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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第32話 ノンギャランティ・クエスト(先輩の意見を聞きましょう)

 セーヌの働く施設で金貸しを懲らしめた次の日。この日はナナミとリリファは施設へは行かず、セーヌの情報を調べていた。それを聞いたヴェラザードもギルドに保管された資料の中からセーヌを調べてくれた。実は冒険者の情報の閲覧に一部規制があったのだが、そこはクロノスの専属職員の立場を利用して無理やり押し通った。


 午前の内に聞き込み行ったリリファが帰ってきたので、3人は猫亭で昼食を食べながらそれぞれの情報を共有することにした。


「街の人々と詰め所の警備兵から話を聞いてきた。セーヌの奴。わざと不良に絡んで脅してきたやつを返り討ちにして迷惑料をもらっているんだそうだ。冒険者稼業は休業中とはいえ格闘のセンスはずば抜けたセーヌだ。おそらく鍛錬を今でも欠かさずにやっているのだろう。そんな奴に街の不良が何人束になっても勝てるわけがない。完全な正当防衛なうえに不良を懲らしめている手前、警備兵に見つからない限り街の人々も黙認しているらしい。それなりの頻度でやっているみたいで町娘の恰好でメチャクチャ強いから、あの辺の人間にとって見飽きた名物の様なものだそうだ。」


 街の住人が皆興味を無くしたのもそれが理由だったんだなと、リリファは市民街で諜報した事実を二人に伝えた。実は情報の半分はセーヌを普段見守る彼女の守護者ストーカーから得た物だったが、セーヌのことを語る彼らが凄まじく気持ち悪く、さらにその情報は違うとお互いに情報の齟齬を巡って醜い争いを始めたので収集を打ち切って逃げ帰ってきた。報告するリリファの衣服の胸の部分には「セーヌファンクラブ~彼女を見護りたい~会員番号4番」と書かれたプレートがついていた。なおリリファはこれを報告の直後短剣で切刻んだ。


「セーヌは美人だからな。おまけにあの胸に男の浪漫シスターの恰好コスチューム。さらにかよわそうな雰囲気を醸し出しているのならそれはフルハウスだ。例え神に天罰を受けてでも襲いたくなるだろうな。」


 あれは女の私でも襲いたくなるスイカだったと手をわきわきさせて昨日のセーヌの双丘おっぱいとの対面を回想するリリファ。ちょっと変態オヤジっぽいのが早くもクロノスに似てきたと思うナナミだった。冒険者クランに所属する冒険者は似たような考えを持つということと勝手気ままな冒険者を従えることのできる力を持っているということで、長のクランリーダーに性質が似ると言われている。


「ライセンスカードから読み取れるの…やっぱりクエストの達成率だったんだね。前にセーヌさんが指で隠していたのこれだったんだ。」


 ナナミは自分のカードを見てそこに56%という数字が書かれた項目を発見した。


「お前…ずいぶん低いな。」

「リリファちゃんだって0%じゃん。まだクエストを受けていないから当然か。」


 そういうリリファの達成率は0%であった。これはリリファがまだ一度もクエストを受けていないからだ。実は昔はクエストを受けていない冒険者の達成率は100%扱いだったのだが、初めてのクエストを失敗し、その達成率が0%になってしまい落ち込んでやる気をなくす脆いメンタルの新人冒険者が続出したらしい。そういう訳で新人は0%からのスタートで早よ達成率を上げろということになったらしい。


「私は冒険者になってからここに来るまでにソロでは殆ど依頼を受けなかったし、即席のパーティーならこんなものよ。ミツユースに来るまでにすごい失敗しまくったんだから。」

「それでいいのですよ。達成率は大事だと以前言いましたが、それが全てと言う訳ではありません。ギルドの受付嬢は達成率以外にもこれまでの実績をしっかり加味してみていますから、堅実にやってきたナナミさんならばクエストを断られることもないと思いますよ。」

「だよねー。さすがギルドはよくわかってるなー。」


 そう言ってナナミのフォローをするヴェラザードは自分が調べてきたセーヌの詳しい情報を語って聞かせた。冒険者一個人の情報などクロノスなどのそれなりに大物の冒険者ならばともかく所詮B級の、それも五年間行方知れずのセーヌでは情報量に限界があるかと思ったヴェラザードだったのだが、ミツユースのとある支店に彼女に関する大量の情報が残っていたのだ。


