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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第29話 ノンギャランティ・クエスト(彼は一体何をしているのでしょう)

クロノスの宝剣探しを整理していたら一つだけ入れるところがなくなったので最新話として投稿します。時系列は1話前の話の後です。

*下ネタ注意

――――――その頃のクロノス―――――――――――――――

「だめだ。完璧に融合していやがる。全然取れねぇ…」

「やはり無理か…」


 壮絶な戦いを制して新たな宝剣探しを続けるクロノスは、街の外の湖の近くで偶然ミツユース近くまで旅をしてきた冒険者のパーティーに出会った。そしてその中のリーダーの剣士の男冒険者の手にはクロノスの捜している宝剣の一本である「宝剣レッドスティール」がくっついていたのだ。宝剣は男の掌に、もはや融合と呼べるレベルで食い込んでおり、手と剣の境目が判断がつかないほどになっていた。

 

 パーティーの話によると湖のほとりで休憩している時に、散策をしていたリーダーの男が偶然岸に流れ着いたこの剣を見つけたらしい。そしてそれを何気なく手に取ると剣が紅の光を発し、気が付けば右手の内と剣がくっついてしまっていたのだという。


「光ったということは君が適合者だったということだろうな。もしかしたらグランティダスが湖の底に隠していたのが奴の死後、新たな主を見つけるために自力で這い出てきたのかも。」

「これがあの名高き宝剣の一本。それも宝剣コレクターが盗んだ物か…剣士ならば誰もが欲する宝剣をまさかこんな形で「手に入れる」とはな…」

「上手いこと言ってるんじゃねーよ。それにこれは色の国アーハンの国宝だ。君にはやれない。」

「それはもちろん承知だ。持ち主がいるのならきっぱり諦めるさ。で、これは取れそうなのか?」

「それは調べてみないことにはわからない。」

「そうか…宝剣を探すクエストを受けているアンタなら知っているかと思ったんだがな。」


 クロノスの答えに少々がっかりした顔をするリーダーの男。それもそうだ。仮にも国の国宝の剣。もしこのまま見つかったと報告をしてそれがアーハンに伝われば、もしかしたら男の腕を斬りおとしていってでも持ち帰ろうとするかもしれない。少々酷な話だが、本来宝剣とはそれだけのレベルの宝であり、それを21本も略奪して所有していたグランティダスと彼を殺して宝剣を無くしちゃったクロノスが異常なのだ。


「まあ大丈夫だ。同じ冒険者としてそんなことはさせないし、そうなる前に取ってやる。」

「ああ。それは心配していない。アンタは信用できる。アンタならきっと助けてくれるだろう。」

「状況は大変だけど、宝剣に認められるなんてさすがはウチのリーダーね!!」

「だな。メンバーとしてこれほどまでに誇らしいことは無いぞ!!」


 誇らしげに胸を張る仲間の冒険者の女性の盗賊シーフと男性の戦士ウォリアー。聞くところによると彼らは男三人女二人の五人パーティーであり、全員A級の実力者らしい。10年前にパーティー結成をしてから馬が合い、仲良く10年もの間メンバーを変えずにやってきたそうだ。冒険者は協調性がなくすぐに喧嘩からの解散も珍しくないうえ、危険な旅やモンスターの戦いで死に別れや引退をすることも多く、冒険者パーティー全体で見てもそれほどまでに長持ちするパーティーは非常にまれであり、クロノスから見てもこのパーティーは羨ましいと思えるほどに完璧だった。


「君たちみたいな冒険者がいれば、ギルドの未来は明るいな。」

「ありがとうございます。嬉しいです。」

「S級冒険者のクロノス殿にそう言われると嬉しいな。」


 治癒士ヒーラーの女性と射手アーチャーの男性が答え、クロノスの言葉に照れるパーティー一同。彼らはクロノスの事を知っていたようで、最初に名乗り自分からライセンスを見せた時には驚かれたが、クロノスも前は旅をする冒険者だったということもありその話題ですぐに仲良くなれた。


