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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
33/163

第33話 ノンギャランティ・クエスト(一緒にクエストをやりましょう)

」――――――その頃のクロノス―――――――――――――


「まてやゴルアアアアア!!」


 昼食をとっくに終えたであろう昼下りのミツユースの通りを疾走するのは冒険者クラン猫の手も借り亭、通称猫亭のクランリーダーのクロノスだった。その速度は非常に速く突風と見間違うほどで、街をゆく人たちはクロノスの姿が認識できなかったので…


「きゃあ!!なに…竜巻!?」「聞いたことがある。風の強い日に小さい竜巻が偶然街中でできることがあるって!!」「おい本屋。お前やけに詳しいな。」「新入荷の天候大全。銀貨4枚のセールス中だよ!!」「商売上手なやつ…」「おいやべぇぞ、こっちに来る!!」「年寄りや子どもは建物の中へ逃げろ!!」「けが人はいるか!?」「けがはないけどパン屋の姉ちゃんたちのスカートが煽られてパンツみ放題だ!!ヒャッホウ!!」「男共は見るな!!下衆が!!」「グエッ…!!」「やべえ…元女子格闘家の店長だ!!逃げないとパンツ見放題どころかボコボコにされた挙句に今の風で落ちたパンを残らず買わされるぞ!!」「逃がすか…!!これが本当のパン積み放題ってなぁ!!」「上手いこと言ったつもりか!?」


 やいのやいのと騒ぐ街の住人達。この原因が冒険者にあるのならおそらく彼等は「なんだ冒険者か。ツマンネ。」などと退屈な昼下りを送るのだろうが、騒動の原因のクロノスは速すぎて街の住人には認識できないのでこれは自然現象だと信じてしまっている。ミツユースの住人はいつだって忙しい。が、目の前の自然災害を容認できるほど器は大きくない。


「やっべ、後で謝らないと…でも今は、宝剣の方が大事だ…!!」


 覆せぬ優先順位があると心の中で謝罪をして、クロノスは走った。そしてクロノスの前を同じく超高速で疾走する橙赤色の一本の剣。…と、それを握ったまま気絶して白目をむくその持ち主。紛れもなくクロノスが追い求める宝剣の一本であり、それを握っているといことから見ても彼が宝剣の適合者であることは間違いないだろう。



 猫亭にいた冒険者バカで憂さ晴らしして晴れやかな気分になったクロノスは、夜中にしか見つけられないという何とも面倒な条件の宝剣をいくつか手に入れることに成功した。そして新たな宝剣を求め、朝からミツユースの街中を文字通り飛び回っていたクロノスが見つけたのは、市民公園に置かれたミツユースの初代市長のブロンズ像…の右手に握られた一本の宝剣だった。宝剣は鞘も柄も銅と同じ橙赤色で、まさかと思い暗号の解読された紙切れを読めば、グランティダスがミツユースを訪れた際、こっそり像の剣と入れ替えた物だということがわかった。


「宝剣は全身が橙赤色…確かに初代市長をどれだけ崇めた所で彼が持ってる剣が変わったことに気付ける人間はおそらくいないだろう。つーか俺もミツユースで暮らし始めてから毎週見てたぞ!?やけに変わった剣を持ってたんだなーとか、初代市長のセンス最悪だなーとか思ってたのに…そりゃだれも宝剣だなんて思わないか。それよりも…」


 うかつだったとクロノスは少し前の自分に叱りを入れる。銅像から宝剣を取ろうとしたクロノスだったが、銅像によじ登ろうとしたところでたまたま巡回中だった警備兵に呼び止められた。クロノスが何者か知らない警備兵に初代市長のありがたい像だからぞんざいにするなと説教を入れられる中、ふとクロノスが銅像を見ればそこには宝剣を手に取る一人の男がいたのだ。ミツユースの住人とは思えない奇怪な服装で、クロノスはその男の正体にすぐ気づけた。


「宝剣を狙う輩の一人…こんだけ派手に回収してりゃ嫌でも目立つ。きっと俺が宝剣の場所を知っている人間だと気づいて、こっそりと後をつけていたんだ。普段ならこんな安い尾行簡単に気付けるのに…」


