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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第37話 ノンギャランティ・クエスト(一網打尽にしましょう)

 倉庫の中にいた三人の侵入者。彼らに気付いたポルダムとセーヌは驚き叫ぶ。


「なっ…!!おいセーヌ!!警備兵は呼ぶなと言ったが当然冒険者もだ!!一人で来いと言っただろうが!!」

「いえ、私は何も…!!」


 契約書を奪った冒険者達を指さしてセーヌへ激昂の声を上げるポルダムだったが、それはセーヌも同じだった。何故彼らがここにいるのだろうか…


「あの、皆さんどうしてここに…?それよりもその契約書は大切な物なんです!!返してください!!」

「もちろんセーヌさんを助けにだよ。実はここで何をしていたか最初から外で聞いていたの!!倉庫がおっきい癖に意外とやっすい作りで、レ〇〇レ〇並に外に声が響いてたから内容もバッチリ!!それで倉庫の外から聞いていた時にセーヌさんが契約しようとしたもんだから、あわてて入り口に走ったけど間に合ってよかった。あいつらの奴隷になったら、どんなことされるかわかったもんじゃないよ!?エロ同人みたいなことになるよきっと!!」

「はい?「えろどーじん」が何のことかわかりませんが、あなたたちに何を言われようともこれは私の問題です。家族を助けるためなので放っておいてください!!」


 止めるナナミの言葉を聞こうともせずあくまで家族のためだと主張するセーヌ。倉庫両端からぎゃいぎゃい言い合っていたのでそれを聞いていたポルダムはだんだんと苛立っていた。


「さっきからうるせぇんだよ!!セーヌ、契約書なら俺たちが取り戻してやるからまずは俺の奴隷になれ。ほらよ首輪だ!!お前ら、冒険者共から契約書を取り返せ!!」

「し、しかしポルダムさん。もし契約書になにかあったら、ポルダムさんや傷つけた俺たちにどんな天罰が下るか…それに冒険者とはいえうち二人は女の子ですぜ?」


 大声で手下に命令するポルダムだったが、手下たちは傷つけば天罰が下ると言われている女神の契約書を傷つけることと少女に暴力を加えることに遠慮しているようだった。


「知るか!!契約書なら大丈夫だ!!いいからさっさとやれ!!それともこの俺様に逆らうのか…!?」

「いえっ!!そういうわけでは…了解しました!!お前ら、武器を出せ。冒険者を倒すぞ!!」

「「「「「りょ、了解!!」」」」」


 手下たちは渋々といった様子で剣を抜いてナナミ達に向かっていった。セーヌもポルダムから隷属の首輪を受け取り、不本意ながらも仕方なしとばかりに首へ近づける。


「…致し方ありません。」

「あっセーヌさん待って…!!」

「構えろナナミ!!来るぞ!!」

「でもセーヌさんが…!!こうなったら…お願い二人とも!!」

「「…まかせて!!」」

「これで…きゃあ!!」


 隷属の首輪を首にはめようとしたセーヌだったが、そこで何かによって首輪が手から弾き飛ばされた。何事かと足元に落ちた攻撃の主を見れば、そこにあったのは矢尻を削って貫通しないように弱体化させられた一本の矢だった。


「一発必中。チェルシー、いつも通りナイスな「ストライク・ショット」よ。」「…うん。」「さぁ今度は足元にいるおっさん達にくれてあげなさい。」「わかった。」


 矢を放ったのは倉庫の壁伝いにある足場に隠れていた射手アーチャーの冒険者チェルシーだった。彼女は姉のジェニファーの指示で弓に新たな矢をつがえて魔力を込めると、それをナナミ達へ向かって走っていく組の構成員へ放った。勢いよく放たれた矢は空中で複数に分裂して構成員の頭上に降り注ぐ。射手アーチャーの技「レインショット」だ。