「ミツユースの市役所前支店で彼女が治癒士に職業を変更していると記録がありました。彼女が行方不明になってから2年経った頃の話です。その時におそらく支店が彼女の情報を取り寄せたのでしょう。あそこは街の依頼者のクエスト依頼を受けるのがメインで冒険者は殆ど行きませんので、わざわざ訪れる冒険者が気になったのだと思います。記録がいつまでも捨てられずに残っていたのは資料を破棄する人員がいなかったからでしょう。あそこは支店を作る際に予算をケチって人員を削減したと聞いておりますので。今回はそれが恩となりましたね。」


 それにしても…とヴェラザードは続ける。


「彼女が冒険者としての活動を辞めた理由がクエストの失敗による恐怖ですか…たしかに記録では彼女が最後に受けたクエストは失敗になっていますし、行方不明になったのもその後ですね。治癒士に職業を変更したのも戦いにしか使えない超攻撃的な職業よりも子供たちの怪我を治せる治癒士の方がいいと仰られたそうですね?…最も、治癒士は教会の神官見習いでないとうまく使いこなせないことにまで頭が回らなかったのは実に冒険者らしいというか。もしかしたら自分の面倒を見てくれたシスターに憧れていたのかもしれませんね。」


 自分の考察を交えながら、自身の報告は終わりだと資料をまとめた冊子を閉じて食後の茶を啜るヴェラザード。ナナミ達はヴェラザードのまとめた資料を自分達にも見せてくれとせがんだが、いくらクロノスにサポートを依頼されていると言っても木端のルーキーであるリリファとD級のナナミには直接ギルドの機密は見せられないとせっかく作ったまとめ資料を紐でグルグル巻きにしてゴミ箱へ投げ、ついでとばかりにギルドの販売する起爆の魔術がセットされた魔法の札を張り付けた。もし無理やり中身を見ようとすればゴミ箱どころか猫亭がドカンと爆発するので触るわけにもいかない。というかそんな物騒な物ゴミ箱に入れておかないでくれ。


「とりあえずセーヌさんがクエストをまた受けられるようになれば何も問題はないと思うんだ。戦い自体はまだ全然できるみたいだし。」

「そのまた受けることが難しいんだ。失敗の何を恐れているのかなんて幾ら考察したところで本人にしかわからん。もっと頭を使え頭を。普段どんだけ食ってるんだ。」

「食べた量と頭の使い方は関係ないよ!!」

「ぎゃあぎゃあとかしましいと思えばナナミちゃんたちは猫亭の団員探しッスか。いや大変なことで。」


 二人がアレだコレだと話していると、そこに割り込む男が一人。ミツユースの冒険者ダンツである。


「これでもクロノスさん直々のご指名のクランクエストなんだよ!!すごいでしょ!!」

「へぇそりゃまた素晴らしいことで。しかし治癒士と聞こえやしたが今の時期に教会の紹介所は開いてたっけ?その話に出た嬢の事ちと俺にも聞かせてほしいッス。」


 仮にも自分たちの先輩の冒険者だ。先輩の観点から何かヒントを得られるかもと二人はダンツにセーヌの事を幾らか伏せて団員のスカウトの話を話した。


「100%の達成率が一回ミスって99%にねぇ…俺なんてしょっちゅう失敗してるッスから、天才様の苦労は分からんッス。ただ、能天気な俺ら普通の冒険者からすれば少しに肩に力を入れすぎかと思いやすけどね。」

「ダンツさんもそう思う?」

「そりゃもちろん。だいたい冒険者なんてクエスト失敗してナンボ。たまに成功してラッキーと依頼者様に思われるくらいでちょうどいいッス。100%なんて無駄に期待を抱かせるだけ損ッスよ。どうせ失敗したと言うクエストも依頼者が彼女の達成率だけを見て面倒なクエスト押し付けただけってオチでやしょ。」