 派手に宝剣を探していたさっきまでの自分達に「バカ!!アホ!!オマヌケ!!」などと品の無い呪詛の言葉を吐いたクロノス。そして疾走を続けながらも宝剣の詳細が書かれた手帳を捲ろうとして、その時あやうくアイスを持った少女とぶつかりそうになったが、身をよじって何とか回避した。


「あの宝剣…見た目も特徴もどこにも書かれていない…あの謎の疾風は何なのか、どこの国のどういう名前の宝剣なのか…遂に「アタリ」を見つけたか…!!」


 逃がすものかと宝剣とついでにそれを持つ男を、全力疾走で追うクロノス。少しずつだが距離は確実に縮まっていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「騒がしいな…何事だ?」

「なんかね。竜巻があったらしいよ。けが人はいないけど通りに置いておいた商品がひっくり返って大変だったんだって。怖いね~。」

「けが人はいない?じゃああそこで大量のパンを抱えて気絶する顔中あざだらけの男たちは何なんだ?」

「さぁ?」


 リリファの問いに知らないと答えて歩みを進めるナナミ。リリファも興味を無くしてナナミの隣を歩く。二人が訪れたのは、ミツユースの通りの一つである商店街が立ち並ぶ通りだ。ギルドで受けたクエストの実施地がここに指定されていたので、面倒だと思いながらもわざわざ歩いてきたのだった。


「いやー、セーヌさんの所から意外と距離あったね。これなら街中を走る公営馬車に乗ったほうが早かったんじゃない?そんなに高くないし。」

「わずかとはいえ経費は節約せねばな。それに、「こいつ」も金を浮かせるなら構わないとさ。」

「でもでも、目的地に早く着けばその分多くの依頼を受けられるよ?単位時間当たりの報酬量も多くなるよ?なら馬車に乗ったほうがお得じゃん?」

「そういう難しい話を浮浪児上がりのガキにしてくれるな。だいたいお前はそんなのをどこで習ったんだ。二人きりで暮らしていた師匠何者だよ。」


 金は大事だ時は金なりだと言い合いながら連れだって歩く二人の冒険者。そして冒険者の影は二人の後ろにもう一人…


「あの、待ってください。困ります。」


 もう一人の正体はクエスト恐怖症の治癒士、セーヌだった。彼女の今日の服装は施設から無理やり連れだしたので修道服のままで、働く以外で普段は出かけるときは修道服から普通の装いに着替えるから新鮮だと、街を歩くセーヌと顔見知りの男共が思わず目移りする。修道服はぴっちりして彼女の大きな胸や引き締まった腰のラインがしっかりと見えたので、男たちは見惚れるあまり壁に激突したり水路に落ちたりしていた。しかしいずれの男たちも幸せそうな顔だった。


「まだ午後からも預かっている子供たちの面倒を見なくてはなりませんし、それに孤児の子どもたちの夕食の準備だって…」

「シスターは言っていたじゃないか。今日は預かる子供も少ないし一人で出歩ける子はみんな公園に遊びに行ってしまったから、あとは小さな子を昼寝させるだけだと。」

「自分一人で大丈夫だそうだからお言葉に甘えよう!!」

「うう…一回だけですよ?それ以上はダメですからね?」


 ナナミが思いついたというのはセーヌにクエストを手伝ってもらうことだった。セーヌは昔活動していた時はソロの冒険者だったと言う。もちろんクエストの条件や規模によっては誰かとパーティーを組むこともあったが、それでもクエストが終われば解散はいさようならのその場限りの関係だったようだ。


「クエストを受けるのが怖いのなら、一緒にクエストを受けて横で私たちが支えてあげればいい。」


 ナナミのその提案にリリファも乗ることにした。どうせ他にセーヌをどうにかできる方法は思いつかなかったし、クエストをこなせば報酬ももらえる。それに…


「(具体的にこいつがクエストを受けるとどうなるのか…少し気になる。)」


 リリファは自分の後ろにいるセーヌを見た。セーヌはと言えばクエストの依頼者のいる店が近づくにつれてだんだんとリリファの後ろにぴったりとつき、そしてそのうちリリファの影になってしまうのでは?と思えるくらいにぴったりと付いていた。


「あ、あの…やっぱり私クエストは…」

「もうクエストは受けてしまったんだ。ここで帰れば失敗扱いでまた達成率が下がるぞ?」

「うっ…!!」


 心にいくつもの矢が刺さるイメージのセーヌ。それでも足を止めて引き返そうとしないのは、ナナミとリリファの善意を断りきれない優しさのせいであろうか。自分よりも7つも年上なのにかわいい奴だと思うリリファだった。