「旅の話とかいろいろ聞きたいところだが、まずはこの宝剣をどうにかしたい。俺が来るまでに他にわかったこととかあるか?」

「ああ。それなんだが…」


 そう言ってパーティーの射手アーチャーの男が話してくれた。


 男たちはクロノスが来るまでにいろいろと剣が外せないか試していた。冷やしたり、太陽光に当てたり、油を塗ったり、水に浸けたり…しかしどの方法も失敗に終わり、リーダーの手を痛めるだったので断念したそうだ。さらに悪いことに…


「こいつ以外が触れるとものすごく熱くて火傷するんだ。俺らも全員触ってみたけど、熱くなってすぐに手放した。その時リーダーは何とも無いようなんだが…」


 パーティーのメンバーの話によるとリーダー以外の4人は触ろうとしたら剣から高熱が発生してしまい、熱さですぐに手を離したそうだ。それを話す仲間の戦士の男は宝剣を手放すのが間に合わなかったようで、火傷した手に薬草を押し当てながら治癒士の女性から治癒術による治療を受けていた。それはクロノスも同じで、何も聞かずに最初物理的に取ろうとしたらものすごく熱かった。


「それはきっと宝剣の拒否反応だろう。宝剣の中には適合者以外に触られることすら嫌う物があるらしい。ほらここ。」

「ん…適合者以外は触れないこと。高熱で大火傷やけどを負う。アーハンでの実験では結局誰も触れず火傷を負うものが続出したので、盗まれるまで厳重に保管していた。…か。なるほど、そのようだね。」


 クロノスは手帳を捲り、その中にあるレッドスティールの項目を引き出して冒険者達に見せた。ちなみにアーハンには触れることができる適合者がいなかったので、どんな特殊能力を持つのかもわからず手帳には書かれていなかった。本当はこの手帳。ギルドの超機密資料を手書きで写したものなので絶対に他人に見せないでくださいとヴェラザードに警告されていたが、緊急事態なので仕方ない。


「でも地面に置いておいても草木が燃えることもなかったし、人が触らなければ問題ないらしい。それにこれは秘密にしてほしいんだけど…」

「知らなかったことだ。宝剣に対する多少の粗相は俺が口を閉じる。ギルドからも咎めないと俺が保証する。」

「良かった。実は人以外の生物が触れてもこの発熱は起こってしまうようなんだ。」


 冒険者の話によると実はクロノスが来るまでに何度かモンスターが襲ってきて、リーダーはパーティーの前衛を担当する剣士だったうえ、利き手が宝剣で塞がっていて自分の剣が持てないので仕方なく宝剣を使ったのだそうだ。


「それで剣で切ったモンスターは剣の切っ先が触れた所から高熱の発火で燃え尽きちまいまして。不思議なことにモンスターの中にも燃えるのと燃えないのがいたんです。」


 これはどうしたことだと気になったパーティーは、湖の近くのモンスターを片っ端から斬り殺し、モンスターいなくなれば湖の近くにいた生き物を片っ端から捕まえて、宝剣に触れさせたのだという。こういった実験は国の研究機関の研究員や魔導師以外では、探究心旺盛な冒険者がなせる技であろう。


「私たちは野兎を捕まえたり、魚やカエル。ねずみに昆虫芋虫毛虫…これら全てに宝剣を当てる実験を行い、同じ種類でも燃えるのと燃えないのがいたことを発見しました。殆どが燃えてしまいましたが、どれにも必ず燃えない個体がいました。動物さん達にはかわいそうなことをした気もしますが、焼いた生き物は毒の有るもの以外きちんとお昼に全部食べたのでまあ供養にはなったでしょう。もちろん虫たちも貴重な栄養源ですからえり好みしていません。無事だった個体は記録を取った後逃がしてあげましたし。」


 そう言った治癒士の女性が自分が記録したのだといくつかの紙をクロノスに手渡した。紙には実験した生物の種類や名前。個体ごとの特徴などハッキリと記載されており、さすがは神聖教会の神官見習いは違うなとクロノスは思った。



