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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第39話 ノンギャランティ・クエスト(チカラの秘密を見つけましょう)


「さぁ、お茶が入りましたよ。私でもこのくらいはできるのです。流石はS級冒険者専属担当職員。自分で自分をほめたくなりますね。よっないすぱーふぇくとびゅーりほー。」


 猫亭の留守を預かるヴェラザードは不安な表情を隠そうともしないシスターに、唯一の得意料理だと言わんばかりに自ら淹れた茶を差し出した。


「あ、あの…」

「おや?どうかなさいましたか?神聖教会の戒律では酒や茶等の嗜好品は、身の破滅を招かない程度の範囲であれば許されていたと記憶しておりますが。それとも何かご不満でも?」

「い、いえ…いただきます。」


 何か言いたげなシスターだったが、ヴェラザードの「私の淹れた茶が飲めねえのか?あん?」的な視線に耐えきれずカップを手に取り口を付けた。にじみ出る焦りの感情をごまかすためだろうか。茶をごくごくと飲んでいくシスターを見て、ヴェラザードは温度をぬるめにしておいてよかったと茶を用意した数分前の自分を心の中で褒めちぎった。


 やがてカップの中の茶を全て飲み干したシスターはカップを手元に置いて、意を決したようにヴェラザードを見た。初老ではあるがそれなりの美しい顔立ちのシスターに照れながらもそれを顔に出さないヴェラザードは、負けるものかとシスターを見つめ返してさらに微笑んだ。


「ふぅ。ごちそうさまでした。」

「お口にあったようで安心いたしました。まぁ、クロノスさんが愛用しているとても高い茶葉を使ったので当然と言えば当然ですが。…ああ、来客用に出しているものですので大丈夫ですよ。これでないと彼、口を付けてくれないのです。」

「…セーヌとハンナは無事でしょうか。」


 セーヌの微笑みを無視してシスターが呟く。ハンナとは攫われた少女の名前だと先ほど聞いている。シスターは荒事は何もできないので面倒を見ている子どもたちが心配でしょうがないのだろう。


「心配は無用かと。何せ魅力的な報酬の懸ったクエストとして、実に三十人以上の冒険者が向かったのですから。確かに彼らはセーヌ嬢のB級より下のC級未満の冒険者ばかりですが、冒険者のランクなど実力を測る指標の一つにすぎません。それなりに場数をこなしてきた猛者も数多く居りましたゆえ…おや、いらっしゃいませ。ようこそ猫亭へ。」


 ヴェラザードは話の途中で入ってきた一人の男に来店の歓迎をした。もちろんクロノスが客人を出迎えるときには必ず述べろと念を押してきたあの山ができそうなくらいにダサいフレーズなど使う気にもなれない。それに猫亭はギルドの妨害でクランへの直接のクエストの依頼者は来ないので、この客人もそれ以外の用事だろう。ならば最初から依頼客向けの述べ口上は必要ないのだ。


 入ってきた男に営業スマイルでニコリとほほ笑むヴェラザードだったが、男の顔に見覚えがあったことに気付く。数刻前にヴェラザードからクエストを受けた冒険者の一人だ。男は息を荒げ目からは涙を流し、鼻からは鼻水が垂れてズボンは大洪水とそれはもう酷いありさまであった。そして男の小脇には一人の少女が抱えられていて、ヴェラザードが声を掛けようとすれば奥の方からシスターが駆け寄ってきた。


「ああ…ハンナ!!無事だったのね!!」

「おかあ…シスター!!」


 少女はシスターの姿を見つけ男の脇から脱出すると、シスターに勢いよく抱きついた。シスターはそれを受け止めて少女をがっしりと抱える。ヴェラザードは二人の感動の再開に涙を流すこともなく仕事だとズボンを大洪水にした男に話を聞いた。


「…というわけなんだ。そんで今セーヌ嬢がキレて一人で組の奴らを制裁して、冒険者共は構成員の救助と手当てをしている。多分このままなら俺たちの出番もなく終わりだろ。」

「報告ご苦労様です。しかし人身売買の組織に隷属の首輪ですか…首輪の方もおそらくその組織が用意した物でしょう。ミツユースのみならず世界中でも一応禁止の品と商売をやる輩を取り締まれないとは、警備兵もたかが知れておりますね。さて…」