「上にも二人いるぞ!!」「ぐわ!!」「いでででで!!」


 セーヌへの妨害で頭上の冒険者の存在に気付く構成員だったが、時既に遅く矢を受けてしまった。しかし矢は構成員の体を貫通することなく、当たった物から消えていった。レインショットで生み出された矢は使用者の魔力のエネルギー体にすぎないので、標的に当たるか地面に落ちると消えてしまうためだ。それでも威力は結構な物で普段モンスター相手に浴びせる冒険者の術技と言うこともあり、矢を受けた構成員の半分はダメージで気絶した。しばらくは起き上がれないだろう。


「死なない程度に手加減はした。優しさ。女の器量。」

「その通りよチェルシー。さぁ、どんどん打ちなさい。…次はそっち!!」


 ジェニファーはチェルシーに指示を続けて矢を撃たせ続けた。構成員の中の賢い者はチェルシーに向けて拾った石を投げつけたが、彼女たちのいた高いところにある足場には殆ど届かず、かろうじて届いた石もジェニファーの剣撃で打ち返されて投げた者の頭にぶつかった。


「ありがとう二人とも!!さぁ、死なない程度なら私だって人に魔術当てられるんだから覚悟なさい!!リリファちゃんとダンツさん。ちょっと集中がいるから支援お願いね。」

「わかった。」「ちょっと待つッス。この契約書…」

「あの魔術師、魔術を使うつもりだぞ!!止めろ!!」


 奪った契約書を見て頭をひねるダンツを置いてリリファが駆け出した。それからナナミが目を閉じて魔術の詠唱を始めると、彼女の持つ短杖と足元がオレンジ色の魔力の光で照らされる。どうやらナナミは火属性の魔術を使うつもりらしい。それを見た構成員の内の四人が魔術を阻止するために、頭上からの矢の嵐に怯むことなくナナミの方へ向かっていった。


「阻止などさせるか!!私が相手だ!!」

「四人も相手にするつもりか!?ガキに何ができる!!」


 前に飛び出した少女を先走っていた構成員の一人が遠慮なく斬りつける。リリファはその攻撃を小柄な体でうまく躱してその構成員の空いた懐に潜り込み、短剣の柄で鳩尾目掛けて打ち込んだ!!


「喰らえッ、「大柄渾撃おおつかこんげき」!!」

「ぐえっ…!!」

「悪いな。モンスターとの戦いよりもむしろこっちが得意なんだ。剣士以外でも使えると聞いてダンジョンでクロノスに教わっておいてよかった。」

「そこだっ!!」「油断したな!!」「苦しめ!!」


 苦しんで倒れる構成員を見下して得意げになるリリファに、追いついた他の構成員三人が同時に横に斬りかかる。それを見たリリファは遅いぞ、と一言だけ呟いてからその場にしゃがみ込んで三本の剣の軌跡を躱す。そしてもう一度と振りかぶる三人の構成員に魔術の大きな火柱が襲った。火柱は龍のように身をくねらせて三人の構成員を一人残らず飲み込む。


「ぐわぁ!!」「熱い!!」「グッ…!!」


 火柱に飲み込まれて体中火ダルマになった構成員たちは、床にゴロゴロと転がって火を消そうと試みたが、火は中々消えずモタモタしていたところにリリファが峰打ちをして倒した。構成員達が気を失うと、彼らを包んでいた火は瞬く間に消えてしまった。


「遅いぞナナミ。ゴブリンの時はもっと早かっただろう?」

「今のは中級魔術の「フレイムドラゴン」よ!!そりゃ時間かかるって。」

「そういやナナミは中級魔術も使えたか。今度ダンジョンに挑戦したらクロノスと相談してその辺の連携も確認したいな。さて…」


 ナナミとリリファが周囲を確認すると、その他の構成員は全て倒れていた。見ればいつの間にか下に降りてきたジェニファーが腰の鞘に剣を仕舞い込んでおり、どうやら残った構成員も全て彼女が倒してしまったらしい。構成員達に大きな出血もないことから、彼女も手加減して全て峰打ちを決めてくれたようだった。それを確認したチェルシーも下へと降りて姉の元へ向かう。