「そうなのかな?」

「当事者じゃないんで断定はできないッスけど、多分そんな感じだと思うぜ。どうせ失敗した彼女に「なんだ。達成率100%の冒険者というから指名してみれば…所詮この程度か。」なんて言ったに違いない。いやきっとそうだ。」

「やけに具体的だな。」

「俺が新人冒険者の頃五回連続でクエストクリアしてたまたま100%残ってた時、指名してきた奴にクエスト失敗したら同じこと言われたッス。しかもあの依頼者、クエストの報酬ケチって難易度の高いクエストをギルドの目を掻い潜ってルーキーが受けれるくらいに難易度低めに指定してたッス。酷い話でしょ?まあそいつは直後にギルドのブラックリスト入りして信用無くして店を畳んだって聞いたから仲間とお礼参りしたッスからもう恨んでないけど…まあその話は置いておいて。どうせセーヌ嬢が失敗したクエストってのも、そんなんじゃないッスか?」


 ダンツの言葉に何か気付いたのかヴェラザードはゴミ箱へ向かい、起爆札の張り付いた資料を拾い上げた。そして自分が巻いた紐を手刀で斬り落として、起爆し今にも爆発せんと赤く輝く札を、いつの間にか手に持っていたコップの中の水をかけて鎮圧した。一連の見事な動作に唖然としていたナナミとリリファだったが、ダンツが「見事なお手並みッス。流石はS級専属担当者。」と彼女を褒め称えると、二人はそうかな…そうかも…と無理やり納得して平静を取り戻した。


「おや、確かにダンツさんの仰る通りセーヌ嬢が受けた最後のクエスト。冒険者個人への指名クエストとなっております。しかもこの依頼者の所属する商会…達成率だけを重視してそれが高い冒険者に積極的に指名依頼を出してくる厄介さんですね。誰か受けてくれるだろうと同じ依頼を達成率の高い冒険者に片っ端から出すのでギルドから「灰色のお客様グレイ・カスタマー」に指定されています。ブラックでないのは表だって悪質でないのと経営が傾くどころか倒れてしまってもう無い商会だからで…まあ今はそんなことどうでもいいでしょう。」

「やっぱり。聞けばセーヌ嬢は当時は14歳。そんなお子ちゃまが普段から譲歩を引き出すために飴鞭操り罵詈雑言の嵐を起こす商人に口で勝てるわけがないッス。きっと心にもないことを言われたんだ。」

「ダンツさんすごーい!!」

「へへっ、よせやいよせやい!!褒めても何も出ないッス。だから依頼者様のお小言なんて無視。無視に限るッス。例えありがたいお言葉でも聞くふりして右から左に流せってね。」

「それはさすがに困りますが。その愚かな心構えについてちょっと説教してもいいですか?」

「ヴェラ嬢!!ちったぁ優しくしてくださいッス。俺の心はボロボロッス…」

「いやしかし助かった。さすがは先輩の冒険者。私自身にも参考になる。ところで…」

「何だい?なんでも聞いてくれッス。」

 

 得意げになるダンツに、それじゃあと尋ねたナナミとリリファ。


「どうでもいいけど、ダンツさん達はどうして壁に埋まっているの?」


 ナナミが尋ねるのも無理はない。ダンツ達冒険者は、一人残らず酒場の壁に埋まっていたからである。壁からは頭だけが出ており、その横には「冒険者ダンツ」といった風に冒険者一人一人にそれぞれの名前のプレートがご丁寧に与えられていた。その光景にナナミはお金持ちの家に飾ってある鹿の首だけの剥製みたいだなーと思う。実はナナミとリリファが昨日の夜帰ってきた時点でこの惨劇になっていたのだが、昨日は夜遅くに帰ってきたということもあって、帰りが遅いと心配してずっと待っていてくれたヴェラザードにこっぴどく叱られたのだ。ヴェラザードも壁の冒険者を無視していたし、ナナミとリリファもさすがに疲れを覚えていたので壁の冒険者は「もしかして最初から飾ってあったんじゃない?いやきっとそうだ。眠いから早く寝よ。」と無視してしまった。