「同じ生き物でも熱で燃えるのと燃えないの…それは人も同じ。ん?芋虫や毛虫。それに若いと思われるオスの個体の一部はいずれも燃えていないのか。うーん…あ。」


 まったくわからんとクロノスが頭をひねるが、やがて何かを思いついたのかパーティー全員に聞こえるように質問をする。


「君たちさ。誰か付き合っている人はいる?」

「は?」

「恋人はいるかって聞いてるんだよ。いるの?いないの?あ、昔いたとかでもいいよ。」


 クロノスの質問に一同は最初渋ったがクロノスの圧力に屈したのか、リーダー以外の四人が手を上げた。さらにクロノスが相手は誰だと聞けばなんとパーティーの男女それぞれが二組のカップルなのだそうだ。盗賊と戦士。治癒士と射手。治癒士は教会の人間なので健全な交際を要求され、教会に戻れば許嫁が待っていることも多いそうなのだが、渋ったのはこれが理由だろう。クロノスが秘密にするからと念を押したら後衛職のカップルは安心したようだった。


「付き合っていないのはリーダー一人か。恋人は?婚約者とか、家に帰れば妻がいるとか。」

「いない。俺は剣一筋で生きてきたからな。」


 そう言って宝剣を構え剣技を見せるリーダーの男。その太刀筋はまっすぐで歪みが無くなるほど確かにこれならA級でも通用する実力だなと納得するクロノスだった。


「なるほど。じゃあちょっとこっち来て。」


 リーダーの男を手招きして、他の者から離れたところで質問をするクロノス。その内容を聞いた男は「なっなんでそんなことを…!!ああそうだよ。」などと言っていたが、やがてクロノスは男から満足する回答を得られたようで、二人一緒に戻ってきた。


「喜べ諸君。宝剣の外し方がわかった。というか彼を適合者でなくする方法だが。」

「え?あんな質問でわかったのか?いったいそれは?」


 クロノスの言葉に一番喜ぶはずのリーダーはなぜか困惑しているようだった。


「それでこれから宝剣を外すためにミツユースに来てもらいたいんだけどいいか?」

「どうして?何か魔術の仕掛けを解かなくちゃなの?」

「それとも鍛冶屋に見せるとか…」

「まさかこのままリーダーをギルドに引き渡すとかいうんじゃねえだろうな!?」

「いやそれは…彼の名誉のために言わない方が…」


 クロノスが言ったことの意味が理解できないようで、四人の仲間は次々と質問をする。友好的だった彼らの目にはいつの間にか疑いの色が色濃く出ており、このままではクロノスがS級である事もお構いなしに一戦交える羽目になりそうだった。


「仕方ない。教えてやる。」

「…あ!!まさか…おいよせ。やめろ!!」


 クロノスが語ろうとする宝剣の外し方。適合者でなくする方法。リーダーはそれに気づいたようで、クロノスの口を必死に塞ごうとした。


「なんでだリーダー。邪魔をするな。」

「私たち今まで隠し事は無しだったじゃない!!いろんな秘密を共有してきたでしょう!?」

「俺たちはこれまで上手くやってきただろう。これからもそうしたい。」

「だから、俺が、やばいんだって!!」

「二人ともリーダー抑えて!!」

「「おう!!」」

「わっ馬鹿やめろ…ムグムグ!!」

「さあクロノスさん。教えてください。」


 必死に止めようとするリーダーを仲間の男二人が抑える。もうめんどくさいし彼の名誉はいいやと、クロノスは答えを言った。


「童貞。」

「「「「…は?」」」」


 クロノスの答えを理解できないのか四人が一斉にマヌケな声を上げた。それで男たちの手元が緩んでしまったのだろう。リーダーの男が脱出する。


「え、ああ!!俺の予想が間違っていたようだ!!皇帝、皇帝ね!!確かに、ウチの実家ははるか昔に栄えた某帝国の血を継ぐものだと言うとか言わないとか…」

「「「「おまえん家代々農家じゃねーか。」」」」


 リーダーは必死に思いついた言い訳を並べるが、それは農家を継ぐのが嫌で剣で立身出世を立てようと家を飛び出したと普段酒の席で延々と聞かされていた四人には効かなかったようだ。ちなみに二日続けて飲むと、騎士になるために各国の騎士の試験を受けるも座学の場でぶっちぎりの赤点をたたき出したので仕方なしにまずは冒険者から始めて実績を積むことにしたのだという話を聞けるが、10年以上冒険者やっているので多分騎士になる気はもうない。