「こ~ん~にち~は~!!」


 やがて目的地の雑貨屋の店に到着した。店内に向けてナナミは大きな声で元気よく挨拶をかます。声はしっかり届いたようで中から中年の男性が出てきた。


「おや、誰かと思えば猫亭のとこの団員さんだね。いらっしゃい。」

「店長さんこんにちは。」


 男は雑貨屋の店主だった。彼はこの商店街の代表を務める男でもある。ナナミは猫亭の団員になった日にヴェラザードにここを案内され、挨拶がてら日用品を大量に購入したので店主に顔を覚えてもらえた。それからも必要なものが出るたびここへ探しに来ていたのですっかり顔見知りになっていた。


「今日は何が必要なんだい?ウチは店構えは見ての通りおんぼろだが、品ぞろえはミツユースでも一番だよ!!」

「今日は買い物に来たんじゃないの。クエストをしに来ました。」


 街の住人にとってはすっかりお馴染みとなった店主のセールストークを最後まで聞いてからナナミは来訪の目的を告げる。その時にクエストを受けた冒険者が依頼主に見せるギルドの用意した書状を見せるのも忘れない。


「ああ。今日のクエストを受けてくれる冒険者はお嬢ちゃんだったのか。というかあのクラン。ちゃんと営業してたんだな。ギルドがあそこは準備中だと言っていたから、依頼があっても持ち込めなかったんだ。最近は冒険者が多く出入りしていると聞くし、運営は大丈夫そうだな。俺らあのクランがいつ潰れるか賭けあってたんぜ?もちろん俺はちゃんと運営できてる方に賭けたがな。」

「あはは。ありがとー。でもそれクロノスさんに言わない方がいいと思うよ?多分地獄を見るから。ん?今ギルドが準備中って言ってなかった…?」

「まぁいいや。ほいじゃ早速頼むよ。やってくれるのはナナミお嬢ちゃんとそっちのちっこい子でいいのか?」


 店主の言葉に疑問を覚えるナナミだったが、それは店主は気付かなかったようだ。


「…リリファだ。ナナミと同じく猫亭の団員だ。よろしく頼む。それと次ちっこいと言ったらタダでは済まさんぞ?」


 リリファの名の意味を知るはずもない店主は笑って気を付けるぜと答えた。


「わりいわりい。気を付けるぜ。立派に冒険者だったか。んじゃ二人で…」

「待って、もう一人。三人です。」

「そういやリリファお嬢ちゃんの後ろにいるのは…おんや、託児屋んとこのセーヌじゃないか?シスターの恰好で外出とは珍しいね?」

「どうも…」


 雑貨屋の店主はナナミとリリファの後ろに隠れるように立っていたセーヌを見つけ声を掛けた。セーヌは隠れていたつもりの様子だったが、二人よりも背が高く胸の双丘は商店街のスケベ親父の間でももっぱらの評判なので、彼らの視線から逃げ切るのは不可能だろう。しかし彼らは普段はセーヌの前では真摯に紳士であるため、下品な視線は決して投げかけない。


「今日は一緒にクエストをやってもらうんです。」

「そうなのか?冒険者は辞めたって聞いてたけど…」

「あ、私は…」

「そうなんですよ!!今日は人手が足りないからヘルプで手伝ってもらうことになったんです。それと冒険者はライセンスを返還するか死ぬかしないと引退にならないので、まだセーヌさんは冒険者です!!」

「おお、そうなのか?身分がはっきりしてる人間がクエスト受けてくれるってなら、こっちは何人でも大歓迎だよ!!特に今日はなぜか誰も依頼を受けてくれやしない。さっき配達で街を歩き回った時もいつもの冒険者は一人もいなかったし…街の外で珍しいモンスターでも出たのかい?」