「はぁ…峰打ちって結構大変なのよ?向こうは殺す気で来てるのに、こっちは手を抜けだなんて面倒くさいこと。私とチェルシーの報酬は猫亭への宿泊で払ってね?」

「問題ない。どうせ部屋はいくらでも余ってるからな。さて、全員倒したが…」


 これで自分たちに向かってきた構成員はすべて倒したぞと、リリファは奥のポルダムを見た。遠目に見ても額にいくつもの青筋を作っており、不測の事態に怒りを覚えているように思えた。


「お前ら…せっかくのチャンスをよくも…!!今憂さ晴らししてやるぜ!!出てこいお前ら!!」


 ポルダムが吐き捨てるように叫ぶと、倉庫の中に置かれていた木箱や布の影や中から何十人もの構成員が次々と飛び出してきた。どうやら念のためにと大量の構成員を隠していたらしい。大きな船がいくつもそのまま仕舞えてしまえるくらい広い倉庫だったために構成員で埋め尽くされることはなかったが、それでもスーツ姿の男たちで一杯になる光景は異様だった。構成員は若い男から初老の男まで揃っていたが、それを見たナナミはどこの極道の集まりかな?と思った。


「おらどうだ!!ウチの全組員二百六人だぜ!?それをたった五人でどうするつもりだ。謝るなら今の内だが?ま、謝ったって許さないがな。」


 構成員たちに冒険者を取り囲ませて愉悦するポルダムだった。というかこれだけの大人数。いったいどんな不測の事態を予想していたのだろうか?もしかして手下に威信を見せるためにわざわざ全員連れてきたのだろうか?見れば構成員の何人かは嫌々やっているというような顔をしており、こいつ若頭じゃなくて実はバカ頭なんじゃね?そう思うナナミだった。


「セーヌがもしも契約を断ったら、こいつらで「教育」して無理やり契約させるつもりだったんだよ!!いくら強い冒険者だからって、こんな数相手にできるか?できないだろう!!ウワッハッハッハ!!」

「あくまで私を信用しないとは…なんと疑り深い…」

 

 ゲラゲラと笑うポルダムの近くで肩を震わせるセーヌだった。


「くくく…怖いだろう?これだけの筋者に囲まれるってのは。人生でも中々ない経験だと思うぜ。泣くなら今のうち…え?」


 笑いながら冒険者の絶望に染まる顔色を見て楽しもうとしたポルダムだったが、それは果たせなかった。何故なら多数の男に取り囲まれていたナナミとリリファ。それにいまだ契約書とにらめっこするダンツといつのまにか三人のそばにいたジェニファーとチェルシーは、誰一人として焦る様子も見せないでいたからだ。


「…ここまで三流台詞吐かれると一周回ってむしろ勝ちフラグに思えるけど、それでも負けるわけにはいかないかな。あ、一周回ったならまた元の負けフラグか。」

「同感。さっさとセーヌを助けるぞ。数だけ集めたからってなんになるというんだ。」

「…ちょっと、セーヌとかいう女を初めて見たけど、何あのおっぱい!!私の4倍…いや5倍はあるわね。助けたら揉ませなさいよ。デカパイを揉むと巨乳菌が感染うつるって聞いたわよ!!これで下着屋で他の客から隠すようにAAAの下着を買う生活とはオサラバね!!」

「…お姉ちゃんまた変な噂信じてる…それに0を何倍にしたって0のまま。」

「あっれ~?やっぱりコレ…」


 焦るどころか各々好き勝手な冒険者達に、ポルダムは更に青筋を増やして怒った。


「クソが!!お前ら女子供もいるからって容赦するな!!ボコボコにすれば泣き出すはずだ!!」


 ポルダムの叫びに気付いたナナミとリリファは、そろそろいいかとお互いを見て頷いた。


「そうだな。流石に五人でこれだけの人数はきついからそろそろ援軍を呼ぶか。」

「というわけで…みなさーん、お願いします!!」


 ナナミの合図の声を上げると、四角い倉庫の四方の壁が一斉に吹き飛んだ。…そして倉庫は壁を失いガラガラと音を立てて崩れてしまった。



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