 報告を聞いたヴェラザードは、冒険者に倉庫に男物の着替えがあるので着替えるよう勧めると、上着を羽織り猫亭を出ようとする。それに気づいたシスターがハンナから一度身を離してヴェラザードに尋ねる。


「ハンナ、ちょっとごめんなさい。ヴェラザードさんはどちらへ行かれるのですか?」

「セイメーケンコーファミリーの若頭とやらを捕えてもらうために警備兵の詰め所へちょっと…いえ、先に冒険者達のいる倉庫街へ向かいましょう。多分ですが嫌な予感がしますので。お二人は留守番をよろしくお願いしますね。誰かがハンナちゃんを取り戻しに来るようでしたら今し方着替えに向かった冒険者に守ってもらってください。それでは。」


 シスターにそう伝えたヴェラザードは、猫亭を出て月明かりの照らすミツユースの夜の街を歩き出した。か弱く若い女性が一人で夜の街を歩くなどあまりお勧めはできないが、あいにく道を急ぐヴェラザードはか弱くもないし若くも…あ、すいません。マジゴメンナサイ。とにかくだ。ヴェラザードを心配する必要はどこにもない。


「まぁ私一人で行ったところで良くないことがあったとしても、私自身には何もできないのですけど、それでも罪の臭いあるところに終止符打ちありですからね。彼が駆けつけた時に暴走しないように頑張ってサポートせねばなりません。勿論、いたらの話ですが。」


 それでも面倒なことに私の勘は良く当たるのだ。その呟きを最後にヴェラザードは時間外の労働だと不満を募らせながら夜の街を歩いていくのだった。






 月明かりに照らされたミツユースの倉庫街。そこでのティルダンとの戦いはまさに地獄だった。


 ティルダンの咆哮の後すぐに彼の近くにいたセーヌが挨拶だと得意の「雷衝突」を見舞ったのだが、ティルダンは少しだけ痺れたように見えただけで全くダメージが無かったのである。セーヌは今まで敵をほぼ全て一撃で倒してきた決して防げぬ自慢の攻撃が効かずありえないと思いながらも、B級冒険者としての一線級の経験から作戦をすぐに切り替え、ティルダンが痺れて動けない一瞬で魔術の詠唱を終えると、彼女は自身が持つ最大級の威力を持つ雷属性の上級魔術「ホワイトアウトサンダー」をティルダンに向けて落とした。雷光で周囲が真っ白に染まるほどの威力を持つその魔術を真っ当に喰らったティルダンは…無事だった。そしてティルダンは最大の力が全く効かずに唖然とするセーヌを巨大な腕で鷲掴みすると、彼女を地面に勢い良く叩きつけた。地面がへこんでひび割れるほどの威力の攻撃を受けたセーヌは口から血を吐き戦闘不能となった。




 セーヌの敗退後、冒険者と元構成員の即席の連合軍が次にとった行動は、数の利を生かした戦闘だった。巨体のティルダン一人に少々卑怯かと思う者もいたが、ティルダンは仮にもB級のセーヌを無傷で倒している。ならば人扱いする気が起きないというものだ。


「おらおらおら!!もたもたすんな!!全員ティルダンを動かすな!!」

「やっている。やっているが…!!」

「こいつ…ダメージが通らねぇ!!どうなってやがる!?」

「冒険者さん方!!後ろの詠唱が終わるみたいだぜ!!」

「じゃマ…アがアアあ!!」

「動くぞ…よし、全員離れろっ!!」


 連合軍のその中の十人ほどが剣や斧、大槌などでティルダンに順番に攻撃を加えて、彼を足止めする。そしてティルダンが手を出そうとしたところで連合軍は一斉に彼から離れ、そこへ後ろの方で魔術を準備していた魔術師が思い思いの魔術を飛ばして攻撃した。


「水の鋭さ…ウォーターエッジ!!」「穿ち貫け…アーススパイク!!」「うらっ、シャドウショットだ!!」「アイスニードル!!」「風と…」「炎の融合!!」「「フレイムウィンド!!」」