「い、いやー。どうなんでしょ?おほほほほ…」


 店主の男の疑問を濁す形で答えたナナミだった。まさか普段クエストを行っている冒険者達がこぞって酒のために猫亭を動かないでいるなど、言えるはずもない。


「まぁ俺たちとしては代わりが来てくれたんだしどいうでもいいさ。それじゃまずはここにまとめた荷物の配達を頼むよ。重いのもあるが大丈夫か?台車も使っていいからな。」

「はい、任せてください!!さあ、リリファちゃんにセーヌさん。始めよっか!!」

「ああ。」「は、はい…」


 元気よく返事をしてから、三人は荷物を台車に積み込んでいく。荷物はそれなりの量があったが、台車は使いやすい物で三人の中でも一番小さいリリファでも押して歩くことができた。それから三人は交代しながら台車を引いて、客に品を運ぶためあちこちを渡り歩く。届け先は市民街に長年住むセーヌが全て知っていたので問題なかった。




 それから配達を始めて二時間と少し経った頃。配達の仕事は順調に片付きその半分を終えたかと言うところでセーヌに異変が起きた。


「クエスト…失敗…あわわわわわ…」

「ちょっと、セーヌさん大丈夫!?」

「ダメ…ムリ…また失敗…99%…」


 台車を引くセーヌが顔を真っ青にし、うわ言のようにクエストだの失敗だのとぶつぶつと呟き始めたのだ。その様子は普段あらあらうふふとマイペースな感じであったセーヌからは想像もつかないもので、その急激な変化にナナミも驚いてしまった。


「なるほど。クエストを受けられないと言うのはこういうことだったのだな。一種の拒否反応の様なものが出るのか。今回は他者が支援して無理やりクエストを実行させる段階まで持ち込めたが、一人の時にこの症状が出るのならクエストの受注まで持ち込めないな。」

「観察してる場合じゃないって!!早くどうにかしないと!!えと…救急車…!!」

「お前までパニっくてどうする。だいたい「キュウキュウシャ」とはなんだ?拒否反応と言うならその原因…クエストを一度やめればいい。とにかく台車から手を離せ。」


 リリファの言うとおり持ち手を奮える手でがっちり握りしめるセーヌを台車から離して近くのベンチに腰掛けさせると、セーヌの顔色はすぐに良くなった。


「簡単な荷運びでこれなら他のクエストも怪しいね。街中だからいいけどこれがもしも外のモンスターとの戦いで出てきたら…」


 ナナミは青い顔をして震えるセーヌがモンスターにぱっくりと食べられるイメージを想像して身震いした。


「うう…ごめんなさい。クエストと考えてしまうとどうしてもこうなってしまうんです。初めてクエストを失敗してからというものの、新たにクエストを受けようとするとどうしても体が震えてしまって…」


 セーヌは涙ながらに語った。どうやらクエストを途中までこなせるだけでも初めての経験らしい。リリファの予想通り今まではクエストを受けようとした時点でいつもこうなってしまったんだとか。


「どうする?一度セーヌを置いて私たちだけで荷運びを終わらせてしまうか?」

「待ってよ。これがダメなら何か解決策を思い付かない限り堂々巡りになる。えっと…とにかくセーヌさんは思い込みが激しすぎるんだよ。クエストを受けるとまた失敗してしまうと必ずそう思うから体が拒絶するんだ。日常生活なら何も影響はないんだから。なら…そうだ!!」


 さてならばどうするか?考えるナナミだったが、やがて知恵の女神が舞い降りたようだ。


「セーヌさん落ち着いて。考えを変えてみるってのはどう?」

「考えを…変える?」

「そう。これは冒険者のクエストなんかじゃなくて、人手が足りない商店街のお手伝いなの。それでセーヌさんはそれを手伝ってお金をもらう。セーヌさんはそのお金で何がしたい?」

「お金…えと、子供たちの服がそろそろボロボロなので、新しいのを買ってあげたいです。いつも近所の方々から頂く古着なので。」


 あくまで自分の事ではなく施設の子どもたちの事を…この人天使か?天使なのか?


「うん。ならそうしようよ。これは子どもたちに服を買ってあげるための臨時のお仕事。クエストじゃない。だから失敗しても何も怖くない。」

「これは…クエストじゃない。失敗しても大丈夫…?」

「そう!!これはクエストじゃない。ノットクエスト、オーケーオテツダイ。はい、続けて!!」

「のっとくえすと、おーけーおてつだい…」

「イエス、いい調子!!もっと!!クエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃない…」

「は、はい!!クエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃない…」

「「クエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃないクエストじゃない…」」


 クエストじゃないと連呼する二人を見て、新手の洗脳商法かな?と思うリリファだった。



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