かに賭けないッスか?賭けにもならんと思うけど…くくく…!!」


 ダンツは狂ったように笑うと、リリファを捕える牢獄との格闘を諦め、その場に座り込むのだった。





「もとは…私のせいです。私が…皆さんを巻き込んだ。私を好きになさい。それでこの場を収めてください。」


 セーヌは自分にもう一度ヒールを掛けると、よろよろとティルダンへ向かっていった。それをポルダムが手で制す。


「セーヌか。今更遅いんだよ。こんな上玉もったいない気もするが…それ以前に俺は冒険者ってのが大嫌いなことを思い出したぜ。いい女ってのをスクラップにするところは後学のために一度見ておきたかったんだ。ティルダン!!あの女好きにしていいぞ。」


 ティルダンが視界にセーヌを捕えた。そしてのそのそとセーヌの方へ近づいていく。


「がう…コろス…くう…やワラかいにク、スき…!!」

「それで気が済むのなら、どうぞお好きに。」

「いいぞー!!もうセーヌなんていいや!!やっぱり俺は生意気な冒険者は嫌いだ。好きなだけ殺しちまえ!!」


 ティルダンの腕が目を瞑り祈りのポーズをするセーヌへと伸びる。そして彼女の細身を掴むまであと少し。あと少しと言うところで…



「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 ティルダンとセーヌの間に何かが大きな音を立ててドスンと落ちてきた。その勢いでセーヌは後方へ飛ばされてしまう。転がるセーヌを駆けつけたナナミとバレルが受け止めた。


「なんだ!?」

「がウ?」

「な、なにが…」


 渦中にいた三人。ポルダムとティルダン。そしてナナミとバレルに支えられてよろよろと起き上がるセーヌは、落ちてきた何かが衝突によって作った大きな穴を見つめた。穴は深くまで開いており、月明かりが照らしているとはいえ夜中では一番下まで確認することは難しい。それくらいの深さだった。しかし穴の形は奇妙であり、形から察するに落ちてきたのは…


「穴が人の形してるけど?」

「何言っとるんじゃお嬢ちゃん。人間ってのは水風船じゃ。穴が開くくらい高い所から落ちてきたはじけ飛ぶのが相場じゃ。それは冒険者だろうと同じこと。」

「何が起きたの…?」

「これは一体…」

「落ちて…来た。」

「あーあ。いいとこだけ持ってきやがるッス。」


 ポカンとするナナミの近くまで来たのはリリファとチェルシー。そして一人で何かを納得したような顔をするダンツだった。リリファまでいるのはどうやらセーヌが気を抜いたことでリリファを閉じ込めた雷撃の牢獄も解けてしまったかららしい。


「がう…?」

「いきなり何が落ちてきたんだ?倉庫の破片…とかじゃなさそうだな。あいつらの技でもないようだし…」

「…!!あるジ…はナれろ。はやク。」

「どうしたティルダン?あ、おい…いいのか、生き残りが全員集まっているのに!!」

「アルじのいノチ。ユうセん。…がう。」


 冒険者達と同じようにしばらく穴を見つめ続けていたポルダムとティルダンだったが、何かに気付いたティルダンがポルダムを脇に抱えて素早く穴から距離を取った。


「あいつら…離れていくけど?」

「何か知らんがチャンスだ。倒れてる奴を運べ。誰か来てくれ!!」


 敵が離れた今が好機だとリリファが奥で様子を見守っていた連合軍の起きた者達を呼び寄せて周囲に倒れる冒険者や元構成員を運ばせた。幸いにも落ちてきた何かは誰にも当たらなかったらしい。警戒して動きを見せないティルダンと文句を言いながらもティルダンに従うポルダムはその間何もしてこなかったので、なんとか穴の周囲に倒れた者を全員奥へ運べた。


「いててて…おい。戦況は?」「知らんがなんかあそこで固まってる。」「ほんとだ。ティルダンとバカもずっと動かないし…」「私たちも行ってみましょう。」「あ、治癒士。生きてたのか。」「今起きました。」


 それからまったく動かなくなった戦況に何事だと目を覚ました何人かの冒険者や元構成員も何人かやってきたかところで、穴の中から手が伸びてきた。手は穴の縁に手を掛けて力を入れる。どうやら穴を登ってきたらしい。


「いったいなんなんだ…」

「人間…だよね?」

 

 そして空から落ちてきて穴を作った正体は、遂にその姿を見せる。果たしてその正体とは…


「いててて。まさか最後に空を飛ぶことになるとは。落ちた先がミツユースでよかった…それにしてもここは港の倉庫街か?…ん?」


 クロノスだった。


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