 直前まで足止めされていたティルダンは、一斉に放たれた魔術を回避することができず、そのすべてをもろに喰らってしまう。魔術師がそれぞれ得意とする最大威力の一撃。本来なら属性や種類を統一したほうが効率はいいのだが、どういう訳かティルダンに魔術が効かないことはナナミとリリファに介抱される血まみれのセーヌが先ほど身を持って証明している。雷の魔術が効かないのかそれとも魔術そのものが効かないのかはわからぬが、とりあえず思いつく限りの魔術はぶつけてみる価値はあるだろう。なにせあの巨体だ。接近戦は足止めが精いっぱいで無理に飛び込めば、それはテーブルの上に配膳された料理と何ら変わらない。つまり、喰い尽くされ蹂躙されるだけだ。


「…どうだ!?やったか?」


 魔術の衝突により巻き上げられた土煙。先ほどまで足止めをしていた冒険者の一人がティルダンが倒れたか確かめようとそこへ近づく。


「まだ近づくなテッラ!!煙が晴れるのを待て!!」

「平気平気♪あれだけ数の魔術だぜ?たまたまセーヌ嬢の雷属性に耐性があっただけさ。奴を警備兵に引き渡して早く酒を…え?」


 土煙の中を確認した冒険者テッラが、突然驚きの声を上げる。なぜなら未だ晴れることの無い土煙の中から一本の巨大な腕が伸びてきて、テッラをガシリと掴んだからだった。


「マジかよ…!!くそっ離せ…うわっ!!」

「テッラさん!!今助け…うわ!!」


 掴んだ手から外れようともがくテッラだったが、抵抗虚しく土煙の中へ引き込まれてしまう。そして引きずり込まれたテッラを助けようと土煙に近づいた元構成員の一人も、テッラと同じように伸びた腕に捕まり引き込まれてしまった。


 土煙の中のティルダンは、そして引きずり込まれた二人はどうなったのか。気になってしかたのない連合軍だが、その答えはすぐにわかった。土煙の中からテッラと元構成員の二人が飛び出してきたからだった。気絶し、砲弾のように投げ飛ばされて。


「ぐあっ!!」「キャア!!」


 投げ飛ばされた二人は後衛に控える魔術師二名に激突した。魔術師は突然飛んできた人間を避けきれずに派手にぶつかり弾き飛ばされた。そして倒れたまま動かない四人。死んではいないだろうが、戦線復帰は絶望的だろう。


「あいつ…人を砲弾みてぇに。しかも二人一辺にまとめて…ウッ!?」


 元構成員の足止め役の一人は、二人が投げ飛ばされたことによる風圧で吹き飛ばされた土煙の中に、まったくダメージを受けた様子の無いティルダンを見つけた。そして彼もティルダンに捕まり先ほどの二人と同じように魔術師を倒すための弾になった。そして似たような展開を続け、倒れて転がる連合軍が三十を超えて数えるのが面倒になったところで、生き残りの連合軍は作戦を見直した。







 次に狙った作戦はティルダンの目を潰して彼の動きを封じようというものだった。この作戦は体が大きく力強いオークやオーガといったモンスターにも有効な作戦なので、巨体のティルダンにも効くと考えた。

 

「チェルシー!!奴の目を狙うぞ!!「一点突き(セントラル・ストライク)」の技だ!!お前は右目を狙え!!」

「…うん!!」

「しょうがねぇ。手伝ってやる!!生き残ったら高級酒十杯だかんな!!お前らも来い!!」

「「「おう!!」」」


 射手アーチャーの男の冒険者がチェルシーに声を掛けてティルダンの目に標準を合わせる。援護すると言った戦士の男と彼に誘われた冒険者や元構成員達がティルダンに挑み、最初に立ち向かった男が自慢の大斧とともに握り潰された。そしてティルダンが男を投げ捨て動きが止まったところを狙って、二人は同時に「一点突き(セントラル・ストライク)」の技でティルダンの両目をそれぞれ狙う。しかし…


「あガ…?ふん。」

「うそ…」「なんだあいつ!?」


 その光景に矢を放った二人の射手は驚いた。否、驚く事しかできなかった。ティルダンは打ち出された矢の軌道を目で追った後、目に刺さる寸前で瞼を閉じたのだ。それだけなら問題なく貫通するはずが、二本の弓は彼の瞼に当たった後弾き返されてしまった。「一点突き(セントラル・ストライク)」は射手アーチャーが持つ技で、集中力と高速の矢速で狙った標的に確実に当てることができるハズなのだが、それを防ぐとは一体ティルダンの体のつくりはどうなっているのか。どれだけの動体視力と硬い瞼を持っているのだろうか。二人の射手アーチャーはティルダンに恐れを抱き、次の攻撃を撃つことができなかった。