 しかし彼らは生命を失った剥製の飾り物などでは決してなく、ずっとこの調子でいればそのうち飢えてしまうだろう。さすがにこれ以上は放っておくわけにはいかないのでいい機会だとダンツに聞くことにしたのだ。半日以上かかってやっと尋ねてくれたナナミとリリファにダンツはよくぞ聞いてくれたッスといい、首を上下させて真面目な顔で説明した。


「いやー俺らクロノスの旦那が酒は好きに飲んでいいって言ってたもんで、毎晩手当たり次第に飲んでいたらバックバーに所狭しと置かれていた酒瓶がついになくなっちまったッス。んで、猫亭の皆様がお留守の間にバカな冒険者があろうことか酒をしまってある酒蔵の鍵を壊そうと試みて、ちょうどその時にたまたまクロノスの旦那が帰ってきちまって…」


 それで怒りを買ってしまいこのザマッスとダンツは首を上下させた。ちなみに鍵を壊そうとした馬鹿な冒険者というのはほかならぬダンツ自身なのであるが、それを止めなかった冒険者たちも漏れなく馬鹿なので関係ない。


「自業自得じゃないか…尊敬して損した。私の尊敬を返せ。」

「ふーん。てゆうかクロノスさん戻ってきてたんだ。入れ違いになったのかな?」

「昨日だけでなく一昨日も帰ってきてたッスよ?昨日はなんだか不機嫌そうに「結局殆どミツユースの中にあるんじゃねーか!!余計な手間かけさせやがって…」なんて怒鳴り散らして…俺らがこうなってるのも多分半分は旦那の憂さ晴らしッス。」

「前衛芸術的な憂さ晴らしだな。私にはあいつのセンスは理解できないが。」

「それは私もだよ。それにしてもそんなに怒って何を探してるんだろ?」

「さぁ?それは俺にも…というかナナミちゃん。俺ら反省してるんでそろそろ助けてくださいッス。これ自分達じゃ外せなくて…」


 ダンツの懇願に三人はまあいいかと、壁に飾られた冒険者達を乱雑に引き抜いた。一人一人は外すのに手間がかかったが、後半は壁から脱出した冒険者が他の冒険者の救助を手伝ったため案外早く終わった。


「あーやれやれ。やっと解放されたわい…」

「首いてー。」

「さぁてお仕置きも済んだことだし早くお酒を…って、まだ補充されてないじゃん!?」

「えー、せっかく飲む気で今日のお仕事はお休みにしようと思っていたのに…」

「昨日も一昨日も休んでいたくせにいい加減に働けよニート。」

「おいバーカウンターに書置きが置いてあるぞ。なになに…」

「補充しても君たちあるだけ飲んじゃうからこれからは一杯ごとにお金を取ります…だと!?」

「まだ続きがあるよ?…とりあえず今は忙しいから酒ごとの値段は帰ってきてから考える。値段はそれなりにお得にするから安心せよ。なお酒蔵の鍵は昔ダンジョンで手に入れた魔法錠に変えたので、無理やり開けたり壊そうとすると全員呪われます。」

「呪いなんて怖くねぇやい!!もう一度ぶっ壊して中に入ろうぜ!!」

「そうよそうよ!!私は高級なお酒が飲みたいの!!」

「呪いの内容は酒の味が今後一切泥水の味に感じられ、さらに男なら全員不能に。女ならお肌はガサガサのサメ肌のようになって夜7時以降の食事は効率が5倍になりブクブクと太ります。てゆ-か肥えます。…だって。」

「あっやめときまーす。」

「同じくやめときまーす。」

「女の方が呪いきつくない!?贔屓だ贔屓。」

「男の方がやべーよ。」

「どうせ使う相手もいないくせに何言ってるんだフニャチン。」

「なんだとロリコン野郎!!」

「だから俺とフウリは5年にも及ぶ交際を得て相手の親父さんとも拳で語り合い…ふんぎゃあ!!誰だ、ケツに火属性魔法ぶち込んだ奴!!」

「もっとアウトだよバカ野郎!!嫁さん付き合い始めはまだ10歳にもなってねーじゃねえか!?」

「違いますー同意の上ですー。好きになった人がたまたますごい若かっただけですー。両想いなんで問題ありませんー。」

「誰か先輩を更生させてくださいっす。…もいでもいいよ。」

「ねえ!!鍵はヴェラザード嬢が持ってるって。こんだけいるんだから全員で挑めば「できると思うか?」…ムリだね。」

「はぁ。しかたねえッス。これからクエスト受けてたら終わるころにはお月サマがこんばんはするッスから、今日は冒険者の活動は止めにしてクロノスの旦那が帰るのを大人しく待ちやしょう。」 