「いや童貞だ。宝剣レッドスティールは男の、しかも童貞しか持つことができない。そういえば思い出した。色の国…小国全体が巨大な色町になっているアーハンには童貞の男しか就けない特別な役職があって、しかし男性器の機能は残っていなくてはいけないので童貞でいるかどうか調べるための特殊な剣があると。それってこれの事だったんだな。そりゃ国民の殆どが色事で生計を立てる国なら、子供にでも触らせない限り全員拒絶されるだろう…ん?これを持ち運べたってことはグランティダスは…宝剣コレクター。アンタ生粋のマジモンマニアやでぇ…」

「「「「…」」」」

「…ああそうだよ、童貞だよ!!童貞ですよーだ!!仕方がないだろ!!パーティーは五人なんだから必然的に一人余るだろーが!!」

「俺たちがこいつらと付き合いだす前、何度も娼館に誘っただろうが。」

「だって怖いもん!!緊張して笑われて恥かいたらどうする!?」


 やけになったのかリーダーの男は自分は童貞だと湖に向かって連呼して最後には自分自身が飛び込んだ。ここまで哀れだと湖の女神が出てきて「あなたが落としたのはこの金の非童貞ですか?それともこっちの銀の非童貞ですか?」などと聞いてきて正直に童貞ですと答えると「正直者のあなたには私が初体験させてあげましょう」みたいなムフフな展開になりそうなものだが、あいにくこの湖にはそのような伝説何もないし、どうせ童貞は見栄を張って金の非童貞を選んで何も残らないのがオチだろう。


 リーダーの男は湖の女神に会うこともなく浮き上がってきて、そのまま「童貞スクランブル号発進します!!」などと叫びながら泳ぎ始めた。重い防具や衣服を着ており腕には宝剣がくっついたままだと言うのに、器用な奴である。


「あーあ。だからやめておけと言ったのに…」


 こうなる原因を作ったのは元はといえば宝剣を回収し損ねたクロノスのはずなのに、こうなった原因は君たちにあるぞと白々しく仲間たちを見るクロノス。


「さすがに俺たちが悪かったよ…そこでみんなで相談したんだが、金を出し合うからあいつをミツユースに連れて行ってそこの色町で卒業させてやってくれないか?」


 リーダーのできれば隠したかった秘密を知ってしまいさすがに申し訳ないと思ったのか、代表の戦士の男はそう提案してきた。できればそういうのは自分の金か先輩の奢りとかじゃなければプライドが許さないのではと思うクロノスだったが、あいつは既にいろいろと手遅れだ。多少の荒療治は仕方ない。それに宝剣を回収しなくてはいけないし全員A級の超優秀な冒険者パーティーをこんなくだらない理由で解散させたくはない。クロノスはその頼みを聞くことにした。


「おーい!!ミツユースでS級冒険者プロデュースの最高の卒業をさせてやるぞー!!特別な会員しか入れない超高級娼館だぞー!?所属するする娘もみんな最高選び放題だぜー!!」


 クロノスは両の手で拡声器を作り未だに泳ぎ続けるリーダーの男にできる限りの大声で呼びかけた。声はきちんと聞こえたようで男はこちらに泳いで戻ってくる。岸に上がりゼェゼェと息を荒げたリーダーは、やがて息を整えると姿勢を正して直角の礼をして発言した。


「一番人気の、初めてで粗相をしても笑ってフォローしてくれる、おっぱいむっちりの若い娘がいいです。」

「…転んでもただでは起きない所が実に冒険者らしい…!!よっしゃ。一生に一度の男の浪漫。叶えちゃるぜよ!!」


 男の願いを聞いたクロノスは、男の背中をバシンと叩いて肩を組んで歩き出す。目指すはミツユースの色町。完全会員限定の最高級娼館「天使の園」。ミツユースに着くまでにモンスターと出会うかもしれないが、二人は元々A級とS級の冒険者。夢を抱く漢の歩みは、ドラゴンにだって止められない!!


「「いざ、覇道を突き進め!!」」


 アッハッハッハと笑いながら歩いていく冒険者バカ二人。それを見て存在を空気にされた残りの仲間達。その中の男二人が「先輩!!俺たちも連れてってください!!」と後を追おうとし、それぞれの恋人に湖に突き落とされるのだった。


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