「化け物かよ…!!」

「…危ない!!」


 呆然とするチェルシーと射手の男は誰かの叫び声が聞こえたその瞬間。自分たちの視界が真っ赤に染まったことに気付いた。それが高速でこちらの懐に飛び込んできた血まみれのティルダンの腕であったことに気付いた時には、その勢いで繰り出されたティルダンのラリアットをもろに受けていた。


「グハッ…!!」「ああっ!!」


 ティルダンのラリアットを受けて吹き飛ばされた二人。射手の男はその勢いで隣の倉庫の壁を貫通して崩れ落ちた壁の瓦礫と倒れてきた倉庫の中の木箱に埋まった。


「…あれ?いたくない…?…!!」

 そしてチェルシーは、瓦礫が散乱する地面を転がり、回転が止まったところでダメージを確認しようとしたが、そこで自分が殆ど怪我をしていないことに気付いた。そして自分を抱きかかえる存在に気付く。


「…お姉ちゃん!!」

「まったく、困った妹ね。ゲホッ…!!」


 チェルシーが吹き飛ばされた直後、警告の声の主であったジェニファーがチェルシーの背後に回って彼女を受け止めて一緒に転がった。そしてジェニファーがダメージを肩代わりしたため、チェルシーには殆どダメージが無かったのだ。


「後衛職が前に出ちゃダメじゃない…!!」

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!!足が…!!」


 苦しげな表情を浮かべる姉をチェルシーは心配した。彼女はチェルシーのダメージを肩代わりしたことで転がりながら瓦礫にその身を削られ続けたのだ。見れば足からはおびただしい出血をしており、肉は青黒く染まっていた。おそらくチェルシーを抱えて転がるどこかで尖った瓦礫の破片が刺さったのだろう。刺さった破片は過程でどこかへ行ったようだが、むしろそのせいで傷の穴を塞ぐものが無くなってしまい、ジェニファーの足からは出血が止まらなかった。


治癒士ヒーラーの人…誰か…!!」


 チェルシーが治癒士に助けを請うが、それは叶わなかった。なぜなら冒険者の中にいた五人の治癒士は、そのうち二人が最初の作戦でティルダンが投げつけた瓦礫を喰らって既に倒れており、何とか動けた三人もジェニファーよりも深刻なダメージの冒険者や元組員に係きりだったためである。


「私は大丈夫…戦闘不能っぽいけどね。ジャカートは平気!?」


 ジェニファーが崩れた倉庫の壁に向かって叫ぶと、瓦礫の山の中から一本の腕が飛び出してサムズアップして見せた。どうやら死んではいないようだが、それでも起き上がれないと言うことは戦闘不能と言う意味だろう。


「ちょっと待ってて!!すぐ手の空いた治癒士を呼んでくる!!」


 チェルシーは自分のできる精一杯の応急手当でジェニファーの足の傷を止血すると、苦しむ姉にその場に寝かせ、戦線の前方へと駆けて行った。


「あ、ちょっと…!!まったく、後衛が前に出るなっての。それにしてもあと動けるのは何人いるかしら?これはちょっと…キツイわね。」


 ジェニファーはそう呟いて周囲を見渡した。そこにはジェニファーのように怪我を負って動けなくなったり、既に気を失っている者でいっぱいだ。その数から連合軍はおそらくほぼ壊滅しているのだと予測するジェニファーだった。






「うがァああ!!」

「まずい!!こっちに…!!」

「うおら!!させるかよ!!」


 瀕死の元組員を必死に治療する治癒士に向かって、ティルダンは瓦礫の塊を投げつけた。それを大盾を持った冒険者が必死に防ぐ。ティルダンは連合軍と戦ううちに、傷も負わせられない目の前の前衛よりも時々身動きの取れなくなる魔術を使ってきたり、倒れた者の傷を癒す治癒士から片付けた方が良いと気づいたようだった。両の手に持てるだけの瓦礫を抱えると、気を逸らせようと攻撃する前衛を無視して後衛に向かって投げつける。