 ダンツの言葉を最後に反省の色を全く見せない冒険者達はぞろぞろと各々の椅子に腰を掛ける。そしてテーブルの上を片づける奴をカード勝負で決めるぞとそれぞれのテーブルでいろんなゲームが始まった。


「ダメだなこいつら。」「ダメだねこの人たち。」


 ツーペアだイカサマだ賭け金返せだこれは前にお前にに貸した昼飯代だ…あれこれ騒ぐ先輩たちを見て、失望をとうに通り越してその辺の石を転がせばいるダンゴ虫に向けるような視線を浴びせるナナミとリリファだった。しかし一緒になって彼らを見つめるヴェラザードはいつものことだと特に何も気にしていないようだ。そしてカード遊びに興じる冒険者の数と顔ぶれを見てあることに気付いたようだった。


「おや。これだけの冒険者にクエストをサボられてしまうと、支店の運営に手間取ってしまいますね。」

「この人たち以外にも冒険者はいるよね。」


 この人たち多分冒険者の中でも最底辺のミミズさんだよね。というか落ち葉の下にいるミミズの方が栄養豊富な土を作ってくれるだけ遙かにマシだよね。そんな侮蔑の視線で彼らを見るナナミ。


「土の下のミミズさんより酷いと視線が申されておりますが、この方たちはまだましな方ですよ。多分ここにいる方々、大通り支店でいつも街中のクエストの消化をしていただいている冒険者の殆どです。大通り支店は元々ミツユースに入る冒険者と出る冒険者が立ち寄る支店ですから、常にいて街中のクエストを受けてくれる冒険者は実はあまり多くないんですよね。と言う訳でナナミさんにリリファちゃん。彼らの代わりにミツユースの街中で実行するクエストの処理してきてください。」

「ええ~。私たち今クロノスさんのクエスト受けているんだけど。」

「クランクエストはクラン内で勝手に行われるクエストなので、ギルドの査定と受注ルールに影響しません。ですので、他にもギルドの発行するクエストは同時に受けられます。というわけで他に宛もないのでお願いします。」


 ヴェラザードの言葉にやだやだと駄々をこねるナナミ。冒険者になりたての時まともにモンスターとも戦えないので一人でできる街中のクエストをしていたことがあるナナミは知っていた。街中の雑用クエストが簡単ではあるが面倒であることに。クエストを選べる立場にない新人の頃ならともかく、街中の荷運びや草刈り。溝浚どぶさらいに道のゴミ掃除。正直もうやるのはごめんだ。




「仕方ない。できれば初クエストは胸躍るモンスター退治のようなものを期待していたが…どうせ治癒士探しに進展はないんだ。おとなしく受けてやるか。」

「むぅ。リリファちゃんが乗り気なら私も受けるしかないじゃん。はぁ、しょうがない。達成率の平均を上げるためだと思って…あ、そうだ!!」


 渋々と言った感じでクエストを受けるために大通り支店へ向かおうとするナナミだが、何かに気付いたようで突然立ち止った。彼女は先頭を歩いていたのでその後ろを歩くリリファはナナミにぶつかってしまった。


「いきなりどうした?痛いじゃないか。」

「ねぇ!!パーティークエスト受けようよ!!セーヌさんも誘って!」


 リリファの文句を無視して大声で叫ぶナナミだった。なおこの時の声で冒険者達の注目が逸れたのをいいことに何人かの冒険者がカードにイカサマを仕掛けていたが、それを見逃さなかったヴェラザードによって御仕置しゅくせいされた。ヴェラザードは仮にも冒険者を律する立場のギルド職員。冒険者の争いの種は事前の内に積むのが鉄則だ。



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