「くそっ。これしき…!!」


 ティルダンが次々と投げる瓦礫の塊を何とか受け続ける男だったが、瓦礫を受け止め続けた盾にはヒビが入っていた。


「危ないぞギヴン!!あいつ瓦礫を投げながらこっちに近づいてきている!!」

「なんだと…!?ぐあ…!!」

「うわぁ!!」


 ギヴンと呼ばれた大盾の冒険者と治癒士は、いつのまにかすぐ目の前に近づいていたティルダンに治癒士の男ごと二人まとめて吹き飛ばされてしまった。そして二人は瓦礫の塊に叩きつけられて戦闘不能になった。




「まずいよ…もう殆ど立てる人残ってないよ。あっ、また一人やられた。…多分生きてる。」

「やはり私たちも出よう。少しくらいなら足止めに…!!」

「だから、出ちゃダメッスよ!!仮に足止めできたところで、奴にダメージを与える方法が何もないんだからな…」



 未だ疲れすら見せず連合軍を蹂躙し続けるティルダンを遠く離れた場所から見ていたのはナナミとリリファ。そして一緒にセーヌを運んだダンツだった。セーヌが目を覚まさないことに心配して付きっ切りで手当てをしていた結果。戦線に出遅れてしまったのである。気づいた時には既に連合軍は殆ど倒れており、もはや自分たちが駆けつけたところで数には入らないだろうとダンツに止められてしまったのだ。


「ならもう逃げた方がいいんじゃないの?これだけ派手にドンパチしたんだから、警備兵も駆けつけるはずよ!!」

「いや…それは止めた方がいいッス。ティルダンの目をじっくり見てみな。」


 ダンツにそう言われてナナミは新たな元構成員の男を頭突きで倒していたティルダンを見た。ティルダンは戦う傍らで、近くに転がっている倒れて動けない冒険者や元構成員を見ていたのだ。というより、そっちを見てる時間が圧倒的に長い。よそ見にしては少々異常だ。


「ティルダンの奴。わざと瀕死で転がしてるんだ。後で殺しを楽しめるように。もし俺らが逃げれば、あいつらは皆殺しだ。ヴェラザード嬢から受けたクエストである手前、死んだら死んだで自己責任だが、それでも倒れる仲間や堅気に戻りたい民間人を生きているうちに見捨てるわけにゃいかないッス。まだ誰も逃げていないならなおさらだ。」

「え…まさか…そんなことないでしょ…?」

「俺だって信じたくはないッス。しかしアレを最初に見てしまうとな…」


 ダンツはまた一人また一人と戦闘不能になっていく仲間を見て悔しがりながらも、ティルダンから視線を外そうとしない。というより、彼の着込む赤のシャツから目を逸らしていないようだった。


「あいつの着ている服…俺はてっきり最初から赤色のシャツだと思っていたッス。…でも違ったんだ。なんなんだアイツ…今ならアイツがオークとオーガの合いの子だって言われても信じるッスよ。」


 ティルダンが赤いシャツを着ていると思ったダンツだったが、連合軍がティルダンに挑んでいる隙にセーヌを運び出すために奴の近くまで寄った際、衣服から赤い液体がぽたりと落ちたのを見逃していなかった。ダンツはそれを見て最初はティルダンの汗かよだれが垂れてシャツの赤い染料を落としたのだと、そう思った。しかしそれは勘違いであったことに気付く。


「あれ…あのシャツ。全部血の染みなんだ。血が滴るってことはまだ乾いていない…ここへ来るまでにどれだけ殺ったッスか…!?ありゃただの快楽殺人者ッス!!あんなの相手にしたことねぇよ…!!ああ、おしっこちびりそう。もう帰っていいッスか?」


 身震いしてティルダンを恐れるダンツだったが、そこで袖を誰かに惹かれるのに気が付いた。ダンツは最初ナナミかリリファだと思ったのだが、二人は目の前でセーヌに付きっ切りだ。では誰がと振り向けば、そこにいたのは幼い冒険者チェルシーだった。


「チェルシー。無事だったッスね。ジェニファーは…やられたか。」


 普段常に一緒にいる姉がいないことに気付いてダンツは察した。だが離れたということはきっと彼女を治療してもらうために治癒士を探しに駆け回っていたのだろう。


「悪いが治癒士は既に五人中三人やられたッス。残り二人もどこへ行ったか…瓦礫に埋まったか他の人間の下敷きになったか。多分死んではないだろうし、二人とも途中で投げ出して帰るような根性なしでないのは俺が保証するッス。…え、違う?」 


 治癒士の居場所を知らないと言う形で答えるダンツだったが、首を横に何度も降って袖を握り続けるチェルシーは、違うものを求めているのだと言うことに気付いた。


「なら何のようッスか。こいつジェニファー以外とはとたんに口下手になるからわからん。言いたいことがあるなら、そのカワイイお口でちゃんと喋るッス。」

「…来る。」

「来る?何がッスか?」

「同じモノ…同じ気配…」

「逃げれば仲間を殺される。戦えば犠牲者が増えるばかり…こんなのどうやって倒せと言うんだ?…ん?」


 問答を続けるダンツとチェルシーから少し前に出たところでティルダンを観察し、遠距離からナイフ投げや瓦礫で作った即興のトラップでティルダンの動きを妨害するかと考えるリリファだったが、そんなものお構いなしに進むティルダンは進むだろうと考え、実行を諦めた。どうすればと悩むリリファだったが、ふと足元を見れば紅い光がスカートの下から漏れているのに気付く。その光にチェルシーと問答をするダンツとナナミも気付いたようだった。


「どうしたッスか?リリファちゃん。もしかして今までおトイレ我慢していたとか…?」

「違うわ!!どこをどう見たらそう見えるんだ!?」

「え…!?だってこの間童貞を卒業した勝ち組の冒険者が、女はトイレを我慢できないと股間が紅く輝くって…」

「それ嘘だから!!さてはお前童貞だな!?」

「ちちちちちちげ―し!!どどどどど童貞じゃないッスよ?」

「もうお前が童貞とか処女とかどうでもいいが…ん?えっ!?ちょ、なんだ!?何がスカートの下でブルブル震えて…!!」

「リリファちゃんまさか…真面目な戦いでそれはちょっと…」

「違うわ!!お前が何を考えたか知らんが絶対そうじゃない!!震えるのは…これか!!」


 顔を赤くしたリリファが自分のスカートの中をまさぐれば、太ももに着けていたナイフホルダーに収まった短剣の一本が大きく震えていたのである。そしてそれを取り出すと刃を隠す鞘の隙間から紅い光が漏れ出ていた。その短剣はリリファが受け継いだフーリャンセ家の秘宝…一度は砕かれ短剣として蘇った宝剣イノセンティウスだった。その光景に見ていたナナミは喜んだ。


「リリファちゃん!!イノセンティウスが解放条件を満たしたんだよ!!なんでか知らないけど!!とにかく、宝剣ならティルダンとも渡り合えるんじゃない?」

「え?宝剣…?このちっこい短剣が宝剣ッスか?うーそだー。仮にそれが宝剣だったとしてもなんでランクなしのルーキー冒険者のリリファちゃんがそんな伝説の剣持ってるッスか?」

「それは後で話す。それとナナミ。これはイノセンティウスが力を出しているわけではないと思う。前はもっと紅く輝いていた。…なんだ?…イノセンティウスが…話しかけて…」


 何かを感じ取ったリリファは鞘からイノセンティウスを引き抜いた。そして紅い光を放つ宝剣は切っ先にその光を集中させたかと思うと、その光の塊をティルダンへ…正確には彼の血まみれの右腕にぶつけたのだった。


「…う?ウがあああああ!!」


 紅い光の塊を右腕に受けたティルダンは突然苦しみだして右腕を抑えた。そして彼が右腕を突然天へ掲げたかと思うと、その肌が裂けて真っ赤な血肉が露出した。


「やった!!ティルダンの奴が初めて苦しんだぞ!!それがその剣の攻撃ッスか?」

「いや…あれは…」

「うわ…肉が見えちゃってる。一年前の私なら即ばたんきゅーだわ。グロ…ってあれ?ティルダンの腕に何かあるよ!!」


 ティルダンの腕をドン引きしながら見つめるナナミだったが、彼の皮膚の裂けた巨大な腕の中にあるものを見つけた。それは彼の突然の挙動を見守っていた他の冒険者にも見えていたようで、彼らもティルダンから距離を取って見つめていた。ティルダンの腕の中にあったのは…


「あれって…剣…だよね…?」


 腕の中あったのは一本の剣だった。剣は鞘には収まっておらず刃はむき出しで、あんなものが腕の中にあったらものすごく痛いんじゃないかなーと思うナナミだった。


「イノセンティウス…?何を言って…仲間?アレは宝剣なのか…」

「んおおおお!?アレは!!」


 一人で呟くリリファは、ナナミ達と同じようにティルダンの腕に収まる剣を見た。そして後方から叫び声が聞こえ、何かと振り返ればそこには気絶から復活したドワーフの冒険者の姿があった。


「どこかで見たことがあるかと思ったら…アレはわが国の国宝「宝剣イワオトコ」ではないか!?どうしてそれが奴の腕の中に!?」


 ティルダンの腕にめり込む剣を見ていた冒険者の一人、大槌を担ぐドワーフの戦士が大声を上げた。


「バレルのじっちゃん。アレを知ってるッスか!?」

「誰がジジイじゃ!!わしゃまだピチピチの60歳じゃ!!」

「還暦じゃねぇか!!それよりもあの剣…宝剣だって!?」

「そうじゃそうじゃ。あれは我がドワーフの国の国宝じゃ。何十年も昔に「ほうけんこれくたあ」とかいう極悪人に盗み出されて以来、ずっと行方不明だった物じゃ。それがなぜ奴の手に…手と言うか腕の中に…」


 ドワーフの冒険者の言葉でリリファは思い出した。少し前に自分の持つ宝剣イノセンティウスを狙ってクロノスと一戦交えて死んだ腐れ縁の浮浪児仲間の事を…


「(そういえば奴は何本も宝剣を所有しているとか言っていた。宝剣は意思を持つ…きっとそれが奴の死後新たな持ち主を探したんだ。それでミツユースのどこかに隠されていたあの剣をティルダンが偶然見つけて…いや、宝剣の方から会いに来たのか?とにかく奴に適合したってことか!!なら奴の異常な耐久性は宝剣の特殊能力ちからか!?)」

「じいさん。そのイワオトコ…だっけ?それの持ち主は具体的にどういった恩恵を受けるスッか?」

「宝剣には適合者と呼ばれる宝剣に認められた人間だけに引き出せる特殊能力ちからがある。イワオトコの場合は…理性と知性を引き換えに得る圧倒的な硬さの肉体と驚異的な魔術耐性!!儂ら冒険者が例え何百人で挑んでも無駄と思えるくらいのな!!」

「なーる。それで魔術を何十発喰らってもピンピンしていたわけッスか。宝剣絡みのクエストってA級以上の超優秀な冒険者でも相当てこずるらしいし、宝剣の持ち主との直接の戦闘となりゃあ、そりゃB級のセーヌ嬢でも勝てないわな。最初からわかっていれば無駄な犠牲を出さずに対策打てたものを…」

「こりゃわし等の出る幕ではもはやないのかもしれんな。ヴェラザード嬢の所へ行きクロノス殿にどうにかしてもらおう。」

「倒れる奴らがこんなに出る前ならとっととトンズラが正解だったッスけどね。ただこれだけティルダンの野郎に殺され待ちストック状態にされると逃げることは…」

「ダンツさん大変!!」


 ドワーフの冒険者バレルにどうしようもないと告げるダンツだったが、ナナミの叫びに気付いてそちらを見た。そこには倒れたまま意識を取り戻さないセーヌがいたはずだが、いたのはダンツを呼んだナナミと、雷撃で作った即席の牢屋の様なものに閉じ込められるリリファしかいなかった。


「なにごとッスかそれ!!…いや、だいたい予想はできるが、答え合わせに教えてほしいッス。」

「セーヌさんが起きて自分にヒールを掛けたと思ったら、ティルダンの方へ向かったの!!リリファちゃんが止めようとしたらセーヌさんが作ったアレに閉じ込められて…ビリビリするから触れないし、壊せないの!!」


 それを聞いたダンツはすぐに察した。セーヌは子どもたちのために自ら奴隷になろうとした優しき女性だ。これだけの惨状を止めようとするならば、自分の身を投げうつくらいは平気でする。


「セーヌ嬢のオバカ!!もはやB級冒険者ではどうにもならんッスよ!!」

「待って…!!」


 呆れて叫びながらもナナミ達の方へ向かうダンツだった。話の聞き手を逃がすまいとチェルシーも一緒に走っていくのだった。



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